月のカタチ空の色

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清宮は見舞いに行った次の日には出勤して具合が悪そうな様子は一切見せなかった、本調子に戻るには数日かかったはずだが普段通り仕事をこなし、普段通り無理をした

横目で見ていたが言っても聞かないのだから仕方がなかった




その日は仕事から帰りコンビニで買った適当な食べ物を口にしながらテレビを見ていた、普段は殆ど見ないが一人でいる時、たまにBGMとして流している

何か面白い番組でも無いかとチャンネルを変えてみるがどこのチャネルも申し合わせたように何か食べているだけで興味を引く番組は一つもない


今日の清宮は夕方から目が合わなくなり7時前になると慌てて仕事を片付けて帰って行った

おそらく……例の同期が集まる飲み会らしいが一度その事で喧嘩になったのであえて黙っていた

清宮が行くと言えばそれは仕方がない、ついていくわけにも行かないしまさか店の前で待っているなんてストーカーみたいな真似は………やりたいけど………出来ない


実はここ数日微妙に清宮を避けていた

避けると言っても部屋に上がりこんだり泊まったりしないという程度だが…

遅くなると清宮は当然泊まりに来るだろうと決めつけてくるが意地でもタクシーに乗って帰った


聞いてもいないのにあのバーテンが男同士のセックスや体のいいところを長々と解説した

触れてみたい…抱きしめてみたいとは思っていたが具体的に体を合わせる想像まで行き着いていなかったのに、清宮を見ていると快感に潤む瞳や漏れ出る喘ぎ声を想像してしまい目を合わせられなくなっていた

にっこり微笑むバーテンの顔を思い浮かべ反撃の糸口を探したが………

男を襲っている現場を奥さんに押さえられても少しの動揺も見せなかった相手である…………見つけるのは難しい

「春人さん……黒川と飲んでるのかな…」


宮川が清宮にベタベタするだけでも苛ついていたのに黒川が酒の席で何をするか考えると無事(?)を確かめに電話したくなる

シャワーを浴びて眠ってしまおうとバスルームの灯りをつけると……………

椅子に掛けたまま放っておいた上着のポケットから着信音が聞こえた






同期の飲み会は久しぶりだった

入社してからひと月の研修を終えた後はよく集まったがそれぞれの部署での仕事に就くとだんだん足が遠のいていた
集まったのは五人、清宮と黒川、食品の小関と別館輸入雑貨の山下と朝原だけだった

