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ハチミツと練乳
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練習に顔を出すと言った手前少し時間を潰してから真城と連絡を取ると大学近くの居酒屋で合流する事になった。
その間、真城が羨ましいと30回くらい聞いた。
忙しい筈なのに意外と暇そうだからサブステージの実行委員に推薦すると「それは駄目」だと、まるでよく出来た人格者のように穏やかに笑う。
そのままの外面を貫いてくれればいいものを、真城と合流すると、優しげで大人な口調のまま子供っぽい毒を盛り込んで来るものだからいつもの通り黙ってやり過ごすなんて無理だった。
最初はまだ良かった。
「疲れただろう」とか「後は引き受ける」などを連発して、遠回しに「お前は帰れ」と催促していただけだった。
しかし、お酒のピッチが速く、よく喋る真城に釣られて飲み進んでいくと、普通の会話の語尾に「殺すぞ」とか「消えろ」が混ざり始めた。
蓮も飲めと言われても飲めるか!
自分でも驚く程に話している夏だ。
会話を主導するなんてやった事ない。
話題のすり替えもやった事ない。
存在を消したままやり過ごすってこんなに難しいものだったとは思いもしない。
色々……本当に色々危ない事を言い散らかし、時には的外れに凄んだりしていたけど、助かったのは真城もまた、かなり酔っていたって事だ。
髪にお酒の匂いが付く程何度も落ちて来た頭へのキスも、「蓮は僕のものだ」との謎の所有権も綺麗にスルーしてくれた。
抱きついて来るクリスに向かって「蓮だけ狡い」とハグを強請った末に「男なんか」と腑に落ちない事を言われても、優しげな口調に騙されていたのか突っ込みもせずに笑っていた。
ベロベロに酔ったクリスを連れて帰るのは大変だった。
「ムラムラするねぇ?」と同意を求められてもどう答えればいい。
「やっぱり帰る」と横道に逸れるのもやめて欲しかった。
だから、自分の部屋に帰るより駅近であるクリスのマンションに帰って来たのは他に選択肢がなかったからだ。
そして、部屋に帰って来てから問題の練乳と蜂蜜を持ち出されて困っていた。
「どっちがいいかと聞かれても……」
「蓮が好きな方でいいよ、蓮が舐めるんだから」
舐めろと言われたら舐めるけど蜂蜜は臭いがあまり好きではないのだ。どっちにろ2択を迫られているのだがら練乳を選ぶと満足そうに笑った。
「それで?練乳を飲めと?」
飲めない分食べてばかりだったからお腹は空いてない。
「一口でいい?」
「飲むんじゃなくて舐めるんだよ」
「どっちにしても舐めるくらいしか出来ないけど」
何をさせたいのかはわからないがクリスが喜ぶポイントなんかどうせわからない。
とにかく蓋を開けてひと舐めすれば満足するだろうと思っていたら風呂場に連れ込まれた。
「服……を着たまま…なんだけど…」
「そこがよくない?」
「でも……あ、わっ!」
止める間もなくシャワーの栓が開けられ、1番高い位置に設置したシャワーヘッドから飛び出た水がザアッと服の生地に跳ねて飛んだ。
「何するんですか…もう……」
「練乳ならいいんでしょう?ほら塗り付けていいよ」
何の事なのかと思ったらにこにこと笑うクリスが高そうな綿パンツのボタンをプツンと開けた。
すると、例の凶悪な雄々しいそれが自動的にチャックを下げて行く。
まるでトイレにも行かない人形に見えるくらい清潔でソフトで美しい風貌をしているクリスの中で唯一猛々しく生々しい場所だ。
