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そんなある日、授業中にフローレンスが意識を失って倒れた。
シオンが駆けつけた時、ベッドの中のフローレンスは、まるで生気を失ったように青白い顔で眠っていた。重度の栄養失調と睡眠不足。このままでは命の危険もあると医者に言われたシオンは、頭の中が真っ白になった。
「なんで!? なんで、姉さん!!起きて、僕を置いて行かないで!! 姉さん!!そんなの嫌だ!! やだ!! 姉さん!! 僕を一人にしないで・・・。」
シオンは、人目もはばからず声を出して慟哭した。
その日の夕方、両親が学園に来て、まだ意識のないフローレンスを邸に連れ帰った。どんなに説得されてもフローレンスにしがみ付いて離れなかったシオンも、フローレンスと共に邸に連れ帰ることになった。
その晩、真っ暗な部屋の中で、小さな声が聞こえた。
「また、私はシオンに迷惑をかけてしまったのね・・・。あのまま死ねたら良かったのに・・・。」
その声にはっとしたシオンが叫んだ。
「っ!! やだ!!やだよ!!死んじゃ嫌だ、姉さん!!・・・死なないで!! 嫌だよ!! 嫌だ!!」
シオンは、フローレンスのベッドに突っ伏して、大声で泣き叫んだ。
体を起こすことの出来なかったフローレンスが、手を伸ばしてシオンの頭を撫でた。
何も言わず、シオンが落ち着くまでゆっくりと手を動かし続けている。
真っ暗な部屋の中、月明かりに照らされたシオンは、鼻を啜りながら小刻みに震えていた。
「シオン、ごめんね・・・。」
痩せてしまったせいか、ひと際大きくなった瞳には、溢れた涙が月の明かりを受けてキラキラ光っていた。
「シオン、泣かないで・・・。姉さんが・・・なんとかするから。」
シオンが、体を起こし慌ててフローレンスの手を取る。離れて行かないように自分の震える指にフローレンスの指を絡ませてぎゅっと握る。
「大丈夫・・・。もう、心配しないで。・・・シオンは、自分の幸せを考えて。姉さんのことは、もう、いいから。自分の好きな人と、一緒に・・・なりなさい。」
フローレンスは、そう言って力なく微笑んだ。すると、ベッドに乗り上がってきたシオンがフローレンスにしがみ付き、次から次へとボロボロ大粒の涙を零した。
「・・・姉さん、ごめんなさい!ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・、ごめんなさい、姉さん・・・。」
まるで幼い子供のように泣き続けるシオンに、目を見開いたフローレンスが、頭だけを持ち上げてシオンを見ると、涙と鼻水でぐしゃぐしゃのシオンがフローレンスの腰のあたりを布団ごと抱え込んている。
「好きになってごめんなさい!ひぐっ、姉さんしか愛せなくてっ・・ごめん、なざい!
誰に、もっ、とられたく、なぐって・・・、ひっ、ひっ、卑怯なっ、ことばっかりがんがえてっ、ごめんな、さい!ねえざんに、触りたくって、困ってるっ、の、わかってたの、に・・・、抱きついたり、口づげもっ、いっぱい、した。・・・姉さん、のこと、好きでっ、ごめんなざい!!こんなに、好きでっ、ひっ、ひっぐ、ごめんなさい・・・。うぐっ、で、も、もう、どうにもっ、でぎない。ぼくが、追いかけるほど、ねっ、ねえざんは、遠くにいごうとするっし。・・・おねがい、します。僕の、ぞばに、いて、ぐだざい! ぼくを、みずてないで、・・・ください。」
フローレンスは、シオンを見ながらしばらく何も言えず固まっていたが、目を閉じて大きく一つ息を吐くと、もう一度シオンの頭に手を持っていき、優しい声で「おいで」と言った。
「・・・でも・・・。」
「そのまま上に・・・、姉さんの所においで。」
フローレンスは、シオンの服を引っ張った。それはとても弱い力だったが、シオンは引っ張られるままに、フローレンスに覆いかぶさるように上に上がった。なるべく体重をかけないように気を付けたのに、フローレンスは手を伸ばしてシオンをぐっと抱きしめた。そして、黙ってシオンの背中をさすった。
シオンの呼吸が落ちつくのを待って、フローレンスは手を緩めた。枕元のタオルでシオンの目や鼻を優しく拭きながら、フローレンスは話始めた。
「シオン、今まで、辛かったね・・・。シオンの気持ちに気付いてあげられなくて・・・ごめんね。シオンが私を好きなのは分かっていたけど・・・、私が思っていたのと少し違ったみたいね。私は、本当に駄目な姉だったね・・・。私ね・・・、もう、昔のようにシオンの役に立つこともできなくて、今の私では、貴方の足を引っ張ってばかりだと思っていたわ。たくさんのご令嬢が、私のような偽物じゃなくて・・・、育ちの良い本物のお嬢様たちが、シオンのことを慕っているわ。なのに、私がこんなだから・・・、何度も婚約が駄目になって、もう、どこにも嫁げないから・・・。だから、だからシオンが―――」
