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媚びてみた
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ここは一回冷静になる。
そしてちょっと困ったような顔をして可愛く聞く。そう、健二のレクチャー通りだ。
「ねえ、健二さん「僕」はちょっと不安なんだ、何か隠してる?隠してるなら教えて?」
うん。
バッチリ。でもキモい。
「何だよ葵、気持ち悪いな」
!!
ここで引くな健二。
恥を忍んで渾身の演技をしたのに恥ずかしいじゃないか。
しかしここで諦めてはいけない。
「キモいって……酷い」
「葵は色々考え過ぎなんじゃないの?、椎名はちょっと事情があって誰かに優しくしたいだ。葵が持たされてる謂れの無い借金は、枷じゃなくて椎名の言い訳とか理由付けに使われてるだけだと思うよ」
だからその事情を吐けって媚びてんだよ!馬鹿!
健二って何なの?
おえってなりながらも焼肉を詰め込んでいる俺を見て「可愛い」とか言うくせに、可愛く演出したらしたで鮮やかに……そして淡々とスルーする。
そりゃ腹の出たデブデブオヤジが好みだと言うのだから仕方がないけど、口からはみ出た焼肉をえづきながら食ってる方が可愛いって特殊過ぎる。
「葵?どうした?」
「今度こそ………何でもないです」
止まれた。
健二のスーパースルーのお陰で何とか止まれた。
そこは健二の呑気さに感謝する。
「何でもいいならいいけどな」ってニッコリしている健二ってやっぱり馬鹿で扱いやすい。
コホンと咳払いして通常運転に戻す。
「俺はさっき健二さんが言った提案を報告書に纏めます、健二さんは赤城さんに会う約束を取り付けてください」
「え?!俺が?!」
「驚くような事ですか?出来ますよ、電話で話すだけです、普通に話すだけです、時間と場所を決めるだけです、カッコ付ける必要も無いしカッコ付けても電話なんだから赤城さんには見えません」
「そうかな……でも…いや、わかった、俺がやる」
「大丈夫ですよ、話してる相手が三段腹のおっちゃんだと思えばいいんです」
そしたらきっとちょっとカッコいい健二のままでいられる。
そう思ったけど、横で健二の電話を聞いてたら任せた事を後悔した。
──本日はお日柄もよく……い……いいお天気ですね、健やかにお過ごしですか?
雨降ってるよ馬鹿。
お見合いの挨拶か。
──私はこの度ライダーのスキルを身につけまして、今度是非……え?ああ、それはですね……はい、それで青い空が気持ちよくて貴女の……え?………はい
赤城さんの苦笑いが目に見えるようだった。
中身の無い挨拶が延々と続き、要点を言わない電話は長くて付き合っていられなかったのだろう、ういろうの話が出た時点で上手くブチ切られたらしいが、横で聞いている俺にしたらナイスタイミング。
抑えられない笑い声と、思わず口にした突っ込みが赤城さんに届いてなければ御の字だった。
携帯を切ってから満足そうに汗を拭く健二。
「ふい~……」って……普通なら名乗って仕事の話をするだけだよ?「俺はやった」ってドヤ顔されても笑うしか出来ないよ。
「葵?!泣いてるのか?どうした?どっか痛いのか?困ったな、病院行くか?さすってやろうか?」
「大丈夫です、泣いてません、それよりいつ?どこで会う約束をしたんですか?」
「うん、明後日の昼に赤城さんの勤める会社の近くでって、それはいいけど泣いてるじゃないか」
「これは……欠伸です、ゴミです、すいませんがこれ以上攻められると保たないので放っておいてください」
「じゃあやっぱり病院に……」
「いいですったら、それよりも今日と明日が開くからバイクの練習をしましょう」
「そうだな、実は俺さ……あれをやりたいんだ」
「"あれ"ってどれですか?」
「ほらあれだよ」
「あれ」とは………
健二は両腕を前に出して拳を丸めた。
