26 / 37
第四章
愛する人
しおりを挟む
15分ほどで美術館付近に到着し、念のため少し離れたところに車を停めた。
「さて、いよいよ俺たちの出番だな」
「遂にこの時が来たか。腕が鳴るぜ」
俺は池野さんから例の絵が入ったカバンを受け取った。
「よし、あとは僕たちに任せてください」
「池野さん……、今まで黙っていましたが、私たちは地球人ではありません。この3人の体を借りてはいますが、心は別人です。私たちの正体は、困っている人々のために盗まれたものを取り返す、正義の盗賊、その名も怪盗ゆりかもめ! 遠い星から、地球の人々を救うためにやって来たのです!」
池野さんは苦笑いを浮かべていた。自分は何かとんでもない間違いを犯してしまったのではないか、出会ってはいけない人たちと出会ってしまったのではないか、そのような思いを胸に抱いているようだった。
「安心してください。無事におじいさんの絵を取り戻してきます! よし行くぞ! かもめ!」
何の相談もしていなかったが、どうやら俺の名前はかもめのようだ。ということは優莉は「ゆり」なのか。あ、ゆうりとゆりで掛けてあるのかな? それとも偶然かな? まあいいや。
「安心して待っていてください。必ずおじいさんの絵を取り戻してみせます。じゃ、誠志郎、留守番よろしくね!」
池野さんと誠志郎にそう伝えたかもめは、優莉(おそらく今はゆり)に続き、美術館へと向かった。
「池野さん、彼らは必ず任務を成功させます。何も心配せず、大船に乗ったつもりで待っていてください」
「は、はい。わかりました……」
俺たちは何食わぬ顔で正門から美術館の敷地へと入った。こそこそすると怪しまれる。堂々といくべきだ。悪いのは館長たちなのだから。
館内へ入った俺たちは、先日の記憶を頼りに、あの水彩画を探した。
「この絵は見覚えがある。多分もう少し進んだところに……、あ、あった!」
2人は絵の前で足を止めた。やはりこの絵は圧巻である。2人ともついつい見惚れてしまった。
「それにしても、ほんとに綺麗な絵だなあ……。よし、早速作業に取り掛かろう」
優莉にそう伝え、時間を止めてもらった。
2人は予定どおり、白般若と節木増の能面を掛け、手袋を装着し、水彩画奪還作戦を開始した。
飾られているその絵を壁から取り外し、そっと近くにあった椅子の上に置き、額から絵を取り出した。
「メッセージが書いてある。よし、本物だ」
代わりに池野さんが描いた絵を額に入れて壁に掛け直し、本物の絵を慎重にカバンの中に入れた。
優莉に時間停止を解除してもらい、美術館をあとにした俺たちは、無事に車へと戻って来た。
「任務完了です。取り戻してきましたよ」
俺は取り戻してきた本物の絵を池野さんに手渡した。
「一体この人は何を言っているんだろう」といったような、あるいは目の前に突然謎のゆるキャラが現れ、いきなり縄跳びをし始めた時のような、とにかく今何が起きているのかまったくわからないといったような表情を浮かべていた池野さんだったが、受け取ったカバンの中身を確認した途端、その表情はがらりと変わり、そして少しの間、言葉を失っていたようだった。
「……これは、……確かに本物です。間違いなく本物です。祖父が描いた、祖母が最も大切にしていた、正真正銘本物の、【愛する人】です」
目の前の現実をまだうまく信じられない自分へと言い聞かせるように、池野さんは『本物』という言葉を何度も繰り返し口にしていた。
「しかし、一体どうやって……」
「それは秘密です!」優莉が微笑みながらそう答えた。
「そう。秘密です!」優莉に続いて、俺もそう答えた。
後日、池野さんから手紙が届いたので、優莉に見せに行った。
「あれから数日後、田舎の祖母宅を訪ね、【愛する人】を祖母に手渡したところ、涙を流しながらその絵を抱きしめてくれました。本当にいいおばあちゃん孝行ができました。鈴木さん、澄野さん、藤堂さんのお三方には、どれだけ感謝してもしきれません。本当に、本当にありがとうございました」
「よかったね!」優莉もとても嬉しそうにしていた。
誠志郎は京都へ帰ってしまったため、今度会った時に見せようと思う。
