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我儘令嬢のお願い
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今日もまた母親に連れられて二つ下の弟と共に、最近やたらと招待されるようになったお茶会に来ていた。貴族の家に生まれたならば、こうして利害の一致した家同士で、早いうちから子供の縁を結んでおくことの必要性はわかっていた。弟のルーベルトのように爵位を継ぐことのできない者などは、婿にと望んでくれる家があるならば、どうにかこのチャンスを逃したくないと言うのが親心でもあるのだろう。ただ、いくら良い条件の家に求められたとしても、今回のように、相手の令嬢の評判があまりにも悪い場合、兄として黙って見ていることはできなかった。
だが、この目の前の光景は一体何なんだろう・・・・・・。ルーベルトの二つ上の兄、ジルドナ・スコットは、目の前で、涙を浮かべながら自分に頭を下げている令嬢の姿に驚いていた。美しい金髪と宝石のような青い瞳のこの少女は、一見すると高圧的で冷たい印象を与えている。実際、彼女に関する噂は酷い物ばかりで、平民育ちで常識のない我儘令嬢だけならまだわかるが、母娘で義理の弟を虐げ、その弟を追い出して侯爵家を奪い取る計画で、現在は婚約者を探しているという凄い話だ。かなりの数の令息と顔合わせしているが、あまりの性格の悪さに中々相手が決まらず焦っている。 と・・・・・。
しかし、実際の少女は、その弟を助ける為に力を貸してくれと、自分の目の前で頭を下げている。
「・・・・・だが、なんで俺なんだ? 今、会ったばかりだろう・・・・・・。」
すると、彼女は頭を下げたまま、地面を見つめ話始める。
「それは、先ほどのあなたのお話で・・・・・。あなたが、弟のルーベルト様を大切に思っていらっしゃる優しい方だと気付きました。悪い私から弟さんを護るために、見守ってらした強い責任感にも感銘を受けました。そして、あなたなら、私達を助けてくれるのではないかと考えました。私の力では、もう弟のシオンを助けることが難しくなっています。どうか、先ほどの私の話を早急に考えてはいただけませんか?決してあなたが不利益をこうむるようなことは致しません。ちゃんと時が来れば私が悪いと言う理由を作ってこの話を無効にします。弟が当主になれば、きっとあなたのお役にも立つことでしょう。」
「しかし・・・・・・、君は侯爵家を―――――」
「継ぎたくありません! あの家の嫡男は弟のシオンです。 あなたと婚約すれば、もしかしたら私の母も諦めて、侯爵家を私に継がせようなどと馬鹿な考えを改めてくれるかもしれません。決して多くは求めません。あなたの無理のない程度でかまいません。私達姉弟をどうか助けてください・・・・。」
(聞いていた話と随分違う・・・。弟から侯爵家を奪うどころか、弟を当主にするために動いていたのか?だから・・・。)
「だから、婿に入る資格のある者に対して、ずっと酷い態度を取り続けていたのか?」
ずっと下を向いたままの彼女が、黙って頷いた。
ルーベルトと二人で居た時も、何か変だと思っていた。鋭い目つきで、まるで値踏みでもするかのように、上から下まで睨みつけてはいたが、結局彼女は弟に何も言わなかった。ただ、目で威圧していただけ・・・・・。ルーベルトは、勝手に委縮して逃げ出したのだ。 そして、傷つけたくないと呟いた。
「・・・具体的に、俺が出来る事とは?」
フローレンスは、ずっと下げていた頭を上げると、訝し気な表情のジルドナをそっと見上げた。そして、大きく息を一つ吸うと、助けてほしい内容を簡単に説明した。
「私は、好きで好きでたまらない婚約者様にプレゼントするという名目で、弟の洋服や靴を買います。その度に両親を騙すことになるので、その時に名前を貸してください。たまに両親に会った時などは話を合わせていただけると助かります。それと、時間のある時でかまいません、我が家にきて勉強を教えていただけませんか?もちろん、私にではなくシオンにです。弟はとても優秀なのですが、家庭教師に見ていただいているのは私だけで、シオンには毎晩、私がその日習った勉強を教えていました。ですが、情けないことに今の私では、シオンに勉強を教えるには力不足でして・・・。残念ながら役に立てていないのが現実です・・・。
あと・・・、お恥ずかしい話なのですが・・・、手土産に何かお腹が膨れるものをいただけると・・・嬉しいといいますか・・・その・・・。」
「なっ!? えっ? ちょっと待ってくれ! いやいやいや、ないだろう!勉強はともかく、靴とか服とか食べ物って・・・。野良犬じゃないんだから・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
ジルドナの言葉に黙って俯いてしまったフローレンスは、自分で言っておきながらも、恥ずかしさや情けなさに加え、野良犬に例えられたシオンのことを思うと悔しさが溢れた。唇を強く噛んで涙を堪えていたが、理不尽な境遇にも関わらず、こんな自分に向けて優しく笑う可哀想な弟を思い出すと、我慢しきれない涙が次々に零れて地面へ落ちて行った。
声も出さず静かに泣いているフローレンスを、ジルドナは複雑な気持ちで見ていた。
