上 下
33 / 55

突然の報告

しおりを挟む
 一週間後、フローレンスとジルドナの婚約が解消になった。二人の婚約が解消になると、男爵夫妻がルミリアを連れてスコット伯爵家を訪れた。

学園でのジルドナがとった節操のない行動により娘のルミリアに傷がついたというものだ。二人は愛し合っているのだし、ルミリアをジルドナの婚約者にしろと騒ぎ始めたのだ。

家柄も教養もない男爵令嬢を伯爵家に嫁がせる訳にはいかないと、金と権力で有耶無耶にする予定だったスコット伯爵だったが、裏で何者かが動いているのか、日に日に噂は広がって行く一方だった。学園での二人の関係は、もはや知らない者がいないほど有名になっていたし、そのせいでジルドナとフローレンスの婚約がなくなったことも周知の事実だった。こちらがどんなに圧力をかけても、貴族としての責任を取れと一向に引き下がらない男爵家。そして、その後ろに見え隠れする高位貴族の大きな影のせいもあり、ジルドナはルミリアとの婚約を受ける以外の道を断たれてしまった。

 結局ジルドナは、男爵家の言い分を呑みルミリアと婚約することになってしまった。しかし、婚約するとジルドナは直ぐに行動を起こした。まずは受け継ぐはずだった伯爵位を弟のルーベルトに譲ったのだ。そして、そのまま隣国へと留学した。爵位を失ったジルドナは、もう自国に戻るつもりはなかったのだ。

 伯爵位がルーベルトに渡ると分かった時点で、あれほど本物の愛だの、責任を取れだのと攻め込んできた男爵一家は、瞬時に大人しくなった。所詮ルミリアにとって、爵位のない男になど用はなかったのだろう。あれほど揉めに揉めた二人の婚約だったが、わずか半年も経たずに解消されることとなった。ジルドナが他国に渡ってからもルミリアの節操のない男漁りは続いていたが、ルミリアが愛していたのはジルドナではなく伯爵位だ。ジルドナとフローレンスの仲を裂いたのは、ルミリアだった。などという噂が流れ始めると、肩身の狭くなったルミリアは学園を辞めるしかなくなり、高位貴族に嫁ぐのを諦め田舎の領地に戻って行ったのだった。


***

 その日は、なんの前触れもなく、フローレンスが邸に帰って来た。

「シオン、ちょっと大事な話があるの。今、少しいいかしら?」

そう言うと、挨拶もそこそこに、シオンの自室に向かい歩き出した。少し会わなかっただけなのに、久々に見るフローレンスは、以前よりも少し髪が伸びており、シンプルな淡い色のドレスに、ほんの少しの化粧を施し、最後に見た時よりも随分大人びた印象を受けた。そうして、シオンの部屋へ入ると、フローレンスはメイドにお茶を頼んだ。

「シオン、しばらく会わないうちにこんなに大きくなって。んー・・・成長して?違う?こんなに立派になって・・・?なんか変ね。なんて言うのが正解なのかしら・・・と、とにかく、こんなに素敵になって、姉さん嬉しいような寂しいような・・・。ふふっ、なんて言ったらいいのかしらね・・・少し複雑な気持ちだわ・・・。」

目の前に立つシオンの成長に驚きを隠せない様子のフローレンスは、綺麗に微笑むシオンを前にして素直にそう言った。以前よりも身長が伸びただけではなく、まともな食事のお陰か、細すぎた体もがっしりと男性っぽく変わっていた。相変わらず色白ではあったが、元々整った顔が少し大人っぽくなったのか、可愛らしい少年のイメージは、既に消えてしまっている。

「姉さんこそ、この短期間で驚くほど綺麗になったよ。少し痩せた?元々小さかった顔が、更に小さくなってしまったようだよ?学園で何があったの?心配だから早く教えてほしいな・・・。」

メイドにお茶を用意してもらうと、テーブルを挟んで向かい合って会話を始めた。

「実は・・・ジルとの婚約を解消しようと思っているの・・・。」

「は!?」

「えーと・・・。元々、婚約破棄してもらう予定ではいたでしょう?あの・・・実はね、学園に入ってからジルに好きな人が出来てしまったのよ。でね、私としてはシオンが学園に入って、侯爵家の跡取はシオンだって、周りに認めさせた上で白紙にしましょう!と、計画していたんだけど・・・、少し予定が狂ったというか・・・、それで、話をこんなに早めてしまって大丈夫かどうかシオンに相談したかったの。」

「え!? それ、本当の話なの?ジルドナ様に好きな人って・・・。」

フローレンスの話を聞き、シオンは信じられない思いで尋ねた。

「ジルの?うん、本当よ。ジルはね、ずっと私とお昼を食べていたんだけど、ある日から迎えに来てくれなくなって・・・、それからはずっと彼女とベッタリなの。二人はとても仲良しなのよ。」

