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昇進した、つまり・・
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月曜日の朝、出社一番の事だった。
自由な未来企画らしいが「営業部」への転属を言い渡されて唖然とした。
それはパイクコネクションの事もあるのだろうが、突然すぎるのだ。
「営業部」への昇格は目標であり、本当の意味でのスタートだったから嬉しいと言えば嬉しいが、年末に向けての追い込みを掛けるこの時期に転属なんて複雑な気持ちになるのは当然だろう。
辞令を持って来たのは真柴の上司である巻坂さんだ。つまり上司の上司な訳だが「さん」付けで呼ぶのは明確な役職を付けてない未来企画の特性なのだ。立場としては現場の全てに責任を持たなければならない部長に当たる。
見た目は世間が持つ一般的な「部長」らしいイメージなのだが中身は真柴以上の古狸でもある、満足そうに浮かべた薄笑いが何とも言えず胡散臭かった。
「あの……辞令の日付が今日になっていますが…」
「うん、引き継ぎの時間が無いから暫くは今の仕事と兼任って事になる、問題は無いな?」
問題はあるに決まっている。しかし、そこをわかっていて「無いな?」と聞いているのだ。
「現在手持ちの案件に影響が出るのは困ります、申し訳ありませんがフォローをお願い出来ますか?」
「勿論だよ」
嘘だな…とわかる中身の無い笑顔だ。
デザインなどという決まった価値観の無い仕事は企業間の取引と言うより個人的な繋がりで成り立っているようなものだ。
フォローなどあっても無くてもやらなければならない事はやらなければならない。
しかし、物理的に無理な事も出て来るだろう。何よりも今のデザイン部は専属の営業がいなければ回らない。巻坂から後任の話は出なかった。
「あの、一つ聞きたいんですけど、デザイン部専属の営業はどうなりますか?」
「もう手配したから大丈夫だ」
「もう?」
「ああ、今頃はデザイン部で挨拶をしているんじゃ無いかな?指導は任すからよろしくな」
「ちゃんと考えてる」と、狸親父らしい仕草で胸を張るが、そこも「そんなに簡単では無い」とわかって言っている。
ここは営業で鍛えた特製のアルカイックスマイルを発動しておいた。手持ちの仕事は継続、引き継ぎの挨拶周りも必要だ。すぐにでは無いにせよ営業部の仕事も入ってくるだろう、その上で新人の指導も付いて来るとなるとそれなりに忙しくなる。
ちゃんと代わりがいるなら営業部への移動は臨む所だ。
せっかくいい感じに連帯感が生まれた今、そこだけはちょっと残念ではあったが、それはそれ、これはこれ、心配するより動くのが先だ。
「営業部への勤務を命じる……か…」
今時ペーパーでの辞令などナンセンスだと思う。
しかし、筆文字で書かれた証書を見ていると目指していた頂きが漸く見えて来たような気がした。
嬉しさが込み上がって来るが怖さも込み上がる。
文面は素っ気ないし、大した事は書いてないが何度も読み直してしまう。
墨が指に付いたのだろう、端っこに黒い指紋が付いているけど、どっかに飾ろうか……なんて馬鹿な事を考えたら笑えてきた。
しかし、笑っている余裕は無いのだ。
古狸の説明によると、デザイン部配属になった新しい営業は美大を卒業したものの営業で入社、地味でつまらない仕事をクリアして勝ち残った入社2年目の24歳って事らしい。
つまり、美大を出ているって事はIllustratorや Photoshopのスキルや形を見るセンスを最初から持っていると考えられる。
営業テクにはある程度の自信を持っているが、何せ右脳集団の考え方には未だに理解できないでいる。あのデザイナー達に馴染めるかという心配と共に……ちょっとだけ、ちょっとだけだが前職より出来る奴だったらどうしようとか考えた。
どんな奴が後任としてやって来るのか、その正体はすぐ目の前にいる。
五階から四階に階段を降りて来ると、デザイン部に入る前から知らない男の話し声が聞こえて来た。
北見はどんな人か。
それが今の議題らしい。
「姫ちゃんは可愛いよ」と言ったのは田淵だ。
20歳になる息子がいるお母さんにしたら若い男は皆可愛いってのはわかる。
しかし「可愛いよな」と答えた声は洋平くんだ。
そこに「カッコ付けでもある」と付け足しのは森上だと思う。(氷上に次いで声が小さい)
「そこも可愛い」との田淵の声に爆笑が起こった。
みんなおかしい。
今まで生きて来た中で「可愛い」などとの評価を得た事は一度も無いのだ。
後輩としてこれから指導しなければならない相手に変な擦り込みをされてはやりにくくなる。
