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後日談 その日の夜※
しおりを挟む【最強の弟子を育てて尊敬されようと思ったのですが上手くいきません~後日談 その日の夜~】
街のすぐ外で暴れた二人だったが、無事にまた街に入ることはできた。
エンの地元であるし、ミチハも何度も来ているので不審者とは思われなかったようだ。
仮に立ち入り拒否しようにも、魔獣役所もない街の門番程度ではこの二人を止めることはできない。
街に入った二人は、エンの実家には向かわずに宿をとった。
先ほどの戦闘で二人とも汚れているし、明らかに戦った後のこの様子ではレイナとマアサを心配させてしまう……というのは建前である。
幸いミチハはレイナに食事を外でしてくると伝えてある。食事をした後に飲んで酔っ払ったからそのまま宿に泊まったことにすれば大丈夫だろう。
いつも宿に泊まる時は一部屋ずつとるのだが、今日はどちらが何を言うでもなく一室だけだ。
それなりに値段のする部屋であることと、泊まり客が部屋に帰ってくるには少し早い時間であることもあり部屋に入ると外の音が入らない。二人だけの静かな空間で、エンもミチハも無言のまま部屋の奥に進む。
ベッドの横にお互いの荷物を置き、エンは隣に立つミチハにそうするのが当たり前のようにキスをした。
軽く口付けたあとに体を離したエンは、ミチハの顔を覗き込む。
恨み言を言う気はないが、ミチハには前科がある。また寝てないか心配になったのだ。
ミチハは顔を見られていることを分かっているだろうに目を瞑ったままだ。立ったままで体には力が入っているので寝てはいないようだけれども。
エンは指先でミチハの柔らかい唇をふにふにと触る。
ミチハはそれに反応して小さく口を動かすが、何も言わずに目を閉じたままだ。逆に瞼をギュッとつむってしまった。
「なんで、目を開けてくれないんですか?」
「その……」
問いかけるエンにミチハは瞳は瞼の裏に隠したままだ。ミチハが口を開くが言葉にならずに消えていく。何かを言いかけて口籠もる姿には迷いが伺われる。
エンはその様子に不安になった。
もしかして、この状況に期待と興奮を抱いているのは自分だけなのではないだろうか。
「俺は、気持ちを確かめ合った二人が同室ってことは、そういうことだと思ったんですけど……」
「ぅうう、はい。そうですぅ」
ミチハの口から拒否の言葉は出ず、エンは一旦安心する。
しかし、相変わらずミチハは頑なに目を閉じたままだ。
「……嫌なやらめましょうか」
もしかして、ミチハは自暴自棄になったエンを引き止めるために、エンのことを好きだと言ったのだろうか。
エンの脳裏にそんな懸念が浮かぶ。
ミチハさんの好きは、こういうことする好きじゃないのかもな
この人の場合はな……、結構残酷なことするし
さっきはほぼ俺のことを好きだって言ってるようなもんだと思ったけど、名前は勝ってからじゃないと言わないとかいうのも、予防線ってこともあるか
エンはがっかりする気持ちもあったが、半分くらいは納得もしていた。
あんまりなことを言うミチハにキレてしまい流れで告白したが、まずはミチハに恋愛対象として意識してもらおうぐらいの気持ちだったのだ。
恋愛感情というものが備わっているのかも心配していた相手とここまで進んだのだ。
今日のところは仕切り直して、またアプローチをしていけばいいとエンは気持ちを切り替えた。
エンが心の整理をしてミチハに寄せていた体を離そうとすると、ミチハがエンの服の裾を引っ張った。
「ゃ、やめないで……」
「え?」
ミチハは小さく呟いて、瞼を震わせながらゆっくりと目を開いた。今まで隠れていた瞳は潤んでいて、ゆらゆら揺れる蜜色の瞳は最高級の蜂蜜のようだ。
「は、恥ずかしいだけなんだよ」
