35 / 51
色んな意味でオフロード
しおりを挟む
丸いヘルメットを膝に乗せ、分厚い革ジャンを着込んだ俺達は乗り換えなしで1時間の行程を電車に委ねていた。
因みに周りにいる他の乗客はみんな半袖とかジャッケットを羽織るくらいの軽装だ。
30分以上電車に乗るなんて初めてだった。
あんまり長いので変わり映えしない景色に飽きて寝てたらしい。
ゆさゆさと揺らされて目を覚ますと口の端がスウスウする、どうやら涎を垂らしていたらしい、健二の肩が濡れてる。
革ジャンの袖で口を拭くと吸い取らないから、今度は頬がスウスウした。
「着いたぞ」と健二に引っ張られて半分寝ぼけたまんまで電車を降りると、そこは都心では考えられない平屋の駅舎と青空が直で見える屋根の無いホームだった。
高架も無く、一つしか改札の無い駅から出るには線路を歩いて渡らなければならない。手押し車に凭れて歩いていたお婆さんを手伝い、自動改札口から外に出た。
「何か……色んな意味で広いですね」
「うん、広いな」
駅前には定番のコンビニもなければロータリーも無い、鄙びた駅舎に寄り添うようにタクシーが一台止まっていたけど走る車は一台も見当たらず、おおよそ知っている「駅前」とは随分違う。
駅を出れば「道」って経験は初めてだ。
随分離れているのに普通の一軒家が直接見えるなんてちょっと不思議だった。
「ちょっとした旅行みたいですね、こんな所に来たのは初めです」
「電車で1時間なのにな、ここから少し歩くけど、案外楽しいかもな」
「はい、俺は薄汚い街しか知らないんで楽しいです、田んぼが青くて綺麗ですね」
「そうだな」って健二が伸びをした。
釣られて伸びをすると青い空気で肺が一杯になった。
サヤサヤと頭を揺らす稲達はもう実を付け始めている。こんな草から米が生えるなんて不思議に思える。見えない手が伸びた穂先を撫でて行くようにサアッと割れた。
蒼い絨毯に飛び込んだらフカッと向かい入れてくれそうだが、実際の所は稲を割って地面に激突するんだろうな。
「何にも無い道路」って本当に始めて。
駅前の道路に中央線が無いっても始めて。
健二が歩き出した方に付いて行くと、その時になって始めて手ぶらである事に気付いた。
健二がヘルメットを二つ持ってる。
こうやって、女子の好きそうなフェミニストっぽい事がさり気なく出来るのに、どうしてか若い女子を前にするとああも挙動不審になるのか不思議だ。
でも俺は女子じゃ無いからね。
ヘルメットを取り返して、手に持つと何だか邪魔だから頭に被った。それを見た健二は「馬鹿だな」とでも言いたげに、コンコンとヘルメットを二回ノックして先を歩いて行く。
誰もいないし歩くだけで暇だからって鼻歌が始まった。
健二は何をしていても楽しそうだ。
ちょっと困った事ですら楽しくしてしまう。
気を使わないで済むからだと思うけど、一緒にいる相手が健二じゃ無ければ歩きながら歌を歌うなんて多分一生無かったと思う。
カンティーロー ……
……テイキミホー ツーザブレー ♬
アービロー………ふんふーふー
知っている所だけの歌詞。
ハミングになったタイミングが揃って、オラオラと肩を小突き合った。
二人共サビしか知らないからって同じところの繰り返しだ。
畔の雑草を千切ったらそれはもう得物にしかならない、バシバシと叩き合って真っ赤に咲き誇る彼岸花を愛でた。
ねえ健二さん……
彼岸花って情熱とか悲しい思い出の他に「転生」って花言葉があるんだよ。
来世は魔王になる、とか言いそうだから言わないけどね。
因みに周りにいる他の乗客はみんな半袖とかジャッケットを羽織るくらいの軽装だ。
30分以上電車に乗るなんて初めてだった。
あんまり長いので変わり映えしない景色に飽きて寝てたらしい。
ゆさゆさと揺らされて目を覚ますと口の端がスウスウする、どうやら涎を垂らしていたらしい、健二の肩が濡れてる。
革ジャンの袖で口を拭くと吸い取らないから、今度は頬がスウスウした。
「着いたぞ」と健二に引っ張られて半分寝ぼけたまんまで電車を降りると、そこは都心では考えられない平屋の駅舎と青空が直で見える屋根の無いホームだった。
高架も無く、一つしか改札の無い駅から出るには線路を歩いて渡らなければならない。手押し車に凭れて歩いていたお婆さんを手伝い、自動改札口から外に出た。
「何か……色んな意味で広いですね」
「うん、広いな」
駅前には定番のコンビニもなければロータリーも無い、鄙びた駅舎に寄り添うようにタクシーが一台止まっていたけど走る車は一台も見当たらず、おおよそ知っている「駅前」とは随分違う。
駅を出れば「道」って経験は初めてだ。
随分離れているのに普通の一軒家が直接見えるなんてちょっと不思議だった。
「ちょっとした旅行みたいですね、こんな所に来たのは初めです」
「電車で1時間なのにな、ここから少し歩くけど、案外楽しいかもな」
「はい、俺は薄汚い街しか知らないんで楽しいです、田んぼが青くて綺麗ですね」
「そうだな」って健二が伸びをした。
釣られて伸びをすると青い空気で肺が一杯になった。
