上 下
23 / 33

二人きりには時間が必要

しおりを挟む
 アレイド様は、私を出迎えた時の楽しげな雰囲気とは打って変わって、とても真面目な顔でこちらを見つめていました。私はこれから、どれ程大切な話が始まるのだろうと瞳を逸らさず身構えていましたが、アレイド様は、なぜか私との距離を急に詰めてきたかと思うと、突然ぎゅっと抱きしめてきたのです。

「へっ?」

いきなりの展開に驚いた私が、変な声を出すと、

「ごめんね。どうしても我慢できなくて・・・。昨日、こうしてユニに触れてしまってから、どうにも自分の抑えがきかないんだ。ああ、もう離したくない・・・。
ユニ、愛してる。お願いだから僕から離れないで・・・。」

「あっ、あの、これではちゃんと話ができません・・・。」

「大丈夫。ちゃんと顔も見えるよ? ほら。」

(近いっ!!! 顔!! 15センチくらいしか離れてません!! ちょっ、離れて!!!)

離れてほしい私が、両手でアレイド様の肩をグイグイ押しますが、アレイド様はアレイド様で、両腕に力を込めて私の体を引き寄せています。

(ちょっと!! なに!! なんの戦いなの!? あっち行って!!)

お互い、腕に力を入れ、押し相撲のような無言の攻防をしばらく続けましたが、少しも離れてくれないアレイド様を前に、馬鹿馬鹿しくなってしまった私は、ついに負けを認めると腕から無駄な力を抜きました。

しかし、至近距離で顔を見合わせるのは、どうしても嫌だったので逆にピタリとくっ付いて、アレイド様の肩に顎を乗せて壁を見ながら会話することにしました。それを勘違いしたのか、アレイド様は「嬉しい・・・」 と呟き、更に腕に力を込めて、まるで私を潰そうとしているかのように力いっぱい抱きしめてくるのでした。

息も絶え絶えながら、これでやっとアレイド様の大切な話が始まるのかしら? と思って黙っていると、なぜがアレイド様は、聞いてほしいと言っていた自分の話はせずに、私に対しての不満をぶつけて来たのでした。

「ねぇ、ユニ、君はライナーが好きなの?ライナーがユニの友人なのは知っているけれど、二人の距離は少し近すぎると思うんだ。 そもそも、なんでライナーはユニって呼ぶのかな?どうしてそんな馴れ馴れしくするライナーを許しているの!?
ユニ、ちゃんと答えて!」

「ユニ? 先月、うちの学園の生徒と一緒に街を歩いていたって聞いたけど、それって誰のこと?それもやっぱりライナーなの? ユニは、婚約者でもない男性と二人きりで出かけたりするの!?どうして二人で出歩く必要があるのかなぁ・・・。その後、カフェでケーキを食べて笑っていたって聞いたけど、どうして笑ったりするの?そいつとは、そんなに親しい間柄?そもそも、なんで僕の知らない所で他の男とケーキ食べて笑顔を振りまいたりするのかな?」

「あとね、前から思っていたんだけど、いつも我が家の庭師と何を話しているのかなぁ?あんなに笑い合ってさ・・・。絶対トーマスは、君が帰る時間を見計らってベッキーの散歩をさせているんだよ。君と話したいから、わざとベッキーを走らせて会話できるように計算しているんだよ?ユニは、それに気付いている?」

「・・・・・・・。」

「ユニ!ちゃんと聞いてる?スワルス様の従弟との縁談の話に乗り気だって聞いたけど、それって本当? ねえ、どうしてなの?だって一度も会ったこともない男性でしょう?ユニはさぁ、ただリヴェル辺境地に行きたいだけなんだよね?随分前の話だったから、僕もすぐに思い出せなかったんだけど、それって、アーレン閣下が目的なの? まさかとは思うけど、ユニは、まだアーレン閣下に心奪われているの? こんなこと考えたくもないけど、まだ妾になりたいとか馬鹿なこと考えてるわけじゃないよね!?」

「・・・・・・・。」

「ユニ? ん? あれ? え? ・・・・もしかして、また聞いてない?」




 その後、外出から戻って来たお姉様とスワルス様に大声で名前を呼ばれ、私は正気に戻りました。二人きりでの会話はまだ早いと判断されたようで、その後の話し合いには、お父様に頼まれたスワルス様が渋々仲介に入ってくださいました。

「なんで私が・・・。私だってそんなに暇じゃないんだが・・・、結婚式だって間近に迫っているというのに。本当に君という奴は! いいか!?まず、ユニに嫌われたくなければ、そのストーカー的思考をやめろ!!そして、勝手な妄想でユニを疑うんじゃない!!そもそも、たくさんの令嬢の相手をしてユニを追い詰めた君が、ユニを責める資格など、どこにもない!! 反省しろ!!」

「すみません、義兄上!」

「なっ!! 私は、君の義兄ではない!!腹が立つから馴れ馴れしく呼ぶんじゃない!!」

ただでさえイライラしているスワルス様をアレイド様が更に怒らせ、その場の雰囲気を最悪に陥れていました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。

待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。 父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。 彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。 子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。 ※完結まで毎日更新です。

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

いつから恋人?

ざっく
恋愛
告白して、オーケーをしてくれたはずの相手が、詩織と付き合ってないと言っているのを聞いてしまった。彼は、幼馴染の女の子を気遣って、断れなかっただけなのだ。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

冤罪で処刑されたら死に戻り、前世の記憶が戻った悪役令嬢は、元の世界に帰る方法を探す為に婚約破棄と追放を受け入れたら、伯爵子息様に拾われました

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
ワガママ三昧な生活を送っていた悪役令嬢のミシェルは、自分の婚約者と、長年に渡っていじめていた聖女によって冤罪をでっちあげられ、処刑されてしまう。 その後、ミシェルは不思議な夢を見た。不思議な既視感を感じる夢の中で、とある女性の死を見せられたミシェルは、目を覚ますと自分が処刑される半年前の時間に戻っていた。 それと同時に、先程見た夢が自分の前世の記憶で、自分が異世界に転生したことを知る。 記憶が戻ったことで、前世のような優しい性格を取り戻したミシェルは、前世の世界に残してきてしまった、幼い家族の元に帰る術を探すため、ミシェルは婚約者からの婚約破棄と、父から宣告された追放も素直に受け入れ、貴族という肩書きを隠し、一人外の世界に飛び出した。 初めての外の世界で、仕事と住む場所を見つけて懸命に生きるミシェルはある日、仕事先の常連の美しい男性――とある伯爵家の令息であるアランに屋敷に招待され、自分の正体を見破られてしまったミシェルは、思わぬ提案を受ける。 それは、魔法の研究をしている自分の専属の使用人兼、研究の助手をしてほしいというものだった。 だが、その提案の真の目的は、社交界でも有名だった悪役令嬢の性格が豹変し、一人で外の世界で生きていることを不審に思い、自分の監視下におくためだった。 変に断って怪しまれ、未来で起こる処刑に繋がらないようにするために、そして優しいアランなら信用できると思ったミシェルは、その提案を受け入れた。 最初はミシェルのことを疑っていたアランだったが、徐々にミシェルの優しさや純粋さに惹かれていく。同時に、ミシェルもアランの魅力に惹かれていくことに……。 これは死に戻った元悪役令嬢が、元の世界に帰るために、伯爵子息と共に奮闘し、互いに惹かれて幸せになる物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿しています。全話予約投稿済です⭐︎

処理中です...