しかしあの全く無駄に思える研修は思わぬ絆を残しそれぞれが特別な同志になっている

「黒川の売り上げはもの凄ぇって聞いたぜ」

「毎日使いっ走りと下僕やって稼いでるんだよ、お前らも見習え、俺は言われれば女装だってするぞ」

「本格的にキモ!あ!清宮!!この前チラシ!オコゼがオゼコになってたぞ!客に指摘されて俺めっちゃ恥ずかったんだからな」

「オゼコじゃないの?!」

「オゼコって何だよ」

「書いてあったし、俺もなんだろうなあって思ってた」

「嘘こけ」

「マジ」

ちょうど元原稿のスクリーンショットがタブレットにあったので見せると大笑いになった

「お前ら食品は賞味期限切れそうな食材とか売れ残りの惣菜余ったらもっと持って来いよ」

「買え!!」

酒が進むと遠慮がなくなってきて声が大きくなっていた、店のなかで悪目立ちしているがそれはいつもの事、入社当初の調子が出てきたと益々盛り上がっていった


「そう言えば球技大会で揉めてたなお前ら」

山下の言葉に清宮は黒川と顔を見合わせた、お互いもう遺恨はないが率先して話題に出すには揉め方が派手過ぎ……


「次やったらぶっ殺す」

「次は立てないように足を狙う」

「その前に俺がやる」

「俺が勝つさ」

黒川は厚い胸板を膨らませ体躯を誇張した

「ボロ負けしたくせに」

「おいおい、来年はゲーム開始とともにK1に変更になるぞ」

「今から賭けるか?」

手の出た喧嘩を酒のツマミに出来るのは同期だけは学生ノリだからだろう
黒川が清宮にパンチの真似事をしてから笑って頭を抱きかかえた

黒川が何だかんだと清宮に寄って行くのは同期の間ではみんな知ってる事だった
一部の女性陣の間で黒川は清宮に惚れていると……からかい半分噂になる程だった

今もちゃっかり清宮の隣に座り込んでいる
先に座った小関を押しのけてまで…

ただ一緒に風呂に入り雑魚寝して意味のわからない一ヶ月の研修をこなした仲だ、仲間内では誰もそんな事は気にならなかった


「おい!聞いたぞ朝原、お前結婚するんだってな」

「ああ、これがこれでな」
小指を立ててから腹が膨らむ格好をした

「やる事やったらしょうがないだろ」

「いや……俺はちゃんとコンドームしてた筈なんだ」

「穴開けられたんじゃないのか?」

どっと湧いてみんな無邪気に大笑いしている



小関と黒川は結婚している
山下は長い事公認になっている同期の彼女が居た

「山下は長い春だなぁ、そのうち捨てられるぞ」

「6年?いい加減にしてやれよ」

「ほっとけ、うちはうちだよ」


「清宮は?どうなんだよお前」

全員の視線が集まった

「俺は何もない」

「本当にいないのか?売り場でもお前の話はよく聞くぞ、一回も浮いた話が無いなんて変だろう、故郷に彼女残して来て遠距離とかしてんじゃないの?」

「実家まで30分だけど…」


清宮は研修のアスレチックをひょいひょいこなし、失敗すると池に落ちる仕掛けが山ほどある中で一人だけ濡れなかった、女子にはかなり人気があったが本人は飄々として気付いている様子すら無い

