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侯爵令嬢ミリーは自分本意でわがままな令嬢だ。
気になったものは手に入れないと気が済まず、そのくせすぐに厭きて放り出してしまう。そして気に入らないものは目に入るのも嫌がる。
それは物だけに止まらず人に対しても同じだった。
「ミリー嬢、あなたの行いは目に余る。その悪行の数々はすべて白日のもとに晒されることになるだろう。その前に自ら罪を認めてくれないだろうか」
母校でもある学園の講堂で第四王子の声が高らかに響いて、ルーファスは口端を上げた。
今日は学園の創立記念パーティーであり、卒業生でもあるルーファスは招待される側として、愛しいあの子が招いてくれるまで講堂の外で控えていた。
そんな中、突然はじまった糾弾。
第四王子をはじめとする高位貴族の令息たちと、彼らと親しい伯爵家の娘。相対するミリーは鷹揚な態度を貫いており、周囲からはらはらとした視線がルーファスに集まる。
それもまあわからなくはない。
第四王子はもちろん、他の子息たちも力のある貴族の息子だし、あの伯爵令嬢は『慈愛』のギフトを授かっていると公言して聖女の扱いを受けている。
一方で、侯爵令嬢ミリーはルーファスが溺愛する手中の珠だ。
ルーファスは国王の実弟である大公の一人息子である。第四王子の従兄にあたり、順位は低いが王位継承権も持つ。血筋も確かで、見た目も能力も飛び抜けて優れている。
そんなルーファスが執着するのがミリーだった。
「あら一体何のことでしょう?悪行だなんて、わたくしひとつも覚えがありませんけれども」
ミリーの言葉に講堂内の空気が揺れる。
けれどミリーが高慢で身勝手なのは事実である。
しかしルーファスはこれまでミリーのわがままをかわいいものだと許してきた。
「悪いことをしたと仰いますけど、ルーファス様からは何も言われていないのに?」
だからミリーのこの言葉もまた事実だった。
ミリーが楽しげに彼らをやり込めていくのをルーファスは満足そうに聞いていた。
婚約者候補の流れのところでは生徒たちの保護者である周りの貴族からざわめきが漏れたが、ルーファスは令息たちの言質を取るまで黙っていた。
そして頃合いを見て動き出す。
「これは一体何の騒ぎだ?」
その後はミリーとともに手の上で転がしてやればあっという間に収束していく。
ミリーの威光を回復させることまでは目的ではなかったが、かわいいミリーが舐められたままなのも癪なので意趣返し。もちろんすべて事実だ。
「言ったでしょう?ルーファス様はすべて御存知なのです」
今日のこの日のためにルーファスが贈ったドレスで華やかに飾り立てられたミリーの手を取り、二人はパーティーがはじまる前に颯爽と講堂を、学園を後にする。
向かう先は、侯爵邸でも大公の居城でもなく、ルーファスが用意した二人の新居。
「ああようやくだ、ミリー。やっときみを手に入れることができる」
「ルーファス様ったら…」
ルーファスが喜びを告げるとミリーは照れた顔で小さく笑った。
***
ミリーの父は大公の元側近で、彼らは子供の頃から交流があった。
ルーファスは幼い頃からやさしく穏やかな性質であったが、年下の幼馴染みであるミリーには殊更やさしく接していた。ルーファスはミリーがかわいくて仕方なかった。
様相が変わったのはミリーが6歳の頃。
「いたっ」
「ミリー!大丈夫!?」
庭の木に引っかけてミリーの指先に小さな傷が出来てしまった。手当てしよう、と慌てるルーファスを押し止めてミリーは言った。
「大丈夫よ。それより見て」
ミリーの傷口からじわりと滲んだ血がまるく固まり、ころりと落ちた。ルーファスは慌てて両手で受け止める。
「ミリー、これは……」
「わたしの血が宝石になるのよ、すごいでしょう」
ミリーが自慢気に言う。
指でつまんだ小さな粒はたしかにきらりと光って、とても硬い。
―――ギフト。
