月のカタチ空の色

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仁 2

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春人が変わり始めたのは中2の終わり頃だった

世に言う反抗期

イライラしたり乱暴になったりはしないが、何を言ってもチロッと横目を寄越すだけでとにかく口をきかない

「母さん、俺に反抗期ってあった?」

「それがなかったのよねえ、仁は小さい頃から悟ってるって言うか冷めてるっていうか……いつの間にか勝手に大人になっちゃってつまんなかったわ」

「つまんないって何だよ、暴れたりした方が良かった?」

「学校からの呼び出しも一回もないし三者懇談なんて成績も生活も友人関係も問題なしって先生も話す事がなくて困ってたじゃない、オマケにもう稼いでプチ独立しちゃってさ」

「稼いでるって程じゃないけどね」

中3の夏休みに路上でスカウトされモデルのバイトを始めていた、確かにその頃から小遣いを貰った事なんかない

わかりやすい反抗期が無かったのは自分以上に大切な物があったから……それに性体験が早かったせいもある、相手はすべて年上で女は勿論男も教えられ大人の世界に混じっていると反抗期なんて訪れる筈もない

「反抗期って甘えてるからこそじゃない?春人がいつクソババアって言ってくれるか楽しみ、ベンキョーしろって連発してみようかな」

「ポジティブだね」

変わった母だとは思うが確かに反抗期を子育てのクエストだと思えば何をしてくれるか楽しみだ

春人の為……と常態化していた抱っことチューは、やめろとは言わない代わりに必死に避けている

チャンスがあれば追い詰めてチューでもしてやればどんな顔をするか楽しみになって来た



「ハル、食事中は携帯を置きなさい」

春人の受験が本格化する頃に母はしょっちゅうそのセリフを言った

携帯はまだ早いと母は反対したが、父は元々春人にクソ甘い、母の手前仁に任せるとその案件はこっちに回ってきた

仁があんな物を買うからとブツブツ言われたが純粋な自己資金なのだから母も折れるしかない、春人が笑うなら何でもしてしまう

携帯を肌見離さず持つようになったのはどうやら彼女が出来たかららしい

………そんな事もあるだろうとは思っていたが………

まだ早いんじゃないか?

受験もある……

相手は?

どんな女?

気になって気になって携帯を覗き見たい

そんな事は出来ないが………気になりすぎて眠れないから仕方が無い、春人に見つからないように見に行った


彼女らしき女の子はすぐに特定できた

二人で並んで歩き校門で待ち合わせの約束をして別れた、顔を見たならそれで帰ればいいのものをどんな娘か確かめたくて彼女の後を付いていった

顔は………かわいい………今時の中学生にしてはノーメイクで綺麗に切りそろえた髪は真面目そうに見えるが計算高そうでもある


「誰か待っているんですか?」

彼女の様子を伺っていると目が合ってしまい、にっこり微笑み返すと彼女の方から声がかかった

「暇なんだ…君は?…」

「私も暇です」

嘘………………今から春人と図書館で待ち合わせをしているだろう?

「………そう………」

「じゃあお茶に付き合ってくれませんか?」

「え?」

逆ナン?

この娘は春人と同い年のはず
清楚に見えるのはやっぱり計算なのか随分行動力がある、声をかける気はなかったがそう来るなら話が早い、オープンカフェで抹茶ラテを買ってテラス席に座ると媚びる目つきで下から覗き込んで来た

「お兄さん凄くカッコいいですね、物凄く目立ってましたよ」
「そう?」

「ラインのアドレス交換しませんか?」

「え?……いいけど……」

名前を聞く前にラインの交換?携帯を構えているなと思ったら写真を撮ろうとしている事に気付いて慌てて止めた、それはまずい、色々まずい、春人に見られたら厄介どころじゃない

