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レイラの周囲もようやく落ち着き、綺光石を使った商品開発が本格的に進められた。


まず、大きなものは軽く研磨をしてコーティングすることで、そのままランプとして売り出した。『私』の記憶にある岩塩ランプがイメージだ。

中程度のものは形を加工することで、十分商品になった。部屋に置いておけばそれだけでインテリアになるし、ペーパーウェイトとしても使える。
石だから屋外でも重宝する。モンタールド邸の庭でも、フットライトとして小道の両脇に並べるようになった。

それから小さなものはアクセサリーに加工した。光るネックレスやバングルは貴族だけでなく平民にも爆発的に広まっている。

研磨や加工の際に出た石粉は、塗料に混ぜて絵や装飾に使う。パピヨンのイメージである七色の蝶も光るようになってご満悦だ。


黒い商人が有能な石工を何人も召し抱えていたおかげで、それぞれの適正に合う商品を作ることができた。レイラパピヨンのラインナップにもバリエーションが増えてなによりだ。


「ルチアーノ様も本当にどうもありがとう」

「いいんだ。こちらこそいい仕事ができた」


そしてなんとサルヴァティーニ公爵家がパピヨンに仕事の依頼をしてくれた。

綺光石の特性を生かして、水の都の歩道の縁に目印をつけることになったのだ。

確かに水路と同じ高さの歩道は危険だと思っていた。潮の満ち引きだけでなく、雨量の変化で簡単に歩道は水で溢れてしまう。
地元の人は濡れることを厭わないそうだが、どこまでが道かわからず水路に落ちることもままあるとか。危ない。

綺光石はメンテナンスが必要ないため、日が当たるところでさえあれば、暗くなったら勝手に光り出す。それは水の中でも同じだ。


パピヨンは石のデザインを請け負った。
それを歩道に埋め込む技術はないため、ハンナのおじいさまにお願いした。

そうしたら今度は、その仕事を見た王宮からクロフォード家に綺光石を使った事業の打診が殺到したそうだ。

石はクロフォード卿からパピヨンが譲り受けているため、巡り巡ってレイラにも利益が発生する。規模があまりに大きかったため、レアード商会にも協力を要請した。


「いま綺光石の価値は爆発的に上がっているそうだよ」


さすがだね、とルチアーノが微笑む。


「ぼくらは綺光石なんてただ光るだけの石だと思っていたから。その活用法を見出だしたレイラには先見の明があるよ」

「わたくしはこんなに話が大きくなるとは思わなかったわ」


光るとかわいいな、ぐらいにしか思っていなかったのに。

綺光石はいまや国内だけでなく、国外へも輸出されはじめた。まずはアクセサリーなど小さなものから。国外での販売はこちらもレアード商会が承っている。…モンタールド外務大臣の高笑いが聞こえてきそうだ。



***
二番目の姉を身元保証人として、市井に降りたブノワトはそこで小さな店をはじめた。

貴族が好むような華美でゴテゴテしたアイテムばかり取り揃えている。そのくせ安い素材を使い、雑な作りで壊れやすい。
しかし、手軽に貴族気分が楽しめると平民の娘たちにはなかなか人気だ。


末端の貴族と商売に成功している一般市民とでは豊かさが逆転している場合がある。ともすれば国への貢献力も。

ブノワトは両親が落ちぶれたのは当然だと思っている。しかし、その負の影響を自分が受けるのは嫌だったのだ。…一番目の姉のように。


二番目の姉から、地方領の紡績会社の経理担当がレイラパピヨンに不正な請求をして金を横領していたと聞いた。そして浮いた金の一部は、クロフォード夫人に流れていたということも。

ブノワトは自分がクロフォード家に世話になっていることを告げたときから、両親に金を送ることを強く要求されて、結局給金のすべてを渡していた。
そうしたら自分のために使える金はなくなる。
だからハンナのための金に便乗したのだ。その額はどんどん大きくなったが、正直当然のことだと思っていた。

クロフォード夫妻が養女というキーワードを出して許してくれたから、余計に。


ブノワトは王子殿下に直接指摘されても罪悪感なんて持っていなかった。
正直レイラパピヨンが不正な会計処理で金を奪われたと聞いても、それ以上に儲かっているんだからいいじゃない、とすら思っていた。


そんな考えが覆されたのは、不正に手を染めたという経理担当の男が一番上の姉の恋人だったと聞いたときだ。

不正の件は長姉はなにも知らなかったという。

クロフォード夫人は経理の彼にだけこっそりと囁いた。恋人の末の妹と両親がクロフォード家に損害を与えている。それを埋め合わせるのは未来の夫として当然だ。ほら、そこにちょうどよく資金豊富な取引先がある――なんて。


夫人はブノワトの給金分しか受け取っていないが、経理の彼はそれ以上の金額を横領していた。
余った金は結婚後の資金として使わず取っておいたそうだが、その行為が彼も積極的に横領に手を染めていたと証明されてしまった。

結果、彼は会社を解雇され、恋人とは破局。結婚の約束は儚く散った。

またしても最後に大きな痛手を受けたのは一番上の姉だった。彼女はなにも悪くないというのに。


ブノワトは大きなショックを受けて、そして、後悔した。

当初、長姉に幸せになってほしくて王都に来た。それなのに一番いけない結果になってしまった。


二番目の姉と一緒に久しぶりに地元へ帰って、町の変貌に驚いて、そして姉に懺悔した。

けれど姉は「いいのよ」と許してしまう。
少し切なげに笑って、あなたたちが元気そうでよかったわ、なんて言って許してしまう。


ああまったく…。

その懐の深さが――執着の無さが――本当にレイラとそっくりでいやになる。


ブノワトは店に来る娘たちが最近人気の光るアクセサリーをつけているのを見て、思わず声をかけた。


「ねえ、それレイラパピヨンの?」

「そうなんです!近くにワゴンショップが来ているんですよ~!」


それを聞いてブノワトは店を飛び出した。

先の十字路の角で、大きな車輪のついたパステルカラーの大型ワゴンに人だかりができている。ワゴンの上部にはパピヨンのモチーフである七色の蝶が輝いていた。

レイラの店は近頃ますます盛況なようだ。

きょろきょろと辺りを見回すが当然そこにレイラはいない。


ブノワトはぐっと拳を握る。


「いまに見てなさい、レイラ…!次こそあんたに私を認めさせてやるんだから!」
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