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蠢く影

襲撃者

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意識を無くしたマリを木の根っこに横にさせ、着ていたマントを脱ぎ包む様に掛けた。

マリの首に手をやり光魔法で手の跡を癒した。

「すまない。文句は受け付ける。今はここで大人しくしてくれ」

静かに呟き、立ち上がるマリの周りに結界用の石を三角に囲み被害が行かないようにする。
結界がきちんと作用しているか確認を済ますと手首を曲げ出てスッと短剣を手に持つ。

「出てこい。ウェルズ」

「おやぁ?バレていましたか」

名前を呼べば二つ木を離れた場所から姿を表した。

「お前がマリへの調査と必要なら死または冒険者としての実力を阻害する様に依頼されていた様だからな」

「誰から聞いたですかぁ?そぉれぇ」

「俺とお前が所属しているギルド。規模も違えば抱えている情報屋の質も同業者の質も違う。甘くみられたものだな」

ウェルズと呼ばれた男は優秀で王都の2番目に権力を持っている男に雇われた暗殺者であり諜報員イヌだ。所属しているギルドは違えど顔を合わせることも何度かあり敵対することもある。

ただ、彼が所属しているギルドを宰相が贔屓にしているのは王家が贔屓にしているギルドでもあり、信頼も厚い。

ユリウスのギルドも王族から受けることもあるが、そこら辺は長年の付き合いということだろう。
昔は彼がいるが一番強かったことがあると噂程度には聞いている。

「でぇすよねぇー?でぇもぉ……貴方ほどの実力者がぁ、簡単に国の騎士団に捕まるなんてぇおかしいですよねぇ?なんだって彼女に何があるんですかぁ?」

少し変わった間伸びする口調は語尾が長くなるマリの口調とは違い小馬鹿にした様な印象を受けユリウスを苛立たせた。

「うるさい、お前がこの任務に失敗すればしばらくはお前の雇い主も大人しくするだろう」

「まぁ、第四王子のお気に入りでぇ雇い主さいしょうの坊ちゃんにぃ、辺境伯までもが一目置く冒険者ぁ、下手に手を出したら、僕の依頼主がぁ立場悪くしちゃうとぉお金もらえなくなるしぃ?あとぉユリウス、貴方を敵に回せば僕の命が消える」

大袈裟なほどに肩をすくませ首を振り降参ともいうように手を上げた。
一癖も二癖もあるウェルズのエメラルドに近い瞳が月の光を受け怪しく輝いた。

バサバサと風に乗り衣服やユリウスの髪、そして左側が顔のラインより少し長く右側が耳が少し隠れるぐらいの何処にでもいる茶髪が揺れる。

「ホォ」

マリの従魔のホワーフォオウルの羽ばたき木の枝に着地する音も風に紛れて暗殺者二人の耳に聞こえる。

「どうやったらレアな魔物と契約できるんですかねぇー」

「さあな?あれもお前たちにはやらない」

「奪う気なんて無いですよぉ奪ったら彼女に氷漬けにされて粉砕ぃそんなのいーやぁ」

へらっと笑って見せたウィルズの顔目がけてユリウスの短剣が飛んでいき、頬に一筋傷をつけ血を流す。

「痛ったいなぁもう。大事なマリさんを傷つけたのはぁ悪かったよぉー。大事ならきちんと守ってやんないとだめですよぉ?僕みたいな変な変人がぁ興味持ってぇ汚しちゃいたいって寄って来ちゃいますからねぇ。番犬はぁ、きちんとぉ、ご主人様をみてなきゃあ」

マリは人との関わりを最低限で周りに長くいるのを嫌に思うらしい。長くいても5分から10分が限界で、一人になるために何処か行ってしまう。

大勢が集まる場所は、分別があるらしく長く滞在するが比較的人のいない場所にいる。

そんな彼女を気配察知に引っかからずに見守り、なおかつ自分の生活費を稼がなければならない。近場で深夜に行えるものを選び、日数を必要とするなら何らかの対策が必要。

今回の様な夜間の仕事が被れば早く終わらせ、迎えに行く。

自分達の様な職業の人間は夜が水を得た魚の様に活発で危険だ。チャンスとばかりに牙を剥く。ウェルズの様に。

「今回はやられたが次はない」

「おおぉ怖いなぁ。そんな似殺気だしているとお姫様が起きちゃいますよぉ暗殺者ナイト様?」

いつの間にか手の中にあった投擲用の小さい短剣が一度目とは違う方向の頬を目がけて木に刺さり亀裂を入れた。

「なら、依頼主の元へ帰ってこの俺がそばにいることを伝えて、ちょっかいをやめさせろ…でなければ、俺が直々にその命終わらせに行こう」

「はぁいはぁい、わかりましたってぇユリウスさんの名前は恐怖の象徴。狙った相手は必ず仕留める。狙われた人で生きてるのは第四王子様だけですし、敵に回したくないだろうからぁ大人しくなると思うしぃ貴方がそばにいるっねぇ情報流しておくのでぇ、他の馬鹿もぉ大人しくなりますからぁ黒い臭いお仕事もぉこなしやすくなってぇマリさんのストレスがなくなるとぉ思うのでぇ安心してくださぁい」

一度口を開くと一言分の量が多いウェルズと話すとなかなか時間が食う。あまりこの場に止まれば魔物が人の気配と匂いで集まってしまう。

話は終わりだと区切りをつけたユリウスは話は終わりだという様にウェルズに背を向けた。

「人間嫌いのユリウスさんが、一人の女を見てるとは人生何があるかわかりませんねぇ。っと…そんなに睨まないでぇくださぁい。森一緒に抜けましょうよぉ。腕が立つとはいえ、意識ない人を抱えてここを抜けるのは無謀だ」

片目を瞑ったウェルズはおちゃらけた様に舌をちょろりと見せた。

「……好きにしろ妙なことをすれば殺す」

うんうんと頷いたウェルズはひょいひょいと木の上に上がり短剣を手にし先に進み、ユリウスもマリを背に抱え同じように木と木の間を飛んで行き、北の森から姿を消した。

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