思わず身を引いた。
「酔ってますよね?」
「酔ってない」
「嘘付け」
「酔ってるけどいいんだ、このままだと大変な事になるから予防しようかなって思ってさ」
「大変って顔じゃ無いけど…」
しかし、すでに何度か色々とやってしまっているのだ……アレやコレや。
その中で全部やればいいと何度も言っているのにクリスはまた今度と笑いながらも最後は風呂場に籠ってしまう。実は嫌なのかと考えていたところでもあった。
「わかった、やってみる」
やってもらうばかりで何もした事が無いのはフェアでは無いだろう。
既にお湯になっているシャワーを浴びながらパンツの前から飛び出ている盛り上がった下着に手を掛けた。
妙に素知らぬ顔をしたクリスは立ったままだ。
膝を付いて濡れた下着をペロンと捲ると顔を出したそれは予想通り凶悪だった。
「わ………」
いつからだったのか、反り勃ったそれは血管が浮き出る程に膨張して酷く禍々しい。
身の縮むような嫌悪感が湧いて思わず生唾を飲み込んだ。
怖い。怖いとしか言いようがない。
何が出来るかはわかっていないが、取り敢えずは練乳のチューブを搾ってみた。当たり前だがシャワーに流されて塊のまま落ちてしまう。
「塗ってよ」
頬を取られて持ち上がった顔に驚く程優しい顔をしたクリスからキスが落ちて来た。
濡れていつもより更に小さく見える頭にシャワーのお湯が降り注ぎ、傘となって流れて行く。
円を描くように舐められて行く上顎は最初の方は擽ったいのだが、暫くすると頭がぼやけるくらいに気持ち良くなるのだ。
膝を付いたまま、見上げる形でのキスに酔っているとクリスの片手が右手を取った。
誘導される場所はわかっている。
余りにも硬い感触に思わず指を引いたが、頑張って手を伸ばして握り込むと驚く程太かった。
「やってくれる?」
「俺でいいなら」
「蓮がいい」
コツンと合わさった額から離れて向き合ったのは雄そのものだ。手の中に練乳を出してから塗り付けようとしたが、その時ある事に気が付いた。
「ねぇ、練乳は無くても良くない?」
「は?やってくれるって言ったじゃん!練乳を舐める蓮が見たいの!そうじゃなきゃやらしてやんないよ!」
「………やらしてくれなくても…いいけど…」
少しウザい。
見た目よりももっとベロベロに酔っているのだろう、いつもなら優しく、大人っぽくリードしてくれのにこの日のクリスは駄々っ子のようで独特の価値観を爆発させていた。
意味のわからないイベントなのだが、どこに価値観を持つかはそれぞれだとは思う、言われた通りに猛っているそれに練乳を塗ってみた。
「ハハ……嘘みたいに興奮する」
「流れて行くけど……」
「いいから舐めて舐めて」
言われなくても舐めます。
強かに濡れているせいもあるが、キレたり笑ったりしていた事もあって恥ずかしさは消えていた。
何をどうすればいいかはわからないからとにかく流れてしまう前にと、練乳を舐めてみた。
「わ……痺れた…」
「静電気なんて水で流れてます」
「違うよ、蓮はわかってないんだと思うけど、感激に震えてるんだよ」
「…………うん、今までごめん、何もしなくて」
そう言いながら練乳足した。
すぐ流れてしまうのは同じだから慌てて舐めとっていく。
同じ事を何度か繰り返している時だった、気が付いたら影が差しシャワーのお湯が降ってこない。
どうしたのかと顔を上げると腰を引くように体を折ったクリスの背中でお湯が跳ねていた。