俺が「営業部」の北見だと誇張しながら、戸口で「お疲れ様」と声を張って堂々と登場してやった。そこで、パッと目には入ったのは背の低い垢抜けない顔だった。体に合ってない安物のスーツが野暮ったい。しかも靴は合皮丸出しだ。
勝ったと思って何が悪い。
「おはようございます」
「おはようございます、北見さんですか?」
「はい、北見逸姫です、君は新しい営業さん?」
「はい、佐渡《さわたり》です、よろしくね」
ん?と思った。
いいけど、ラフに付き合っていけるならいいのだが、こっちは歳もキャリアも先輩なのだから「よろしく」は無いだろう。それでも表情に出す程未熟じゃ無い。
「そんなに従業員の多くない会社なのに初めましてってのはびっくりするけどな、暫くは一緒に回る事になるからよろしくお願いします」
「栄転ですね、パイプコネクションの話は聞きました、打ち合わせには俺も付いて行ってもいいって事ですよね?」
「え?、いや、パイプコネクションは真柴さんと俺が担当だから佐渡くんは別案件をやって貰うけど……」
ここまで言ってから大事な事を忘れていたと気付いた。最も大事で最も警戒しなければならない事だ。
「あの、悪いけどこの先の説明は後でするからちょっと待っててください、そうだな…」
これを見てろと、今の手持ちである年賀状のファイルを佐渡に渡してから氷上の元に急いだ。
相変わらずも相変わらず、視線は画面、飴を舐めつつカチカチとクリックしているだけで目線すら寄越さない。
「もう聞いてますよね?」
カチカチカチカチと激しいクリック音が返事だ。
無視ですね。
「これは辞令です、わかってますよね?」
バチンとエンター。
こんな時の氷上は面倒くさい女子そのものだ。
愛されていると言えば聞こえはいいが、おもちゃの独占を目論む子供だと感じてしまう所にもやもやが残る。
「俺はデザイン部では無くなるけど氷上さんとは今より近くなると思います、割り込みじゃなくて正式に仕事を頼めるし、打ち合わせも出来るし…」
そこで声を潜めて「夕飯を一緒に食べよう」と誘ってみた。
「ボスコでよければ…ですけど」
「………真柴達がお前を欲しがってる事は知ってたよ」
「あ……口をきいてくれた」
「飴……いる?」
「いや、今は……」
どうなるかわかっているから、いらないと断ろうとしたが問答無用で舐め掛けの飴が口に入って来た。
デザイン部のみんなには何をやっているかバレているけど、モニターに隠れているから少なくとも佐渡には見えてない。しかし、万が一にも聞かれる訳にはいかないのだ。声を落として首も落とした。
「真柴さんと仕事をする事になりますけど妙な事を言い出さないでくださいね?」
「油断丸出しで煽んなよ?」
「ガツガツと焼肉食ってる普通に男に煽られるとか言うのは一部の変態だけですよ」
「あいつも変態だろ」
「そこに反論はありません」
新たな飴をカコンと口に放り込んだ氷上はそれだけ言ってから、スンッと画面の中に戻っていった。
それは多分……本当に多分だけど頑張れと言ってくれたんだと思う。
頭を下げて部屋を見渡すとニヤつく顔が4つと、驚いている顔が一つこっちを見ていた。
ニヤついている顔は無視していい。
「佐渡くん、お待たせしました、これから外回りに出るけど何か聞きたい事はあるかな?」
「たくさんありますけど……氷上さんと話せるなんて凄いですね」
「はは、無視された?」
「はい」と苦笑いをする佐渡は、多分この先は同じ道を通るのだろう。
挨拶無し、返事無し、全てに無関心で孤高だが、ひたすら怖いエースデザイナーと面倒くさいデザイナー達。
一緒に歌を歌える機会が来ればいいなと、エールとドヤがやって来た。
「気にしなくて大丈夫ですよ、あの人はあんな人なんです」
「でも……同じ職場ですよ」
「氷上さんは佐渡くんの持ってくる仕事はしないんです、だからいないものと思っていいですよ」
酷いと洋平くんが笑ったがそこは事実だ。
「質問があれば聞くけど今日は俺の仕事を見て貰うことになるかな、今は年賀状の仕事を掃いていく事が最優先なんだけどファイルには目を通してくれましたか?」
「見ましたけど……これ、つまんない案が多くないですか?」
「え?年賀状の話ですか?」
「そうです、はっきり言って悪いんですけど、ありきたりって言うかな、市販で買えるようなデザインばっかりに見えます」
そう来たかと苦笑いになる。
やる気があって熱いのはいいが、そのダサいデザインを担当したデザイナー達が目の前に顔を揃えているのだ。空気を読まない所はさすが右脳組だと思う。
「早く決まる方を優先したらこうなります」
「つまり流してたって事ですよね」
「うちはデザイン事務所じゃ無いんです、最低でも12月の初旬には印刷物を納品しなければなら無いからね、流してでも騙しても使い回してでも決まる方を優先します、時間が無いから出先に行くまでの電車で話しましょう」
「そうした方がいいかもね」
……かもね?