「僕が、姉さんと婚約したいって!! 僕が自分で、頼んだんだよ! 姉さんと結婚したいから。姉さんを誰にも渡したくないから、僕が父上と継母上に頼んだんだ。僕は、姉さんを愛しているから。・・・どうしても婚約したかった・・・。」
フローレンスは、優しく微笑んで、頷いた。そして、またゆっくりと話始めた。
「そうだったのね・・・。この半年、私の態度で随分と貴方を傷つけてしまったのね・・・。馬鹿な姉さんを許してね・・・シオン。」
その言葉にシオンの顔が歪んだ。
「謝るのは姉さんじゃないよ。僕が自分の気持ちばかりを優先して、姉さんをたくさん傷つけたんだ。僕が―――」
「シオン・・・もういいよ。もう、いっぱい謝ってもらった。・・・ありがとう、シオン。こんな私を好きになってくれて。ありがとう。」
フローレンスは、もう一度シオンを抱き寄せてシオンの頬に口づけを落とした。
「ねえ・・・さん?」
シオンは、信じられないと言う顔で、呆然とフローレンスを見下ろした。
「本当言うと、まだ彼のことを忘れられないの・・・。私にとって、とても大切な人だったから・・・。でも、もう、彼のことで泣くのは止めるわ。そしてね、そろそろ貴方の姉さんもやめようと思うの・・・。」
「そ・・・れは、どういう事?僕の傍から離れるの?」
怯えた様子でフローレンスを見つめるシオンの目からは、再び涙が零れ落ちている。
「気持ちの整理に少し時間はかかるかもしれないけれど・・・、ずっとシオンの傍に居る為に、フローレンスに戻るのよ。」
それを聞いたシオンの美しい顔が、情けないほどクシャっと歪んだかと思うと、シオンはまた、大きな声を出して泣いたのだった。
シオンが駆けつけた時、ベッドの中のフローレンスは、まるで生気を失ったように青白い顔で眠っていた。重度の栄養失調と睡眠不足。このままでは命の危険もあると医者に言われたシオンは、頭の中が真っ白になった。
「なんで!? なんで、姉さん!!起きて、僕を置いて行かないで!! 姉さん!!そんなの嫌だ!! やだ!! 姉さん!! 僕を一人にしないで・・・。」
シオンは、人目もはばからず声を出して慟哭した。
その日の夕方、両親が学園に来て、まだ意識のないフローレンスを邸に連れ帰った。どんなに説得されてもフローレンスにしがみ付いて離れなかったシオンも、フローレンスと共に邸に連れ帰ることになった。
その晩、真っ暗な部屋の中で、小さな声が聞こえた。
「また、私はシオンに迷惑をかけてしまったのね・・・。あのまま死ねたら良かったのに・・・。」
その声にはっとしたシオンが叫んだ。
「っ!! やだ!!やだよ!!死んじゃ嫌だ、姉さん!!・・・死なないで!! 嫌だよ!! 嫌だ!!」
シオンは、フローレンスのベッドに突っ伏して、大声で泣き叫んだ。
体を起こすことの出来なかったフローレンスが、手を伸ばしてシオンの頭を撫でた。
何も言わず、シオンが落ち着くまでゆっくりと手を動かし続けている。
真っ暗な部屋の中、月明かりに照らされたシオンは、鼻を啜りながら小刻みに震えていた。
「シオン、ごめんね・・・。」
痩せてしまったせいか、ひと際大きくなった瞳には、溢れた涙が月の明かりを受けてキラキラ光っていた。
「シオン、泣かないで・・・。姉さんが・・・なんとかするから。」
シオンが、体を起こし慌ててフローレンスの手を取る。離れて行かないように自分の震える指にフローレンスの指を絡ませてぎゅっと握る。
「大丈夫・・・。もう、心配しないで。・・・シオンは、自分の幸せを考えて。姉さんのことは、もう、いいから。自分の好きな人と、一緒に・・・なりなさい。」
フローレンスは、そう言って力なく微笑んだ。すると、ベッドに乗り上がってきたシオンがフローレンスにしがみ付き、次から次へとボロボロ大粒の涙を零した。
「・・・姉さん、ごめんなさい!ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・、ごめんなさい、姉さん・・・。」
まるで幼い子供のように泣き続けるシオンに、目を見開いたフローレンスが、頭だけを持ち上げてシオンを見ると、涙と鼻水でぐしゃぐしゃのシオンがフローレンスの腰のあたりを布団ごと抱え込んている。
「好きになってごめんなさい!ひぐっ、姉さんしか愛せなくてっ・・ごめん、なざい!
