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ジョナスの目覚め
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医師らが帰ってからもヤソックはジョナスと同じベッドで過ごした。
見知らぬ部屋でジョナスが目覚めた時に不安にさせたくないし、今は側にいてあげたいんだ。今までいいだけくっ付いていたんだし今さらだよ。どうせ自分も寝たきりなんだし・・・。
などと言って、ヤソックが父親や執事の説得に応じることはなった。
「ねえ、ジョナス。このままずっと眠ったままでもいいんだよ。そうすればずっと一緒にいられるしね」
そこには、愛おしげにジョナスの頬を撫でるヤソックがいた。きめ細かなジョナスの肌をスリスリと撫でながらその指を彼女の唇に持って行く。フニフニと唇の感触を楽しみながらヤソックは呟いた。
「もうあんな奴忘れなよ。あいつはただの浮気者だろ?あいつなんかより俺の方がジョナスを愛してるんだよ。ずっとずっと君が好きだった。ねえジョナス、俺を好きになって。俺なら絶対に君を悲しませるようなことはしないよ。誰よりも何よりも君を一番大切にするって約束する。だからジョナス、お願いだよ・・・俺のものになって」
穏やかに眠るジョナスの横顔を見ながらヤソックも重い瞼を閉じた。体は離れてしまったけれど、ヤソックは彼女の手を離さなかった。
これ以上仕事を放置できないと言ってドノワーズ侯爵が一人で領地に帰る頃、ヤソックもようやくベッドから起き上がれるようになった。
未だふらつきはするが日常生活に支障のない程度には回復していた。
ジョナスの目覚めも丁度その頃であった。
「ええと・・・ごめんなさい。あのぉ、あなたのお名前がわからなくって・・・。ええと、魔力制御の特別授業に一緒に参加した人よね?・・・風魔法の」
ジョナスの手を握り締めて嬉しそうに微笑むヤソックの顔が固まった瞬間だった。
ヤソックが目覚めた時と同じように、声が出ないジョナスをヤソックは抱き起こした。どうにか水を飲ませたのだが、彼女のかすれた声にいくら耳を澄ましたところでなぜか二人の会話はかみ合わなかった。
「ジョナス、なんでそんなこと・・・ヤソックだよ、ほら第二騎士団で魔法使いは君と僕の二人だったでしょう!? ワイバーンとの戦闘で君と僕はもう少しで死ぬところ・・・ってジョナス? なんでそんな顔して・・・もしかして本当に僕が分からないの?」
(ええと・・・この人は何を言ってるのかしら。ワイバーンとか・・・なにそれ、ありえないんだけど)
ヤソックの話に耳を傾けつつもジョナスの瞳は訝しげに細まり、眉間の皺がどんどん険しくなっていく。
一方、そんなジョナスの視線にヤソックは傷ついた様子で呆然としている。
「あの・・・騎士団とか・・・意味が分からないんですけど。そもそも学生が騎士団って、なに言って―――」
「ちょっと待って、学生って・・・ジョナス、さっきから変だよ、もしかして君は本当に何も覚えてないの!?」
ヤソックは、眉を下げて困ったように首を傾げるジョナスを信じられない思いで見ていたが、彼女の記憶がおかしくなっていると確信すると、人を呼んでくるから絶対に動いてはいけないと言い聞かせて部屋を出て行った。
―――が、
なぜか数秒も経たないうちに彼は澄ました顔でジョナスの元に戻って来た。そして、ベッドの横に立つと未だ力の入らないジョナスの手を取って両手で優しく包み込んだ。
何事かと目をぱちくりさせているジョナスをヤソックは熱っぽく見つめている。
「これはとても大切なことだから初めに言っておくね。ジョナス、僕の名前はヤソック・ドノワーズ。 僕は君の恋人だよ」
そう言ったヤソックは、包み込んだ彼女の手に自分の顔を近づけると、まるで大切な宝物を扱うように自分の頬に押し当てた。その流れるような仕草とは裏腹になぜか彼の顔は真っ赤に染まっている。目を丸くしたジョナスは呆気にとられたようにポカンと口を開けて固まってしまった。
真っ赤な顔のヤソックが恥ずかしそうに片手で口元を覆い逃げるように部屋を出て行くと、部屋の中はしんと静まり返った。
頭を動かすこともできないジョナスだが、とりあえず目で見える範囲だけでも観察してみることにした。
男爵家である我が家とは違って随分と立派な部屋であることに改めて気が付く。ここが先ほどの彼のお屋敷なのだろうと予想できるものの、自分がなぜここで寝ているのかはさっぱり見当がつかない。しかも彼は部屋を出て行く前に、なにやらあり得ないことを言っていたような気もする。
なぜこのような立派な部屋で寝ているのか・・・ジョナスは記憶を遡る。
(ええと・・・髪型とか雰囲気とか少し記憶とは違うけど、彼は特別授業で一緒になった人で間違いないわよね。で?・・・私はなぜここにいるの?学園の寮が私の部屋でしょう。体が動かないってことは事故にでもあった?馬車・・・は、ないか。じゃあやっぱり魔法で何かやらかした・・・)
きっとそれで動けなくなるほどの怪我を負ったのだろう。ならば自分の周りにいた人達への被害はこんなものではないはずだ。もしかしたら人の命を奪った可能性もある。
(え・・・そんな・・・嘘でしょう?)
