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エピローグ
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「今日の朝出る前にテレビを見てたら社長が写ってたんだ、何だかモヤモヤして泣きそうになっちゃったよ」
「キモいですよ松本さん、あの人はもう元社長でしょう、今は野島社長がいますよ、そのニュースは俺も見ましたけど何か面倒な事やってますね」
「もう社長じゃないけど……事実TOWAの総合代表はあの人だろ」
「金があるっていいな……」
「阿川はまだそんな事をすぐ言う……」
吾松本が入社して4年、阿川が入社して3年経ったが今も一番下の二人は窓際のカウンターに書類を投げ出し呑気に外を眺めながら珈琲を飲んでいた
本来はやる事をやってれば口出ししなくてもいいと思うがリーダー職を野島社長から押し付けられ一応注意しなければならない
面倒くさくて小煩いと思うが仕方が無い、松本の肩を叩くとビクンと背中が揺れてそろそろと振り返った
「おい何二人してサボってんだ、堂々としすぎだろ」
「あ……佐鳥さん……」
「それに変な事を会社で言うな」
雪斗が写っていたニュースは佐鳥も見ていた
また何かに夢中になっている事は知っていたが、まさか突然渡辺だけを連れ、TOWAの社長を辞めて出て行くとは思ってなかった
今度は何をするのかと思えば、雪斗はいつから準備していたのか、工場の研究室から何人か引き抜き、半導体の洗浄に欠かせない純度の高いフッ化水素の一種を取り扱う新会社を興し業界に討って出た
フッ化水素はタンパク質を溶かし人の皮膚に付着すればあっと言う間に腐食して命にも関わる非常に取り扱いが難しい危険な物質だ、劇物指定と共に輸出するには申請がいる国の戦略物でもある
雪斗は金儲けなんて考えて無い
改良されたフッ化水素は日本が独占する本家企業とは目的を分け、独自のシェアをあっという間に作り上げ…………今は「お前んとこには売ってやらない」と言ってとある企業を脅していた
実は佐鳥グループは輸出入向けの半導体部品の収益が大きく根底を支えてる
困り果てたグループ企業の担当者と交渉を重ねているが決裂したとニュースは報じていた
記者にもみくちゃになった渡辺と忸怩たる思いを抱えて苦り切った佐鳥省吾が映っている後ろに雪斗がこっそり見切れていた
主犯のくせにまた自分は関係無い振りをしている
今回は雪斗にちゃんと何をするのかを聞いて話し合っていた
勿論納得は出来ないし嫌だったが雪斗を止められないのはもうわかってる
佐鳥省吾が彷徨いているのは嫌だが彼がそこにいるのは偶然だったと聞いていた
「くだらない事言ってないでさっさと外回りに行けよ、焦れたフジキ商事から電話が入ってたぞ」
「フジキ商事ならもう電話で用件は済ませました」
「は?あそこはうるさいぞ、顔を見せなきゃ臍を曲げて取引を失うぞ」
「大丈夫ですよ、俺はそんなヘマしません」
阿川は相変わらずだが一皮脱皮していた、深川が若い時はこんな風だったのかとも思えるくらい図々しく図太い、それなりに出来るようにはなっていた
「そう言えば佐鳥さんは社長と別れたんですか?最近あの人関西によくいるし、こっちに帰ってないでしょう」
「二人はホモだったんですね、そうじゃないかと疑って……」
茶化した阿川の頭をボカッとなぐりつけた松本は申し訳無さそうに頭を掻いた
「すいません……俺……」
「いいよ、俺は気にしない、何でも好きに言ってくれ」
「でも、佐鳥さんは社長の家に住んでますよね、辛かったら言ってくださいね、俺遊びに行きます、泊まりに行きます」
「来ても入れないけどね、俺は先に出るぞ、お前らみたいにのんびりしている暇は無いんだ」
行ってらっしゃいと手を振った二人はコーヒーの続きを飲んでまだ動こうとはしなかった
松本と阿川は歳が近いせいか、最初は仲が悪かったが最近はよくつるんでいる
一度社長代理を挟んだせいか野島新社長もきちんと嵌り、雪斗がいなくなってもTOWAは上手く回っていた
真冬の寒い朝、目を覚ますと雪斗はいなくなっていた
どうして行ってきますとか、予定とか、どこに行くとか言えないのかはわからない
つくづく稀有な運命だと思うが結果的に今親父と同じ事をしている
大事な屋敷を守り、管理しながら住んでいた
松本に変な事を言われたが、寂しいかと言われれば寂しい
一人で夕食を食べ本を読みながらビールを飲んでシャワーを浴びてからベッドに入る……雪斗の事を想いながら……
ちゃんといつでも脇は開けてある
何故か一人で飲むとビールは一本でも効く、ほんのりとした気持ちのいい酔いに、うつらうつらしていると隣で何かがゴソゴソと動いている
…………いつ帰ったのか
雪斗は定位置に顔を埋め、鼻を胸に摺り付けあっと言う間に眠ってしまった
新幹線と飛行機を覚え、スキルを上げた雪斗はほぼ毎日ちゃんと帰ってくる
家を守り雪斗の眠りを守る
それは形を変えてもこれからもずっと続く
続けていく
それは運命でもあり使命でもある
エンド
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