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ケツがどうした!

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結局

健二の怪我は側頭部を三針縫うだけで済んだ。

病院には「河原でバイクに乗っていたら転んだ」と説明した。
道路じゃない所で乗るならヘルメットは義務じゃないからね。

散々待たされた救急病院での処置が終わるともうすっかりと朝になっていた。

長い1日だったと思う。

グダグダに疲れて事務所に帰ると椎名が待ち構えていた。それなら車に乗せてくれたら良かったのに……と思う。

健二は脳味噌が凹んだままバイクを運転したのだ。頭を中々止まらない血が風に飛ばされ顔に掛かり、病院に着くと二人共怪我人扱いだった。

どうしてだか椎名は意図して仕事に関わらないようにしているみたいだ。

本当の所、椎名が助けに来てくれたのか、山本達が翼竜会のシマを荒らしたからヤキをいれる為なのかはわからないままだ。

それはこの際どうでもいいけど、「可哀想だったね」「嫌な事されたね」「大丈夫だったかい?」「怪我は?」って……健二に何があったか聞かれたく無いのに抱きついていらぬ事を言う。

でもそれって暫く見てたって事だと思う。

やっぱり椎名は信用出来ない。
しかし逃げるって出来ないのだと身に沁みた。

翼竜会はかなり手広く事業を広げ、疋田組は巨大で砂川系は全国区だ。

つまりこの事務所で大人しくしている方が平和だと結論が出た。


訥々と過ぎる日々、相変わらずって言うか、当然って言うか、まともな依頼は来ない。

大久保さんの依頼がどうなったかを言えば、完全なる騒音の撲滅には至らなかったが、かなり頻度が減ったという事で終結していた。

後は「家出した猫を探す」、なんて定番の仕事をこなしながら過ごしていた。

そんなある日、殆ど郵便物の無い事務所に一枚のハガキが届いた。

柔かな笑顔の写真が印刷されている。


「結婚しました」


赤城さんと野田弁護士だ。


うん。
野田は弁護士だもんね。
いい物件だよおめでとう。


一気に全てのやる気を奪われた俺に、椎名が満面の笑みを浮かべて渡して来たのは半透明の小さい箱だった。

開けてみると中身は名刺だ。

「H《法律で裁けない》.M《問題を》.K《解決します》    け つ の あ お い」


けつのあおい

ケツのアオイ

尻《ケツの》青い?

「椎名さん!!俺の苗字は欠野《かけの》ですっ!!!

そして何で平仮名なんだ。
絶対にわざとだ。
確信犯だ。
その証拠に椎名は含みのある笑顔でサラッと言った。

「仕事柄本名の記載はマズイでしょ?」


神さま!俺がお嫌いですか?!!

それとも俺にだけ見えてないんですか?お出かけですか?よそ見ですか?居留守ですか?

俺の最大の秘密はこの珍しい苗字だ。
親父が死んでから、いやもっと言えば学校を出て以来名乗った事は無い。

そして最悪の読み方。
ケツの青いだって?死ね。

「もう葵は正式なうちの一員だね、これからもよろしく」


売る。

そして逃げる!

誰か!

俺の腎臓を買ってください!


叫んでも、喚いても。

神さまってこっちを見てくれない。
ずっとだ。





第1部 完


vol.2に続きます。

次は恋が始まるかも……しれません。
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