君がため 

balsamico

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10 牧田2 地元2

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 まず大山には担任に盛田や大村達から暴力を受けていることを相談させた。
 
 担任は今後注意をして見守ることや直ぐの席替え、次年度のクラス替えでクラスを離すことを約束してくれたらしい。


 そして大山に新規の居場所や逃げ場所として、非電源ゲーム同好会を勧めた。
 部長は俺の数少ない学校内の知己で、好きなゲームの事になると喋り出したら止まらない、変わっているが芯はしっかりした奴だった。他の面子は大村達とは正反対の無害そうなメンバーばかりだった。


 図書館に行って大山の学力を確認した。英語がボロボロ。国語も文章がまとまらない。数学は分数から怪しい。数学は捨てるとして、英語をなんとかしなくては。他は……。


「選択は世界史だよな。世界史はどうなの? 」

「わりと好き。シミュレーションRPGとかやっていたから」


 世界史は少しづつやればいいか。問題は英語。

「中学からやり直すか。教科書残ってる? 」

「捨てた」

「参考書を買える金、今ある?」

「それほど高くないものなら買えると思う」


 二人で大きなターミナルの書店で、中学英語をやり直す参考書を買った。ネットで評判がよく実際に見て使い易いものを選んだ。


   右ページの解説文、例文を読みCDを聞いて音読し左ページの問題を解く。これを3回繰り返してもらった。


 大山は指示したことは確実にやってきた。分からないことがあるとメッセージアプリを使い写真付で質問を寄越す。
 素直な上、飲み込みが早く、自分でもどうすれば定着するか考えて取り組んでいた。


 中学英語の問題集も順当にこなし課題図書も読みこみ読書の速さも上がった気がする。


 内容の要約も最初のころは文章の内容があちこちに飛んでいたり、てをにはの使い方がおかしかったり主題と離れた些末な事を書いていたり。
 それが継続することですっきり簡単にまとめられるようになった。


 大山は勉強が出来ないのではなく、して来なかったが正解なんだろう。それと盛田達と縁を切りたい、ここから抜け出したいという一念がこの努力につながっている気がする。


 一緒に勉強を始めてから大山が俺に向けるようになった信頼しきった顔、無邪気な笑顔。


  俺は純粋じゃないのに。飲み終えたばかりの薬の苦さがずっと口内に残っているみたいだ。


 今は少しでも内容をものにするのが大事なので余計な事を考えるのは後回しにした。







 某大の合格発表サイトの第2次学力試験受験番号に俺の番号はなかった。順当に行けば大丈夫だろうという見立てだったが順当じゃなかったんだろう。


 自分で反省するならば、過去問に取りかかるのが遅かった気がする。この結果を大山は気にするだろうなと思った。



「詠、学校に行かなくていいのかい?」

 こたつで寝てばかりの俺を気づかうように祖母が声を掛けてくる。第一志望に落ちた衝撃で落ち込んでいると思われたのだろう。献立も好物ばかりで、なんだか優しい。


 学校に行かない理由としては、あれだけ学校で格好つけている割に失敗して恥ずかしい、会わせる顔がないという理由も少しはあったが、もう取り繕う必要がないと思ったのが主な理由。


 登校しなくても卒業には支障がないし少数を除いて会いたい奴もいない。今更どう思われても構わない。


 同級生たちは高校という空間で交差しても、今後の自分の人生に関わらない。完全な過去になる。


 大山はお互い連絡先を知っているし、向こうから必要があればまた繋がるだろうと思った。


 壁に掛かる時計を見上げると卒業式が始まる時間だ。結局卒業式にも行かなかった。後日書類を取りに行こう。


 大山が訪ねてきた。特に家の場所を教えてなかったのに調べてやってきたらしい。上がってもらって話をした。


 大山は嬉しそうにしている。すがすがしい笑顔がまぶしくて真っ直ぐには見れない。大学に合格して東京に行ける事が本当に嬉しいようだ。手伝えてよかった。




 大山とは、東京で再会の約束をした。



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