また、と思ったが佐渡の口調の正体はわかっているから流した。
彼は根拠のない自信を持っているのだ。
言葉の端々に「お前高卒だろ?」という侮りが見えた。
確かに、デザインとは関係無い2流の大学を中退したのだから学歴は無いが、最下層の下っ端一年、真柴の下で一年、デザイン部で四年分の経験がある。
「行きましょうか」
何にしても今は全てを巻きで動かなければならないのだ。腹黒い古狸は「今後は真柴くんが指示を出す」と言った。
つまり振り回されて走り回った2年目の地獄が今この瞬間にでも始まるかもしれない。
太った鞄を持ち上げると「未だに紙ですか?」と笑われた。タブレットのケースだけを持ち歩くのは確かにスマートだが総合的な見た目では負ける事などない。(見た目命)
何故紙なのかは自分の目で見て勝手に盗めばいい、盗めなければいずれ行き詰まるだろうがそこは知らない。
佐渡が付いて来ているかの確認もしないで駅に向かって早歩きをした。
自由な未来企画らしいが「営業部」への転属を言い渡されて唖然とした。
それはパイクコネクションの事もあるのだろうが、突然すぎるのだ。
「営業部」への昇格は目標であり、本当の意味でのスタートだったから嬉しいと言えば嬉しいが、年末に向けての追い込みを掛けるこの時期に転属なんて複雑な気持ちになるのは当然だろう。
辞令を持って来たのは真柴の上司である巻坂さんだ。つまり上司の上司な訳だが「さん」付けで呼ぶのは明確な役職を付けてない未来企画の特性なのだ。立場としては現場の全てに責任を持たなければならない部長に当たる。
見た目は世間が持つ一般的な「部長」らしいイメージなのだが中身は真柴以上の古狸でもある、満足そうに浮かべた薄笑いが何とも言えず胡散臭かった。
「あの……辞令の日付が今日になっていますが…」
「うん、引き継ぎの時間が無いから暫くは今の仕事と兼任って事になる、問題は無いな?」
問題はあるに決まっている。しかし、そこをわかっていて「無いな?」と聞いているのだ。
「現在手持ちの案件に影響が出るのは困ります、申し訳ありませんがフォローをお願い出来ますか?」
「勿論だよ」
嘘だな…とわかる中身の無い笑顔だ。
デザインなどという決まった価値観の無い仕事は企業間の取引と言うより個人的な繋がりで成り立っているようなものだ。
フォローなどあっても無くてもやらなければならない事はやらなければならない。
しかし、物理的に無理な事も出て来るだろう。何よりも今のデザイン部は専属の営業がいなければ回らない。巻坂から後任の話は出なかった。
「あの、一つ聞きたいんですけど、デザイン部専属の営業はどうなりますか?」
「もう手配したから大丈夫だ」
「もう?」
「ああ、今頃はデザイン部で挨拶をしているんじゃ無いかな?指導は任すからよろしくな」
「ちゃんと考えてる」と、狸親父らしい仕草で胸を張るが、そこも「そんなに簡単では無い」とわかって言っている。
ここは営業で鍛えた特製のアルカイックスマイルを発動しておいた。手持ちの仕事は継続、引き継ぎの挨拶周りも必要だ。すぐにでは無いにせよ営業部の仕事も入ってくるだろう、その上で新人の指導も付いて来るとなるとそれなりに忙しくなる。
ちゃんと代わりがいるなら営業部への移動は臨む所だ。
せっかくいい感じに連帯感が生まれた今、そこだけはちょっと残念ではあったが、それはそれ、これはこれ、心配するより動くのが先だ。
「営業部への勤務を命じる……か…」
今時ペーパーでの辞令などナンセンスだと思う。
しかし、筆文字で書かれた証書を見ていると目指していた頂きが漸く見えて来たような気がした。
嬉しさが込み上がって来るが怖さも込み上がる。
文面は素っ気ないし、大した事は書いてないが何度も読み直してしまう。