「うーん・・・えーと、その令嬢ってどんな人?」

「あー・・・と、私も詳しくは知らないんだけど、どこだかの男爵令嬢ですって、えーと、たしか、エミリア様って名前だったような・・・。ふわふわの髪をこう二つに結んで、大きなリボンを付けてるわ。とても背の小さい、えーっと、こんな感じ!」

見て!?と、フローレンスは膝を曲げて、背を低く見せる。下から目をうるうるさせて無駄に瞬き回数を増やすと口を少しすぼめて、シオンの腕にしがみ付いた。

すると、それを見たシオンが、顔を真っ赤にして背の低いフローレンスをがばっと力強く抱きしめた。

「っ!! 姉さん・・・。」

「え?ちょっと、シオン!!なにやってるの!!シオンってば!!」

フローレンスが、驚いてシオンを押し返すと、

「ごめん。つい、姉さんが可愛いくて・・・。」

と、シオンは、まだ顔を赤くしたままだ。

「むっ・・・。結局、シオンもこんなタイプの女の子が好きなのね。ジルといい、シオンといい、なんだか悔しいわね!」

「ごめん。それとはちょっと違うんだけど・・・、それより姉さん、もう一度抱きしめてもいいかな?」

「はぁ!?何それ、最低!!絶対いやよ!!私だって女の子なんだから!!もう、シオンの馬鹿!!近づかないで!!」

「姉さんっ!!違うって!!僕が、可愛らしいタイプが好きとかじゃなくて、出会った頃の姉さんを思い出したから、だから、可愛くて・・・。」

シオンの赤かった顔が、一瞬で青くなっている。

「あら、そうなの?うふふ、まぁ、それならいいわ。許してあげる。」

「姉さん、それより、ジルドナ様がそんなことになって、姉さんは大丈夫だったの?どうしてすぐに僕に連絡してくれかなかったの?」

その質問を聞いて、シオンには隠し事なんてできないと、フローレンスは改めて思うのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

婚約破棄されて田舎に飛ばされたのでモフモフと一緒にショコラカフェを開きました

碓氷唯
恋愛
公爵令嬢のシェイラは王太子に婚約破棄され、前世の記憶を思い出す。前世では両親を亡くしていて、モフモフの猫と暮らしながらチョコレートのお菓子を作るのが好きだったが、この世界ではチョコレートはデザートの横に適当に添えられている、ただの「飾りつけ」という扱いだった。しかも板チョコがでーんと置いてあるだけ。え? ひどすぎません? どうしてチョコレートのお菓子が存在しないの? なら、私が作ってやる! モフモフ猫の獣人と共にショコラカフェを開き、不思議な力で人々と獣人を救いつつ、モフモフとチョコレートを堪能する話。この作品は小説家になろう様にも投稿しています。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【R18】禁忌の主従契約 ~転生令嬢は弟の執愛に翻弄される~

彼岸花
恋愛
ある日、私は双子の弟に告白された。「ずっと前から好きだった。恋人と別れて自分を選んで欲しい」と。 けれど、その思わぬ告白を受けた直後に私は弟と一緒に不慮の事故に遭い短い生涯を終えた。 ……はずだったのに。なぜか私達は、再び双子の姉弟として異世界に転生してしまった。 転生先は、魔力を持つ人間が魔力を持たない人間を支配する魔力至上主義の世界。 私達姉弟はセレスとリヒトという名前を与えられ、すくすくと成長した。 ところが──魔力を持たずに生まれてきた私はある時、非魔力保持者が収容される隔離施設に送られてしまいそうになる。 それを回避する方法はただ一つ。高い魔力を持つ魔力保持者と隷属契約をすること。 そんな時、エリート魔術師の弟・リヒトが私を助けるために提案をした。「施設送りになりたくないなら、俺と隷属契約しろ」と。 ──そうして主従関係になった姉弟の関係は、ある事をきっかけに歪んでいった。

お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜

湊未来
恋愛
 王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。  二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。  そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。  王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。 『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』  1年後……  王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。 『王妃の間には恋のキューピッドがいる』  王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。 「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」 「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」 ……あら?   この筆跡、陛下のものではなくって?  まさかね……  一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……  お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。  愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

婚約関係には疲れたので、しばらく義弟を溺愛したいと思います。

木山楽斗
恋愛
婚約者の浮気を知ったラルティアは、確固たる証拠は掴めなかったものの、彼に対して婚約破棄を突きつけた。少なからず噂になっていたため、婚約破棄しても婚約者側に非があるとされると、ラルティアは思っていたのである。 結果的に、彼女の思っていた通りにことは進んだ。しかし、ラルティアも少なからずあることないこと言われることになり、新たな婚約を結ぶのが難しい状況となったのである。 そこでラルティアは、しばらくの間の休息を弟とともに楽しむことにした。 ラルティアの行動は義弟であるルヴァリオにも少なからず影響しており、彼もしばらくの間は婚約などの話はなくなり、暇になっていたのだ。 元々仲が良い姉弟であったため、二人はともに楽しい時間を過ごした。 その時間の中で、二人はお互いが姉弟を越えた感情を抱いていることを自覚していくのだった。

処理中です...