これも全員知ってる事だった、社内球技大会も同じだ

「お前どっかおかしいんじゃないの?」

「どういう意味だよ!おかしくないよ馬鹿」


「………彼氏でもいるんじゃないのか?」

黒川が呟くと会話が止まってシンとなった

確かにそう言う要素がないとは言えない

清宮が……と言うよりその毛があるタイプにはモテるだろうと思えた、ここにいる面々は少なからず清宮にドキリとさせられている

しかしどちらかと言えばまだ無知な少年のようで無頓着なイメージの方が強いというのが共通認識だった

「お前今度それ言ったら今度こそ殴るぞ」

清宮が黒川にお手拭きのタオルを投げつけると、反撃されたタオルはヒョイと避けられ後ろにいた小関に当たった

「あの時の綺麗な男女誰だよ」

「へ?オトコオンナ?何それ?いつの話?」

「研修の打ち上げの帰りだよ、妙にくっついてた……」


研修の打ち上げなんて6年も前の事だ

最初は神崎の事かなと思ったが「綺麗」と言われる知り合いは一人しかいない

「仁かなあ?」

「仁?」

「俺の兄貴」

「……兄貴?……兄弟には見えなかったな……」



ギリギリ20歳になったばかりの清宮と研修の打ち上げの会場を出ると突然後ろからグイと引っ張られ組んでいた肩を外された

二次会に向おうとしていた時だった

その男は高い視線から睨みつけ、酔いが回ってニコニコしている清宮を守るように囲い込み無言のまま連れて行った

その後も飲みに行く度に迎えに来て、一度は頭にキスをしているように見えたのだ

「そいつ細長い奴?」

「あ?………ああ…背は高かったな、顎全開で見上げた…」

「じゃあ多分兄貴だよ」

「背の高い細い人だろ?俺も見た事ある」

麻原が山下と投げ合いをしていたお手拭きを何枚もまとめて口を出してきた

「お前あの時電信柱に吐いてたじゃん」

「吐いてた吐いてた、電柱とチューしてた」

どっと笑いが起こり麻原の手からタオルが放たれた



こんな中途半端な時間に電話がかかってくると仕事で何かあったのかとドキンとさせられる
 
誤植や写真の差し替え…家で出来る範囲ならいいがサーバーが必要な内容だったら会社まで出向かなければならない


「……今からだと徹夜コースだろ、勘弁してくれ………」

仕事で無ければ帰れないから泊めてくれなんて弟からのろくでもない頼みって事もある

無視しようかと迷ったが途切れないコールに渋々携帯を確かめると画面には春人の文字表示されている

清宮から電話が入るのは珍しい 


いつも一緒いるせいか……元々不精なのか清宮は電話で連絡なんてマメな事はしない

せいぜい簡素な業務連絡を短い一言で送ってくるぐらい………それに仕事の話だったら清宮の事だ、一人で処理してしまうだろう

プライベートに電話を掛けてくるなんて喧嘩した時以来だった

慌ててスマホをスライドした



春人さん?どうしたんですか?」


「………もしもし?…神崎さんですか?」

「?」

清宮じゃない
画面を見直すと間違いなく清宮の携帯からだった

「誰だあんた…」

「私です」

「だから誰だ、名前を言え」

「エスクールの晋二ですよ」

エスクール?

……………例のバー?

「晋二さん?なんで春人さんの携帯を?」

「すいません、勝手に拝借しました」

「だからどうしてあなたがその携帯を持っているんですか」

「そんな怖い声を出さないでください、話しにくいですよ」

「いいから!!」

思わず声が大きくなった、清宮は携帯を店で出したりしない、仕事が終ると身には付けず鞄に入れっぱなしにする、人目には付かない筈だ

「ふふ………神崎さんはあの方の事になると人が変わりますね」

「いい加減にしてください」

「ハルヒトさんが何とも危ないのでお知らせしたほうがいいかな…と」

「何が?」

「今お店にいらしています」

「まさかお前!!」

怒鳴り声になった




「私じゃありませんよ、お連れの方二人とご自分でいらっしゃいました」

「え?!じゃあもしかして酔って寝てしまいましたか?」

「いえ、騒いでらっしゃいました」

ふふっと苦笑する声が聞こえた

「うるさいので引き取りに来いと?」

「いえ……お連れの方の目が気になりましてね…」


ドキンと心臓が跳ねた、……連れは黒川か?

「三人でいるんでしょう?」

「今は背の高い方とお二人です」

「!!すぐ行きます、あの何とか………その…」

「私は全てのお客様に楽しんでいただきたいので口出しは出来ません」

言い切る前に答えが出て来る………顔を見ないでも会話を読むのか……

「…まあ、おいでになるまで引き止めるぐらいはいたしましょう」

お詫びも兼ねて……

晋二が付け加えた


取るものも取らず部屋を飛び出した
”あの”バーテンが危ないというのだ、間違いはない

その意味も……

タクシーはノロノロ遅い、焦りでジリジリして運転席に噛り付いてしまう、やっぱり止めるべきだった、黒川のあの欲で濁った瞳を思い出すとゾッとする

「すいません!急いで下さい」

運転手はうんざりした様子でフンっと鼻を鳴らしただけだった

大通りでタクシーを降りて走った、例の路地まで




全員同じ時間に集まるなんてそれぞれの職種が違いすぎて無理な為同期会はいつも会社に近い店を選ぶ

しっとりと飲むメンバーではなく、騒ぐわ暴れるは、一度は体自慢の黒川と山下が脱いだ事まである、上品なカフェバーよりは安い居酒屋かせめて個室のある場所にと素面の時に選んだ

しこたま飲んだ後小関と山下はコレがこれで、とジェスチャーを交えつつ帰っていき残ったのは三人だけだった


酔った清宮がヘラヘラと意味なく笑うのはいつもの事、いい店を見つけたとフラフラ歩いて行く先に団子になって傾れ込んだ


その店は居酒屋のテンションを持ち込むような場所ではなかったが、朝原の泣きの入った結婚話で声のボリュームがあがっていた


他の客にとっては迷惑だろうが晋二にとってはどちらでもいい

コンドーム穴あけ疑惑は馬鹿らしいが面白い、気不味そうなカップル客を見学しながらお酒でも飲みたい気分だった


安酒を煽るように早いペースの注文にグラスは洗えないまま貯まっていた、使っていないグラスの数が心許なくなってきた頃店の中にはカップル一組と清宮と黒川だけになっていた

二組ともボックス席についている


店内はいつもと同じく湖底の底で営業しているかのように静まり返っていた


晋二はバーカウンターの中でグラスの整理をしながら暗いボックス席の奥をチラリと覗いた


清宮が店に入って来た時は少し驚いた


手をつけるつもりなど頭の片隅にも無かった為か、うっかり態度に出してしまい神崎には清宮が好みである事を悟られている

ちょっと話題にしただけでも目の色を変える神崎がガッチリガードするだろうと思っていた

実際にこうしてよく見ても色気があるくせに殻が硬そうで清廉なイメージは違う場所で会っていたら手を出してみたい相手だった

見た目も好みだがどんな状況になっても、最後まで抗ってくれそうな所は加虐心が湧いてくる

店に入って来た時から清宮はかなり酔っているように見えた

二人きりになっている今は一人で話す連れの男に半目でいい加減な相槌を打つだけになっている

連れの男は何かにつけ首や胸元に手を這わせ、見ていてイライラする下手くそなボディタッチが多い

…………先日神崎に手を付けた事は不本意だった

客に手を出さないと言うのは建前じゃない
相手に居場所を特定されて逃げられないから面倒だ…

別に清宮がどうなろうとどうでも良かったが神崎には借りがある

開いた椅子に放置された鞄から携帯を拝借して神崎の電話番号を探した、柄にもないお節介だがたまにはいいだろう


今は清宮の声は殆どしない

ボックス席は暗い店内の中で更に暗い、奥の席はベンチでテーブルを挟み椅子が二つ並んでいる

清宮はベンチの隅に座り、黒川はテーブルの横に椅子を寄せて覆い被さりフロアからは見えなくなっていた

別に減るもんじゃないし店で大した事ができる筈もない、他に客がいなければ………何をしても止めないが……

パンツを脱いで腰を振ろうが楽しく見学させてもらう


ただ………タイミングが悪い

神崎に電話を掛けてからもうそろそろ着くかもしれない

清宮の事では度々度を無くす神崎には冷静な対応を期待出来ない、店での騒動は出来れば避けたいところだ

一応義理は果たしたのでさっさと路地の先にあるホテルにでも移ってくれる方が有り難かった


「お客様、グラスのお代わりはいかがですか?」

黒川の広い背中に声をかけると、のっそり顔を上げた大柄な体の影にシャツのボタンが腹の付近まで外れた清宮がベンチに半分崩れて項垂れていた

「何だよ………」

「お客様…………」

戒める振り………振りだけだが眉を寄せて一言だけ神崎に義理立てしておこうと口を開きかけると…………

予想通り………タイミングは最悪

背中の方で注意勧告するようにドアベルがガランガランと乱暴に暴れまわった



ドアを開けるのももどかしい、体当りすると派手にドアベルを鳴らし走った勢いのまま店の中に突っ込んだ

カウンターには誰もいない
フロアに立った晋二がいつもは全く動かさない眉を下げて笑っていた


清宮は?と聞こうとすると驚いて顔を上げた黒川が目に入った