「すまない。酷い言葉を使ってしまった。ただ、君達は裕福な侯爵家の人間だし、素直に信じることができなかったんだ。なあ、嫌かもしれないがもう少し詳しく話してもらえないだろうか・・・・・、これでも俺は伯爵家の嫡男だ。いくら破断にすると言われた所で所詮は口約束。今日会ったばかりの君を信じて簡単に決める訳にはいかない。」
そう言ったジルドナは、ポケットからハンカチを取り出してフローレンスに差し出した。フローレンスがおずおずと顔を上げると、ハンカチを差し出すジルドナの真っ黒な瞳が、先ほどとは違った柔らかさを持っていた。お礼を言ってハンカチを受けとったフローレンスは、涙を拭いながらシオンとの生活を話始めた。
だが、この目の前の光景は一体何なんだろう・・・・・・。ルーベルトの二つ上の兄、ジルドナ・スコットは、目の前で、涙を浮かべながら自分に頭を下げている令嬢の姿に驚いていた。美しい金髪と宝石のような青い瞳のこの少女は、一見すると高圧的で冷たい印象を与えている。実際、彼女に関する噂は酷い物ばかりで、平民育ちで常識のない我儘令嬢だけならまだわかるが、母娘で義理の弟を虐げ、その弟を追い出して侯爵家を奪い取る計画で、現在は婚約者を探しているという凄い話だ。かなりの数の令息と顔合わせしているが、あまりの性格の悪さに中々相手が決まらず焦っている。 と・・・・・。
しかし、実際の少女は、その弟を助ける為に力を貸してくれと、自分の目の前で頭を下げている。
「・・・・・だが、なんで俺なんだ? 今、会ったばかりだろう・・・・・・。」
すると、彼女は頭を下げたまま、地面を見つめ話始める。
「それは、先ほどのあなたのお話で・・・・・。あなたが、弟のルーベルト様を大切に思っていらっしゃる優しい方だと気付きました。悪い私から弟さんを護るために、見守ってらした強い責任感にも感銘を受けました。そして、あなたなら、私達を助けてくれるのではないかと考えました。私の力では、もう弟のシオンを助けることが難しくなっています。どうか、先ほどの私の話を早急に考えてはいただけませんか?決してあなたが不利益をこうむるようなことは致しません。ちゃんと時が来れば私が悪いと言う理由を作ってこの話を無効にします。弟が当主になれば、きっとあなたのお役にも立つことでしょう。」
「しかし・・・・・・、君は侯爵家を―――――」
「継ぎたくありません! あの家の嫡男は弟のシオンです。 あなたと婚約すれば、もしかしたら私の母も諦めて、侯爵家を私に継がせようなどと馬鹿な考えを改めてくれるかもしれません。決して多くは求めません。あなたの無理のない程度でかまいません。私達姉弟をどうか助けてください・・・・。」
(聞いていた話と随分違う・・・。弟から侯爵家を奪うどころか、弟を当主にするために動いていたのか?だから・・・。)
「だから、婿に入る資格のある者に対して、ずっと酷い態度を取り続けていたのか?」
ずっと下を向いたままの彼女が、黙って頷いた。
ルーベルトと二人で居た時も、何か変だと思っていた。鋭い目つきで、まるで値踏みでもするかのように、上から下まで睨みつけてはいたが、結局彼女は弟に何も言わなかった。ただ、目で威圧していただけ・・・・・。ルーベルトは、勝手に委縮して逃げ出したのだ。 そして、傷つけたくないと呟いた。
「・・・具体的に、俺が出来る事とは?」
フローレンスは、ずっと下げていた頭を上げると、訝し気な表情のジルドナをそっと見上げた。そして、大きく息を一つ吸うと、助けてほしい内容を簡単に説明した。
「私は、好きで好きでたまらない婚約者様にプレゼントするという名目で、弟の洋服や靴を買います。その度に両親を騙すことになるので、その時に名前を貸してください。たまに両親に会った時などは話を合わせていただけると助かります。それと、時間のある時でかまいません、我が家にきて勉強を教えていただけませんか?もちろん、私にではなくシオンにです。弟はとても優秀なのですが、家庭教師に見ていただいているのは私だけで、シオンには毎晩、私がその日習った勉強を教えていました。ですが、情けないことに今の私では、シオンに勉強を教えるには力不足でして・・・。残念ながら役に立てていないのが現実です・・・。
あと・・・、お恥ずかしい話なのですが・・・、手土産に何かお腹が膨れるものをいただけると・・・嬉しいといいますか・・・その・・・。」
「なっ!? えっ? ちょっと待ってくれ! いやいやいや、ないだろう!勉強はともかく、靴とか服とか食べ物って・・・。野良犬じゃないんだから・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
ジルドナの言葉に黙って俯いてしまったフローレンスは、自分で言っておきながらも、恥ずかしさや情けなさに加え、野良犬に例えられたシオンのことを思うと悔しさが溢れた。唇を強く噛んで涙を堪えていたが、理不尽な境遇にも関わらず、こんな自分に向けて優しく笑う可哀想な弟を思い出すと、我慢しきれない涙が次々に零れて地面へ落ちて行った。
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そう言ったジルドナは、ポケットからハンカチを取り出してフローレンスに差し出した。フローレンスがおずおずと顔を上げると、ハンカチを差し出すジルドナの真っ黒な瞳が、先ほどとは違った柔らかさを持っていた。お礼を言ってハンカチを受けとったフローレンスは、涙を拭いながらシオンとの生活を話始めた。
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