サヤサヤと頭を揺らす稲達はもう実を付け始めている。こんな草から米が生えるなんて不思議に思える。見えない手が伸びた穂先を撫でて行くようにサアッと割れた。
蒼い絨毯に飛び込んだらフカッと向かい入れてくれそうだが、実際の所は稲を割って地面に激突するんだろうな。
「何にも無い道路」って本当に始めて。
駅前の道路に中央線が無いっても始めて。
健二が歩き出した方に付いて行くと、その時になって始めて手ぶらである事に気付いた。
健二がヘルメットを二つ持ってる。
こうやって、女子の好きそうなフェミニストっぽい事がさり気なく出来るのに、どうしてか若い女子を前にするとああも挙動不審になるのか不思議だ。
でも俺は女子じゃ無いからね。
ヘルメットを取り返して、手に持つと何だか邪魔だから頭に被った。それを見た健二は「馬鹿だな」とでも言いたげに、コンコンとヘルメットを二回ノックして先を歩いて行く。
誰もいないし歩くだけで暇だからって鼻歌が始まった。
健二は何をしていても楽しそうだ。
ちょっと困った事ですら楽しくしてしまう。
気を使わないで済むからだと思うけど、一緒にいる相手が健二じゃ無ければ歩きながら歌を歌うなんて多分一生無かったと思う。
カンティーロー ……
……テイキミホー ツーザブレー ♬
アービロー………ふんふーふー
知っている所だけの歌詞。
ハミングになったタイミングが揃って、オラオラと肩を小突き合った。
二人共サビしか知らないからって同じところの繰り返しだ。
畔の雑草を千切ったらそれはもう得物にしかならない、バシバシと叩き合って真っ赤に咲き誇る彼岸花を愛でた。
ねえ健二さん……
彼岸花って情熱とか悲しい思い出の他に「転生」って花言葉があるんだよ。
来世は魔王になる、とか言いそうだから言わないけどね。
1
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
【BL】齢1200の龍王と精を吸わないオタ淫魔
三崎こはく
BL
人間と魔族が共存する国ドラキス王国。その国の頂に立つは、世にも珍しいドラゴンの血を引く王。そしてその王の一番の友人は…本と魔法に目がないオタク淫魔(男)!
友人関係の2人が、もどかしいくらいにゆっくりと距離を縮めていくお話。
【第1章 緋糸たぐる御伽姫】「俺は縁談など御免!」王様のワガママにより2週間限りの婚約者を演じることとなったオタ淫魔ゼータ。王様の傍でにこにこ笑っているだけの簡単なお仕事かと思いきや、どうも無視できない陰謀が渦巻いている様子…?
【第2章 無垢と笑えよサイコパス】 監禁有、流血有のドキドキ新婚旅行編
【第3章 埋もれるほどの花びらを君に】 ほのぼの短編
【第4章 十字架、銀弾、濡羽のはおり】 ゼータの貞操を狙う危険な男、登場
【第5章 荒城の夜半に龍が啼く】 悪意の渦巻く隣国の城へ
【第6章 安らかに眠れ、恐ろしくも美しい緋色の龍よ】 貴方の骸を探して旅に出る
【第7章 はないちもんめ】 あなたが欲しい
【第8章 終章】 短編詰め合わせ
※表紙イラストは岡保佐優様に描いていただきました♪
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
侯爵令息、はじめての婚約破棄
muku
BL
侯爵家三男のエヴァンは、家庭教師で魔術師のフィアリスと恋仲であった。
身分違いでありながらも両想いで楽しい日々を送っていた中、男爵令嬢ティリシアが、エヴァンと自分は婚約する予定だと言い始める。
ごたごたの末にティリシアは相思相愛のエヴァンとフィアリスを応援し始めるが、今度は尻込みしたフィアリスがエヴァンとティリシアが結婚するべきではと迷い始めてしまう。
両想い師弟の、両想いを確かめるための面倒くさい戦いが、ここに幕を開ける。
※全年齢向け作品です。
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
薫る薔薇に盲目の愛を
不来方しい
BL
代々医師の家系で育った宮野蓮は、受験と親からのプレッシャーに耐えられず、ストレスから目の機能が低下し見えなくなってしまう。
目には包帯を巻かれ、外を遮断された世界にいた蓮の前に現れたのは「かずと先生」だった。
爽やかな声と暖かな気持ちで接してくれる彼に惹かれていく。勇気を出して告白した蓮だが、彼と気持ちが通じ合うことはなかった。
彼が残してくれたものを胸に秘め、蓮は大学生になった。偶然にも駅前でかずとらしき声を聞き、蓮は追いかけていく。かずとは蓮の顔を見るや驚き、目が見える人との差を突きつけられた。
うまく話せない蓮は帰り道、かずとへ文化祭の誘いをする。「必ず行くよ」とあの頃と変わらない優しさを向けるかずとに、振られた過去を引きずりながら想いを募らせていく。
色のある世界で紡いでいく、小さな暖かい恋──。
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる