影の子より

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 第九章:影の子

 六話 ※R

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 ──ジャックスは再び、自身を押し込んだ。
 肉がずるりと奥へ進み、緩みかけた孔内に、刺激が戻ってくる。ジュノーはたまらず、片膝を曲げた。足裏でジャックスの脛を蹴り、逃れようとした。しかし逆に、脚の間に割り込まれ、乱暴に開かされる。
 深くを突き、味わうような律動が始まる。
「初めてか? ……にしては、具合のいい後孔あなしてるぜ、お前」
「待、ッて……あ、う、動くな、」
「こうやって、抱いたんだろ、女を」
 そこでジャックスは、動きを止めた。顔を寄せ、ささやくように続ける。
「……あのガキの母親は、じゃねえよな。肌見りゃあ判る」
 見開いたジュノーの瞳に、枷でつながれた両手首が映った。抵抗に失敗した腕には、擦り剥いたような痣が、くっきりとつくられていた。幾度も噛み締めた唇の端には、細く血の筋が伝う。
「それでも、父親はお前だろ? 誰の子だ? いつ、?」
 ひた隠しにしてきた記憶が、薬に揺れる脳を掠めた。それを必死に振り払う。決して暴かれてはならないと、心で誓ったのだ。
 人間の弱さがもたらした、過ちのこと。
 その末に産まれ堕ちた、赤子ヨナのこと──
 尋問に応じる気がないと判り、ジャックスは薄ら笑いを浮かべた。半ば強引に、肉を突き刺す。先端が最奥に引っ掛かり、うねる皮膚に絡められ、快楽より苦しさが増す。
「は……まあ、いい。お前が口割らなくても、ガキ責める方が楽だろ」
 揺さぶられながら、ジュノーは顔を伏せた。
「じっくりやるさ、時間はある」
「あの子は知らない……ッ」
 円卓に縋りつき、やっと声を絞り出す。
 ジャックスの腰が止まった。
「あ……あの子の母親は、レニーは……半年ももたなかった。心を病んでいたんだ……自ら、死を選んだ。子の所為じゃない、何も知らないんだ」
 気が触れたのだと、村の誰もが、彼女に背を向けた。味方などいなかった。赤子と弱った母親を、見棄てたのだ──家族までも。
 生き辛かっただろう。祖父の代よりもっと前から、村で産まれ、同じ土地で育ってきたジュノーたちとは異なり、レニーは移民だった。肌は白く、瞳や髪だって、周りには見ない色だ。それでも笑って過ごせたのは、ジュノーの家族が隣にいたから。ジュノーの兄──ヨナがいたから。
 しかし、戦争がそれを奪った。
 ヨナはいなくなった。ジュノーも。心の拠り所は根こそぎ、掻っさらわれたのだ。
 そしてレニーの精神は、徐々に変になった。
 そこへ、都を追われたジュノーが帰ってきたのだ。
「兄とレニーは、結婚するはずだった……彼女も、それを望んでいた」
「へえ。それでお前が、兄ちゃんの代わりに、抱いてやったのか」
「違う──…」
 半ば叫ぶように否定し、ジュノーは激しく首を振った。
「俺は、俺が……間違えたのか? 隣にいてくれって、心が寂しいから一夜だけだと、望みを聞いただけだ……」
 おぞましい記憶。
 あの夜、違和感で眠りから覚めた時──目に入ったのは、レニーが上に乗った光景だった。そこで彼女を止めるべきだった。連日の畑仕事の疲れと、初めて経験する女の身体と快楽が、判断を鈍らせた。訳も分からないうちに、欲望を吐き出した。
 一度の過ち。一度きりの。
 押し寄せる後悔に浸るジュノーに、ジャックスは哀れむような眼差しを向ける。弱みをさらけ出した背は、ひどく痛々しい。その窪みに沿って、開いた指を這わせる。そしてゆっくりと、腰の動きを再開した。
「……ッう、ん」
 苦しげな喘ぎが、耳に吸い込まれる。自身の声だ。ジュノーは鼻から抜ける吐息に、顔が熱くなるのを感じた。
 ジャックスは身を屈め、円卓に爪を立てたジュノーの片手に、自らの手を重ねた。つながりが深くなると、そこに生じる快楽は増す。それを貪る動きに、円卓もがたがたと音を鳴らす。
 ジュノーは一度果てたが、熱は収まらなかった。再び絡め取られ、びくりと震える。
「……気持ちいいか?」
「嫌、だ……ああ」
「答えろ。いいのか」
「……く、苦し、い……ッ」
 絞り出す返答に、ジャックスは笑った。
「そうか。……オレは、いいよ。同じさ、のお前と」
 否応なく叩き付けられる言葉に、ジュノーの瞳はぐらりと揺れた。
 これは、罰か──
「それで、お前はどうしたんだ、この後」
「何を……く」
「最後。どうした? 女の中に挿れて、で?」
 ジャックスの呼吸が荒くなる。肌には、汗が小さな粒になって浮かぶ。
 背後から執拗に責められ、ジュノーは必死に耐えた。そして、問われた意味を悟り、全身を強張らせる。
「や、やめ……ッ」
「く──…」
 呻き声の直後、ジャックスの下半身が跳ねる。奥で吐き出した。
「は……ああ」
 吐精は思いの外、長く続いた。脈を打つリズムに合わせ、息を継ぐ。
 ジュノーの頭は冷え、代わりに、体内に放出された熱を感じる。最悪の屈辱に、きつく瞼を閉じた。ひどい仕打ちだ──とも思うが、重ねて見えたのは、レニーを抱いた、七年前の自分自身だった。
 余韻を味わったジャックスが、ゆっくりと離れる。
 欲望の白い糸が二人の間をつなぎ、やがて途切れた。
 よろりと力なく起き上がったジュノーに、非情な言葉が掛けられた。
「出しておけよ。うっかり、できちまうぜ」
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