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嫌がらせ作戦は続く

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笑っても怒っても腹が痛い。欠伸も伸びも出来ない。完全な筋肉痛なのだが、そんな状態で爆音仲間の家を回る「爆音制裁&マフラーに洗濯糊作戦」が始まった。

やり方は勝也ゴリラと同じだ。
帰宅を確認してから住居侵入と器物破損を侵す。
そしてエンジンを空吹かして逃げる。

健二にしたら「子供の悪戯」感覚なのかも知れないけど、法の手が届かないからこそそんな事をしているのに、依頼を請け負った側は法の手が届く所にいるってのはどうかと思う。

お互いにそれはわかっているけど、楽しいから棚上げになったままなんだけどね。


狙い目は平日の12時前後だ。
不思議な事に夜な夜な迷惑を撒き散らしいている爆音の集団は平均年齢が意外と高い。そしてそれなりの定職に就いてる。
寝静まった頃が一番効果的だろうって……そうだけど……。

ご近所の善良な方々は飛んだ迷惑を被る。

純正のままで改造してないオフロードバイクは元ヤンお父さんのネイキッドバイクのように凶悪な音はしないが、深夜の住宅地ではそれなりに威力を発揮するのだ。

数回空吹かしをすれば十分五月蝿くて眠ってなどいられないだろう。

毎日夜10時頃に事務所を出てターゲットを待つ、決行出来る確率は三回に一回くらいだった。

時には深夜の2時3時になる事もあり、勝也ゴリラの時の失敗を踏まえて気を張るのだ。4人目を終えた所で昼間に目を開けていられなくなった。


……口の端がこそばゆい。

カイカイと引っ掻くと何かにつっかえて目が覚めた。ソファに座り、昼食の蕎麦を啜っている間に寝ていたらしい。知らない間に椎名が隣に座って手を伸ばしてる。
「ここ」と口元を指で指されて触ってみると蕎麦が口の端から垂れていた。

慌てて吸い込む。
そして座り直して椎名から距離を取る。

「来てたんですか」
「うん、今ね。眠いの?」

「いえ、眠くないです」

「うん、そろそろ報告を聞こうか、健二も葵も疲れてるね、やり方は任せているし、やらなきゃならない事は仕方ないけどね、注意不足になって怪我をしたり、体を壊したら元も子もないからね」

「昼ご飯の話ですか?」

「……葵くん…」

「わかってます、依頼の進捗ですよね」

椎名はヤクザである前にH.M.Kの社長だ、いや、社長である前にヤクザと言った方がいい。

奥の手が無いとわかった今試されているも何も無い。成果を出さなければこの先の運命は決まってる。
ここは報告の言葉選びが重要だ。
健二が出掛けていて本当に良かったと思う。


「ストーカー案件は順調で、騒音バイクの撲滅は万全です」


「…………」



「………で?」

「終わりです」

単純明朗、余計な事は言わない。
我ながら抜群だったと思うけど椎名は不満だったらしい、苦笑いを浮かべてポリポリと頭を掻いた。

「もう少し詳しく言えないかな」

「赤城さんは中間報告に満足していました、大久保さんはこの一週間とても静かで不気味だと言って褒めてくれました」

「わかった、つまりは俺に言えないようなやり方をしてると考えていいかな?」

「それは……順調だと考えて貰えれば……あの……この2件はそれなりに解決するとしてですね、それよりも他に新しい依頼が無いのがちょっと困ると言うか」

親父の借金なら関係無いのだから無視できるけど、タダ飯食いが積み上がった末に働いてるのに借金を作っていては本末転倒なのだ。

「そんな心配をしなくていい」と椎名は笑ったけどするよ、するに決まってる。

「でも今のままじゃ売上なんて望め無いし椎名さんだって困るでしょう」

「この事務所はこれでいいんだよ、他の事業の子会社って事になっているから売り上げの心配はしなくていい、それよりもこんな場所で居眠りしていないでベッドに行ってお昼寝をして来なさい」

「はあ……」

三食昼寝付き……それでいいと。

つまりだ、入手経路が不明とか怪しいとかそんなお金をこの事務所に持って来て合法化してるって事か?

この事務所から逃げた後、どこかの面接に行って前の仕事を聞かれたら「ヤクザのマネーロンダリングを手伝っていました」って言うのか?

「俺は親父のようにはなりたく無いんです、普通の生活をして……定職に就いてちゃんと結婚とかして「頼りになるお父さん」になりたいんです」

「へえ、それはいいね、じゃあ俺はその幸せ家族の隣に住もうかな」


「………そんな事をすれば椎名さんの家は不審火で燃えちゃうでしょうね」

「冷たいな」って当たり前だろう、人生の中にヤクザとか健二はいら無いのだ。
これはやっぱり早々に逃げ出して足を洗わなければならない。

さっさとカタを付けてからこの事務所を出て行くって、5回目くらいの決心をした。
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