つまりはハンドルをエアーで握っているらしいが、少し腰を落としてお尻をプリッと捻るのは何のジェスチャーだ。
「何の真似です」
「ほら、これだよ、こうザザっと、何てったかな」
「はあ…」
また腰をプリッと振って「ザザ」。
「わかんないか?」
「わかりません」
つくづく、健二という人は明朗快活な天然入りのお馬鹿さんだと思う。
ちょっと待ってろと言われてたから待っていたら、携帯の中にバイクが後輪を滑らせて横向きに止まる、いわゆるカウンターを当てる映像が出て来た。
これって小学生の頃に出来る奴がいた。
バイクじゃなくて自転車だが、確かにお尻をプリッと振ってザザザって止まる遊びをしていた。
自転車を持ってなかったから難易度はわからないけど、確かにちょっとカッコ良かった。
でも、だからと言ってバイクを使って公道を走る上で必要なテクニックでは無い。
「真っ直ぐ走るだけでも不自由なのに余計な事を考えなくていいです、まずは普通にスタートして、せめて法定速度で走る練習をしましょう、仕事が終わればどうぞご勝手にカウンターでもジャックナイフでも前転宙返りでも何でもいいから練習してください……一人でね」
「でも出来たらカッコいいだろ?」
「そりゃカッコいいでしょうけどね」
ニッと笑って「そうだろ?」ってしたり顔をしているけど肯定した訳じゃ無い。
それなのにノリノリの健二は早速誰かに電話を掛けている。
平日の午前中なのに連絡がつくんだ。
今すぐ行くって事は……健二の友達ってフリーターなのか?あの公務員擬きの元ヤンお父さんじゃ無いのか?
革ジャンを着ろとかヘルメットを持てって言われるって事は同伴しなければならないらしい。
出来れば健二一人で行って頂ければ、その間に赤城さんへの報告書を仕上げる事が出来るのに、「行こう行こう」と、当然一緒に行くものとして嬉しそうにはしゃぐ健二を見ていると「嫌です」って断る事は出来なかった。
そしてちょっと困ったような顔をして可愛く聞く。そう、健二のレクチャー通りだ。
「ねえ、健二さん「僕」はちょっと不安なんだ、何か隠してる?隠してるなら教えて?」
うん。
バッチリ。でもキモい。
「何だよ葵、気持ち悪いな」
!!
ここで引くな健二。
恥を忍んで渾身の演技をしたのに恥ずかしいじゃないか。
しかしここで諦めてはいけない。
「キモいって……酷い」
「葵は色々考え過ぎなんじゃないの?、椎名はちょっと事情があって誰かに優しくしたいだ。葵が持たされてる謂れの無い借金は、枷じゃなくて椎名の言い訳とか理由付けに使われてるだけだと思うよ」
だからその事情を吐けって媚びてんだよ!馬鹿!
健二って何なの?
おえってなりながらも焼肉を詰め込んでいる俺を見て「可愛い」とか言うくせに、可愛く演出したらしたで鮮やかに……そして淡々とスルーする。
そりゃ腹の出たデブデブオヤジが好みだと言うのだから仕方がないけど、口からはみ出た焼肉をえづきながら食ってる方が可愛いって特殊過ぎる。
「葵?どうした?」
「今度こそ………何でもないです」
止まれた。
健二のスーパースルーのお陰で何とか止まれた。
そこは健二の呑気さに感謝する。
「何でもいいならいいけどな」ってニッコリしている健二ってやっぱり馬鹿で扱いやすい。
コホンと咳払いして通常運転に戻す。
「俺はさっき健二さんが言った提案を報告書に纏めます、健二さんは赤城さんに会う約束を取り付けてください」
「え?!俺が?!」
「驚くような事ですか?出来ますよ、電話で話すだけです、普通に話すだけです、時間と場所を決めるだけです、カッコ付ける必要も無いしカッコ付けても電話なんだから赤城さんには見えません」
「そうかな……でも…いや、わかった、俺がやる」
「大丈夫ですよ、話してる相手が三段腹のおっちゃんだと思えばいいんです」
そしたらきっとちょっとカッコいい健二のままでいられる。
そう思ったけど、横で健二の電話を聞いてたら任せた事を後悔した。
──本日はお日柄もよく……い……いいお天気ですね、健やかにお過ごしですか?
