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よくあるざまぁ系幼馴染の話
しおりを挟む俺は平凡 of 平凡な高校生、ソウタ。
唯一平凡じゃないところは、幼馴染がいること。それも国民的アイドルの。
そんな幼馴染の名前は仲野紗弥
ゴールデンタイムのテレビ番組や、大手企業のCMなどに出演したり、電車の広告にも映っていたり、それこそアイドルらしく歌って踊ったり。最近では朝ドラの主演も務めていた。
その活動は多岐に渡り、日本に住んでいれば、紗弥の顔を見ない日はないといっても過言ではない。
そんな幼馴染と俺は、なぜか付き合っている。
釣り合いが取れてないのはわかっている。
けど、向こうから告白してきたんだから仕方がない。
国民的アイドルで売れっ子なだけあって顔は可愛いし、スタイルも抜群だ。
そんな子の告白を断る方が難しい。
けどそんな紗弥にも欠点がある。
それは、俺にだけ見せる性格がちょっと......いや、それなりに酷いことである。
何かと呼びつけて肩たたきや暇潰しの相手になるのは当たり前で、酷い場合だとロケ先にまで連行させられる。しかも実費で。
北海道まで連れて行かれた時は本当に困った。
それにこの前なんて、
「あんたのその残念な顔を他の人に見せないでよね?」
と言って、マスクとメガネをつけさせられた。
いくらなんでも酷い。
さらに極め付けは、付き合いたてなのにデートの一つもしてくれない。
これは極めて重大な問題である。
付き合いたてといえば、映画館で手を繋いで映画鑑賞したり、水族館でイチャイチャしたり、お家デートでのんびり過ごしたりと、イベントは沢山あるはずなのだ。
もちろん、紗弥が忙しいのはわかってる。
それでもずっとほったらかしなのはどうなんだろう。
いくら顔が可愛くて幼馴染で信頼できる仲といっても不信感は募る。
そう思って、俺は紗弥に言う。
と言っても、これを言うのは五回目だ。
三度目の正直という言葉があるが、国民的アイドルである紗弥様は、三度では許してくれなかった。
「紗弥、デートしないか?」
「はぁ......あんたね、私がアイドルなのわかってるの? すっぱ抜かれたらどうするのよ」
知ってた。いつもこう断られる。
さすがの俺もこう言われてしまったらどうしようも無い。だから、諦めて他のことを話そうとした。
だけど今日は、紗弥のそのセリフに続きがあった。
「だ、だから、おうちデートならしてあげるわ......」
恥ずかしそうにしながら、紗弥は言った。
そんな紗弥にあっけに取られて、俺はぽかんと口を開く。
「な、なによ! 私だって彼氏と遊んだりしたいわよ......」
少し俯いて、消え入るように紗弥は言った。
さすが朝ドラ主演。演技が上手い。
「その、良いの?」
「なによ! あんたから誘ってきたんでしょ? ほら行くわよ!」
そう言って、紗弥は俺の手を引いて、自分の家へと入っていった。
紗弥の家、ひいては紗弥の部屋へとやってきた。
何度も入ったことがあるし、幼い頃は一緒に寝たりもした。高校生になってから部屋に入ることは少なくなったが、それでも馴染み深い部屋。
だけど今日は、何だか特別なものに見えた。
部屋に入った俺は、適当な場所に腰掛ける。
すると紗弥は、俺のぴったり横に座る。
肩と肩が触れ合うほど近く、お互いに見つめ合えば、すぐに唇が触れ合いそうな、そんな距離。
そしてそのあとすぐ紗弥は、曇った顔をして語りだす。
「私ね、最近ネット小説にハマってるの。長さが撮影の移動の合間にちょうど良くて、ずっと読んでるんだけど......」
「面白いよな。俺もよく読むよ」
「っ! そうなんだ......それでね、知ってるかもだけど、最近流行ってるジャンルに、『ざまぁ系幼馴染』ってのがあってね......」
なるほど。紗弥の考えていることがわかった。
「その幼馴染キャラが私にとっても似てて、思い直したら、ソウタに酷いことしてたなって......」
「なるほどね」
「だからね、ソウタ。えっと、その......私のこと、嫌いに......なった......?」
そう言った紗弥の表情は、捨てられた子犬のようで、その綺麗な顔と相まってとても絵になっていた。
朝ドラ主演女優で、アイドルで、モデルとして表情を作ることもある。そんな紗弥は当然演技が上手くなる。
だけど、この表情は、到底演技には見えなかった。
本当に、一人では何もできなく、そのまま捨てられることを怖がっているだけに見えた。
だから俺は紗弥の方を向いて、包み込むように抱きしめて言う。
「大丈夫。俺は紗弥といられるだけで嬉しいし、どこへでもついていきたいと思ってる。流石に北海道まで行くってなった時はちょっと困ったけどな」
「その、それは申し訳ないと思ってるわ......だけどソウタがいないと私......」
「だから大丈夫だって。ちょっと困っただけ。それに、紗弥のためなら何だってできるよ」
「本当?」
小首を傾げて紗弥はそう言った。
保護欲をそそるいい表情だ。
「本当本当。それに俺たち幼馴染だろ? そんなことで壊れる仲じゃない」
「小説では幼馴染だから酷い目にあってたの! だから私たちだって他人事じゃないと思って......」
「紗弥は小説の世界に囚われすぎ。ここは現実世界で、そんなことが簡単にできるわけないだろ?」
「そうだけど!」
まだ不安な様子な紗弥に、俺は自分の思いを告げる。
「それにな、たぶん、紗弥が思ってるより俺は紗弥のことが好きだよ」
「っっ!」
紗弥は顔を真っ赤にして、俺の胸に顔を埋める。
これで顔は見えなくなったが、耳も真っ赤に染まっているため恥ずかしがってるのは丸わかりだ。
紗弥は俺の胸からゆっくりと顔を上げて、こちらみてから、ゆっくりと言う。
「私も......好きだよ」
その時のはにかんだような笑顔は一生忘れることはないだろう。
国民的アイドルで、朝ドラ主演女優で、日本に住んでいれば見ない日はない顔。
でもその笑顔は、たった一人の恋人のための笑顔で、演技でもなく愛想笑いでもない。心から笑った笑顔だったのだから。
◇
以下後書き
よくあるざまぁ系幼馴染の話(を読んだ幼馴染の話)でした。
拝読ありがとうございました。
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