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自惚れてはいけません
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恥を忍んで頭を下げるユーレットに、彼女達は意地悪く微笑んだ。
「あなたの気持ちは分かりましたが、私達はあくまでもエリシアの味方です。ですので、決して勘違いしないでください。私達は彼女を幸せに導く行動しか取りません。あなたがエリシアに見合った人間ではないと判断した時は直ぐにでもあなたを切り捨てて他の男性を紹介し始めます」
「そうね。私達はエリシアに幸せになってほしいと思っているの。彼女は純粋でとても優しい人だから・・・辛い思いはしてほしくないのよ。・・・まあ、それはあなたが誰よりも知っていることでしょうけれど?」
ユーレットは、その言葉に無言で頷いた。
「仕方ないわね。エリシアがあなたを好きでいるうちは、私達も協力してあげるわ。まあ、せいぜい頑張ってちょうだい。ああ、そのうち私の兄を連れてくるわ。女性の扱いには慣れているからきっと参考になるでしょう」
こうしてユーレットは、この日より新たな協力者を得ることとなったのだ。
罵倒されない日などなかった。毎日怒られ、罵られ、呆れられた。
注意を受ける度に自分の常識が他とかけ離れていることに驚いた。そして、最後には必ずこう言われるのだ。
「考え方が幼稚すぎる」
それが今まで面倒に思い、家族や友人との会話を避けてきたツケであった。家族だけではなくエリシアの友人にも似たようなことを言われているのだから、ユーレットには反論の余地もなかった。どうやら精神とは、ユーレットが最も煩わしいと思っていた人間関係の上で成長するものだったようだ。
「おい、嘘だろう・・・エリシア嬢はこんな程度の低い男が好みだったのか!?」
信じられないと、口元を押さえる兄の姿にユーレットの胸も痛んだ。自分の性格を否定される度にエリシアとの会話を思い出す。彼女は、ろくに視線も合わせない自分にいつもニコニコと微笑みながら話しかけてくれた。自分が返事をしなくても怒ったことなど一度もなかったし、何を考えているのか分からない相手にいつだって素直な気持ちを伝えてくれていたのだ。
彼女は自分と違って随分と大人だったのだ。
大人だったのはきっと彼女だけではない。自分が返そうと思っていた本を勝手にエリシアに返してしまったユーレットの友人も、今思えば自分の気持ちに素直になれる大人だったことが分かる。見栄や体裁を気にしていては欲しいものは得られない。きっと友人はそれを知っていたのだろう。
「エリシアに会いたい」
自分の気持ちを素直に言葉に出せるようになった頃、周りよりも低めだったユーレットの身長は本人の希望通りの成長を見せ始めた。そして成長したのは彼の身長だけではなかった。それまでとは真逆の柔らかな笑みを身につけたユーレットは、誰に対しても丁寧な対応を心掛けていた。そのせいなのか今まで見向きもされなかった女性に話しかけられることが多くなってきた。
顔の半分を隠していた鬱陶しい前髪を切り、清潔感のある落ち着いた優しい男を意識したユーレットは、思いのほか女性からの受けが良かったようだ。
もちろんエリシア以外の女性に興味はなかった。しかし、興味がなくてもあらゆる女性と会話をすることで接し方を学びなさいと、兄達の教えにユーレットは忠実に従っていた。
そうして気が付いた時には、常に女性に囲まれるほどの礼儀正しく紳士的な男が完成したのだった。
いくら女性に好意を寄せられてもユーレットがエリシア以外の女性になびくことはなかった。それは、彼がエリシア以外の女性に興味がないというだけではなく、自分の人気がエリシアあってのものだということをしっかりと教育されていたせいもあった。
エリシアが未だに誰とも婚約せずにユーレットを待っていること。エリシアと結婚するためにユーレットが必死に変わろうと努力していること。
それは本人達がどんなに口を閉ざしていても、いつの間にか漏れ伝わってしまうものである。
「いいですか?勘違いして自惚れてはいけませんわよ!あなたのような爵位も持たない次男坊など、本来女性から相手になどされるわけがないのですから」
「そうよ、顔や態度だけでちやほやされるのなんて学生のうちだけ。彼女達の目的なんてコットワール侯爵家に決まってるじゃない」
「だからっ!みんな知ってるのよ。あなたが卒業したらエリシアに婚約を申し込むってことを。目的は第二夫人なのか愛人なのか・・・、もしくはただ単にコットワール侯爵家と家同士の縁を深めたいのか・・・。まあ、どちらにしてもあなたが練習に利用しているのと同じように、彼女達もそれなりの理由を持っているってことね」
「はっきり言いますが、将来平民にしかなれないあなたの所に!嫁に来たいと思う貴族女性など存在しませんから!」
(そうだ。自分を本当に愛してくれるのはエリシアただ一人・・・)
