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本編
第4話
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大陸一の人口を誇る王都は商業の中心地であると同時に軍事拠点でもある。広大な都は外敵や魔物の侵入を阻むべく何十キロにも及ぶ堅牢な外壁に囲まれている。
鎧兜に身を包んだ兵士の守る門の前で、馬車は止まった。不思議に思って近衛隊長を見ると、彼はにこやかに笑った。
「ここからはどうかお歩きください。皆があなたをお待ちしています」
促されるまま外壁の門をくぐると大歓声が聞こえてきた。
「糞漏らしさんだ! 糞漏らしさんの帰還だ!」
「おかえりなさい! 糞漏らしさん!」
「糞漏らしさん! もうどこにもいかないでください! 糞漏らしさん!」
まるで祭りの山車を待ち望むかのように沿道には人々が立ち並んでおり、人々は俺が現れると大声をあげて手を振った。
俺が王都に戻ることを知らされた人々が最大限の歓迎をしてくれているらしい。店や家のベランダに立つ人々は、一斉に紙吹雪をまいている。ただ一つ気になることがあったので、後ろを歩く近衛隊長に聞いてみた。
「なぜ紙吹雪が全て茶色なんですか?」
「あなたのイメージカラーですよ」
沿道で話す若い女性の声が聞こえてきた。
「糞漏らしさんの髪って噂通りウンコ色なのね」
ただの茶髪である。何故そう言われるのか理由が分からない。
食堂の前に立つ店主らしい男が周囲に負けじと大きく手を振っている。
「糞漏らしさん! 今度この店に来てください! もちろんお代はいただきません! あなたの大好物のカレーをお作りします!」
たしかにカレーは大好物だが誰にもそうだとは言っていない。なぜ店主はそう思ったのだろうか。
一人の女性が沿道から遠慮がちに飛び出し、俺の前に近づいてきた。
「糞漏らしさん。どうか私のお腹を撫でていただけませんか?」
おそらく女性のお腹には子供がいるのだろう。その子のゲン担ぎのためにそう頼んできたのだろうと、俺は彼女のお腹をそっとなでた。
「生まれてくるお子さんが幸せになれますように」
その言葉に女性は不思議そうな顔をし、何かを察したかのような表情を浮かべて首を振った。
「違います。妊娠しているのではありません。実は私、便秘気味でして……。糞漏らしさんにお腹を触ってもらうと便秘が治るという噂があって、それで……」
俺は彼女にできるだけ優しく笑いかけた。
「治るといいですね」
次に現れたのは黒髪の小さな男の子である。男の子は右手を俺に差し出した。
「握手してください! 糞漏らしさん!」
その子の小さな手をギュッと握ると、沿道から別の子供たちの声が聞こえてきた。
「きったねえ! あいつ、糞漏らしと握手してるぞ! ウンコ菌に感染した! ウンコ菌! ウンコ菌!」
その言葉を聞いた少年は、キッと鋭い目で俺を睨みつけた。
「なんで握手したんだよ! 糞漏らし!」
ため息をついた俺はトンと地面を蹴って沿道の子供たちの後ろに回り込んだ。そしてその場にいる全ての子供にタッチする。
「ほら。これでみんな仲良くウンコ菌だ」
すると子供たちが一斉に騒ぎ出した。
「なにすんだよ! 糞漏らし野郎!」
「きったねえ! きったねえ! なんてことしやがんだよ!」
「お前マジで死ねよ! 糞が! 糞漏らした糞が!」
ちなみに最後のセリフは握手した少年のものである。子供たちはみんな一斉に走り去っていった。握手の少年も子供たちの輪の中にいるのを見て俺は安心した。
人々に手を振りながら歩いていくと、街の中心部にある広場へとたどり着いた。そこには四体の銅像が建っている。魔王と闘った四人の英雄の像である。俺の像には『ウンコ』と大きな落書きがされていた。
近衛隊長に聞いてみた。
「消さないんですか?」
「消す必要がありますか?」
近衛隊長は不思議そうな顔をしている。こちらの言わんとすることが全く理解できていない様子である。
俺はそれ以上何も言わず、彼と共に王城を目指した。
王との謁見の前に前室へと通された。扉を開けると、そこには四人の先客がいた。” 神託の勇者” ヴィクター・オルブライト。”炎の魔女” レイラ・クロックフォード。” 癒しの聖女” セリーナ・ヘルソン。
”大災害”の時、三千万もの兵が国中から集められた。その中には各地で勇名を轟かせる数多くの英雄たちがいたが、魔王の前に残ったのは俺の他にはこの三人しかいなかった。俺が糞を漏らしたのを知っているのはこの三人だけだった。この中に、糞を漏らしたことを言いふらした奴がいる。それは一体誰か――。
そんなことを考えながら俺は部屋へと入り、ゆっくりと扉を閉めた。
鎧兜に身を包んだ兵士の守る門の前で、馬車は止まった。不思議に思って近衛隊長を見ると、彼はにこやかに笑った。
「ここからはどうかお歩きください。皆があなたをお待ちしています」
促されるまま外壁の門をくぐると大歓声が聞こえてきた。
「糞漏らしさんだ! 糞漏らしさんの帰還だ!」
「おかえりなさい! 糞漏らしさん!」
「糞漏らしさん! もうどこにもいかないでください! 糞漏らしさん!」
まるで祭りの山車を待ち望むかのように沿道には人々が立ち並んでおり、人々は俺が現れると大声をあげて手を振った。
俺が王都に戻ることを知らされた人々が最大限の歓迎をしてくれているらしい。店や家のベランダに立つ人々は、一斉に紙吹雪をまいている。ただ一つ気になることがあったので、後ろを歩く近衛隊長に聞いてみた。
「なぜ紙吹雪が全て茶色なんですか?」
「あなたのイメージカラーですよ」
沿道で話す若い女性の声が聞こえてきた。
「糞漏らしさんの髪って噂通りウンコ色なのね」
ただの茶髪である。何故そう言われるのか理由が分からない。
食堂の前に立つ店主らしい男が周囲に負けじと大きく手を振っている。
「糞漏らしさん! 今度この店に来てください! もちろんお代はいただきません! あなたの大好物のカレーをお作りします!」
たしかにカレーは大好物だが誰にもそうだとは言っていない。なぜ店主はそう思ったのだろうか。
一人の女性が沿道から遠慮がちに飛び出し、俺の前に近づいてきた。
「糞漏らしさん。どうか私のお腹を撫でていただけませんか?」
おそらく女性のお腹には子供がいるのだろう。その子のゲン担ぎのためにそう頼んできたのだろうと、俺は彼女のお腹をそっとなでた。
「生まれてくるお子さんが幸せになれますように」
その言葉に女性は不思議そうな顔をし、何かを察したかのような表情を浮かべて首を振った。
「違います。妊娠しているのではありません。実は私、便秘気味でして……。糞漏らしさんにお腹を触ってもらうと便秘が治るという噂があって、それで……」
俺は彼女にできるだけ優しく笑いかけた。
「治るといいですね」
次に現れたのは黒髪の小さな男の子である。男の子は右手を俺に差し出した。
「握手してください! 糞漏らしさん!」
その子の小さな手をギュッと握ると、沿道から別の子供たちの声が聞こえてきた。
「きったねえ! あいつ、糞漏らしと握手してるぞ! ウンコ菌に感染した! ウンコ菌! ウンコ菌!」
その言葉を聞いた少年は、キッと鋭い目で俺を睨みつけた。
「なんで握手したんだよ! 糞漏らし!」
ため息をついた俺はトンと地面を蹴って沿道の子供たちの後ろに回り込んだ。そしてその場にいる全ての子供にタッチする。
「ほら。これでみんな仲良くウンコ菌だ」
すると子供たちが一斉に騒ぎ出した。
「なにすんだよ! 糞漏らし野郎!」
「きったねえ! きったねえ! なんてことしやがんだよ!」
「お前マジで死ねよ! 糞が! 糞漏らした糞が!」
ちなみに最後のセリフは握手した少年のものである。子供たちはみんな一斉に走り去っていった。握手の少年も子供たちの輪の中にいるのを見て俺は安心した。
人々に手を振りながら歩いていくと、街の中心部にある広場へとたどり着いた。そこには四体の銅像が建っている。魔王と闘った四人の英雄の像である。俺の像には『ウンコ』と大きな落書きがされていた。
近衛隊長に聞いてみた。
「消さないんですか?」
「消す必要がありますか?」
近衛隊長は不思議そうな顔をしている。こちらの言わんとすることが全く理解できていない様子である。
俺はそれ以上何も言わず、彼と共に王城を目指した。
王との謁見の前に前室へと通された。扉を開けると、そこには四人の先客がいた。” 神託の勇者” ヴィクター・オルブライト。”炎の魔女” レイラ・クロックフォード。” 癒しの聖女” セリーナ・ヘルソン。
”大災害”の時、三千万もの兵が国中から集められた。その中には各地で勇名を轟かせる数多くの英雄たちがいたが、魔王の前に残ったのは俺の他にはこの三人しかいなかった。俺が糞を漏らしたのを知っているのはこの三人だけだった。この中に、糞を漏らしたことを言いふらした奴がいる。それは一体誰か――。
そんなことを考えながら俺は部屋へと入り、ゆっくりと扉を閉めた。
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