その奥………


仕切りのある暗いボックス席でぐったり項垂れる清宮の姿を見た時、体がカァッと熱くなり血が逆流した、全身の細胞が逆立ちひとまわり大きく膨れ上がった

普段から締め付けるボタンを嫌う清宮だが、肌寒い今の季節にここまで外しはしないだろう
はだけたシャツは襟の重みで垂れ下がり鎖骨と片方の乳首まで見える

口を開く前に体が動いた、ビックリして見上げてくる黒川の腕を取って捻り上げた

「!!~っっ!!…」

体重差があるのだ、手加減は一切しなかった
黒川の腕は立ち上がらなければ折れる、苦痛に顔を歪めながらも睨み返して来た

「っっ!!離せ………」

「何をした?」

「離せと言っている」

「何をしたっっ!!」

BGMのない静かな店内に響き渡った怒鳴り声にうつらうつらしていた清宮が顔を上げた


「ふふっ……困りましたね」

結局心配した乱闘に突入………

こうなったらこうなったで面白い

止めに入る気なんかサラサラ無く、面白い見世物を見学しながらバーボンでも飲もうかな……とカウンターを見て店にはまだ他にカップル客がいた事を思い出した


「申し訳ございません、騒がしてしまって………」

「大丈夫なんですか?」

女性客は乱暴に乗り込んで来た男が大声をあげ、巻き込まれはしないかと少しおびえていた

「ご覧の通りただの痴話喧嘩です、お酒の肴に楽しんで頂ければ…お詫びに当店のオリジナルカクテルでもお持ちいたしますが…………」

「痴話喧嘩?…でも…」

「はい、全員男ですね」

「それでも痴話喧嘩なんですか?」

「興味深いでしょう?」

文化系と体育会系、よく見えないが綺麗な(想定)男を取り合い揉めている、見世物としては面白いだろう

しかも揉めている三人は揃ってビジュアルがいい


「そう…………ですね、お願いします」

カップルは帰りかけていた腰を落ち着け、見物していく事にしたらしい

あとは写真や動画を撮ったりしないかだけ見ていればいい



「くっ…」

黒川はどうにも動けない事に歯噛みした

締め上げられた腕を外そうと藻掻くがどう動いても腕が折れそうで動けない


「神崎?何やってんだよ?」

ヨロリと席から出てきた清宮は黒川を締め上げる神崎の手に気付き眠そうに擦っていた目を見開いた

「神崎?!おい!何やってんだ?」

「ハルは店の外に出てろ!」

「出てろって……おい…」

何が起こっているのか事情は分からないが苦痛に歪む黒川の顔を見ると暴力だとは分かる、捻り上げられた腕からは破断寸前のギリギリ軋む音が聞こえている

「神崎!やめろ………やめろっ!!」

「う!ぐっ………」

清宮が大声を出すと、折れろとばかりに捩じ上げた腕を一層高く釣り上げ投げ出すように腕ごと黒川を突き飛ばした


「次は折るからな」

本気だった

黒川の腕は筋を痛めて多分当分使い物にならないだろう、意地とプライドで睨みつけてくるが本当は腕を抱えてしゃがみこんでしまいたい筈だ

自信のある男程、きつい一発を食らわすと反撃なんかしてこない

一刻でも早くこの場から清宮を連れて出て行きたい、黒川は勿論晋二の側に置いておくのも嫌だった

「春人さん、帰りますよ」

「ちょっと待てよ!おい!神崎!」

「いいから!」

清宮の鞄を鷲掴みにして腕を引っ張ると酔っているのだろう、おぼつかない足元に引きずられ足がバタバタした、この際担ぎ上げてしまいたい

「またのお越しをお待ちしております」

ニッコリ笑った晋二の落ち着いた声音に腹わたが煮えた

「二度と来るか!」

歯ぎしりが聞こえそうな形相の黒川を残して清宮を店から引きずり出した




「神崎!手を放せよ!」

「嫌です」

「何なんだ一体!俺戻るから!手を離せ!」

清宮の抗議の声は無視してタクシーに向かって手を上げた

「戻ってどうするんですか」

