魔導人形と侵略者と救世主

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クリス・フォロスとして目覚める

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「私の世界を救ってください」

どこかでそんな声が聞こえた気がした。

「クリス! 3歳の誕生日おめでとう!」

遠くの席に座っている男性がそう叫んだ。

ロボット物の夢から覚めた私が気づけば……私は3歳児になっていた。

私は死んだはず。
仕事でクタクタになって帰宅途中にトラックに轢かれて死んだはずだ。
幸い苦しんだ記憶はない。

私は死後の世界を落ち着いて見回す。

ここは、まるで海外の貴族の屋敷のようだ。
テーブルが長くて、向こうにいる男性が遠い。
上にはシャンデリアが輝いている。

私の近くには女性が座っていた。

遠くの男性も近くの女性もどちらも20代ぐらいの西洋風の顔をした人間に見える。

私は椅子に座らされている。

(これは一体全体どうなってるの! 私は死んで……私は誰? 私は……クリス! 今日は3歳の誕生日?じゃあ日本で暮らしていたのは誰?これは転生だってわかるけど、つまり今私は前世の記憶はあるけど自分が誰だったのか思い出せないってやつ?)

突然の事態に私は少し混乱していた。
前世の自分の顔、名前が思い出せない。
でも今世での3歳までの記憶は鮮明に思い出せる。
私はどうやら前世の記憶基準では発育が遅いらしく今まで喋ってこなかったようだ。

そのおかげで落ち着けはしている。
さらにどうやらここは魔法のある異世界というやつらしい。

私は今まで家から出たことはなく、魔法は親が使っているのを見たことがある。

記憶によればそれはマジシャンとかそんなチャチなもんじゃない。
傷を直したり物を飛ばしたりしている。

「もっと近くによってはダメなのか、クリスティーナ」

「ナゼフ、それはダメよ。貴方の魔力は強すぎるわ。クリスが育つか、貴方がもう少し魔力の制御を鍛えなければね」

「はぁ、私にはそれは難しいがな。だがクリスのためなら励むとしよう!」

そう言うと男は立ち上がり天に拳を掲げた。

すると部屋の照明が点滅し、私の体に悪寒が走った。

「さ、寒い!」

思わず言ってしまった。
自然と出た言語は前世では聞いたこともない言葉だった。

「そ、そうか!すまん」

男は、父は悲しそうに座った。

「ねぇ……貴方、いま」

「あぁ、喋ったな。クリス!もう一度言ってくれ!」

そう怒鳴られた私は父親ナゼフの魔力に当てられ意識を失った。

今までこうして意識を失うことは何度もあったようだ。


目覚めた私は状況を受け入れて、必死に魔法の練習をすることにした。

今世の父ナゼフ・フォロスと近くで話をする為だ。

父はどうやら少々ガサツだが根はいい人のようだ。
母のクリスティーナ・フォロスが父をしっかりと支えている。
良い夫婦に思える。

今の私が目覚めたのは3歳だ。
本来貴族は7歳ぐらいまでは喋れないらしい。
この世界で自我を持つには私は早かった。
それは私の持つ魔力が少ないからだ。

これでは圧倒的な魔力を持つ父の近くには行けない。
その事にこの新しい体が悲しんでいた。
前世の記憶を持ち転生しても肉体につられるらしい。

ちなみにフォロス家はかなりの大貴族のようだ。
1日3食の生活は魔法のある異世界にしては凄く豪華だ。
普通に前世並みかそれ以上である。

さらにちなみに私の顔立ちは北欧系だろうか、私の将来の姿が楽しみである。
前世基準で見れば軽く美少女になるに違いない。

現状を認識して魔力を磨く事にし、それからあっという間に2年の月日が流れた。
私の努力は実を結んだ。
お父様の大きな魔力にも私の力で耐えられるようになったのだ。
結局お父様の魔力の制御はちっとも上手くならなかった。