伏せて目を閉じている顔は苦しんでいるのかと思える程苦悶の表情を浮かべている。
「見たい」と喚いていたのにどうしたのか気になった。
「下手すぎて怒ってる?」
「そんな事は無い」と笑ってくれる事を期待して聞いたのに、返ってきたのは「口に入れて」の一言だけだった。
「わかった」
やれるかどうかより早くしなければと考えた。
手を添えて含んでみると口は満杯なのに先の方しか入らない。もう少しだけ頑張ろうとした時だった。
頭を覆った手にグッと押され、競り上がる嘔吐感に呻き声が出た。
「ごめん!蓮、もう無理、無理!」
無理なのはこちらも同じなのだがクリスは離してくれない。ハァハァと聞こえる荒い息遣いが異常な程の興奮を伝えていた。
押し出される腰が更に奥を突き、抑えられた頭に逃げ場無かった。
「んんっ!!」
涙と涎と嘔吐感に溺れていた。
クリスのそれは喉の奥のそのまた奥まで入ってこようとするのだ。
「ごめんね」「ごめんね」が続く中、死ぬと思ったのは言い過ぎでは無かったと思う。
「やりたいなら………やればいい」
シャワーはまだ出しっぱなしのままだった。
拳を振り上げて脇腹を殴り続けた結果、やっと離して貰えたが襟首を捕らえられた状態の目の前で最後の後処理を見せられている。
足を投げたし床に座り込んでいるクリスは項垂れたまま「ごめん」と小さく呟いた。
「俺が大事なんて嘘だろ、地味な男となんかやりたく無くだけなんだ」
「それは違う!」
ハッと顔上げたクリスには乱れた痕跡のように薄らとクマのようなものが出来ている。
そのせいで狂気じみて見えた。
「あんたは自分のサイズをわかってるよな、俺は物じゃない!可哀想だと思ってるんだろ!嫌なら中途半端に優しくしてくれなくていい!」
「違うよ、それは違う、酔って調子に乗ってたのは認める!蓮と練乳の組み合わせに興奮してたのは事実だ!その後は………ちょっと理性が吹っ飛んで………」
ヘニャヘニャと語尾が縮んでいでいった。
「それは下手だったから?」
「下手だったけど……それよりも何よりも蓮があんまりにもエロいから…」
「エロい?嘘だ」
「は?どうして僕が嘘を言うんだ、蓮は自分を知らないんだ!知らなさ過ぎる!赤い綺麗な舌を出して僕のアソコを舐めてるんだぞ?!興奮するだろ!理性なんか吹っ飛ぶだろ!」
「……………はい」
これは逆ギレと言ってもいいのだが、あまりの迫力に思わず頷いてしまう。
しかし、喧嘩をしている途中で分かってしまった。
見た目がいい事と背が高い為に気付けていなかったが、クリスは疲れているのだ。
いつもいつもクリスより早く寝てしまう為、夜中にどうしているかなんて知らないが、沢山追っている役目を考えるとストーキングしている暇がある事自体がおかしいのだ。
「………もしかして寝てないの?」
「え?寝てるよ、眠る蓮の顔を見ていると言ってもいいけどね」
「………寝て無いんだね?」
ある程度の規模から選出した成功者の統計を取ると睡眠時間は平均4時間程度のショートスリーパーが多い言われている。(統計学の講義で謳われた雑学)普段はそれで平気だからいいのだろうが、もし少しでも欠けたら融通の効く睡眠時間では無い。
「今すぐ頭を洗いましょう、体を洗いましょう、服を脱いでください、僕も脱ぎます」
強かに濡れた衣服は簡単には脱げないのだが、クリスが買った細身のジーンズはとにかく手強い。
お湯が流れる床に腰を落として片足を引き抜いた、もう立って脱ぐ方が早いように思えた。
足の指で裾を掴んで踏み付けていると、クリスがやめろと言いながらオタオタとした。