「怪我してるかもしれないじゃないか、ほっとけないだろ」

「してますよ、手加減してませんから」

「なっ!………」

清宮の言う事なんか今は聞く気はない、抵抗する体をタクシーに押し込み、蓋をするように横に滑り込んで行き先を運転手に告げた


「なあ……何があったんだよ…ちゃんと言えよ」

「………」


タクシーに乗ってからの神崎はわざとらしく外を見たまま口をきこうとしない

一体なぜ神崎がここまで怒っているのかもわからない

そっぽを向かれたままタクシーに揺られ、車が止まると初めて神崎の部屋まで来た事に気付いた


「何で神崎のマンションなんだよ、俺は自分の部屋に帰る!」

乗ってきたタクシーに戻ろうとすると無言のまま腕を掴まれ、エレベーターに引きずり込まれた

神崎は目を合わせようとはせず、返事もしないくせに痛いほどきつく掴まれたままの腕は離してくれない


マンションの部屋は灯りやテレビはついたままで鍵さえかかっていなかった


「今すぐシャワーを浴びて来て下さい」

「やだよ!何なんだ!いい加減にしてくれよ!黒川が何したっていうんだ」

「何をされたかもわからないんですか?」

神崎の声が低い、怒っているのは間違いないが思い返してもなんの覚えもない、ずっと一緒にいたが自分は勿論、黒川も朝原もスマホさえ触っていない

ひたすら飲んでふざけていた

「何をされるって言うんだ、話してただけだろ、お前は知らないけど球技大会のあれは毎年やったりやられたりでお互い様なんだよ、今年はちょっとやりすぎただけで………」

「自分を見てみろよっっ!!!」


「…………自分?」

そう言われて見下ろしてみたが……何も変わったところはない、ボタンが外れているくらいだ

「何だよ、何もないじゃないか」



「………あんな奴に触らせないでくれ…」


神崎が絞り出すように言った言葉の意味…

カアッと顔が熱くなった

「別に変な意味じゃない!同期同士でふざけたりもするだろう!ずっと前からの付き合いなんだよ」

「変な意味じゃない?……あいつがどんなつもりかわからないんですか?!」


「……いい……加減にしてくれ」


屈辱に体が震える

あんな店で一体何をされると言うのだ、変な誤解も言われのない疑いも曲がった見方をされるのも侮辱にしか聞こえない


言い訳なんて何もない、放り出された鞄を鷲掴みにした

「帰る」


「誰でもいいんですか?!」



呆れたように冷たい視線を残し玄関に向かおうとした背中に思わず吐き出してしまった

嫉妬や濁った浅ましい感情が結晶となって棘を備えてゴツゴツと尖った塊が清宮の背中を穿ち……ピタリと足を止めた

まだ消してないテレビからタレント達の笑い声が響き、ピンと張り詰めた空気が際立っている


「春人さ……」

そんな筈がある訳ないのはわかっている

周りから向けられる無神経でいやらしい目にはあまりに無頓着に見えるが………そんな訳ない…………



「俺は……誰とも……嫌なんだよ」


清宮の言葉がポツリと宙に浮いた

足の力が抜け……立っているのがつらい………カクンと膝が折れその場に座り込んでしまった


「………お前なんか…その辺に女がいくらでもいるだろう………人をおもちゃにしやがって…」

ぎゅっと握られた清宮の拳が白い
そんな風に思って欲しくない……そんなんじゃない

「好きなんです、あなたが…欲しいんです…どうしようもなく……」

顔はあげられなかった、これで3回目の告白だ

清宮は背を向けて立ち尽くしたままだった

「……………じゃあ…やれよ………」


ハッとなって顔を上げた

怒りなのか………羞恥なのか………屈辱なのか………
背中を向けたままの肩は震えていた

「好きにすればいい…………」


