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姉弟だからこその暴言

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「レナート!! もう少しで星飾りのお祭りですわよ!!」

 レナートの部屋に勢いよく入って来たエステルダは、嬉しそうに瞳を輝かせてソファーにボフンと座った。

「姉上・・・ノックくらいしてください。あと、ソファーが壊れます。」

父親であるロゼット公爵の力なのか、アランド殿下に全く愛されていなかったせいなのかは知らないが、あまりにもあっさりと第一王子殿下の婚約者候補から外れたエステルダは、父親からその話を聞いた瞬間に、王妃になるべく長年培って来た礼儀作法をかなぐり捨てて、邸の廊下をクルクルと踊り回った後、スキップをしながらレナートの部屋に飛び込んできたのだった。
それ以来、エステルダのまとう空気が、以前よりもずっと明るくなったことに、周りの誰もが気付いた。




「アリッサ様とヴィスタ様を誘いましょう!!」

「姉上・・・。」

瞳をキラキラと輝かせて、期待に心躍らせているエステルダとは反対に、レナートの顔には暗い影が差していた。

「レナート、お父様のおっしゃっていたことをまだ気にしているの?」

「・・・ですが―――」

「お母様に言われたでしょう?お父様を選んでどうするの? って。」

「ですが、私は・・・。」

「あっそう!? だったら、もういいわ。貴方ってば随分と弱虫でしたのね。見損なったわ。そうね、貴方のような情けない男には、ミスティナみたいな性悪女がお似合いかもしれませんわね。 あの女、もうロゼット公爵家に嫁いだつもりになっているのかしら。この前来た時も、うちの使用人に向かって、偉そうに命令していたわよ? そのくせ、貴方には顔も見せに来なかったのでしょう? へぇー、婚約者なのにねぇ、うふふ、レナートは本当に心が広いのね。でも、あんな高慢な人間と婚約なんて、貴方も大変ですわね。」

「・・・・・・。」

「そうね、よく考えたらヘタレな貴方にアリッサ様は勿体ないかもしれないわね。彼女って、みすぼらしい貧乏子爵家の娘だし、子供のように小さくて、ちんちくりんかもしれませんが、外見の美しさは見ての通りですし、まあ性格も、意地っ張りな所を覗けば、それほど悪くはないわよね。」

レナートは、表情一つ変えずにエステルダの話を黙って聞いていたが、その瞳だけは、エステルダの一言一言に反応するかのように鋭く吊り上がっていくのだった。

「あの美しい桃色の髪ですもの。今までもたくさんのお誘いがあったでしょうね。 ・・・それを、ずっと彼女は跳ね除けて来た。と・・・。 その理由は、内に秘めた誰かさんへの深い深い、あまりにも深すぎる想いがあったから・・・。 しかし、その誰かさんは自分とは違う女性を選んだ。」

レナートの無表情は、今にも崩れる寸前だった。何か言いたそうに口を開けるが言葉は出てこず、鼻息ばかりが荒くなっていくのだった。そんなレナートを、視線の端に捉えながら、エステルダは澄ました顔で続けた。

「この物語、ヒロインの向かう先はどこなのかしら・・・。まあ、少なくとも自分を選んでくれなかった人への気持ちは消えてゆくでしょうね・・・。これまでは、身分差という理由だけだったから、叶わぬ恋と知りながらも、ずっと温めてきた気持ちだったのでしょうけれど、誰かさんが他の女性を愛してると知ったなら、彼女は、もう振り返りはしない・・・。」

レナートの頭には、先日のアリッサのうしろ姿が思い出された。何度呼んでも、彼女は振り向いてくれなかった。何度呼んでも、彼女は歩くのを止めてはくれなかった。

(アリッサは、居なくなってしまう・・・。)

その事実に、レナートの心は絶望に震えた。

「大切な想い人を失ったヒロインは、もう他の男性を断る理由も無くなる・・・。 そうね、わたくしが彼女を欲している男性の一人ならば、きっとこう言いますわね。」

「貴女の家族は僕が守ります。ですから―――」

「くっ!!・・・姉上、もういいです・・・」

「そして、責任感の強い彼女なら、どうするかしら・・・。」

「姉上!」

「自分の犠牲一つで家族を助けることができるのなら、好きでもないこの人と―――」

「やめろっ!!」

大きな声と共に、レナートが勢いよく立ち上がったせいで、彼の座っていた椅子がバンっと音を立てて後ろに倒れた。しかし、声の大きさとは反対に、レナートの顔からは生気が抜け落ちており、真っ青になっていた。
エステルダは、馬鹿にしたように冷たい目を向けると、気持ちの全くこもっていない冷淡な言葉をレナートに浴びせた。

「アリッサ様が他の男の物になるのを、そこで指をくわえて見ているがいいわ。」

そして、呆然としているレナートに目を向けることなく、凛と背筋を伸ばして部屋を出て行ったのだった。
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