ルーファスの脳裏にひとつの可能性が浮かんだ。
気になったものは手に入れないと気が済まず、そのくせすぐに厭きて放り出してしまう。そして気に入らないものは目に入るのも嫌がる。
それは物だけに止まらず人に対しても同じだった。
「ミリー嬢、あなたの行いは目に余る。その悪行の数々はすべて白日のもとに晒されることになるだろう。その前に自ら罪を認めてくれないだろうか」
母校でもある学園の講堂で第四王子の声が高らかに響いて、ルーファスは口端を上げた。
今日は学園の創立記念パーティーであり、卒業生でもあるルーファスは招待される側として、愛しいあの子が招いてくれるまで講堂の外で控えていた。
そんな中、突然はじまった糾弾。
第四王子をはじめとする高位貴族の令息たちと、彼らと親しい伯爵家の娘。相対するミリーは鷹揚な態度を貫いており、周囲からはらはらとした視線がルーファスに集まる。
それもまあわからなくはない。
第四王子はもちろん、他の子息たちも力のある貴族の息子だし、あの伯爵令嬢は『慈愛』のギフトを授かっていると公言して聖女の扱いを受けている。
一方で、侯爵令嬢ミリーはルーファスが溺愛する手中の珠だ。
ルーファスは国王の実弟である大公の一人息子である。第四王子の従兄にあたり、順位は低いが王位継承権も持つ。血筋も確かで、見た目も能力も飛び抜けて優れている。
そんなルーファスが執着するのがミリーだった。
「あら一体何のことでしょう?悪行だなんて、わたくしひとつも覚えがありませんけれども」
ミリーの言葉に講堂内の空気が揺れる。
けれどミリーが高慢で身勝手なのは事実である。
しかしルーファスはこれまでミリーのわがままをかわいいものだと許してきた。
「悪いことをしたと仰いますけど、ルーファス様からは何も言われていないのに?」
だからミリーのこの言葉もまた事実だった。
ミリーが楽しげに彼らをやり込めていくのをルーファスは満足そうに聞いていた。
婚約者候補の流れのところでは生徒たちの保護者である周りの貴族からざわめきが漏れたが、ルーファスは令息たちの言質を取るまで黙っていた。
そして頃合いを見て動き出す。
「これは一体何の騒ぎだ?」
その後はミリーとともに手の上で転がしてやればあっという間に収束していく。
ミリーの威光を回復させることまでは目的ではなかったが、かわいいミリーが舐められたままなのも癪なので意趣返し。もちろんすべて事実だ。
「言ったでしょう?ルーファス様はすべて御存知なのです」
今日のこの日のためにルーファスが贈ったドレスで華やかに飾り立てられたミリーの手を取り、二人はパーティーがはじまる前に颯爽と講堂を、学園を後にする。
向かう先は、侯爵邸でも大公の居城でもなく、ルーファスが用意した二人の新居。
「ああようやくだ、ミリー。やっときみを手に入れることができる」
「ルーファス様ったら…」
ルーファスが喜びを告げるとミリーは照れた顔で小さく笑った。
***
ミリーの父は大公の元側近で、彼らは子供の頃から交流があった。
ルーファスは幼い頃からやさしく穏やかな性質であったが、年下の幼馴染みであるミリーには殊更やさしく接していた。ルーファスはミリーがかわいくて仕方なかった。
様相が変わったのはミリーが6歳の頃。
「いたっ」
「ミリー!大丈夫!?」
庭の木に引っかけてミリーの指先に小さな傷が出来てしまった。手当てしよう、と慌てるルーファスを押し止めてミリーは言った。
「大丈夫よ。それより見て」
ミリーの傷口からじわりと滲んだ血がまるく固まり、ころりと落ちた。ルーファスは慌てて両手で受け止める。
「ミリー、これは……」
「わたしの血が宝石になるのよ、すごいでしょう」
ミリーが自慢気に言う。
指でつまんだ小さな粒はたしかにきらりと光って、とても硬い。
―――ギフト。
ルーファスの脳裏にひとつの可能性が浮かんだ。
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