「クリスは天才かも知れんな」

これが2年間お父様の口癖となっていた。
前世の記憶があるのだから当然ではある。

「魔力制御がここまで上手くなるとは」

私が魔力の塊、それも火の玉や氷の玉や草の玉そういったもの計10個を同時にお手玉のように空中で転がすのをみてお父様はそう言った。

ニヤリとしながら私は嬉しくなった。
だけど気をつけなきゃならない。
私の魔力は他の貴族と比べて少ないから。
前世の記憶によれば異世界は魔力の大きさがかなり大事だという。
もちろん努力でカバーできるだろうけれど……いわゆる現代知識チートもできるだろうけれど。
それに子供の頃天才と呼ばれても良いことは少ない。
慢心ダメ絶対。
まだまだ鍛えなければこの前世のように技術が発展してないだろう世界で地獄を見る事になる。

とは考えるものの私の魔力制御は既に一人前になっていた。
この世界の魔法は魔力のコントロールとイマジネーションで大抵の事はできる。
水の上を走ったり口から火を吐いたり、手から光線を放ったり、見えないバリアを張ったりと色々試した。
とても楽しい。

魔力で作り出すものは魔力で妨害されるからお父様に光線やブレスを撃ちまくっても残念ながら無力化されたのにはショックだった。
負けず嫌いの父はお手玉の最中に50個の魔力の塊を出して私を泣かせたこともある。
今もクリスは天才だなと言いながら私の10倍の魔力の塊を出して平然としている。

「だからお父様のは玉じゃなくてただの塊です」

「だが数では圧倒的に俺が勝っているな」

私も負けじとふぬぅーーと綺麗な球を出すが20個ほどでお手玉が出来なくなった。

悔しい。
私が負けず嫌いなのはお父様譲りだ。

そんな感じでこの世界に転生したことを私はいつのまにか受け入れられるようになった。

怖くてまだこの世界の事をちゃんと知ろうとはしてないけど……。

そんな魔法を極める楽しい日々を過ごしているとお父様が私を外へ連れ出そうとした。

「よし、クリスがこんなに早く成長するとは思わなかったが、ついにこの日が来たな! これで家族一緒にあそこに行けるというものだ」

どこなのだろうか。

魔法の練習ばかりしていた私にとって、はじめての家の外だった。
愚かにも私は魔法ばかり練習してて外の事を調べていなかった。
異世界ファンタジーの貴族令嬢物の未来なんて前途多難だし、考えたくもなかったのだ。

私は恐る恐る家の外に出た。

「どうだ、外の世界は」
父がそう言う。

家は丘の上に立っており玄関から遠くの街並みを見ることが出来た。

(あれ、中世じゃない?)

田園風景とマンション、さらには玄関の前の車が視界に入った。

私は父に何も言えなかった。

そのまま音のしない静かな魔法車とやらに乗り、とても広い庭を抜ければ、前世で見たような一軒家の西洋の家々や高層マンションなどが建っていて、空には車が飛んでいたりする。

(未来だーっ!)

うん、街並みは現代より少し進んでいた。
さらには普通に飛行機らしきものも見えた。
考えてみれば当たり前なのだろうか、魔法があろうがなかろうが生活を便利にしようとするのは人間の性だ。
前世と似たような形になるんだろう。

てっきり中世だと思い込んでいた私はなんだかモヤモヤとした気持ちになった。

「では飛ぶぞ。シートベルトをつけろ」

父がそう言うと、母が私にシートベルトをつけてくれる。

(シートベルトって言いましたよ……)

父が手元のボタンを押すと車が浮かび上がる。
まるで有名映画のワンシーンのようだ。

そこから私のモヤモヤとした気持ちは吹き飛んだ。

高いところから見た景色は絶景だった。
北の方には雪が積もっていた。

「わぁー凄い!凄い! これがお父様の見せたかったものなんですか! 世界はこんなにも進んでいたんですね! 凄い!大きな建物がいっぱいです! あれは雪ですか!」

私のテンションはうなぎ上りだ。
これからこの世界で生きていくのだから。
魔法もあって現代とほとんど変わらなそうな街並み!

「2年も家に閉じこもっていたのが馬鹿みたいです!」

私の口からは自然とそう言葉が出た。

「はっはっはっ! まだまだ序の口だぞ?」

え?