墨が指に付いたのだろう、端っこに黒い指紋が付いているけど、どっかに飾ろうか……なんて馬鹿な事を考えたら笑えてきた。
しかし、笑っている余裕は無いのだ。
古狸の説明によると、デザイン部配属になった新しい営業は美大を卒業したものの営業で入社、地味でつまらない仕事をクリアして勝ち残った入社2年目の24歳って事らしい。
つまり、美大を出ているって事はIllustratorや Photoshopのスキルや形を見るセンスを最初から持っていると考えられる。
営業テクにはある程度の自信を持っているが、何せ右脳集団の考え方には未だに理解できないでいる。あのデザイナー達に馴染めるかという心配と共に……ちょっとだけ、ちょっとだけだが前職より出来る奴だったらどうしようとか考えた。
どんな奴が後任としてやって来るのか、その正体はすぐ目の前にいる。
五階から四階に階段を降りて来ると、デザイン部に入る前から知らない男の話し声が聞こえて来た。
北見はどんな人か。
それが今の議題らしい。
「姫ちゃんは可愛いよ」と言ったのは田淵だ。
20歳になる息子がいるお母さんにしたら若い男は皆可愛いってのはわかる。
しかし「可愛いよな」と答えた声は洋平くんだ。
そこに「カッコ付けでもある」と付け足しのは森上だと思う。(氷上に次いで声が小さい)
「そこも可愛い」との田淵の声に爆笑が起こった。
みんなおかしい。
今まで生きて来た中で「可愛い」などとの評価を得た事は一度も無いのだ。
後輩としてこれから指導しなければならない相手に変な擦り込みをされてはやりにくくなる。
俺が「営業部」の北見だと誇張しながら、戸口で「お疲れ様」と声を張って堂々と登場してやった。そこで、パッと目には入ったのは背の低い垢抜けない顔だった。体に合ってない安物のスーツが野暮ったい。しかも靴は合皮丸出しだ。
勝ったと思って何が悪い。
「おはようございます」
「おはようございます、北見さんですか?」
「はい、北見逸姫です、君は新しい営業さん?」
「はい、佐渡《さわたり》です、よろしくね」
ん?と思った。
いいけど、ラフに付き合っていけるならいいのだが、こっちは歳もキャリアも先輩なのだから「よろしく」は無いだろう。それでも表情に出す程未熟じゃ無い。
「そんなに従業員の多くない会社なのに初めましてってのはびっくりするけどな、暫くは一緒に回る事になるからよろしくお願いします」
「栄転ですね、パイプコネクションの話は聞きました、打ち合わせには俺も付いて行ってもいいって事ですよね?」
「え?、いや、パイプコネクションは真柴さんと俺が担当だから佐渡くんは別案件をやって貰うけど……」
ここまで言ってから大事な事を忘れていたと気付いた。最も大事で最も警戒しなければならない事だ。
「あの、悪いけどこの先の説明は後でするからちょっと待っててください、そうだな…」
これを見てろと、今の手持ちである年賀状のファイルを佐渡に渡してから氷上の元に急いだ。
相変わらずも相変わらず、視線は画面、飴を舐めつつカチカチとクリックしているだけで目線すら寄越さない。
「もう聞いてますよね?」
カチカチカチカチと激しいクリック音が返事だ。
無視ですね。
「これは辞令です、わかってますよね?」
バチンとエンター。
こんな時の氷上は面倒くさい女子そのものだ。
愛されていると言えば聞こえはいいが、おもちゃの独占を目論む子供だと感じてしまう所にもやもやが残る。
「俺はデザイン部では無くなるけど氷上さんとは今より近くなると思います、割り込みじゃなくて正式に仕事を頼めるし、打ち合わせも出来るし…」
そこで声を潜めて「夕飯を一緒に食べよう」と誘ってみた。
「ボスコでよければ…ですけど」
「………真柴達がお前を欲しがってる事は知ってたよ」
