地平線のかなたで

羽月蒔ノ零

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第五章

死後の世界

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 『人は、死んだらどうなるのか』
 考えたことはあるが、生きている間にその答えを見つけることは当然できなかった。

 しかし、俺は死んだ。今、まさに死んだのだ。
 車にひかれそうな女の子を助けて死ぬなんて、まるで漫画のようだ。まさか自分にそんな状況が訪れるとは思っていなかった。
 しかし、これでようやく死後の世界とはどのようなものなのか、その答えが明らかになる。

 と思っていたのだが、特に何も変わっていない。生きていた頃と、まるで何も変わっていないのだ。

 てっきり、死んだ瞬間に意識が消失して何も感じなくなるものだとばかり思っていた。

 どうなってるんだ。死とは一体なんなんだ。死んでもそのまま生きていけるのか? 
 いや、そんなはずはない。明確に線引きされているはずだ。

 生と死は、絶対的に異なるものだ。
 けれど、それにしては、あまりにも生きている。死んだ感じが一切しない。なぜだ?

 不思議に思ってよく見てみると、車はまだ俺の体にぶつかっていなかった。
 俺はまだ車に轢かれていない。ということは、俺はまだ死んでいないのか?

 ……そうか! 走馬灯だ。
 死の直前になると、時間がゆっくり流れ、思い出が頭の中を駆け巡るというあれだ! それがまさに今なんだろう。

 ……けれど、それにしてもやはり聞いていたのとはだいぶ違う。思い出が頭の中を駆け巡らない。
 どうしてだろう。俺の最期にふさわしい思い出など一切ないということなのだろうか。いや、さすがにそれは悲しすぎるだろう。

 だが、現に今俺に見えているのは、俺をひき殺そうとしているこの車と、その中でびっくりしている運転手の顔だけだ。何を今更驚いてるんだこいつは。お前が交差点に突っ込もうとしてたんだろうがこのボケ。

 俺の人生色々あったけど、最期に振り返る思い出として最もふさわしいのは、この運転手の驚いた顔だということなのか。正直それは嫌だ。さすがにもっと他にあるだろう。

 それにしてもいつまで続くんだこの茶番は。全然車が進んで来ない。時速何ミリメートルだ一体。


 ……いや、……違う。……止まってる?
 よく見ると、車は一切動いていない。完全に停止している。
 だがブレーキが利いたようにも思えない。
 何か別の力が、この車を止めたんだ。

 そういえば、車だけじゃない。周りにあるすべての物が止まっている。
 人も、風も、雲も。

 どうなってるんだ? 何が起きた? 一体何が起きてるんだ……?


 ……ああ、俺はアホか。俺こそ今更いまさら何を驚いてるんだまったく。

 こんなのもう慣れっこじゃないか。今更何を不思議がってるんだ。

 こんなことができるのは、『あいつ』しかいない。

 
 そう思って振り返ると、やはりそこに、『あいつ』がいた。
 
 「アホ、何しとんねん」
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