エンの服の裾を握ったまま、ミチハは体を縮こまらせながらそう言った。
普段は自己中心的と言えるほど堂々としているミチハが、今はエンの目の前で体を縮こまらせて羞恥に耐えて震えている。
赤らむミチハの顔を至近距離で見て、我慢できるほどエンの理性は強くなかった。
「ッア、ま、待って、ゥンッ」
先ほどよりも、深く長く口づける。
ミチハの口の端から唾液が漏れているのを頬とペチャペチャという水音で感じた。
一度エンが口を離すと、ミチハは大きく呼吸をして息を整える。
「ここで待ては正直、キツイんですけど……」
エンの言葉に、ミチハはベタベタになった口のまま、視線を逸らす。
呼吸を遮断されていたのもあってか、先ほどよりもより頬は赤く火照っているように見える。
「そのさ、あんまりこういうの慣れてなくて、色々お任せしたいんだけど」
「ああ、俺も男は経験ないんですけど」
エンは荷物の中から袋を取り出す。
中には男同士でする場合に必要な準備する用具やローションやらが入っている。
「これって……」
「俺が用意したわけじゃないですよ。シタンさんに押し付けられたんです」
ポカンと袋の中を見るミチハに、エンは気まずくなって視線を逸らす。
以前シタンがエンに「やるよ。使用期限が切れるまでに使えたらいいな」とか言って押し付けてきたのだ。
とはいえ、その後保管しづつけていたのはエンなので、期待をしていなかったとは言えない。
エンの言葉を聞きながら袋の中身を見ていたミチハだが、「ちょっとトイレ!」と言ってエンの返事も待たずに準備用の道具を持って行った。
これは、準備しに行ってくれたということだろうかとエンは困惑しながらベッドに座って待つ。
トイレから出てきたミチハは、ちょっと恥ずかしそうにしながらエンの横に座る。
「その、俺が抱くんでいいんですか?」
正直エンは、どちらが抱くか抱かれるかで一悶着あるものと思っていた。
エンとしては出来れば抱きたいが、ミチハが嫌だというなら譲ってもいいとは思っていたのだが。
「その、オレ馬鹿力だからさ、抱く側になったら壊しちゃわないかなって」
……それは確かに俺もちょっと怖いな
先ほど告白直後に腹に直撃したミチハの蹴りは青痣になりかけている。
今はまだ熱を持っているくらいで、先ほど冷やしはしたが明日になったら痛むに違いない。
戦闘中はエンも気を張っているからこの程度で済むが、ベッドの上でミチハが主導権を握っている状態では、馬鹿力で体のどこかが破壊されかねない気はする。
「でもでも、エンと気持ちいいことはしたいんだ」
引いているエンに気付いたようで、ミチハは焦ったように言い募る。
エンが何かを言う前に、ミチハは上半身の服を勢いよく脱いで、脱いだ服と一緒に自分の両腕を差し出した。
「だから、腕しばってくれない?」
エンは心臓を撃ち抜かれるたかと思った。
これは服を使って腕を縛ってまで、セックスしようと言われているということで間違いないだろうか。
好きな人にそんなこと言われて我慢できる人間がいるだろうか。
エンは言葉を出すのも忘れて、差し出されたミチハの腕を縛る。
異名の通り、天界に住んでいるかのような美形が、裸体で腕を縛られている。
ベットに座るその姿を見ると、エンは背徳感が膝裏から背筋を伝い脳まで届くのを感じた。
エンは自分が、好きな人には優しくしてあげたいタイプだと思っていた。だが、たった今、自身の中にある嗜虐心を目覚めさせられた気分だ。
エンがゆっくりとミチハの肌に触れると微かに震えている。
恐怖を感じることなどなさそうなミチハのこの様子にエンの興奮は増していく。
もっと虐めてやりたい欲求を、優しくしたい気持ちがわずかに勝りミチハに声をかける。
「ミチハさん、怖かったら言ってくださいね」
「こ、怖くないもん!だからやめないで……」
ミチハは体の前で括られた腕をエンの首に引っ掛けて体を寄せる。
