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後悔と弟の気持ち
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「婚約は解消しません。僕はフローレンスと一緒に居たい・・・。」
ジルドナは、実家に着くなり、父の執務室に駆け込み説得を試みた。
「・・・お前、私達が何も知らないとでも思っているのか?婚約者を蔑ろにして、どこぞの男爵令嬢と随分懇意にしているらしいな。」
溜息交じりに、そう言った父親の目は、明らかに嫌悪感を表していた。
「そ、それは・・・。」
ジルドナが口ごもると、父親は呆れた顔を隠しもしないで自分の話を続けた。
「お前の行動を、我が家が知っているということは、・・・どういうことかわかるよな?・・・フーバート侯爵も知っているということだ。」
「で、ですが―――」
「お前は、侯爵家の令嬢と男爵家の令嬢を天秤にかけることもできないほど頭が悪かったのか?はぁー・・・本当に、なんて馬鹿なことを・・・。」
「僕は、フローレンスを愛しています。婚約解消なんてしたくない。父上、お願いです。なんとかもう一度チャンスをください。フーバート侯爵と話をさせてください。」
必死に頭を下げる息子の姿に、机の上に肘をつき、頭を抱えた伯爵が諭すように告げた。
「学園でお前の行動がおかしくなってから、フーバート家にはどんどん釣書が送られてきているらしい。侯爵家にしてみれば、今や選び放題だ。伯爵位のうちじゃなくてもいいんだ。フローレンス嬢にしても、婚姻前から他の女にうつつを抜かす不誠実な男なんかより、自分一人を大切にしてくれる奴の方がいいだろう。今まではフローレンス嬢がお前を気に入ってくれていたから、多少のことも大目に見てくれていたが、彼女の気持ちは既にお前にはないんだよ。婚約の解消を望んでいるのは、他でもないフローレンス嬢なんだから。」
「そ・・・ん・・・な・・・だって、彼女は・・・。」
(俺のことが好きだったはずだろ?なのに、どうして・・・。)
「今まで、自分の我儘で振り回してしまい申し訳なかった。自分は身を引くから、これからは、お前の本当に好きな人と婚約させてあげてください。と、手紙をもらっている。本当だったら婚約破棄を言い渡されてもおかしくない話だ、しかしフローレンス嬢が解消でいいと言ってくれているんだ。・・・ジルドナ、もう諦めろ。」
「嫌だ!!僕は、僕はフローレンス以外の女性なんかいらない!!嫌だ!!彼女が好きなんだ!!嫌だ、いやだ!!」
ジルドナは、顔を真っ赤にして叫んだ。自分の髪を両手で鷲掴みにし、力任せに引きちぎろうとした。抑えきれない涙が流れる。
「うるさいっ!! なら、なぜ大事にしなかった!!爵位も教養もない、男をたぶらかすだけの女にうつつを抜かしたお前が悪いんだろう!!」
大声でジルドナを怒鳴りつけた伯爵は、使用人を呼んでジルドナを部屋に連れて行けと命令した。もう一度チャンスをくださいと叫び続ける息子の声が遠ざかると、疲れた顔の伯爵はもう一度大きな溜息を吐いた。
「本当だったら、フローレンスと婚約するのは僕だったのに・・・。」
目の前に立つルーベルトが、憎々し気な顔でジルドナを睨みつけていた。ジルドナは、久々に会った弟を、泣き腫らした目で呆然と見上げた、その顔には、まだあどけなさが残っているけれど、今ではジルドナと変わらないほど身長は高くなっていた。
「フローレンスのどこに不満があったの?」
ルーベルトの短い言葉に、鋭い棘を感じた。
「不満なんてない。」
「綺麗で、優しくて・・・素敵な人だったじゃないか!」
「・・・知ってる。」
「なら、なぜ彼女を裏切った!?」
「裏切るつもりはなかった・・・。」
「はぁー・・・、僕には全く理解できない。僕なら・・・、僕だったら、何よりも大切にしたのに・・・。兄さんには、失望したよ。」
たったこれだけの会話で、ルーベルトは部屋を出て行った。
