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悪役令嬢は悪徳商人を捕まえる

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「愚かだとは思っていたがここまでとは。なあ、ジュリアス。お前には選ばせてやっただろう?」


ジェラルド国王が言う。


「好いた女と一緒になれるように手配してやっただろう。お前がメイヴェルをほしいと言うから了承したのだ、バーネット侯爵をこちら側に引き入れておく利は大きかったからな。その約束を反故にしてまで、あの頓馬な男爵の娘を隣に並べてやるというのに、それ以上何を求めるのだ」


「へ、陛下……?」


「王位継承の余計な火種にならぬよう、王子はお前だけだ。さぞ大事に育てられただろう?毒を盛られることもない、剣を向けられることもない、誰もがお前の意見を受け入れる。それの何が不満だ?座するものが用意されているというのに、それ以上なんだと言うのだ」


国王の言っていることがよくわからない。
ジュリアスは混乱していた。


「権謀術数がなんだって?むしろ、はいはい頷くだけの人間がまともなわけないだろう。これ以上お前の機嫌を取るだけの者を増やしてどうする?そもそもお前は唯一の子なのに、なぜ第一王子と呼ばれるのか、それを疑問に思ったことはないのか?」


ただ、わかることといえば。


「なぜ……?」


国王陛下はジュリアスを蔑んでいる。


「なぜですか、陛下…?私を認めてくれていると思っていたのに。私の子が早く見たいと仰っていたじゃないですか!?」


「ああ、言ったな」


国王は軽い調子で頷く。


「お前が子を作れば我の退位が早まる。ここは人形の座る場所だ。すぐにでもお前に譲ってやろうぞ」


婚約者だったメイヴェルを美しいだけの人形と蔑んでいた第一王子自身が、愚かな人形と呼ばれる皮肉。残念なことにジュリアスは気付かない。



***
この国は元々は小国の集まりだ。初代国王が周辺国を取りまとめて、ひとつの大きな国となった。

国が栄えるほどに王は力を持ち、長い歴史を経ていつしかそれは逆転した。王家という権力に栄華が集うようになった。


先々代の国王の時代まで、国は海を挟んだ隣国とずっと戦争状態だった。
それを国境線で食い留めてきたのが南のレアード領だ。遠い昔から軍力で栄えてきたレアードは『堅牢なる王国の盾』と呼ばれ、国内の主要な貴族のひとつとして数えられてきた。

ほんの四半世紀と少し前――。

隣国との長い争いが終結した。呆気ないものだった。その前から冷戦状態が続き、明らかな交戦がなかったこともあって、実にあっさりと和平が結ばれた。


平和な世が訪れると思われた。

軍力でのし上がったレアードには手痛いが、軍需産業も残っていたため、そちらの方面を有用活用していく旨を国とも話し合っていた。


先代の王には王子が二人いた。どちらも穏やかな性質で、特段切れ者というわけではなかったが、実直で物覚えがよく、きちんと教育を施せば将来の王として期待が持てた。

どちらも同程度とはいえ年齢差がある。
王位継承権第一位の兄王子が王太子になるのは、確約されたも同然だった。

ところがこの頃から幼い弟王子は命を狙われるようになる。
階段や池に落とされそうになったり、乗馬訓練中に落馬しそうになったり、偶然を装う事故が頻発する。すべて間一髪で助けられたが、怪しんだのは兄王子だった。

彼らは同じ両親から生まれた、血縁上でも確かな兄弟だ。いがみ合うような仲ではなかった。

兄王子に相談を受けた国内の有力貴族は、そして『第一王子を必ず次の王にしてみせる』という一部貴族の陰謀を暴きだした。
動揺した兄王子は王位継承権を放棄しようとして、事態は悪化する。弟王子は食事に毒を盛られたり、何者かの襲撃を受けたり、実際に床に伏せることが増えていく。


はじめに兄王子に頼られた国内の有力貴族たちは、弟王子を庇って第二王子派として勢力を高めていく。兄王子を必ず次代の王に祭り上げようとする第一王子派とは全面的に敵対していく。

当人である第一王子は置いてきぼりのまま、国内は大きく二分化した。

当時の王はすでに第一王子派に篭絡されて、臣下の意見を鵜呑みにするようになっていた。隣国との冷戦がようやく終結した国内は、今度は激しい後継争いに翻弄されることになる。


命の危険に晒され続ける弟王子を王宮から連れ出したのは、当時、国内の有力貴族のひとつであったレアード辺境伯だ。


弟王子はレアード領の城塞の奥にある、美しい翡翠の館に匿われた。


「これが東の館だ」

「わあ、すごい……!!」


ヴィンセントに案内されて美しい翠の館を目にしたメイヴィスは、それ以上言葉が出なかった。

石造りの壁も屋根も翡翠が貼りつけられ、きらきらと壮麗に輝いている。緑の深い自然の中に置き忘れてしまった宝石箱のようだ。


「中も見てみるか?」

「ええ」


ヴィンセントに続いて館に近づいたメイヴィスは、その向こうに広がる白い花畑に息を飲む。


「…この、花……」

「桔梗だな」


ヴィンセントが告げる。


「――王弟殿下の忘れ形見なんだ」


それはメイヴェルが幼い頃に目を奪われた、あの白い星形の花だった。
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