「あ……口をきいてくれた」
「飴……いる?」
「いや、今は……」
どうなるかわかっているから、いらないと断ろうとしたが問答無用で舐め掛けの飴が口に入って来た。
デザイン部のみんなには何をやっているかバレているけど、モニターに隠れているから少なくとも佐渡には見えてない。しかし、万が一にも聞かれる訳にはいかないのだ。声を落として首も落とした。
「真柴さんと仕事をする事になりますけど妙な事を言い出さないでくださいね?」
「油断丸出しで煽んなよ?」
「ガツガツと焼肉食ってる普通に男に煽られるとか言うのは一部の変態だけですよ」
「あいつも変態だろ」
「そこに反論はありません」
新たな飴をカコンと口に放り込んだ氷上はそれだけ言ってから、スンッと画面の中に戻っていった。
それは多分……本当に多分だけど頑張れと言ってくれたんだと思う。
頭を下げて部屋を見渡すとニヤつく顔が4つと、驚いている顔が一つこっちを見ていた。
ニヤついている顔は無視していい。
「佐渡くん、お待たせしました、これから外回りに出るけど何か聞きたい事はあるかな?」
「たくさんありますけど……氷上さんと話せるなんて凄いですね」
「はは、無視された?」
「はい」と苦笑いをする佐渡は、多分この先は同じ道を通るのだろう。
挨拶無し、返事無し、全てに無関心で孤高だが、ひたすら怖いエースデザイナーと面倒くさいデザイナー達。
一緒に歌を歌える機会が来ればいいなと、エールとドヤがやって来た。
「気にしなくて大丈夫ですよ、あの人はあんな人なんです」
「でも……同じ職場ですよ」
「氷上さんは佐渡くんの持ってくる仕事はしないんです、だからいないものと思っていいですよ」
酷いと洋平くんが笑ったがそこは事実だ。
「質問があれば聞くけど今日は俺の仕事を見て貰うことになるかな、今は年賀状の仕事を掃いていく事が最優先なんだけどファイルには目を通してくれましたか?」
「見ましたけど……これ、つまんない案が多くないですか?」
「え?年賀状の話ですか?」
「そうです、はっきり言って悪いんですけど、ありきたりって言うかな、市販で買えるようなデザインばっかりに見えます」
そう来たかと苦笑いになる。
やる気があって熱いのはいいが、そのダサいデザインを担当したデザイナー達が目の前に顔を揃えているのだ。空気を読まない所はさすが右脳組だと思う。
「早く決まる方を優先したらこうなります」
「つまり流してたって事ですよね」
「うちはデザイン事務所じゃ無いんです、最低でも12月の初旬には印刷物を納品しなければなら無いからね、流してでも騙しても使い回してでも決まる方を優先します、時間が無いから出先に行くまでの電車で話しましょう」
「そうした方がいいかもね」
……かもね?
また、と思ったが佐渡の口調の正体はわかっているから流した。
彼は根拠のない自信を持っているのだ。
言葉の端々に「お前高卒だろ?」という侮りが見えた。
確かに、デザインとは関係無い2流の大学を中退したのだから学歴は無いが、最下層の下っ端一年、真柴の下で一年、デザイン部で四年分の経験がある。
「行きましょうか」
何にしても今は全てを巻きで動かなければならないのだ。腹黒い古狸は「今後は真柴くんが指示を出す」と言った。
つまり振り回されて走り回った2年目の地獄が今この瞬間にでも始まるかもしれない。
太った鞄を持ち上げると「未だに紙ですか?」と笑われた。タブレットのケースだけを持ち歩くのは確かにスマートだが総合的な見た目では負ける事などない。(見た目命)
何故紙なのかは自分の目で見て勝手に盗めばいい、盗めなければいずれ行き詰まるだろうがそこは知らない。
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