「クリスも脱いでったら、さっさとシャワーを終わらせて寝ましょう」
「いや、僕は後にするから蓮がまずシャワーを浴びなさい」
「どうしてですか、もう濡れてるんだしこのままちゃっちゃと洗って出た方が早いでしょう」
「無理だから!何するか僕にもわからないよ?!」
「やるならやっていい」
問題だったジーンズは脱げた、後はパンツとTシャツだから楽だった。
しかし、頭からTシャツを引っこ抜くとクリスが消えている。やっている事が支離滅裂なのだが、それならそれでいいからシャンプーを髪に落としてついでに体も洗ってしまった。
「クリス?終わったから入って」
泡切れと共に風呂場を出ると濡れそぼったままの服も脱がずに立ち尽くすクリスがいた。
普段のクリスならいそいそと着替えを用意したりタオルを用意したりしているのにただ呆然としているだけだ。
脱衣所の床に出来た水溜りを見ると溜息が出たが、そんなものはいいから早くクリスを寝かせてしまいたかった。
「ほら、服は中で脱いでそのまま放置して、後で俺が洗濯機に入れておくから」
「蓮…怒ってない?」
「怒ってたけど怒ってないから早く!」
何故か幼児帰りが激しいクリスを風呂場に押し込んでから着替えを取りに行った。
まずはパジャマを着て、クリスの分は大好きな体操服にした。(アパートとマンションを行き来している)
何よりも重要な事はクリスより先に寝ない事なのだがこれは誰もが考えるより難問なのだ。
得意技があるとすれば寝入るまでの時間と答える。
妙に長いクリスのシャワーを待つ間に眠くなってきている事も問題だった。
しかし、見張っていないとそのうちに倒れてしまうかもしれない。学生会の執行部は大変な大所帯だが学祭の進行を全て把握しているのは数人しかいないのだ。一方社員に全てを任せていると躱していた持ち会社の方も何もしていないなんて嘘だと思えた。
馬鹿正直に体操服を着込んだクリスが風呂場から出て来ると背中を押してベッドの中に押し込んだ。
何かを言い掛ける口は手で塞ぎ、この後に出来る事と言えば一つしかなかった。
薄い毛布の上に置いた手に伝わる心音は速い。
魔法を使う母親の手を真似てポンポンとリズム遠取った。
最初は驚いたようだが照れたようににっこりと笑ったクリスはなにも言わずに目を閉じている。
そうするうちにゆっくりとゆっくりと速度を落とす心音が平常を取り戻していく。
知らない間に降り出していた雨の音が聞こえた。
風もあるのか外に吊り下げたままのハンガーが何かに当たってコツコツと鳴いている。
ふうっと沸き出て来るメロディが気持ちよかった。気持ちがいい分眠かった。
「もういいから……」
「おいで」と誘う優しい手に抱きとめられて崩れ落ちた所までの記憶はあった。
その間、真城が羨ましいと30回くらい聞いた。
忙しい筈なのに意外と暇そうだからサブステージの実行委員に推薦すると「それは駄目」だと、まるでよく出来た人格者のように穏やかに笑う。
そのままの外面を貫いてくれればいいものを、真城と合流すると、優しげで大人な口調のまま子供っぽい毒を盛り込んで来るものだからいつもの通り黙ってやり過ごすなんて無理だった。
最初はまだ良かった。
「疲れただろう」とか「後は引き受ける」などを連発して、遠回しに「お前は帰れ」と催促していただけだった。
しかし、お酒のピッチが速く、よく喋る真城に釣られて飲み進んでいくと、普通の会話の語尾に「殺すぞ」とか「消えろ」が混ざり始めた。
蓮も飲めと言われても飲めるか!
