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王都

ご挨拶

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襲撃者が全員捕えられ玄関ホールに集められていた。

「あ…」

水色の綺麗なドレスを着た少女とマリが眠っていた部屋にいたメイドが同時に小さく声を上げた。

タタっとマリに駆け寄ってきた。

「ごきげんよう、マリ様」

「こ、こんにちは……」

ピクリと肩を振るわせボソッと挨拶を言い、ユリウスの後ろに隠れた。

「あら、隠れてしまったわ」

可笑しそうにくすくす笑うご令嬢に顔を半分をユリウスの背から出し様子を伺う。

ユリウスも釣られるようにと笑っているのか少し体が揺れている。

「眠っている間に顔を見られている。今隠れても無駄だろう。俺も隠蔽してない」

後ろ手に背中を摩られて、体の力を抜きそのままユリウスの背に乗る。

「なんだ?甘えん坊」

完全におんぶされている状態になったが構わず肩に顔を押し付けて隠している。

「あらあら、お噂とは少し違って人間味がありますわね」

「おや、彼には懐いているようですね」

「俺もここまで懐かれるとは思わなかったな。努力はしたが」

呆れ顔で答えたユリウスの尖った耳を少し引っ張る。

「おい…」

「それで何か?」

短く抗議するユリウスを無視して令嬢とメイドに視線をとどめる。

「無視か…」

チラリとマリへ視線をやったがユリウスへは視線をやらず、じっと二人を見る。

「…マリ様はご令嬢ですが、戦闘ができるのですね」

「は?」

メイドが感心したように話すが、話す内容に逆の意味で驚いた。

「あなた何を言っているの?」

隣にいたこの家の令嬢も驚いた顔をしてメイドを見ている。

「え?え?……え?」

訳もらわらず、マリとユリウス、令嬢をそれぞれキョロキョロと視線を動かすメイド。

「あ~……はあぁ~」

なんとなく察したマリは大きなため息をついた。

「勘違いされてるなぁ、わたしは……」

「彼女は主人が招待した冒険者ですのよ。エインズワース公爵家の隠された娘でもないですわ」

訂正をしようとすれば別方向から声が聞こえた。

凛とした声の主を探すように視線を動かせば紫のドレスを見にまとった先ほどの貴婦人が立っていた。

襲撃された名残か声とは裏腹に顔色は悪い。

「御機嫌よう。冒険者マリさん。先程の物言いをお許しくいまし、勘違いさせるような説明をしたのも事実ですわ。大方主人の隠し子だと思ったのでしょう。あなたの身のうちはある程度私たちは把握しておりますわ」

「いえ、大丈夫です。父も母も等の昔に虹の向こうにいます。奥方におかれましては不愉快にさせてしまい申し訳ございません」

失礼にならないように、言葉を並べ頭を下げるマリに手にしていた扇子で口元を覆い驚いている貴婦人。

「わたくしとしたことが名乗っていなかったですわね。エインズワース公爵家の当主の妻のフランソワですわ。以後お見知り置きくださいな。そしてこちらが娘のアリアーナですわ」

「どうぞ、よろしくお願いしましますわ。マリさん、先程はわたくしや母、使用人を守る結界を張って守り、病み上がりにもかかわらず兄率いる私営騎士団の面々と共に戦ってくれたことを感謝いたします」

「ご存知でしょうが改めて、冒険者マリです」

三名ともお互いにお辞儀やカーテシーをする。

オロオロと異の発端を作った人物は俯いて、今にも泣きそうなっている。

「あの、マリです。私のことを心配してくれていたのですよね?今まで満足に挨拶も何もできなくて申し訳なかったです。わたしはこれでもDランク冒険者なのでご心配には及びません。こちらに滞在の間よろしくお願いします」

ハッとし、顔を上げたメイドのシトロンのような瞳に薄い膜が張っていて、瞬きをすれば流れてしまうほどに。

「モニカです。とんだ勘違いを!」

「他人から聞くのと本人から聞くのと理解や解釈が違ってくるのは当然です。そこを責めるつもりもありません。私が本当に理解して欲しいのは公爵家の子供ではないことははっきりとここで宣言しますから、普通の接し方でいいです」

「はい、私てっきりずっと離れて暮らしていてようやく会えた家族だと思っていて、説明があった日私は非番だったものできちんと伝達が出にきさておらず申し訳ありません。マリ様がご滞在の間身の回りのことを仰せつかっておりますので何なりと」

とりあえず、愛人の子などおかしな方向へ行かなくてよくなりほっとしたマリだが、チラリと天井へ視線を投げため息をひとつ落として、不思議そうに思う三人。後ろにいるユリウスだけが、その意味を理解し苦笑していた。
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