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色んな意味でオフロード

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丸いヘルメットを膝に乗せ、分厚い革ジャンを着込んだ俺達は乗り換えなしで1時間の行程を電車に委ねていた。

因みに周りにいる他の乗客はみんな半袖とかジャッケットを羽織るくらいの軽装だ。

30分以上電車に乗るなんて初めてだった。
あんまり長いので変わり映えしない景色に飽きて寝てたらしい。

ゆさゆさと揺らされて目を覚ますと口の端がスウスウする、どうやら涎を垂らしていたらしい、健二の肩が濡れてる。

革ジャンの袖で口を拭くと吸い取らないから、今度は頬がスウスウした。

「着いたぞ」と健二に引っ張られて半分寝ぼけたまんまで電車を降りると、そこは都心では考えられない平屋の駅舎と青空が直で見える屋根の無いホームだった。

高架も無く、一つしか改札の無い駅から出るには線路を歩いて渡らなければならない。手押し車に凭れて歩いていたお婆さんを手伝い、自動改札口から外に出た。

「何か……色んな意味で広いですね」

「うん、広いな」

駅前には定番のコンビニもなければロータリーも無い、鄙びた駅舎に寄り添うようにタクシーが一台止まっていたけど走る車は一台も見当たらず、おおよそ知っている「駅前」とは随分違う。
駅を出れば「道」って経験は初めてだ。
随分離れているのに普通の一軒家が直接見えるなんてちょっと不思議だった。

「ちょっとした旅行みたいですね、こんな所に来たのは初めです」
「電車で1時間なのにな、ここから少し歩くけど、案外楽しいかもな」
「はい、俺は薄汚い街しか知らないんで楽しいです、田んぼが青くて綺麗ですね」

「そうだな」って健二が伸びをした。
釣られて伸びをすると青い空気で肺が一杯になった。

サヤサヤと頭を揺らす稲達はもう実を付け始めている。こんな草から米が生えるなんて不思議に思える。見えない手が伸びた穂先を撫でて行くようにサアッと割れた。

蒼い絨毯に飛び込んだらフカッと向かい入れてくれそうだが、実際の所は稲を割って地面に激突するんだろうな。

「何にも無い道路」って本当に始めて。
駅前の道路に中央線が無いっても始めて。
健二が歩き出した方に付いて行くと、その時になって始めて手ぶらである事に気付いた。

健二がヘルメットを二つ持ってる。

こうやって、女子の好きそうなフェミニストっぽい事がさり気なく出来るのに、どうしてか若い女子を前にするとああも挙動不審になるのか不思議だ。

でも俺は女子じゃ無いからね。
ヘルメットを取り返して、手に持つと何だか邪魔だから頭に被った。それを見た健二は「馬鹿だな」とでも言いたげに、コンコンとヘルメットを二回ノックして先を歩いて行く。

誰もいないし歩くだけで暇だからって鼻歌が始まった。

健二は何をしていても楽しそうだ。
ちょっと困った事ですら楽しくしてしまう。
気を使わないで済むからだと思うけど、一緒にいる相手が健二じゃ無ければ歩きながら歌を歌うなんて多分一生無かったと思う。

カンティーロー  ……

……テイキミホー  ツーザブレー  ♬
アービロー………ふんふーふー

知っている所だけの歌詞。
ハミングになったタイミングが揃って、オラオラと肩を小突き合った。

二人共サビしか知らないからって同じところの繰り返しだ。

畔の雑草を千切ったらそれはもう得物にしかならない、バシバシと叩き合って真っ赤に咲き誇る彼岸花を愛でた。


ねえ健二さん……
彼岸花って情熱とか悲しい思い出の他に「転生」って花言葉があるんだよ。

来世は魔王になる、とか言いそうだから言わないけどね。
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