4 / 8
4
しおりを挟む
「きれいだけど、ミリー、普段から血を石に変えているの?」
「そんなことしないわ!いつもは涙だもの!」
「涙も石に変わるんだ」
「そうなの。でもできるときとできないときがあるの。どうしてかしら」
「じゃあちょっと練習した方がいいのかもね。このことは私の他に誰か知ってる?」
「ううん、知らない。あ、でも、わたしの侍女は、涙の宝石を集めたケースを知ってるわ」
「それはもうこれ以上増やさないように。ミリーの涙や血が宝石に変わることは二人だけの秘密だよ」
「わかった、秘密ね。でもその赤い石はルーファス様にあげる!」
うれしそうな笑顔で言われて、「そう?」とルーファスは首を傾げた。そしてそのまま赤い粒をぱくんと口に入れる。
「ん、なんか甘い」
「まあルーファス様、食べてしまったの!?」
ミリーはとても驚いて、それからきゃあきゃあと腹を抱えて笑った。
―――神は時折、不思議な力を人に与える。それはギフトと呼ばれた。
全員がギフトを得るわけではなく、しかし滅多にいないというほど稀少なものでもない。ギフトの内容も生活にまったく影響のないものから、人生を丸ごと変えてしまうものまで様々だった。
しかし、ミリーのギフトは後者だろう。
ルーファス自身も『慈雨』というギフト持ちである。
前例がなくその意味は誰もよくわからなかったが、『慈悲』や『慈愛』に絡めて、ルーファスは優しい人物なのだろうと評された。間違ってはいない。
ギフトの有無は10歳の誕生日に神殿で調べられる。
貴族の子となればそれは盛大なイベントだ。
それまでにとルーファスはミリーとの婚約を願い出たが、侯爵も大公も『まだ早い』と一笑に付した。
案の定、10歳になって発覚したミリーのギフトは神殿を震撼させ、他言無用のはずが王家が動き出した。大公は以前からルーファスがミリーを求めていたことを知っているため苦渋を浮かべたが、いらぬ火種を生みかねないと兄王に直言すらできない。
その頃すでにルーファスは酷薄な面を有していた。
侯爵はルーファスに睨まれ『まだお互い幼いから』と婚約の返事を保留にし、その間にルーファスは王家にも負けない高位貴族にミリーのギフトの噂を流した。
嫡男以下の子供がいる貴族は目の色を変えた。複数の家が手を上げて、最後に残ったのが歳の近い令息を持つ公爵家と辺境伯家だ。
お互い牽制し合う一方、その子供たちはミリーにいい感情を抱いていなかった。当然だ。ルーファスが甘やかし続けたおかげで、ミリーにはあまりいい話がない。
そして背景を知らない者からは、そんなミリーの傍で長年甘い笑みを浮かべ続けるルーファスこそ婚約者だと思われている。
もちろん本命はルーファスなのだからそれでいい。
いつもミリーの隣にいるルーファスは、彼女の思う理想の結婚生活を大小関わらずすべて聞き集めた。
そのための準備もひとつずつ進めてきた。
―――ルーファスのギフトは『慈雨』。
恵みの雨は、必要なところへ必要な分しか注がれない。彼の愛はただミリーだけに向けられる。
「そんなことしないわ!いつもは涙だもの!」
「涙も石に変わるんだ」
「そうなの。でもできるときとできないときがあるの。どうしてかしら」
「じゃあちょっと練習した方がいいのかもね。このことは私の他に誰か知ってる?」
「ううん、知らない。あ、でも、わたしの侍女は、涙の宝石を集めたケースを知ってるわ」
「それはもうこれ以上増やさないように。ミリーの涙や血が宝石に変わることは二人だけの秘密だよ」
「わかった、秘密ね。でもその赤い石はルーファス様にあげる!」
うれしそうな笑顔で言われて、「そう?」とルーファスは首を傾げた。そしてそのまま赤い粒をぱくんと口に入れる。
「ん、なんか甘い」
「まあルーファス様、食べてしまったの!?」
ミリーはとても驚いて、それからきゃあきゃあと腹を抱えて笑った。
―――神は時折、不思議な力を人に与える。それはギフトと呼ばれた。
全員がギフトを得るわけではなく、しかし滅多にいないというほど稀少なものでもない。ギフトの内容も生活にまったく影響のないものから、人生を丸ごと変えてしまうものまで様々だった。
しかし、ミリーのギフトは後者だろう。
ルーファス自身も『慈雨』というギフト持ちである。
前例がなくその意味は誰もよくわからなかったが、『慈悲』や『慈愛』に絡めて、ルーファスは優しい人物なのだろうと評された。間違ってはいない。
ギフトの有無は10歳の誕生日に神殿で調べられる。
貴族の子となればそれは盛大なイベントだ。
それまでにとルーファスはミリーとの婚約を願い出たが、侯爵も大公も『まだ早い』と一笑に付した。
案の定、10歳になって発覚したミリーのギフトは神殿を震撼させ、他言無用のはずが王家が動き出した。大公は以前からルーファスがミリーを求めていたことを知っているため苦渋を浮かべたが、いらぬ火種を生みかねないと兄王に直言すらできない。
その頃すでにルーファスは酷薄な面を有していた。
侯爵はルーファスに睨まれ『まだお互い幼いから』と婚約の返事を保留にし、その間にルーファスは王家にも負けない高位貴族にミリーのギフトの噂を流した。
嫡男以下の子供がいる貴族は目の色を変えた。複数の家が手を上げて、最後に残ったのが歳の近い令息を持つ公爵家と辺境伯家だ。
お互い牽制し合う一方、その子供たちはミリーにいい感情を抱いていなかった。当然だ。ルーファスが甘やかし続けたおかげで、ミリーにはあまりいい話がない。
そして背景を知らない者からは、そんなミリーの傍で長年甘い笑みを浮かべ続けるルーファスこそ婚約者だと思われている。
もちろん本命はルーファスなのだからそれでいい。
いつもミリーの隣にいるルーファスは、彼女の思う理想の結婚生活を大小関わらずすべて聞き集めた。
そのための準備もひとつずつ進めてきた。
―――ルーファスのギフトは『慈雨』。
恵みの雨は、必要なところへ必要な分しか注がれない。彼の愛はただミリーだけに向けられる。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
森でオッサンに拾って貰いました。
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。
ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
悪役令嬢はオッサンフェチ。
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
侯爵令嬢であるクラリッサは、よく読んでいた小説で悪役令嬢であった前世を突然思い出す。
何故自分がクラリッサになったかどうかは今はどうでも良い。
ただ婚約者であるキース王子は、いわゆる細身の優男系美男子であり、万人受けするかも知れないが正直自分の好みではない。
ヒロイン的立場である伯爵令嬢アンナリリーが王子と結ばれるため、私がいじめて婚約破棄されるのは全く問題もないのだが、意地悪するのも気分が悪いし、家から追い出されるのは困るのだ。
だって私が好きなのは執事のヒューバートなのだから。
それならさっさと婚約破棄して貰おう、どうせ二人が結ばれるなら、揉め事もなく王子がバカを晒すこともなく、早い方が良いものね。私はヒューバートを落とすことに全力を尽くせるし。
……というところから始まるラブコメです。
悪役令嬢といいつつも小説の設定だけで、計算高いですが悪さもしませんしざまあもありません。単にオッサン好きな令嬢が、防御力高めなマッチョ系執事を落とすためにあれこれ頑張るというシンプルなお話です。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる