よくあるざまぁ系幼馴染の話

文字の大きさ
上 下
1 / 1

よくあるざまぁ系幼馴染の話

しおりを挟む

 俺は平凡 of 平凡な高校生、ソウタ。

 唯一平凡じゃないところは、幼馴染がいること。それも国民的アイドルの。
 そんな幼馴染の名前は仲野紗弥なかのさや

 ゴールデンタイムのテレビ番組や、大手企業のCMなどに出演したり、電車の広告にも映っていたり、それこそアイドルらしく歌って踊ったり。最近では朝ドラの主演も務めていた。
 その活動は多岐に渡り、日本に住んでいれば、紗弥の顔を見ない日はないといっても過言ではない。

 そんな幼馴染と俺は、なぜか付き合っている。
 釣り合いが取れてないのはわかっている。
 けど、向こうから告白してきたんだから仕方がない。

 国民的アイドルで売れっ子なだけあって顔は可愛いし、スタイルも抜群だ。
 そんな子の告白を断る方が難しい。

 けどそんな紗弥にも欠点がある。

 それは、俺にだけ見せる性格がちょっと......いや、それなりに酷いことである。

 何かと呼びつけて肩たたきや暇潰しの相手になるのは当たり前で、酷い場合だとロケ先にまで連行させられる。しかも実費で。
 北海道まで連れて行かれた時は本当に困った。

 それにこの前なんて、
 「あんたのその残念な顔を他の人に見せないでよね?」
 と言って、マスクとメガネをつけさせられた。

 いくらなんでも酷い。

 さらに極め付けは、付き合いたてなのにデートの一つもしてくれない。

 これは極めて重大な問題である。

 付き合いたてといえば、映画館で手を繋いで映画鑑賞したり、水族館でイチャイチャしたり、お家デートでのんびり過ごしたりと、イベントは沢山あるはずなのだ。

 もちろん、紗弥が忙しいのはわかってる。
 それでもずっとほったらかしなのはどうなんだろう。
 いくら顔が可愛くて幼馴染で信頼できる仲といっても不信感は募る。

 そう思って、俺は紗弥に言う。
 と言っても、これを言うのは五回目だ。
 三度目の正直という言葉があるが、国民的アイドルである紗弥様は、三度では許してくれなかった。

 「紗弥、デートしないか?」

 「はぁ......あんたね、私がアイドルなのわかってるの? すっぱ抜かれたらどうするのよ」

 知ってた。いつもこう断られる。
 さすがの俺もこう言われてしまったらどうしようも無い。だから、諦めて他のことを話そうとした。
 だけど今日は、紗弥のそのセリフに続きがあった。

 「だ、だから、おうちデートならしてあげるわ......」

 恥ずかしそうにしながら、紗弥は言った。
 そんな紗弥にあっけに取られて、俺はぽかんと口を開く。

 「な、なによ! 私だって彼氏と遊んだりしたいわよ......」

 少し俯いて、消え入るように紗弥は言った。
 さすが朝ドラ主演。演技が上手い。

 「その、良いの?」

 「なによ! あんたから誘ってきたんでしょ? ほら行くわよ!」

 そう言って、紗弥は俺の手を引いて、自分の家へと入っていった。


 紗弥の家、ひいては紗弥の部屋へとやってきた。
 何度も入ったことがあるし、幼い頃は一緒に寝たりもした。高校生になってから部屋に入ることは少なくなったが、それでも馴染み深い部屋。
 だけど今日は、何だか特別なものに見えた。