(もっと言い訳させてくれ・・・。ちゃんと理由があったんだ。本当は誰よりも彼女を愛していたんだ。・・・どうしてこんなことに・・・。)
ジルドナは、その日一晩泊まって、翌朝早くに寮へ戻った。フローレンスを気に入っていた母親は、ついに一度も顔を出さなかった。
ジルドナは、実家に着くなり、父の執務室に駆け込み説得を試みた。
「・・・お前、私達が何も知らないとでも思っているのか?婚約者を蔑ろにして、どこぞの男爵令嬢と随分懇意にしているらしいな。」
溜息交じりに、そう言った父親の目は、明らかに嫌悪感を表していた。
「そ、それは・・・。」
ジルドナが口ごもると、父親は呆れた顔を隠しもしないで自分の話を続けた。
「お前の行動を、我が家が知っているということは、・・・どういうことかわかるよな?・・・フーバート侯爵も知っているということだ。」
「で、ですが―――」
「お前は、侯爵家の令嬢と男爵家の令嬢を天秤にかけることもできないほど頭が悪かったのか?はぁー・・・本当に、なんて馬鹿なことを・・・。」
「僕は、フローレンスを愛しています。婚約解消なんてしたくない。父上、お願いです。なんとかもう一度チャンスをください。フーバート侯爵と話をさせてください。」
必死に頭を下げる息子の姿に、机の上に肘をつき、頭を抱えた伯爵が諭すように告げた。
「学園でお前の行動がおかしくなってから、フーバート家にはどんどん釣書が送られてきているらしい。侯爵家にしてみれば、今や選び放題だ。伯爵位のうちじゃなくてもいいんだ。フローレンス嬢にしても、婚姻前から他の女にうつつを抜かす不誠実な男なんかより、自分一人を大切にしてくれる奴の方がいいだろう。今まではフローレンス嬢がお前を気に入ってくれていたから、多少のことも大目に見てくれていたが、彼女の気持ちは既にお前にはないんだよ。婚約の解消を望んでいるのは、他でもないフローレンス嬢なんだから。」
「そ・・・ん・・・な・・・だって、彼女は・・・。」
(俺のことが好きだったはずだろ?なのに、どうして・・・。)
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「嫌だ!!僕は、僕はフローレンス以外の女性なんかいらない!!嫌だ!!彼女が好きなんだ!!嫌だ、いやだ!!」
ジルドナは、顔を真っ赤にして叫んだ。自分の髪を両手で鷲掴みにし、力任せに引きちぎろうとした。抑えきれない涙が流れる。
「うるさいっ!! なら、なぜ大事にしなかった!!爵位も教養もない、男をたぶらかすだけの女にうつつを抜かしたお前が悪いんだろう!!」
大声でジルドナを怒鳴りつけた伯爵は、使用人を呼んでジルドナを部屋に連れて行けと命令した。もう一度チャンスをくださいと叫び続ける息子の声が遠ざかると、疲れた顔の伯爵はもう一度大きな溜息を吐いた。
「本当だったら、フローレンスと婚約するのは僕だったのに・・・。」
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「不満なんてない。」
「綺麗で、優しくて・・・素敵な人だったじゃないか!」
「・・・知ってる。」
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「はぁー・・・、僕には全く理解できない。僕なら・・・、僕だったら、何よりも大切にしたのに・・・。兄さんには、失望したよ。」
たったこれだけの会話で、ルーベルトは部屋を出て行った。
(もっと言い訳させてくれ・・・。ちゃんと理由があったんだ。本当は誰よりも彼女を愛していたんだ。・・・どうしてこんなことに・・・。)
ジルドナは、その日一晩泊まって、翌朝早くに寮へ戻った。フローレンスを気に入っていた母親は、ついに一度も顔を出さなかった。
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