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第三話 討伐者登録

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エンは名前も知らない人間を、仮にも師弟関係に勧誘するミチハの豪胆ぶりに呆れてしまった。ミチハの勢いに飲まれて、エンも問われるまで名乗っていないことを忘れていたのだけれども。
一応名前は教えたが、今からでも承諾を撤回すべきかとの考えが頭をよぎる。
ミチハはそんなエンの迷いを察したのか、すぐさま「エンか!ぴったりのいい名前だね」と握ったままだったエンの手を引っ張りあげた。そして、引っ張られるままに立ち上がったエンを誘って歩き出す。

「じゃあ、さっさと討伐者として登録しよっか」


【最強の弟子を育てて尊敬されようと思ったのですが上手くいきません~第三話 討伐者登録~】



ミチハの勢いに押されてやってきた魔獣役所でエンの登録はあっさり終わった。
正直なところエンの気持ちとしては、これから自分が討伐者となることよりも、ミチハと一緒にいることへの不安の方が勝っている。

「エンの任務申請用紙だよー。オレのと一緒にだそう?」

討伐者はバディ制で必ず二人一組で任務を受けなければならない。任務に申請すると同じ任務を希望している人間と組むことになる。だが、こうして同時に申請すれば意図的に組みたい人間とバディになることもできる。
ただ、大抵の人間はそんな面倒なことはしない。十回以上同一任務に行ったバディは魔獣役所に取られる手数料が増えるのだ。特殊な事情や、家族で組むとか師弟関係とかでなければ取り分が減るのは皆嫌がる。
師弟関係は置いておくとして、エンにとっては強さと金の保証されているミチハの元で討伐任務に慣れることは、手数料を考慮しても大きなメリットだ。目先の金に囚われて死んでは元も子もない。しかも、手数料を差し引いた取り分について、普通は強い方が多め配分するところを半々にしてくれるというのだから尚更だ。

まあ強いのは確かみたいだし、とりあえず数回は一緒に討伐に行って様子をみるか
いざとなったら手数料のことを理由にして、やっぱり嫌だと逃げればいいや

決意を固めるエンに、ミチハははい!と申し込み用紙を渡してきた。

「書き方わかる?オレのやつ見本にしていいよ?」

エンが登録中に記入していたらしいミチハの申込用紙にはミチハのポジションの欄に『前衛:剣士』と書かれていた。
討伐者は二人組ならポジションはどういう組み合わせでもいい。だが、田舎から出てきたばかりのエンは一番有名な『前衛の剣士と後衛の魔法士』というパターンしか知らなかった。

「俺、剣士になるつもりなんだけど……」
「やっぱり?そうだろうと思った!」

予想が当たって無邪気に喜ぶミチハ。
噛み合っているようで成り立っていない会話に、エンは若干イラッとしながら質問を重ねた。

「アンタ、ものすごい魔法使ってたけど魔法士じゃねーの?」
「エンは剣士だろう?お手本が身近にあったほうが上達するじゃん」
「いや、そりゃそうだろうけど、そもそもアンタ剣を扱えるのか?」
「オレはなんでもできるよ」

ドヤっと胸を逸らすミチハだが、エンは彼のノリがあまりに軽くて不信が募る。

「できるって、どの程度?」
「うーん、単純に剣の腕前だけなら世界で何番目ぐらいかって感じじゃない?」

何番目って、一体何番目だよ
その返答じゃあ、三万五百一番目とかの可能性もあるぞ

内心でツッコミを入れながら、改めてミチハの全身を観察する。
ピンと背筋の伸びた肢体には実用性と鑑賞に値する美しさを兼ね備えた筋肉が綺麗についている。
決してひ弱には見えないが、全体的には細身と言って良いだろう。
剣を扱う人間の体つきには見えない。いくら名剣でも血がつけば切れ味が悪くなり、叩き切るには腕力が必要だ。剣士は基本的に筋力がものを言う。

ヘラヘラしていて信用ならないが周囲の反応からして強いのは確かみたいだしな
剣が扱えるというのは嘘じゃないんだろうけど……
魔法がすごくて剣はそこそこ、ってところか

「そういえば、アンタいくつ?」
「えーっと、たぶん二十代にはなったかな」

自分の年齢があやふやなのか。
捨て子とか、出生がはっきりしない生まれってことか?

「なんか途中で年齢数えるの面倒になってさ、今って何年だっけ?確か親が滅世龍の襲撃と同じ時期に生まれたって言ってたから……」

それで計算すると今年で十九歳ということだ。
親からエピソードを聞いたと言うことは捨て子ではなさそうだ。

ほんとよくわからない人だな
たった十九年で数えるの面倒になるか?
おっさんとか老人なら分かるけど……
この人の言うことをまともに捉えて考えるのはムダだな

「エンは何歳なの?」
「俺は今年十七だ」
「おー、伸び盛りじゃんいいねぇ」
「ジジイみたいなこと言うな」

歳の差は二歳。とはいえ、現時点でエンはほぼ同程度の身長で、体の厚みに関しては優っているくらいだ。
成長が早いと背が伸びないなんて話もあるが、親もがっしりしていたのでまだまだ成長する見込みである。
エンは地元では喧嘩三昧で、たいていの喧嘩には勝っていた。
討伐者以外は武器の携帯を禁止されているので剣は使ったことはないが自信はあった。

「あ、シシンの討伐依頼あるよ」

楽器を演奏するのが専門だと言われても納得するようなミチハの可憐な指先が、受付中の任務が書かれた掲示板を指す。

強くしてやる、なんて言われたけど、剣ではあっという間に追い越しちゃうんじゃないか?

エンはミチハに促されるままに任務の情報を見て、任務申請をした。
そしてその任務でエンの考えは、すぐに覆されることになる。

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