 部屋に入った俺は、適当な場所に腰掛ける。
 すると紗弥は、俺のぴったり横に座る。

 肩と肩が触れ合うほど近く、お互いに見つめ合えば、すぐに唇が触れ合いそうな、そんな距離。
 そしてそのあとすぐ紗弥は、曇った顔をして語りだす。

 「私ね、最近ネット小説にハマってるの。長さが撮影の移動の合間にちょうど良くて、ずっと読んでるんだけど......」

 「面白いよな。俺もよく読むよ」

 「っ! そうなんだ......それでね、知ってるかもだけど、最近流行ってるジャンルに、『ざまぁ系幼馴染』ってのがあってね......」

 なるほど。紗弥の考えていることがわかった。

 「その幼馴染キャラが私にとっても似てて、思い直したら、ソウタに酷いことしてたなって......」

 「なるほどね」

 「だからね、ソウタ。えっと、その......私のこと、嫌いに......なった......?」

 そう言った紗弥の表情は、捨てられた子犬のようで、その綺麗な顔と相まってとても絵になっていた。

 朝ドラ主演女優で、アイドルで、モデルとして表情を作ることもある。そんな紗弥は当然演技が上手くなる。
 だけど、この表情は、到底演技には見えなかった。

 本当に、一人では何もできなく、そのまま捨てられることを怖がっているだけに見えた。

 だから俺は紗弥の方を向いて、包み込むように抱きしめて言う。

 「大丈夫。俺は紗弥といられるだけで嬉しいし、どこへでもついていきたいと思ってる。流石に北海道まで行くってなった時はちょっと困ったけどな」

 「その、それは申し訳ないと思ってるわ......だけどソウタがいないと私......」

 「だから大丈夫だって。ちょっと困っただけ。それに、紗弥のためなら何だってできるよ」

 「本当?」
 小首を傾げて紗弥はそう言った。
 保護欲をそそるいい表情だ。

 「本当本当。それに俺たち幼馴染だろ? そんなことで壊れる仲じゃない」

 「小説では幼馴染だから酷い目にあってたの! だから私たちだって他人事じゃないと思って......」

 「紗弥は小説の世界に囚われすぎ。ここは現実世界で、そんなことが簡単にできるわけないだろ?」

 「そうだけど!」

 まだ不安な様子な紗弥に、俺は自分の思いを告げる。

 「それにな、たぶん、紗弥が思ってるより俺は紗弥のことが好きだよ」

 「っっ!」

 紗弥は顔を真っ赤にして、俺の胸に顔を埋める。
 これで顔は見えなくなったが、耳も真っ赤に染まっているため恥ずかしがってるのは丸わかりだ。

 紗弥は俺の胸からゆっくりと顔を上げて、こちらみてから、ゆっくりと言う。

 「私も......好きだよ」

 その時のはにかんだような笑顔は一生忘れることはないだろう。
 国民的アイドルで、朝ドラ主演女優で、日本に住んでいれば見ない日はない顔。
 でもその笑顔は、たった一人の恋人のための笑顔で、演技でもなく愛想笑いでもない。心から笑った笑顔だったのだから。


以下後書き

よくあるざまぁ系幼馴染の話(を読んだ幼馴染の話)でした。
拝読ありがとうございました。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

今夜妻が隣の男とヤるらしい

ヘロディア
恋愛
妻の浮気を確信した主人公。 今夜、なんと隣の家の男性と妻がヤるというので、妻を尾行する。 ひたすら喘ぎ声を聞いた後、ふらふらと出てきた妻に問い詰めるが…

両隣から喘ぎ声が聞こえてくるので僕らもヤろうということになった

ヘロディア
恋愛
妻と一緒に寝る主人公だったが、変な声を耳にして、目が覚めてしまう。 その声は、隣の家から薄い壁を伝って聞こえてくる喘ぎ声だった。 欲情が刺激された主人公は…

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

夫以上の男、妻以上の女

ヘロディア
恋愛
不倫相手とデートに行く主人公。 その相手も既婚者で、かなり質の悪い行為とは知っていたものの、どうしてもやめられない。 しかしある日、とうとう終わりを告げる出来事が起きる…

夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる

ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。 正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。 そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

非常識な男にざまぁみろってお話

下菊みこと
恋愛
主人公の男がドクズです、ご注意下さい。ざまぁというか因果応報です。一応主人公以外は落ち着くところに落ち着いて、穏やかな人生に戻っていきますので主人公以外はハッピーエンドのはずです。 主人公は、幼馴染が初恋の相手だった。ある時妻が我が子を出産する時期と、幼馴染の病気が重なった。主人公は初恋の幼馴染を看取ることを選んだ。 小説家になろう様でも投稿しています。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※完結済み、手直ししながら随時upしていきます ※サムネにAI生成画像を使用しています

処理中です...