地平線のかなたで

羽月蒔ノ零

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第四章

天罰

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 ――2日後
 東京駅で集合した俺たちは、新幹線に乗って長野県へと向かった。
 
 車窓からの景色は、ずっと似たようなものだった。てっきりあたり一面に田園風景が広がっているものだと思っていたが、どの町にも建物がたくさんあり、想像していた景色とはだいぶ異なっていた。

 そして2時間もしないうちに、列車は目的地である長野駅に到着した。さすが新幹線は速い。

 ホームに降り立つと、すぅっと冷たい風が吹いた。東京よりもだいぶ冬の色がくっきりとしている感じがする。そろそろ雪が積もりだす頃だろうか。

 その後、ローカル線に乗って、玲子さんのおばあちゃんの家がある町へと向かった。

 車窓からは、どこまでも広がる田園風景が見えた。
 そうそう。これだこれだ。こういう広々とした田園風景をイメージしていたんだ。情緒あふれる、とても素敵な景色。初めて見る場所だが、どこか遠い懐かしさを感じる。

 思えば、俺の地元にもこういう田んぼばかりのところがあった。稲刈りを終えてからは広い空地のようになるので、そこでよくバク転の練習をしていた。


 30分ほどで、玲子さんのおばあちゃんの家の最寄り駅に到着し、俺たちは列車を降りた。
「古き良き」という言葉がぴったり似合うような、素敵な雰囲気の町だった。

 駅から歩くこと数分、一行は玲子さんのおばあちゃんの家へと到着した。とても大きな和風の家だった。いつ建てられたものだろう。かなり歴史がありそうだ。『蔵』がありそうだなあなんて思っていたら、どうやら本当にあるらしい。何かお宝が眠っているかもしれない。

「おばあちゃん、久しぶり! 友達を3人連れてきたよ~!」
「はじめまして。お邪魔します」3人で玲子さんのおばあちゃんに挨拶をした。

「ようこそ。ゆっくりしていってくださいね」
 居間に通していただいた俺たちは、こたつに入ってのんびり暖を取った。

「よかったらこれ、召し上がってください」
 玲子さんのおばあちゃんが、果物の盛り合わせを持ってきてくださった。りんご、ぶどう、柿、いちご、梨、どれもとてもおいしそうだ。

「んー! 甘くておいしい! こんなにおいしいものを盗むなんて許せんなあ。徹底的に懲らしめてやらないと。あれ? そういえば泥棒はいつ頃現れるんだっけ? 咲翔、未来を見てみてよ」

「ああそっか。大事なことを忘れてた」
 未来を見てみたところ、果物泥棒が現れるのは深夜1時半頃のようだった。


「さ、いい夢見ましょ」
 夜中の戦いに備え、夕方に1時間ほど、みんなで仮眠を取った。

「んー、だいぶすっきりした。やっぱり昼寝はいいなあ。あれ、そういえば咲翔、不眠症治ったの?」
「いや、まだ治ってないよ。元々昼や夕方なら薬を飲まなくてもすぐに眠れるんだ。けど夜はまだ薬を飲まないと眠れない」
「ほおー。そうなんだあ」

 泥棒が現れる時刻まではまだまだ時間があるので、近所を散歩し、玲子さんにこの素敵な町を案内してもらった。
 その後、玲子さんのおばあちゃん特製のとてもおいしい夕食をいただき、旅館のようなお風呂までいただいた。

 子供の頃の玲子さんの写真が収められたアルバムも見せてもらった。どうやら昔から美人だったようだ。
 その後もUNOをしたり、すごろくをしたり、テレビを見たりしながらのんびり過ごした。


 そして、あっという間に予定の時刻となった。いよいよだ。
 俺たちは玲子さんのおばあちゃんの家をあとにし、近所の果物畑へと移動した。現時刻は1時15分。物陰に隠れ、泥棒の出現を待つ。

「……来た!」
 時刻はちょうど1時半。夕方に見た未来のとおり、果物泥棒が現れた。2人いる。我が物顔でずかずかと果物畑に侵入してきた。

「来たな。果物泥棒め。叩きのめしてやるぞ。ミューが」
 優莉が泥棒を鋭く睨みつけている。

「よし。玲子さん、まずはテレパシーで警告を」
「了解! ――愚かなる果物泥棒どもよ、今すぐこの場を立ち去れ!――」
 泥棒どもは立ち止まり、驚いた表情で顔を見合わせている。何が起こったのかよくわからないといった表情だ。何か話しているようだが、立ち去る気配はない。

 泥棒たちは再び歩き出した。
「――今すぐこの場を立ち去れなければ、天罰を下すぞ!――」
 泥棒たちは再度立ち止まり、また何か話し合いをしているようだった。だが、やはり立ち去る気はないようだ。そして遂に、泥棒たちは果物に手を伸ばした。

「――これだけ言っても聞かないとは、仕方ない……愚か者どもよ、天罰を受けよ!――」

 警告は十分した。泥棒たちにもちゃんと聞こえていたはずだ。話し合いでは解決しないようなので、実力行使に打って出ることにした。

「よし、じゃあまずは、わたしが持ち上げてやろう」
 ミューが泥棒たちを空高く持ち上げた。

「うわあああ!」泥棒たちはかなり驚いているようだった。
「――天罰を受けよ!――」
 玲子さんのテレパシーに合わせて、ミューが勢いよく地面すれすれの高さへ2人を叩き落とした。

「よし、もう一回!」
 ミューは再び泥棒を持ち上げた。今度はさっきよりもだいぶ高い。100メートルはあるんじゃないだろうか。かなり怖いだろう。そこから再び地面すれすれまで一気に叩きつけた。

 泥棒どもは明らかに動揺し困憊こんぱいしているようだった。
 まあ、そりゃそうだろうな。いきなり上空100メートルまで持ち上げられて、そこから地面ギリギリまで急降下させられるなんて、考えただけでも恐ろしい。
 
 しかし、この程度で許すわけにはいかない。ミューは2人を、戦闘機のパイロットが強力なGに耐えるために行う訓練のような、あるいは洗濯機の脱水中のような感じで、グルングルンと回し始めた。見ているこっちも目が回りそうだ。

「ごめんなさい! ごめんなさい! すいません!」泥棒たちは必死で謝っていた。

 ミューがグルグルマシンをストップさせると、泥棒たちはかなりふらつき、何度か転びながら、歩くような走るようなよくわからない動きでどこかへ消えて行った。

 これだけやれば、きっともう泥棒なんて怖くてできないだろう。

「きっともう大丈夫だよ。玲子さん!」ミューがにこっと微笑みながらそう言った。
 
「ありがとうミューちゃん。咲翔くんと優莉ちゃんも本当にありがとう」


 泥棒退治が済んだあとは、玲子さんのおばあちゃんの家に泊めてもらった。

 翌日の9時頃に起き、玲子さんのおばあちゃん特製のカレーライスをいただいた。

 昼過ぎに玲子さんのおばあちゃんの家をあとにし、ローカル線に乗って長野駅へ向かい、長野駅から新幹線に乗って、東京駅へと向かった。

 無事に東京駅に到着したあと、玲子さんがラーメンをおごってくれた。

 その後、俺たち4人は東京駅で解散し、それぞれの帰路についた。

 1時間ほどで家に着いた俺は、ベッドに横になった。なんだか長い間留守にしていたような、まるで大冒険から帰ってきたような、そんな不思議な気分だった。


 その後、果物泥棒はまったく出なくなったらしい。おそらく泥棒仲間にもあの惨劇の噂が広まったのだろう。これであの町のおいしい果物は守られるはずだ。よかった。めでたしめでたしだ。
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