首元に顔を埋められてエンから顔は見えないが、背中がうっすら赤いのを見るときっと頬を同じ色に染めているのだろう。
「分かりました。だけど、ちょっとでも嫌ならすぐ言ってくださいね」
うっすら汗ばむミチハの背中を撫でながら告げると、ミチハがコクリと頷いた気配を感じる。
そのまま掌をミチハの胸元まで滑らせる。
「ンッ……ぁ、」
胸の飾りを擽ると、ミチハは吐息を小さく漏らす。
首元で吐息を感じながらなぶっていると、エンは自分の膝が濡れていることに気づく。
ミチハが我慢しきれないように擦り付けてきていた下半身が、ビショビショとエンのズボンを濡らしていた。
「ヒャッ、ァア、それッ」
導かれるように濡れそぼった下半身を扱くと、ミチハは刺激を逃がすように上半身を反らす。
エンは自然と自分の口元に差し出されたミチハの乳首に吸い付いた。
「ン、ぅう、ハァ……それ、きもちぃ」
「どれ?どこが気持ちいいの?教えて師匠」
「こ、こんな時に師匠って言うなッ」
「じゃあ、ミチハ、おしえて?」
エンの言葉でミチハの蜜の瞳が溶けていく。
「わ、わかんないよぉ」
ミチハの瞳が熱された飴細工のように潤む。
緩んだミチハの口元から垂れる唾液が甘そうに見えて、エンは口の端に舌を寄せて舐めとる。
あんなに強いミチハが、自分の腕の中でとろとろに溶けている。
その事実がエンの脳みそを焼く。
片手はミチハの濡れそぼった前を扱きながら、もう片方の手を後ろに回す。
ミチハが準備をしてきた中はほぐれており、暖かく柔らかくエンの指を迎えいれる。
焦らないように自分に言い聞かせながら、エンはゆっくりとその穴の中で指を回し、徐々に指を増やす。
「ぇ、エン、もう入れてよ……」
いつも自信満々で舞台俳優のようにハキハキ喋るミチハが、声を振るわせ甘えたようにねだってくる。
エンは気付けばミチハの中に挿入して、欲の赴くままに揺さぶる。
気付けば果てて、二人で大きく肩を揺らしながら息を整える。
夢中で一瞬前のことなのに、もう記憶にない。
ただ、強烈な快感と、ミチハの喘ぎ声と、首元にかかる吐息の熱さをはっきりと覚えている。
「……ミチハさん?」
途中から理性が飛び、自分勝手にしてしまった自覚のあるエンはミチハの様子を伺う。
ミチハに負担をかけたのではと心配するエンに、ミチハは縛られたままエンの首に回していた腕を外し、エンの顔をまっすぐ見ながら笑む。
涙が滲む瞳を緩ませ嬉しそうに笑った顔は、今までエンが見たミチハの表情の中で一番幸せそうだった。
ミチハの微笑みを、エンは時間が止まったようにミチハを見つめ返していた。
「あ、すみません、外しますね」
その笑みになぜか動揺してしまったエンは、視線を逸らしながらミチハの腕を解放する。
すると、ミチハはエンの頬を両手で包み込んで目を合わせた後に、
ちゅっ
と、エンの唇に触れるだけのキスをした。
そしてまた微笑みながら、ミチハは口を開いた。
「きっとエンはオレといるより別の人と結ばれたほうが幸せになれると思う」
「は?」
エンはまた、ミチハが何を言い出したのかと聞き返す。
ミチハの思考はエンには想像がつかないことを今まで散々学んだばかりなので、一旦話を聞こうと目線で促す。
ミチハは、切なそうな申し訳なさそうな顔をしながら口を開いた。
「でも、もう無理。他の誰にもエンのこと譲ってあげられないよ」
ハアーーーっと、エンの今までの人生で一番のため息が出た。
エンはこの人に何度ため息を吐かせられたか分からないが、今が一番呆れている。
ミチハは何も分かっていない。
馬鹿だなぁミチハさんは
あなたのその言葉が聞けただけで俺は、
「これ以上の幸せなんてないですよ」
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