がばっと起き上がったつもりであったが、実際は指先が少し動いただけのジョナスだった。
見知らぬ部屋でジョナスが目覚めた時に不安にさせたくないし、今は側にいてあげたいんだ。今までいいだけくっ付いていたんだし今さらだよ。どうせ自分も寝たきりなんだし・・・。
などと言って、ヤソックが父親や執事の説得に応じることはなった。
「ねえ、ジョナス。このままずっと眠ったままでもいいんだよ。そうすればずっと一緒にいられるしね」
そこには、愛おしげにジョナスの頬を撫でるヤソックがいた。きめ細かなジョナスの肌をスリスリと撫でながらその指を彼女の唇に持って行く。フニフニと唇の感触を楽しみながらヤソックは呟いた。
「もうあんな奴忘れなよ。あいつはただの浮気者だろ?あいつなんかより俺の方がジョナスを愛してるんだよ。ずっとずっと君が好きだった。ねえジョナス、俺を好きになって。俺なら絶対に君を悲しませるようなことはしないよ。誰よりも何よりも君を一番大切にするって約束する。だからジョナス、お願いだよ・・・俺のものになって」
穏やかに眠るジョナスの横顔を見ながらヤソックも重い瞼を閉じた。体は離れてしまったけれど、ヤソックは彼女の手を離さなかった。
これ以上仕事を放置できないと言ってドノワーズ侯爵が一人で領地に帰る頃、ヤソックもようやくベッドから起き上がれるようになった。
未だふらつきはするが日常生活に支障のない程度には回復していた。
ジョナスの目覚めも丁度その頃であった。
「ええと・・・ごめんなさい。あのぉ、あなたのお名前がわからなくって・・・。ええと、魔力制御の特別授業に一緒に参加した人よね?・・・風魔法の」
ジョナスの手を握り締めて嬉しそうに微笑むヤソックの顔が固まった瞬間だった。
ヤソックが目覚めた時と同じように、声が出ないジョナスをヤソックは抱き起こした。どうにか水を飲ませたのだが、彼女のかすれた声にいくら耳を澄ましたところでなぜか二人の会話はかみ合わなかった。
「ジョナス、なんでそんなこと・・・ヤソックだよ、ほら第二騎士団で魔法使いは君と僕の二人だったでしょう!? ワイバーンとの戦闘で君と僕はもう少しで死ぬところ・・・ってジョナス? なんでそんな顔して・・・もしかして本当に僕が分からないの?」
(ええと・・・この人は何を言ってるのかしら。ワイバーンとか・・・なにそれ、ありえないんだけど)
ヤソックの話に耳を傾けつつもジョナスの瞳は訝しげに細まり、眉間の皺がどんどん険しくなっていく。
一方、そんなジョナスの視線にヤソックは傷ついた様子で呆然としている。
「あの・・・騎士団とか・・・意味が分からないんですけど。そもそも学生が騎士団って、なに言って―――」
「ちょっと待って、学生って・・・ジョナス、さっきから変だよ、もしかして君は本当に何も覚えてないの!?」
ヤソックは、眉を下げて困ったように首を傾げるジョナスを信じられない思いで見ていたが、彼女の記憶がおかしくなっていると確信すると、人を呼んでくるから絶対に動いてはいけないと言い聞かせて部屋を出て行った。
―――が、
なぜか数秒も経たないうちに彼は澄ました顔でジョナスの元に戻って来た。そして、ベッドの横に立つと未だ力の入らないジョナスの手を取って両手で優しく包み込んだ。
何事かと目をぱちくりさせているジョナスをヤソックは熱っぽく見つめている。
「これはとても大切なことだから初めに言っておくね。ジョナス、僕の名前はヤソック・ドノワーズ。 僕は君の恋人だよ」
そう言ったヤソックは、包み込んだ彼女の手に自分の顔を近づけると、まるで大切な宝物を扱うように自分の頬に押し当てた。その流れるような仕草とは裏腹になぜか彼の顔は真っ赤に染まっている。目を丸くしたジョナスは呆気にとられたようにポカンと口を開けて固まってしまった。
真っ赤な顔のヤソックが恥ずかしそうに片手で口元を覆い逃げるように部屋を出て行くと、部屋の中はしんと静まり返った。
頭を動かすこともできないジョナスだが、とりあえず目で見える範囲だけでも観察してみることにした。
男爵家である我が家とは違って随分と立派な部屋であることに改めて気が付く。ここが先ほどの彼のお屋敷なのだろうと予想できるものの、自分がなぜここで寝ているのかはさっぱり見当がつかない。しかも彼は部屋を出て行く前に、なにやらあり得ないことを言っていたような気もする。
なぜこのような立派な部屋で寝ているのか・・・ジョナスは記憶を遡る。
(ええと・・・髪型とか雰囲気とか少し記憶とは違うけど、彼は特別授業で一緒になった人で間違いないわよね。で?・・・私はなぜここにいるの?学園の寮が私の部屋でしょう。体が動かないってことは事故にでもあった?馬車・・・は、ないか。じゃあやっぱり魔法で何かやらかした・・・)
きっとそれで動けなくなるほどの怪我を負ったのだろう。ならば自分の周りにいた人達への被害はこんなものではないはずだ。もしかしたら人の命を奪った可能性もある。
(え・・・そんな・・・嘘でしょう?)
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