「さて、いよいよ俺たちの出番だな」
「遂にこの時が来たか。腕が鳴るぜ」
俺は池野さんから例の絵が入ったカバンを受け取った。
「よし、あとは僕たちに任せてください」
「池野さん……、今まで黙っていましたが、私たちは地球人ではありません。この3人の体を借りてはいますが、心は別人です。私たちの正体は、困っている人々のために盗まれたものを取り返す、正義の盗賊、その名も怪盗ゆりかもめ! 遠い星から、地球の人々を救うためにやって来たのです!」
池野さんは苦笑いを浮かべていた。自分は何かとんでもない間違いを犯してしまったのではないか、出会ってはいけない人たちと出会ってしまったのではないか、そのような思いを胸に抱いているようだった。
「安心してください。無事におじいさんの絵を取り戻してきます! よし行くぞ! かもめ!」
何の相談もしていなかったが、どうやら俺の名前はかもめのようだ。ということは優莉は「ゆり」なのか。あ、ゆうりとゆりで掛けてあるのかな? それとも偶然かな? まあいいや。
「安心して待っていてください。必ずおじいさんの絵を取り戻してみせます。じゃ、誠志郎、留守番よろしくね!」
池野さんと誠志郎にそう伝えたかもめは、優莉(おそらく今はゆり)に続き、美術館へと向かった。
「池野さん、彼らは必ず任務を成功させます。何も心配せず、大船に乗ったつもりで待っていてください」
「は、はい。わかりました……」
俺たちは何食わぬ顔で正門から美術館の敷地へと入った。こそこそすると怪しまれる。堂々といくべきだ。悪いのは館長たちなのだから。
館内へ入った俺たちは、先日の記憶を頼りに、あの水彩画を探した。
「この絵は見覚えがある。多分もう少し進んだところに……、あ、あった!」
2人は絵の前で足を止めた。やはりこの絵は圧巻である。2人ともついつい見惚れてしまった。
「それにしても、ほんとに綺麗な絵だなあ……。よし、早速作業に取り掛かろう」
優莉にそう伝え、時間を止めてもらった。
2人は予定どおり、白般若と節木増の能面を掛け、手袋を装着し、水彩画奪還作戦を開始した。
飾られているその絵を壁から取り外し、そっと近くにあった椅子の上に置き、額から絵を取り出した。
「メッセージが書いてある。よし、本物だ」
代わりに池野さんが描いた絵を額に入れて壁に掛け直し、本物の絵を慎重にカバンの中に入れた。
優莉に時間停止を解除してもらい、美術館をあとにした俺たちは、無事に車へと戻って来た。
「任務完了です。取り戻してきましたよ」
俺は取り戻してきた本物の絵を池野さんに手渡した。
「一体この人は何を言っているんだろう」といったような、あるいは目の前に突然謎のゆるキャラが現れ、いきなり縄跳びをし始めた時のような、とにかく今何が起きているのかまったくわからないといったような表情を浮かべていた池野さんだったが、受け取ったカバンの中身を確認した途端、その表情はがらりと変わり、そして少しの間、言葉を失っていたようだった。
「……これは、……確かに本物です。間違いなく本物です。祖父が描いた、祖母が最も大切にしていた、正真正銘本物の、【愛する人】です」
目の前の現実をまだうまく信じられない自分へと言い聞かせるように、池野さんは『本物』という言葉を何度も繰り返し口にしていた。
「しかし、一体どうやって……」
「それは秘密です!」優莉が微笑みながらそう答えた。
「そう。秘密です!」優莉に続いて、俺もそう答えた。
後日、池野さんから手紙が届いたので、優莉に見せに行った。
「あれから数日後、田舎の祖母宅を訪ね、【愛する人】を祖母に手渡したところ、涙を流しながらその絵を抱きしめてくれました。本当にいいおばあちゃん孝行ができました。鈴木さん、澄野さん、藤堂さんのお三方には、どれだけ感謝してもしきれません。本当に、本当にありがとうございました」
「よかったね!」優莉もとても嬉しそうにしていた。
誠志郎は京都へ帰ってしまったため、今度会った時に見せようと思う。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる