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王都

裏切らない

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日差しが鞠の顔を照らして、瞼から伝わる眩しさで目が覚めた。

森で襲撃されユリウスと合流ができ、薬を飲まされ首を圧迫された。

「首っ」

飛び起きたマリはすぐさま近くにある姿鏡で、自分の首元を見てサワサワと撫でる。
そこには手で圧迫され鬱血した後も何の痕跡もなかった。

コンコンっ

扉がノックされ静かに開くと同居人ユリウスが姿を見せた。

「何のよう?」

アイテムスペースから普段使わない短剣を取り出し構えた。

「やっぱり起きてた。当然の反応だよな」

納得した表情で両手首のボタンと首元のボタン、ズボンから裾を出して何も武器も持っていないし無害だということをこの国の最大の示し方をした。

「何もしないから話をしないか」

「……武器を持っていなくとも危害は加えられるわ。腕があれば」

マリの言葉に首をすくめ、やれやれと首を振った。

「俺はお前の奴隷。本当の意味で主人を危害を加えることができないの忘れたか。あれは殺そうとしてない」

殺そうとしていれば、人権の保証がされているとはいえ法律違反でピアスに施されている魔法でユリウスは木っ端微塵に消えている。

聞いているということはそういうことだ。

ゆっくり短剣を、下ろすとユリウスは笑みを浮かべた。

「信じてくれてありがとう。スズキマリさん」

「っ!?」

この世界では呼ばれることのない前世の苗字を含めて名前を呼ばれピクリと体大きく跳ねる。
マリの反応に楽しそうにクツクツと笑うユリウスは腕を広げマリに近づき、腕の中に閉じ込めた。

「大丈夫、誰も言わない。お前がこの世界へと転生させられた人間だということは。女神とそう約束してる」

ユリウスの腕の中でまたピクリと震えたマリを落ち着かせるように頭をゆっくり撫でる。

「いきなり貴方は死にました。だから転生させますって言われた君は怒るでもなきもせず淡々と受け入れた君のために能力を上げたがそれが裏目に出てしまって何とかしようと元協会系列の孤児院出身の俺の夢に現れて、教えたくれた。マリをお願いしますってな」

知っている理由を答えるユリウスを見上げる。視線に気づき、笑みを浮かべる。

「初めはどうだっていいって思った。でも、初めてぶつかった時、何とかしないとって思った。女神が何か操作したかもしれないけど」

だから、俺は裏切ることはないと、俺を信じろと強く抱きしめた。

込み上げてくる涙を隠すために肩に顔を埋めるとそっと頭に手が乗り少し抑えられた。

「隠し事があって頼れないときは俺を頼れ、お前は一人じゃないネェージュも俺もそばにいる。一人で抱え込むな」

「ユリウスさん…あの…」

「ん?」

いつもと違う冷たい感じの表情とは違い柔らかい表情でマリを見ていた。マリの中に何処かにあった、孤独が絶対に一人じゃなきゃいけないというものが少し解けた。一人を基本好んでいても、人恋しい時も甘えたい時も人間である限りある。

「ギュッてしてくだい」

「ああっ」

トクトクとユリウスの胸かれ心臓の音が聞こえる。その音がマリの体に溶け込むように静かに伝えて、体から力が抜けていく。
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