父がカーナビのような機器に魔法を使いどこかに連絡をした。

「私だ。フォロスだ。準備は?」

「出来ております! 閣下」

「そうか。わかった。クリス、楽しみにしておけ!」

「は、はぁ」

ドヤ顔の父の顔はとても楽しそうだった。
閣下って言われてましたけど……。


私達は空港のような場所についた。
私はあるものに釘付けだった。

「ナザフ様に敬礼! フォロス家御一家に敬礼!」

軍人のお迎えを受けた。
車から降りればレッドカーペットが引かれその左右に軍人たちとあるものが並んでいた。
その光景に若干引きながらも私の手を引く父に尋ねた。
 
「こ、これはなんですか」

指をさしてそう言った。

私は軍人達の背後に佇むものに釘付けになったのだ。

ここは前世で言うところの空軍基地のようだった。
軍人さんがいっぱいいて、冷戦期のジェット戦闘機らしきものやヘリコプターらしきものが遠くの方には置いてあった。

冷戦期のジェット戦闘機なんてなんで私は知っているのだろうか。

そんなことを考えたがそんな事はどうでもよくて……

軍人の背後に敬礼する巨人。
死んだ後に見た夢で見たものによく似た鎧をまとった巨人が立っていた。
見上げると少し首が痛い。

肩は非常に大きく、装甲が肘近くまでのびている。
西洋風の非常に厚い鎧を着ていて肩から伸びる追加装甲でかなり着膨れしてるような巨人だ。
武装は銃、アサルトライフルみたいな形をしているものを装備している。
剣を腰に挿してもいる。

(私はスーパーロボット系の強そうな見た目よりリアル系のスリムさがいいんだけどな。これかなり重たい感じだけれどこれもリアル系に入るのかしら、アニメよりは弱そうだし……こう現実にあるし、リアル系でって……ん?)

私はどうやらロボット好きでもあったらしい。
確かに夢で興奮していたような気がするしロボットの出る物語を結構な種類を私は思い出せる。
オタクだったのか。

あぁ、自然ととても胸がときめいている。
この世界最高じゃないの!

「クリスは魔導人形に興味があったか。見せたいものはこれではなかったのだが」

「フォロス家の人間ですもの。こうなるのですね。仕方ありませんわ」

私は親の会話にすぐに反応した。

「これは魔導人形というのですか!」

父の手を取り払って魔導人形に近づいた。

「おい、まて!あぶないぞ!」

父の声は耳に入っていなかった。

魔導人形へ駆け出した私の前にメガネをかけた金髪の軍人が飛び出してきた。

「はい! これは全長18メートル重さ約100トンの我が国ノルデンスが誇る最新鋭魔導人形フォロス239ドラケンであります!  すみませんがお嬢様、近づかれると大変危険です! 大砲にも耐えうる装甲を持ちますが何分鈍重で転びやすいので!」

体でブロックされた。
五歳児だし、通れない。

『おいおい、オリヴァー!俺がそんなミスするはずないだろ! 何が危険なんだ!』

人形の頭部だけが私達の方向を向いてそう喋った。
操縦者だろう。

「いえ、私は単に客観的事実を述べただけで……」

「クリス!心配したぞ! オリヴァーと言ったか。感謝する。皆も出迎えご苦労! ほら、クリスはこっちだ」

父の言葉も耳に入らず私は去りゆく魔導人形を見つめ続けていた。

「まったく、心配すべきか喜ぶべきか」

「きっと喜ぶべきですわ」

そんな両親の会話も耳には入らなかった。

ずっと魔導人形の事を考えていると、気づけば椅子に座っていた。
新幹線……窓から外を見ると翼が見えたって事は飛行機の中?

「あれ、お父様あの魔導人形というのはどこに?それにここは?」

私は魔導人形に恋をした!

お母様が嬉しそうにお父様を遮って言ってきた。

「ふふふ、これから私たちは宇宙に行くのよ」

「そうだぞ、クリス。空の向こう側だぞ!」

お父様もドヤ顔でそう言った。

「え?」

私が今乗っているのは人間を地球軌道上に送るほどの性能を持ったスペースプレーンと呼ばれる航空機だった。
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