真っ白になった頭は思考を隔離してしまい、清宮の手を離れドサリと床に落ちた鞄をただ目で追った

開いたままの口から携帯が覗いている

晋二は清宮の携帯を使った後どうやってか鞄に戻していた



いつの間にか目の前に立つ爪先が見える


見えない手で誘導されたように清宮を見上げると両手をブラリと垂らしたまま血の気を無くし青白くなった顔が見下ろしていた

動けなかった


清宮の冷えた指先がヒタリと頬に置かれ、スルリと首に巻き付いた

呆然としてしまい瞬きすら出来ない

表情のない顔がゆっくり傾き薄い氷を纏ったような唇が触れた

アルコールが香る吐息と共に驚きで何も出来ない口の中に清宮が入って来た

もう何も考えられない………
いつも受け身だった清宮からの濃厚なキス

膝で立った清宮の腰を抱き寄せ、息も付けない程深くお互いを貪り絡み合う舌は熱くて………甘い………

体を預けて来る清宮の体重が支えきれなくなりゆっくり背中が傾いていった、清宮に頭を抱かれたまま二人の体が重なった


体の上にのしかかった清宮を感じながら背中に手を回し髪に手を入れて引き寄せた

このまま清宮を飲み込んでしまいたかった


「床が冷たい………」

スッと体を離し腕からすり抜けて起き上がった清宮はチラリと寝室のドアを見てユラリと立ち上がった

玄関先のフローリングは天井のライトがワックスに反射してテラテラと冷たく光っている、いつの間にか進んだ季節に遅れを取り、暖房を入れる事も忘れていた


「…………春人さん」

呆然としていた、清宮が表情を消すと何を考えているか全く分からない、晋二に分析して欲しいくらいだ

清宮の目は意思を写していない

熱に浮かされたようにフラフラと足を動かし、寝室のドアを前に躊躇ためらうように足を止めた

「春人さん?」

声が届いているのかさえ分からない、振り返らない清宮の肩に手をかけようとすると届く前にスルリと部屋に入って行った

「待って……」

誘い込まれるように後を追った


寝室も着替えを取りに入った時のまま灯りがついていた、清宮はベッドを前に立ち尽くし動かない

表情の読めないその横顔を見ると…心の端が砕けて足元に落ちていく


………肩を震わせ…誰とも嫌だと言った清宮にもう触れる事は出来ない……

同性から性の対象にされる事に戸惑っている事は分かっていたのに止められ無かった

惹きつけられ、煽られ、今……手の届く所にいるのに、どんなに欲してもこれ以上傷つける事は出来ない………


「出ましょう、春人さん…もう……いいです…」

動かない背中に声をかけるとフイッと振り返り、まるで憑依された人形のように虚ろな表情を浮かべてカクンと膝を折った


「春………」

ズボンのボタンに掛かった手がゆっくりチャックを引き下ろしていく

顕になった下着の奥は熱く盛り上がり淫欲に脈打っていた

「なに……を…」

変な期待と抑えきれない欲情が織り交ざり感情が破裂する前に逃げ出してしまいたかった

スルリと下着が引き下がり不意に清宮の柔らかい髪が下腹に埋まった

「あ……」

生暖かい刺激に思わず腰を引いた
追いすがる様に腰に手を回し深く咥え込んで舌で弄る

信じられない思いで見下ろしていた

清宮が自分を口に含み頭を揺らしている

「春………人さん…」


思わず屈みこんで清宮の頭を抱いた


鋭い快感が背中を這い上がった

勿論女性との経験はあるし清宮のそれは慣れた女よりぎこちない

だがあの清宮が自分のものを咥えている、それだけで耐えられない興奮が湧き上がる

呼吸が速くなって立っているのがやっとだ

「あ………………春人さん………」

清宮のリズムに合わせて腰が揺れた、清宮の口に下半身を押し付け陵辱するなんて妄想した事もない

喉深く押し入ってしまい苦しそうに顔を歪める清宮にもう許してくれとひれ伏してしまいそうだった