こうしてエリシアの友人達に厳しく洗脳・・・ではなく、教えられたユーレットは決して自惚れることなくエリシアの為だけを思って努力を続けたのだった。
「あなたの気持ちは分かりましたが、私達はあくまでもエリシアの味方です。ですので、決して勘違いしないでください。私達は彼女を幸せに導く行動しか取りません。あなたがエリシアに見合った人間ではないと判断した時は直ぐにでもあなたを切り捨てて他の男性を紹介し始めます」
「そうね。私達はエリシアに幸せになってほしいと思っているの。彼女は純粋でとても優しい人だから・・・辛い思いはしてほしくないのよ。・・・まあ、それはあなたが誰よりも知っていることでしょうけれど?」
ユーレットは、その言葉に無言で頷いた。
「仕方ないわね。エリシアがあなたを好きでいるうちは、私達も協力してあげるわ。まあ、せいぜい頑張ってちょうだい。ああ、そのうち私の兄を連れてくるわ。女性の扱いには慣れているからきっと参考になるでしょう」
こうしてユーレットは、この日より新たな協力者を得ることとなったのだ。
罵倒されない日などなかった。毎日怒られ、罵られ、呆れられた。
注意を受ける度に自分の常識が他とかけ離れていることに驚いた。そして、最後には必ずこう言われるのだ。
「考え方が幼稚すぎる」
それが今まで面倒に思い、家族や友人との会話を避けてきたツケであった。家族だけではなくエリシアの友人にも似たようなことを言われているのだから、ユーレットには反論の余地もなかった。どうやら精神とは、ユーレットが最も煩わしいと思っていた人間関係の上で成長するものだったようだ。
「おい、嘘だろう・・・エリシア嬢はこんな程度の低い男が好みだったのか!?」
信じられないと、口元を押さえる兄の姿にユーレットの胸も痛んだ。自分の性格を否定される度にエリシアとの会話を思い出す。彼女は、ろくに視線も合わせない自分にいつもニコニコと微笑みながら話しかけてくれた。自分が返事をしなくても怒ったことなど一度もなかったし、何を考えているのか分からない相手にいつだって素直な気持ちを伝えてくれていたのだ。
彼女は自分と違って随分と大人だったのだ。
大人だったのはきっと彼女だけではない。自分が返そうと思っていた本を勝手にエリシアに返してしまったユーレットの友人も、今思えば自分の気持ちに素直になれる大人だったことが分かる。見栄や体裁を気にしていては欲しいものは得られない。きっと友人はそれを知っていたのだろう。
「エリシアに会いたい」
自分の気持ちを素直に言葉に出せるようになった頃、周りよりも低めだったユーレットの身長は本人の希望通りの成長を見せ始めた。そして成長したのは彼の身長だけではなかった。それまでとは真逆の柔らかな笑みを身につけたユーレットは、誰に対しても丁寧な対応を心掛けていた。そのせいなのか今まで見向きもされなかった女性に話しかけられることが多くなってきた。
顔の半分を隠していた鬱陶しい前髪を切り、清潔感のある落ち着いた優しい男を意識したユーレットは、思いのほか女性からの受けが良かったようだ。
もちろんエリシア以外の女性に興味はなかった。しかし、興味がなくてもあらゆる女性と会話をすることで接し方を学びなさいと、兄達の教えにユーレットは忠実に従っていた。
そうして気が付いた時には、常に女性に囲まれるほどの礼儀正しく紳士的な男が完成したのだった。
いくら女性に好意を寄せられてもユーレットがエリシア以外の女性になびくことはなかった。それは、彼がエリシア以外の女性に興味がないというだけではなく、自分の人気がエリシアあってのものだということをしっかりと教育されていたせいもあった。
エリシアが未だに誰とも婚約せずにユーレットを待っていること。エリシアと結婚するためにユーレットが必死に変わろうと努力していること。
それは本人達がどんなに口を閉ざしていても、いつの間にか漏れ伝わってしまうものである。
「いいですか?勘違いして自惚れてはいけませんわよ!あなたのような爵位も持たない次男坊など、本来女性から相手になどされるわけがないのですから」
「そうよ、顔や態度だけでちやほやされるのなんて学生のうちだけ。彼女達の目的なんてコットワール侯爵家に決まってるじゃない」
「だからっ!みんな知ってるのよ。あなたが卒業したらエリシアに婚約を申し込むってことを。目的は第二夫人なのか愛人なのか・・・、もしくはただ単にコットワール侯爵家と家同士の縁を深めたいのか・・・。まあ、どちらにしてもあなたが練習に利用しているのと同じように、彼女達もそれなりの理由を持っているってことね」
「はっきり言いますが、将来平民にしかなれないあなたの所に!嫁に来たいと思う貴族女性など存在しませんから!」
(そうだ。自分を本当に愛してくれるのはエリシアただ一人・・・)
こうしてエリシアの友人達に厳しく洗脳・・・ではなく、教えられたユーレットは決して自惚れることなくエリシアの為だけを思って努力を続けたのだった。
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