自分でも驚く程に話している夏だ。
会話を主導するなんてやった事ない。
話題のすり替えもやった事ない。
存在を消したままやり過ごすってこんなに難しいものだったとは思いもしない。
色々……本当に色々危ない事を言い散らかし、時には的外れに凄んだりしていたけど、助かったのは真城もまた、かなり酔っていたって事だ。
髪にお酒の匂いが付く程何度も落ちて来た頭へのキスも、「蓮は僕のものだ」との謎の所有権も綺麗にスルーしてくれた。
抱きついて来るクリスに向かって「蓮だけ狡い」とハグを強請った末に「男なんか」と腑に落ちない事を言われても、優しげな口調に騙されていたのか突っ込みもせずに笑っていた。
ベロベロに酔ったクリスを連れて帰るのは大変だった。
「ムラムラするねぇ?」と同意を求められてもどう答えればいい。
「やっぱり帰る」と横道に逸れるのもやめて欲しかった。
だから、自分の部屋に帰るより駅近であるクリスのマンションに帰って来たのは他に選択肢がなかったからだ。
そして、部屋に帰って来てから問題の練乳と蜂蜜を持ち出されて困っていた。
「どっちがいいかと聞かれても……」
「蓮が好きな方でいいよ、蓮が舐めるんだから」
舐めろと言われたら舐めるけど蜂蜜は臭いがあまり好きではないのだ。どっちにろ2択を迫られているのだがら練乳を選ぶと満足そうに笑った。
「それで?練乳を飲めと?」
飲めない分食べてばかりだったからお腹は空いてない。
「一口でいい?」
「飲むんじゃなくて舐めるんだよ」
「どっちにしても舐めるくらいしか出来ないけど」
何をさせたいのかはわからないがクリスが喜ぶポイントなんかどうせわからない。
とにかく蓋を開けてひと舐めすれば満足するだろうと思っていたら風呂場に連れ込まれた。
「服……を着たまま…なんだけど…」
「そこがよくない?」
「でも……あ、わっ!」
止める間もなくシャワーの栓が開けられ、1番高い位置に設置したシャワーヘッドから飛び出た水がザアッと服の生地に跳ねて飛んだ。
「何するんですか…もう……」
「練乳ならいいんでしょう?ほら塗り付けていいよ」
何の事なのかと思ったらにこにこと笑うクリスが高そうな綿パンツのボタンをプツンと開けた。
すると、例の凶悪な雄々しいそれが自動的にチャックを下げて行く。
まるでトイレにも行かない人形に見えるくらい清潔でソフトで美しい風貌をしているクリスの中で唯一猛々しく生々しい場所だ。
思わず身を引いた。
「酔ってますよね?」
「酔ってない」
「嘘付け」
「酔ってるけどいいんだ、このままだと大変な事になるから予防しようかなって思ってさ」
「大変って顔じゃ無いけど…」
しかし、すでに何度か色々とやってしまっているのだ……アレやコレや。
その中で全部やればいいと何度も言っているのにクリスはまた今度と笑いながらも最後は風呂場に籠ってしまう。実は嫌なのかと考えていたところでもあった。
「わかった、やってみる」
やってもらうばかりで何もした事が無いのはフェアでは無いだろう。
既にお湯になっているシャワーを浴びながらパンツの前から飛び出ている盛り上がった下着に手を掛けた。
妙に素知らぬ顔をしたクリスは立ったままだ。
膝を付いて濡れた下着をペロンと捲ると顔を出したそれは予想通り凶悪だった。
「わ………」
いつからだったのか、反り勃ったそれは血管が浮き出る程に膨張して酷く禍々しい。
身の縮むような嫌悪感が湧いて思わず生唾を飲み込んだ。
怖い。怖いとしか言いようがない。
何が出来るかはわかっていないが、取り敢えずは練乳のチューブを搾ってみた。当たり前だがシャワーに流されて塊のまま落ちてしまう。
「塗ってよ」
頬を取られて持ち上がった顔に驚く程優しい顔をしたクリスからキスが落ちて来た。
濡れていつもより更に小さく見える頭にシャワーのお湯が降り注ぎ、傘となって流れて行く。
円を描くように舐められて行く上顎は最初の方は擽ったいのだが、暫くすると頭がぼやけるくらいに気持ち良くなるのだ。
膝を付いたまま、見上げる形でのキスに酔っているとクリスの片手が右手を取った。