雨降ってるよ馬鹿。
お見合いの挨拶か。
──私はこの度ライダーのスキルを身につけまして、今度是非……え?ああ、それはですね……はい、それで青い空が気持ちよくて貴女の……え?………はい
赤城さんの苦笑いが目に見えるようだった。
中身の無い挨拶が延々と続き、要点を言わない電話は長くて付き合っていられなかったのだろう、ういろうの話が出た時点で上手くブチ切られたらしいが、横で聞いている俺にしたらナイスタイミング。
抑えられない笑い声と、思わず口にした突っ込みが赤城さんに届いてなければ御の字だった。
携帯を切ってから満足そうに汗を拭く健二。
「ふい~……」って……普通なら名乗って仕事の話をするだけだよ?「俺はやった」ってドヤ顔されても笑うしか出来ないよ。
「葵?!泣いてるのか?どうした?どっか痛いのか?困ったな、病院行くか?さすってやろうか?」
「大丈夫です、泣いてません、それよりいつ?どこで会う約束をしたんですか?」
「うん、明後日の昼に赤城さんの勤める会社の近くでって、それはいいけど泣いてるじゃないか」
「これは……欠伸です、ゴミです、すいませんがこれ以上攻められると保たないので放っておいてください」
「じゃあやっぱり病院に……」
「いいですったら、それよりも今日と明日が開くからバイクの練習をしましょう」
「そうだな、実は俺さ……あれをやりたいんだ」
「"あれ"ってどれですか?」
「ほらあれだよ」
「あれ」とは………
健二は両腕を前に出して拳を丸めた。
つまりはハンドルをエアーで握っているらしいが、少し腰を落としてお尻をプリッと捻るのは何のジェスチャーだ。
「何の真似です」
「ほら、これだよ、こうザザっと、何てったかな」
「はあ…」
また腰をプリッと振って「ザザ」。
「わかんないか?」
「わかりません」
つくづく、健二という人は明朗快活な天然入りのお馬鹿さんだと思う。
ちょっと待ってろと言われてたから待っていたら、携帯の中にバイクが後輪を滑らせて横向きに止まる、いわゆるカウンターを当てる映像が出て来た。
これって小学生の頃に出来る奴がいた。
バイクじゃなくて自転車だが、確かにお尻をプリッと振ってザザザって止まる遊びをしていた。
自転車を持ってなかったから難易度はわからないけど、確かにちょっとカッコ良かった。
でも、だからと言ってバイクを使って公道を走る上で必要なテクニックでは無い。
「真っ直ぐ走るだけでも不自由なのに余計な事を考えなくていいです、まずは普通にスタートして、せめて法定速度で走る練習をしましょう、仕事が終わればどうぞご勝手にカウンターでもジャックナイフでも前転宙返りでも何でもいいから練習してください……一人でね」
「でも出来たらカッコいいだろ?」
「そりゃカッコいいでしょうけどね」
ニッと笑って「そうだろ?」ってしたり顔をしているけど肯定した訳じゃ無い。
それなのにノリノリの健二は早速誰かに電話を掛けている。
平日の午前中なのに連絡がつくんだ。
今すぐ行くって事は……健二の友達ってフリーターなのか?あの公務員擬きの元ヤンお父さんじゃ無いのか?
革ジャンを着ろとかヘルメットを持てって言われるって事は同伴しなければならないらしい。
出来れば健二一人で行って頂ければ、その間に赤城さんへの報告書を仕上げる事が出来るのに、「行こう行こう」と、当然一緒に行くものとして嬉しそうにはしゃぐ健二を見ていると「嫌です」って断る事は出来なかった。
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