「ごめん、顔を売って仕事しているから写真は駄目なんだ」

「え?それってモデルさんって事ですか?」
「ただのバイトだけどね」

「すごーい……お兄さんっていくつなんですか?」

お兄さんはやめろ……年を言うとどこの高校か聞かれそうだ、図書館では春人が待っている筈、待ちぼうけは可哀想なのでラインを交換してさっさと別れた

それにしても春人はロクな女を選んでない

早速送られてきてラインはまた会いたいなんて書いてある、自慢じゃないが女には苦労してない、まして中3なんて子供………

「見る目ないな………」

何食わぬ清楚面で年上の男を逆ナン?簡単に声をかけていい雰囲気は出してない、ガッツいているは通り越して図々しいくらいだ


ひと口も飲んでない抹茶ラテとムカムカ湧き上がる不機嫌をゴミ箱に捨て駅に向かった



その日は年末調整と確定申告の準備をしろとバイト先のモデル事務所から呼び出されていた

事務所には年に数回しか来る事はない、いつも電話で撮影場所の指示を受け支払いは振込

外からは何の会社かわからない貸し小さな事務所は地味でいつも物静か、ドアを開けるとマネージャーをしている売れないモデルもどきの柳が顔を上げた

旬を過ぎた顔は上手くミドルに移行する事なく劣化した若さがダサい

「いらっしゃい仁、待ってたんだよ、お前で最後だから終わったら俺は帰れるしさっさとハンコ押してくれ」

「遅くなってすいません、書類をください、今書きますから」

「はい、こことここにハンコ押すだけでいいから」

「ここですか?」

書類にはもう名前や住所は印刷物されている、日付を書き入れハンコを押すだけ、持ってきていたハンコをポケットから出して押そうとしていると……

ねっとりと湿った手が首に巻きついてきた

「離してください柳さん、俺は女がいいんで」

「何が?」

「手が邪魔です」

「ふうん………お前はいつ見ても綺麗だな」

柳はゲイだと公言している、顔を合わす度に何度も誘われていたがヤラれるのはあんまり好きじゃない

無視していると体を這う手は胸を弄り、外されたシャツのボタンから香水臭い柳の頭が潜り込んだ

「ちょっと………柳さん………」

「いいだろ仁……色々教えてやるよ…」

教えてもらわなくても知っているが……

抗うのも面倒………年齢の割にキッズモデルではなく大人に混じっていたせいでおもちゃになっていた、最近は選べるようになって来たがセックスの1回や2回どうって事はない、事務所の長椅子に組み伏されても放っておいた



駅から歩いて帰る途中には春人が痴漢に合いかけた公園がある、日は落ちたが光の尻尾を空に残しビルとの境目を紫に染めていた

柳とのセックスは一方的で雑………体がズキズキして歩くのが辛い

「クソ柳、下手なんだよ……」

何が「教えてやる」だ、それはこっちのセリフ



…………?

無人だと思っていた薄暗い公園から風に乗って人の話し声が聞こえてくる、多発した痴漢対策に鬱蒼としていた立ち木が伐採され、見通しの良くなった広場に目を凝らすとジャングルジムの側でカップルがキスをしていた

