サモナーって不遇職らしいね

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召喚と宿

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リアスと呼ばれていた幼女は母親と一緒にこの公園で簡単な無属性魔法の練習をしていたようだ。

この世界には魔物もいるという事で子供の頃から魔法を学ぶのが当たり前な雰囲気に戸惑った。

(まぁ羨ましいぐらいだな)

「けれどその練習はあまり上手くいってないと」

「うん! お兄さんの光属性って凄いキラキラしててかっこいい魔法だね! 私、無属性って地味で嫌! もう少し大人になって属性が増えたら火属性とかになりたいと思ってた。でもお兄さんを見て光属性も良いなって! 教会に毎日お祈りしたら光属性になれるかな?」

何しろ今の彼女の属性適正は無属性しかないらしく、それは彼女曰くあまり楽しくないものでヤキモキしていたようだ。
無属性は身体強化が主な魔法であって俺がさっきやったみたいな魔法でさえまだまだ習得できないらしい。

彼女はどうやら魔法に憧れているようだ。
俺もその気持ちはわかる。
もし召喚属性がなかったらキャラメイクの6ポイントは火水土風闇光の属性に入れて大魔法使いを目指していただろう。

「一応無属性も魔法なんだろうけど」

魔法のない世界で生まれ育った俺としては親と一緒に無属性といえど魔法の練習なんて羨ましい限りである。

「地味で嫌!」

確か無属性は他の属性に対する耐性を高めるけれど自分の属性攻撃も弱くなるというものだった。
他属性を必要とする召喚だって無属性は使えないし、無属性は近接職向けの属性だ。
プレイヤーと違ってNPCはキャラメイクが出来るわけじゃないからこういう事もあるわけだな。

さて、今の俺は堕天使ネクアムだ。
なんて答えようか。
そしてネクアムの一人称はどうしようかな……ひとまず『俺』でコロコロ変えようかな。
光と闇のせいで一人称がコロコロ変わる不安定さがあるというキャラ設定で行こう。
キャラメイクの時みたいに自然とゲームが進めば固まるだろ。

「俺は生まれながらに光属性の適性があったからどうやったら光属性になれるかはわからない」

天使であったネクアムは生まれた頃から光魔法が使えたのだ。

「そうなんだ……」

「これを言っても仕方ないかもしれないけど、無属性もかっこいいと思う。練習すれば非力な私なんかすぐ倒せてしまうさ」

Lv1のプレイヤーはゴブリンにも勝てなさそうなので、きっと魔法を使う子供にも勝てないだろうと思ったのだ……リアスちゃん、ゴブリンと比べてごめんよ。

「嘘だ~」

「なら試してみる?」


なんて話してると流石に母親が口を出してきた。

「こらリアス。すいませんね。うちの子が」

流石に俺みたいな怪しいお兄さんが『試してみる?』とか事案だったか……。

「おっと、すみません。迷惑でしたか。えっと、俺の名前はネクアムです。あなたの名前は?」

「私はエアリスと言います、それでこの子が」

「私はリアス!」

うん、それはさっきエアリスさんが呼んでたので知ってた。

「うちの子は元気が良すぎて、困った物です」

「良い事だと思います」

子供は元気が一番だな。

「ありがとうございます。そうだ、よければ一緒に魔法の練習でもしてみませんか?」

そんな事をエアリスさんは優しく言うのだった。

俺は驚いた。

「初歩的なボール魔法を本と睨めっこして発動していたなんて、子供が習うようなことをしていたし、見た目も白と黒のオッドアイだし怪しいことこの上ないのに……どうして」

あっ、人と話すのに緊張していたこともあって思った事を全部喋ってしまった。

「……いや、ネクアムさんは、異界より来られた勇者候補の方ですよね?」

なんてリアスちゃんの母親であるエアリスさんにそう言い返された。

勇者候補、どうやらこの世界の人間は全員が知っている事として女神様が勇者の候補を召喚したことになってるらしい。
勇者候補は異界から来ている光にも闇にもなりうる危うい存在なので見かけたらなるべく力になり、闇の存在になるような事がないようにするべしという扱いにこの国ではなっているらしい。