誰に、もっ、とられたく、なぐって・・・、ひっ、ひっ、卑怯なっ、ことばっかりがんがえてっ、ごめんな、さい!ねえざんに、触りたくって、困ってるっ、の、わかってたの、に・・・、抱きついたり、口づげもっ、いっぱい、した。・・・姉さん、のこと、好きでっ、ごめんなざい!!こんなに、好きでっ、ひっ、ひっぐ、ごめんなさい・・・。うぐっ、で、も、もう、どうにもっ、でぎない。ぼくが、追いかけるほど、ねっ、ねえざんは、遠くにいごうとするっし。・・・おねがい、します。僕の、ぞばに、いて、ぐだざい! ぼくを、みずてないで、・・・ください。」
フローレンスは、シオンを見ながらしばらく何も言えず固まっていたが、目を閉じて大きく一つ息を吐くと、もう一度シオンの頭に手を持っていき、優しい声で「おいで」と言った。
「・・・でも・・・。」
「そのまま上に・・・、姉さんの所においで。」
フローレンスは、シオンの服を引っ張った。それはとても弱い力だったが、シオンは引っ張られるままに、フローレンスに覆いかぶさるように上に上がった。なるべく体重をかけないように気を付けたのに、フローレンスは手を伸ばしてシオンをぐっと抱きしめた。そして、黙ってシオンの背中をさすった。
シオンの呼吸が落ちつくのを待って、フローレンスは手を緩めた。枕元のタオルでシオンの目や鼻を優しく拭きながら、フローレンスは話始めた。
「シオン、今まで、辛かったね・・・。シオンの気持ちに気付いてあげられなくて・・・ごめんね。シオンが私を好きなのは分かっていたけど・・・、私が思っていたのと少し違ったみたいね。私は、本当に駄目な姉だったね・・・。私ね・・・、もう、昔のようにシオンの役に立つこともできなくて、今の私では、貴方の足を引っ張ってばかりだと思っていたわ。たくさんのご令嬢が、私のような偽物じゃなくて・・・、育ちの良い本物のお嬢様たちが、シオンのことを慕っているわ。なのに、私がこんなだから・・・、何度も婚約が駄目になって、もう、どこにも嫁げないから・・・。だから、だからシオンが―――」
「僕が、姉さんと婚約したいって!! 僕が自分で、頼んだんだよ! 姉さんと結婚したいから。姉さんを誰にも渡したくないから、僕が父上と継母上に頼んだんだ。僕は、姉さんを愛しているから。・・・どうしても婚約したかった・・・。」
フローレンスは、優しく微笑んで、頷いた。そして、またゆっくりと話始めた。
「そうだったのね・・・。この半年、私の態度で随分と貴方を傷つけてしまったのね・・・。馬鹿な姉さんを許してね・・・シオン。」
その言葉にシオンの顔が歪んだ。
「謝るのは姉さんじゃないよ。僕が自分の気持ちばかりを優先して、姉さんをたくさん傷つけたんだ。僕が―――」
「シオン・・・もういいよ。もう、いっぱい謝ってもらった。・・・ありがとう、シオン。こんな私を好きになってくれて。ありがとう。」
フローレンスは、もう一度シオンを抱き寄せてシオンの頬に口づけを落とした。
「ねえ・・・さん?」
シオンは、信じられないと言う顔で、呆然とフローレンスを見下ろした。
「本当言うと、まだ彼のことを忘れられないの・・・。私にとって、とても大切な人だったから・・・。でも、もう、彼のことで泣くのは止めるわ。そしてね、そろそろ貴方の姉さんもやめようと思うの・・・。」
「そ・・・れは、どういう事?僕の傍から離れるの?」
怯えた様子でフローレンスを見つめるシオンの目からは、再び涙が零れ落ちている。
「気持ちの整理に少し時間はかかるかもしれないけれど・・・、ずっとシオンの傍に居る為に、フローレンスに戻るのよ。」
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