誘導される場所はわかっている。
余りにも硬い感触に思わず指を引いたが、頑張って手を伸ばして握り込むと驚く程太かった。
「やってくれる?」
「俺でいいなら」
「蓮がいい」
コツンと合わさった額から離れて向き合ったのは雄そのものだ。手の中に練乳を出してから塗り付けようとしたが、その時ある事に気が付いた。
「ねぇ、練乳は無くても良くない?」
「は?やってくれるって言ったじゃん!練乳を舐める蓮が見たいの!そうじゃなきゃやらしてやんないよ!」
「………やらしてくれなくても…いいけど…」
少しウザい。
見た目よりももっとベロベロに酔っているのだろう、いつもなら優しく、大人っぽくリードしてくれのにこの日のクリスは駄々っ子のようで独特の価値観を爆発させていた。
意味のわからないイベントなのだが、どこに価値観を持つかはそれぞれだとは思う、言われた通りに猛っているそれに練乳を塗ってみた。
「ハハ……嘘みたいに興奮する」
「流れて行くけど……」
「いいから舐めて舐めて」
言われなくても舐めます。
強かに濡れているせいもあるが、キレたり笑ったりしていた事もあって恥ずかしさは消えていた。
何をどうすればいいかはわからないからとにかく流れてしまう前にと、練乳を舐めてみた。
「わ……痺れた…」
「静電気なんて水で流れてます」
「違うよ、蓮はわかってないんだと思うけど、感激に震えてるんだよ」
「…………うん、今までごめん、何もしなくて」
そう言いながら練乳足した。
すぐ流れてしまうのは同じだから慌てて舐めとっていく。
同じ事を何度か繰り返している時だった、気が付いたら影が差しシャワーのお湯が降ってこない。
どうしたのかと顔を上げると腰を引くように体を折ったクリスの背中でお湯が跳ねていた。
伏せて目を閉じている顔は苦しんでいるのかと思える程苦悶の表情を浮かべている。
「見たい」と喚いていたのにどうしたのか気になった。
「下手すぎて怒ってる?」
「そんな事は無い」と笑ってくれる事を期待して聞いたのに、返ってきたのは「口に入れて」の一言だけだった。
「わかった」
やれるかどうかより早くしなければと考えた。
手を添えて含んでみると口は満杯なのに先の方しか入らない。もう少しだけ頑張ろうとした時だった。
頭を覆った手にグッと押され、競り上がる嘔吐感に呻き声が出た。
「ごめん!蓮、もう無理、無理!」
無理なのはこちらも同じなのだがクリスは離してくれない。ハァハァと聞こえる荒い息遣いが異常な程の興奮を伝えていた。
押し出される腰が更に奥を突き、抑えられた頭に逃げ場無かった。
「んんっ!!」
涙と涎と嘔吐感に溺れていた。
クリスのそれは喉の奥のそのまた奥まで入ってこようとするのだ。
「ごめんね」「ごめんね」が続く中、死ぬと思ったのは言い過ぎでは無かったと思う。
「やりたいなら………やればいい」
シャワーはまだ出しっぱなしのままだった。
拳を振り上げて脇腹を殴り続けた結果、やっと離して貰えたが襟首を捕らえられた状態の目の前で最後の後処理を見せられている。
足を投げたし床に座り込んでいるクリスは項垂れたまま「ごめん」と小さく呟いた。
「俺が大事なんて嘘だろ、地味な男となんかやりたく無くだけなんだ」
「それは違う!」
ハッと顔上げたクリスには乱れた痕跡のように薄らとクマのようなものが出来ている。
そのせいで狂気じみて見えた。
「あんたは自分のサイズをわかってるよな、俺は物じゃない!可哀想だと思ってるんだろ!嫌なら中途半端に優しくしてくれなくていい!」
「違うよ、それは違う、酔って調子に乗ってたのは認める!蓮と練乳の組み合わせに興奮してたのは事実だ!その後は………ちょっと理性が吹っ飛んで………」
ヘニャヘニャと語尾が縮んでいでいった。
「それは下手だったから?」
「下手だったけど……それよりも何よりも蓮があんまりにもエロいから…」
「エロい?嘘だ」
「は?どうして僕が嘘を言うんだ、蓮は自分を知らないんだ!知らなさ過ぎる!赤い綺麗な舌を出して僕のアソコを舐めてるんだぞ?!興奮するだろ!理性なんか吹っ飛ぶだろ!」
「……………はい」
