赤い果実の滴り

balsamico

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髪紐

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母が亡くなってからテオの寝室で一緒に過ごすことが増えた。


日の終わりに今日起きた出来事をテオに伝える、それが毎日の日課になっていた。
植物の成長具合や庭師の意見、台所の戸棚の底が抜けたなど。
他に私が聞いたこと、見たこと、感じたことなど、自分でも面白味を感じない平凡な話ばかり。


これは、そうしてほしいとテオから要望があったから。何でそんなことを知りたがるのか私にはわからなかった。

「君が何に関心を持って、どのようなものに敬意を払っているかを知りたかったから」

テオはそう言うけれど相手を知らないのは私も同じ。

「私が話すのであればテオの話も聞かせて。訓練所の話だとか。私も知りたい」

結局、交互にお互いの一日の出来ごとを話すことになった。


私は話を聞かれるのが苦手で、相手に見られていると思うと緊張してうまく話ができない。途切れとぎれになるつたない話もテオは根気強く付き合ってくれた。


テオの番が来る前にテオが寝落ちてしまうこともしばしあった。
過酷な訓練所の仕事、それは私には想像もつかないものだった。私は掛布をかけ横で寝入るその人の日に焼けた寝顔に見入っていた。





テオの腕に固定され、逃げ場のない私の顔にたくさん唇が落ちてくる。
避けようとするけれど、避けた側にテオがいて思いっきり口を吸われてしまった。


口の中を舌が跳ね回り上顎から歯列をなぶられる。くちゅくちゅした水音が部屋中に響く。


しばらくするとテオの顔が離れた。
目をぎゅっとつむってしまったから視界がぼやけて見えない。
息ができなくてぼうっとする。


焦点が合うようになるとテオと目があった。食らい尽くされてしまいそうな強い目。
顔はうっすら汗ばみ赤らんでいる。
再度近づき、また唇を激しく吸われた。


テオの唇は私の首をたどり喉元に降りてきた。テオが触れたところは熱をはらみ、身体の深部まで熱くする。


テオは私の腕をさする。
腕を撫でられただけなのに私の背中はそそけ立つ。

「脱がせても、いいかな……」

テオは私の寝室着に手を触れて聞く。


先日見たカイルの乳母の白い胸が頭を過った。赤子に乳を与える時のあの表情も。
私の胸は薄くてあの胸とはほど遠い。
見られるのはとても恥ずかしく思えた。


頭を横に振ると背中だけでもとお願いされた。前を掛布で隠して服を脱いだ。


背中にテオが口づける。
そのたびに身体の中をちりちりするものが行き交い、ますます身体が熱くなる。


テオは私の髪をまとめていた髪紐をほどき、引き抜いた。
ぱらりと広がる色の薄い髪が私の背中を覆っていく。
テオは何も言わず、ただ、見ていた。

「――何でこんなにきれいなのに、隠しているの。もったいない」

テオは私の髪を優しく数回撫で、毛束を持ち上げ口付けた。私はテオを見てから目を伏せた。

「……この髪は気持ち悪いって。この目は魔女の目だって、言われて、気持ち悪いと……」

異母兄弟たちに罵られていた幼い頃を思い出した。遠巻きにして私と母に近寄らない使用人たちもいた。
その情景を思い出すと鼻の奥がつんとして、目が潤んでくる。

「それは、あなたの母君が父君の寵愛を受けていたから。嫉妬されていたのかもしれない」

テオは私の顔を覗き込んで言う。

「何も気持ち悪くなんかない」

テオは前を隠す掛布越しに抱きしめてきた。布越しに感じる熱くて厚い筋肉の身体。

「きみはとてもきれいだ。もっと自信を持っていいんだよ」

いつの間にか掛布は下に滑り落ち、私は裸のまま抱かれていた。
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