その光とか闇とは具体的に一体……と尋ねると大体女神様と同じ答えが返ってきた。

「光は光で闇は闇ですよ。この世界に益となるか害になるかという事でしょうかね」

何がこの世界の為になるかそれは難しい問題のように思える。
単純に光と闇となんて分ける事は出来ないと思えてならないが、それはここで言うことではないのだろう。

さらに話してみるといろいろなことがわかった。
ここはゲモニー王国という国の一都市でクスデイという都市らしい。
このゲモニー王国はこの公園からの景色からもわかる通り豊かであり、さらには召喚についても異端とは言われてないようで安心した。

あと、とりあえず善でも悪でもない勇者の卵……つまりこの世界に詳しくない普通の人達がやってくるよ~みたいな感じがプレイヤーに対するNPCの一般的な認識のようだ。

さて、いろいろな事がわかった。
そうとわかればせっかくだし一緒に練習させてもらう事にしよう。

「えー! もう無属性の練習は飽きたよ~」

「リアス、属性の練習は大事な事ですよ。もしもの時に逃げられるようになっておかないとね」

「ちなみに練習って何をするんです?」

「あぁ、だだの魔法を使った鬼ごっこですよ。リアスは私と鬼ごっこするのに飽きてしまったようですから、その相手になってもらえないかと、どうですか?」

鬼ごっことな。
だったらこんな怪しいお兄さんじゃなくて良いのがあるだろう。

「それなら良い相手を用意できると思います。自分にもいい練習になるでしょうし」

そう言って俺は召喚属性1の本を取り出した。
それぞれの魔法の設定を読まずに魔法を覚えるだけならすぐ終わる。
召喚属性1の魔法は『サモン:スモールアニマル』だ。
名前の通り小動物を召喚する魔法だった。
どんな小動物になるかは主に使う属性によるらしい。

今回もミニゲームは詠唱で良いだろう。

「我は聖なる小動物という肉体を求める。異界の魂よ、次元を超えて我が眷属に降れ『サモン:スモールアニマル』」

手を向けた先に紫色の丸い靄が出来た。
さらに靄の中に白くて丸い水面が見える。

(これは次元を超える門とでも言えば良いのかな?)

その白い丸い門から白いウサギが出てきた。

ー『サモン:ホーリーラビット』を習得しましたー
ー『ホーリーラビット』を使役しましたー

消費したMPはライトボールよりも少なかった。

「わぁ! 白いウサギさんだ!」

「さぁ無属性魔法を使って、この子と追いかけっこをすると良いよ。捕まえられるかな?」

ホーリーラビットにこの近くでリアスちゃんから全力で逃げるように指示を出した。

リアスちゃんはしばらく目をつぶって集中するとその体がほのかに光った。

「『身体強化』よしっ、ってまってー!」

リアスちゃんの属性は無属性1らしい。
無属性1の能力は単純な身体強化。
体をマナで光らせながらリアスはホーリーラビットを追いかけている。
あんなに早く走ったらすぐに息が切れそうなものだが全く疲れを見せずに追いかけていた。

逃げるホーリーラビットも思ったよりすばしっこいな。
これなら十分戦闘に使えそうだな。

「成功したようで良かった」

思わずそう呟いた。

「ネクアムさんはサモナーでしたか、だから先程召喚について……いえ、ありがとうございます。これでいい練習になります。リアスったら、あんなに集中して……」

「いえいえ、自分もいい練習になりました」

成長につれてNPCも属性を得るらしいが、プレイヤーと違って自分で選ぶことはできない。
プレイヤーはシステムメニューでステータスを見れるが、NPCはシステムメニューを使えないからだ。
リアスという少女が無属性で魔法への夢を叶えられるといいが、そう似たような召喚属性への夢を抱く堕天使ネクアムは思うのだった……。