これは逆ギレと言ってもいいのだが、あまりの迫力に思わず頷いてしまう。
しかし、喧嘩をしている途中で分かってしまった。
見た目がいい事と背が高い為に気付けていなかったが、クリスは疲れているのだ。
いつもいつもクリスより早く寝てしまう為、夜中にどうしているかなんて知らないが、沢山追っている役目を考えるとストーキングしている暇がある事自体がおかしいのだ。
「………もしかして寝てないの?」
「え?寝てるよ、眠る蓮の顔を見ていると言ってもいいけどね」
「………寝て無いんだね?」
ある程度の規模から選出した成功者の統計を取ると睡眠時間は平均4時間程度のショートスリーパーが多い言われている。(統計学の講義で謳われた雑学)普段はそれで平気だからいいのだろうが、もし少しでも欠けたら融通の効く睡眠時間では無い。
「今すぐ頭を洗いましょう、体を洗いましょう、服を脱いでください、僕も脱ぎます」
強かに濡れた衣服は簡単には脱げないのだが、クリスが買った細身のジーンズはとにかく手強い。
お湯が流れる床に腰を落として片足を引き抜いた、もう立って脱ぐ方が早いように思えた。
足の指で裾を掴んで踏み付けていると、クリスがやめろと言いながらオタオタとした。
「クリスも脱いでったら、さっさとシャワーを終わらせて寝ましょう」
「いや、僕は後にするから蓮がまずシャワーを浴びなさい」
「どうしてですか、もう濡れてるんだしこのままちゃっちゃと洗って出た方が早いでしょう」
「無理だから!何するか僕にもわからないよ?!」
「やるならやっていい」
問題だったジーンズは脱げた、後はパンツとTシャツだから楽だった。
しかし、頭からTシャツを引っこ抜くとクリスが消えている。やっている事が支離滅裂なのだが、それならそれでいいからシャンプーを髪に落としてついでに体も洗ってしまった。
「クリス?終わったから入って」
泡切れと共に風呂場を出ると濡れそぼったままの服も脱がずに立ち尽くすクリスがいた。
普段のクリスならいそいそと着替えを用意したりタオルを用意したりしているのにただ呆然としているだけだ。
脱衣所の床に出来た水溜りを見ると溜息が出たが、そんなものはいいから早くクリスを寝かせてしまいたかった。
「ほら、服は中で脱いでそのまま放置して、後で俺が洗濯機に入れておくから」
「蓮…怒ってない?」
「怒ってたけど怒ってないから早く!」
何故か幼児帰りが激しいクリスを風呂場に押し込んでから着替えを取りに行った。
まずはパジャマを着て、クリスの分は大好きな体操服にした。(アパートとマンションを行き来している)
何よりも重要な事はクリスより先に寝ない事なのだがこれは誰もが考えるより難問なのだ。
得意技があるとすれば寝入るまでの時間と答える。
妙に長いクリスのシャワーを待つ間に眠くなってきている事も問題だった。
しかし、見張っていないとそのうちに倒れてしまうかもしれない。学生会の執行部は大変な大所帯だが学祭の進行を全て把握しているのは数人しかいないのだ。一方社員に全てを任せていると躱していた持ち会社の方も何もしていないなんて嘘だと思えた。
馬鹿正直に体操服を着込んだクリスが風呂場から出て来ると背中を押してベッドの中に押し込んだ。
何かを言い掛ける口は手で塞ぎ、この後に出来る事と言えば一つしかなかった。
薄い毛布の上に置いた手に伝わる心音は速い。
魔法を使う母親の手を真似てポンポンとリズム遠取った。
最初は驚いたようだが照れたようににっこりと笑ったクリスはなにも言わずに目を閉じている。
そうするうちにゆっくりとゆっくりと速度を落とす心音が平常を取り戻していく。
知らない間に降り出していた雨の音が聞こえた。
風もあるのか外に吊り下げたままのハンガーが何かに当たってコツコツと鳴いている。
ふうっと沸き出て来るメロディが気持ちよかった。気持ちがいい分眠かった。
「もういいから……」
「おいで」と誘う優しい手に抱きとめられて崩れ落ちた所までの記憶はあった。
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