男の方が体を押されて背中が反って苦しそうだ
キスしていると言うかどっちかと言えばキスされていた
 
「ハル?…………」

春人のシルエットを見間違えたりしない、確かに………昼間に会った発展家の娘と目の先でキスをしているのはあの幼い弟だ

携帯には既に数件ラインの着信がある……

「あの女………………」

二人はジャングルジムの根元に座り込み顔を寄せて話をしていたが暫くすると家と反対方向の出口から公園を出て行ってしまった

足が動かなかった………

綺麗に箱に入れて大事にしていたものを汚い手で乱暴に触られた気分だった



家に帰ると春人より早かった、そりゃそうだろう、犬の散歩をしていた人が二度見する位の大股で一直線に家まで歩いた

後を追ったりしなかっただけでも褒めて欲しい

………1分が長い、あれ以上何かするとは思えないが今二人が何をしているのかと思うとイライラして時計ばかりを見ていた

探しに行きそうになる足を叱りつけ秒針とにらめっこをして30分、玄関で扉を開ける音がした

「ハル?」

反抗期継続中……やっぱり返事はしないで、ご飯は?と後を追った母の声は無視して春人は帰った足で2階の部屋に駆け上がって行った


「食べてきたのかしらねぇ」

「外食なんてハルができるわけ無いだろ」

「どうしてよ、仁は春人の年には外食どころか外泊もしょっちゅうだったじゃない」

母は呑気に笑いながらまたそのうちお腹が空くでしょうと春人の夕食にラップをかけている

そりゃそうだが今思っても父も母も放任過ぎる、特に春人は大事にし過ぎてまだ頼りない子供

春人に何も言うつもりはなかったが顔を見て………
帰りが遅いなんて陳腐な説教でもする?
貞節なお付き合いをしなさい……陳腐に輪を掛ける

どうしたいのかわからない


「ハル入るぞ」

ノックはしなかった


ドアを開けるとベッドに乗って背中を丸めていた春人がビクリと飛び上がり慌てて毛布をたくし上げた

「何だよ!勝手に入ってくるなよ」

狼狽えた声が動揺に揺れ自慰をしていたのだと見てすぐにわかった

将来のあざとい淫売予備軍は望めばすぐにヤラせてくれそうだが…………あの女の事を思い浮かべていたのだと思うと腹が立った

さっきまでセックスをしていた高ぶりもあったのだろう、春人の毛布をめくり上げて手を突っ込んだ

「仁!なっ!……」

「やりたいなら俺に言えよ」

「なに?!やめっ!!仁っ!!」

覆い隠そうとする手を払いのけて春人のそれを掴むと半分萎えて縮んでいた、暫く一緒に風呂に入っていない間に春人のそこは大人へと成長を遂げている

暴れる体は背を向けて毛布の波を泳ぐように手をかきまわし逃げようとするが身長差は30センチ近い、細い体を抑え込んで手を動かした

「あ!嫌……嫌だ!!仁やめて……やめてよ」

パニックにを起こした春人のそこは萎えていくばかりで気持ちいいなんて感じてくれてない


「ハル……俺を見て」

「やめて…やめ……」

やめてくれと繰り返しジタバタする口を塞いだ

あの女の上書きをするつもりもあった

「ん………ぅンンっっ?!!」

多分初めてだろう(そこまでやってたらあの女ただじゃおかない)

いきなり舌を入れると下半身を隠した毛布を捲った時よりビックリして反射的に頭を引いた

逃げようとする顔はギュッと固く目が閉じられ体重で抑え込んだ体を動かせないままガタガタ揺らした

春人はボヤッとしているが絶対女にモテる、知らない所で知らない奴から変な事を教えられるなんて我慢ならない

逃げ回る舌を深く食いついて引っ張り出しだすと体を引き離そうとする手がシャツを引っ張った

春人に性伎を教えてみたい欲
手の中に収めていたい欲…………冷静じゃないが頭は冷えている

緩く上下させている手の中が少しずつ芯を持ち固くなって来るとシャツを掴む手の力が抜けていった

育ったものだなと感心してしまった、飛んで跳ねてしなやかに踊っていた細く小さな体はいつの間にか大人になり性感を得るようになっている

「…ハァ……うぁ……」

キスから開放するとベッド脇の壁に目を逸し我慢出来ない快感に震える眉がハの字に寄って耐えている

潤んだ目が細まった


「ハル、イケそう?」

「………うるさ…い……」

昂まった体は熱を持ち浅い息で胸の上下が早い、制服のシャツを開いて青く綺麗な体を検分するように下に降りていった

知識のない体はビックリだったろう

「仁!何する………嫌……あっ!…」

下半身に口を付けると驚いた腰が浮き上がった、未体験の刺激にブルリと全身を震わせ青い体はもう射精感に苛まれているのがわかる

動きを早めて射精を即した

「う………………ぁ…」

抗っていた両腕が力を無くしてポタリとベッドに落ちた

口の中に吐き出された精は薄くて受け切れない、ベッドに置かれたティッシュに吐き出した



ベッドの側にティッシュとゴミ箱を用意して自慰に挑むなんて可愛くて笑える、部屋の掃除は母がするのにモロバレ……あのおおらかな母がニンマリ笑う顔が見えるようだ

「ハル……」

「………なんで……こんなこと………」


はだけた制服のシャツとあられもなく空いたズボンのチャックを直そうともしないで春人の頬を涙が伝って
ダラダラと流れていく
ボタンに手をかけるとビクッと体が跳ねた

「セックスなんてこんなもんだ、大した事じゃない」

「………出て……行けよ」

「やりたくなったら呼べよ」

「うるさい」

「お母さんがご飯を食べないって心配してるぞ、さっさと食べてこいよ」

「………………」

恥辱にまみれ涙を流している春人をそのままにして部屋を出た



後悔はなかった

逸脱している事は分かっていたが春人が大事で自分のものだと思う気持ちは抑えられない

春人に手を出しても体は反応しなかった
それはそうだろう、春人に対して性的な欲求はない


大事な弟なのだから………
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