なんて思いながら、さらに試しとばかりに何匹まで召喚できるかやってみる。

追加で2匹までホーリーラビットを召喚する事が出来た。
それ以上は紫色のモヤモヤしたものも出ない。
今のところ計3匹が召喚できる上限のようだ。

(ぐぬぬ)

これは召喚属性の数値が上限という事だろう。
闇や付与の属性の召喚は別枠だろうか。
そもそも闇はともかく付与の属性なんかではちゃんとした肉体の代わりとしてのマナになるかは怪しいような……。

うむ、色々試したい事があるな。
などと考えつつも視線は再度エアリスさんへ。

「あ、良ければその無属性1の本、読ませてもらえませんか」

「いいですよ」

エアリスさんがリアスと読む為に持っていたという無属性1の本を読ませてもらった。

内容は召喚ほど硬派には書かれておらず体の内のマナで肉体をひたすら強化するというシンプルな内容だった。
召喚の本に書かれていた事から察するに、無属性とは体の内にあるマナそのものを使うようだ。
属性変換を行わずに可能性の海から内なる現実ともいうものを引き出す属性なのだろう。
それ故に外なる現実を扱うらしい他属性による攻撃などを扱いづらくなるようだ。
個人の体の内の純粋なマナを用いる関係で他者の仮初の肉体などにもする事が出来ず召喚にも使えないが他者からの魔法に強くなる属性ということだな。
効果は身体能力の向上や自己回復、状態異常に対する耐性などに特化している。
まさに近接系のロールプレイ向けの属性だな。

「随分、熱心に読まれるのですね」

「ええ、まぁこの世界の事を知りませんし、あと召喚に無属性が使えないらしいのも気になってたんです。ありがとうございます」

「そうですか」

「やった、捕まえた!!」

ホーリーラビットを鷲掴みにして元気に笑うリアスの姿があった。

魔法の練習やホーリーラビットをリアスが十分堪能し終わった事で、別れの時間になった。 

NPCとの交流を終えて、なかなか俺としてはうまく会話出来た事に我ながら達成感を覚える。
まだ堕天使ネクアムがどんなやつかそこまでしっかり決めてないけど、やっぱりロールプレイしてると話しやすいな。

そしてシステムメッセージに気付く。

ークエスト達成判定。Lv5に上がりました。能力ポイント5、属性適正ポイント5が残っています。ー

自由なこの世界での行動はAIによって判定され評価を受ける……モンスターを倒すだけが経験値を得る方法ではないと言う事だ。
今までのやりとりはクエストの達成をしたという判定を受けたらしい。
結構長く交流をしていたがそれだけでレベル5か……まぁMMORPGの序盤のレベルは上がりやすいものだもんな。
ポイントが4だと思っていたがキリの良いポイントをもらえたのは嬉しいな。

同じ時間、モンスターを狩っていたら経験値だけでなく装備や素材なんかを手に入れられてたのだろうか。

関係ないな、楽しくのんびり行くとしよう。
さて次は闇属性1の本を読むか。

属性を伸ばすのは今ある本を読み終えてからだな~。
でも伸ばしたとしてその分の本とかはどこで手に入るんだろ。
それに追加で5冊読書する事になるな。

(楽しみだな)

なんて考えていたが、流石にそろそろ日も落ちそうな時間である。
いくらここが自由な世界といっても俺はこれからファンタジー世界を冒険する者である。
冒険者ギルドに行き、冒険者登録をして、今日の宿屋なんかを見つけなければいけないだろう。

あの親子に冒険者ギルドの場所を聞いておくんだったな。

最低でも宿屋の確保はしたいところだ。
俺は公園を出てこのクスデイの都市を歩く事にした。
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