下腹でズルズル淫靡な吸引音が響いていた
高まって行くのを抑えられない

「春人さん…もう……」

それだけは出来ない、絶対に


肩を押して引き離そうとするとぎゅっと腰に回った腕に力が入った

「離……」

懇願に近い声をあげるとズルッと思い切り吸い上げられ耐えていた細い糸が切れた

「……う………ぁあ………」

みるみるうちに清宮の口に白い精が溢れ漏れ出て、膝から崩れ落ち清宮に覆いかぶさる様に抱きついた

快感が罪悪感に変わり泣きそうになった


「春人………さん………」


清宮は口の中のものを床にぺっと吐き出し袖で顔を拭った

やってくれる……人の家のカーペットに………


膝をついたまま黙って見上げ、どうするんだよ……と挑むような目が語りかけてくる

口の横から漏れた液体は首の方まで線になって濡らしていた


かろうじて均衡を保っていた何かが切れた
もう………一線は守れない

シャツと半分ずり落ちたズボンを脱ぐと表情がなかった清宮の瞳がほんの少しだけ揺れた



やってもいいんならやる

後でどうなろうとももう構わない


清宮の手を取ってベッドに放り投げると力を抜いた体がバウンドして跳ね、スプリングが文句を言うようにキイっと軋んだ

…………自分のものにしたい………

抑えきれない思いを見透かされたその目から逃げる事はもうしない

清宮の腹の上に跨り囲い込むように両手を付いて自分の影を清宮の顔に落した、人形のように横たわる清宮は無表情を崩さずじっと目を離さなかった


「春人さん、俺……途中で止めませんよ…」

「…………やれよ」

シャツのボタンは裾の方で数個しか繋がっていない、胸を開いても清宮の目はもう揺れていなかった

首に顔を埋めると清宮の匂いがする、道を開くように鼻を耳に擦り付けてキスをすると清宮の口から諦めなのか期待なのかわからない長い吐息が吐き出された

首の筋……綺麗な形の鎖骨……絵を描くように唇を滑らせた

脇腹から撫であげるとコロンと乳首が当たり親指で押し込むとクリッと横に逃げ清宮の体がふるっと小さく震えた

自分を染み込ませ全てに手形をつけたい
爪先から体の中まで……

裸でうろつく清宮のそこは何度も目にしていた、触るのは二度目…………前に触れた時は頭に血が登ってあまり詳しく覚えていない………今も充分テンパっているが……

そこに手をつけるにはまだ戸惑いがあった

手を下ろして臍の凹みに当たると躊躇してしまう
モタモタしていると逃げられてしまう



晋二の教えその一だ
逃げるすきを与えない

パンツの隙間から手を突っ込むと…………しまった………狭い、清宮も予想外だったのだろうビクンと体が跳ねた

手に当たったそこはもう芯が感じられる
手の甲でチャックをチリチリと押し下げると狭い隙間から頭を勃ち上げた

どうする?

どうするって決まってる

「!!………っ………」

キュウっと握りしめると強すぎたのか、何が何でも表情を崩すものかと歯を食いしばっていた清宮の片眉が上がった

「……ったい……」

「ごめん………」

自分と同じ………自分と同じ…………

ゆっくり手を動かし始めると清宮の食いしばって合わせた歯の間に隙間が出来た

みるみるうちに紅潮していく頬と明度を増した唇は女とも男とも違う清宮独特の色気が香り立つようだ


中学の時に覗き見したあの……顔……あの声……

それが見てみたいだけだった
抱いてみたいなんて思ってなかった

組み敷いた体の下で、手の中に収めた性器を嬲ると清宮の身体が丸まって腰が逃げていく

今は…………この先が見たい

「っ…ぅ……っ」

ズボンが中途半端に下がり上手いこと拘束具になっている、快感に支配されまいと頑固に閉ざしていた唇は解け、深くなっている呼吸に雑じって喉に詰まった声が漏れてくる

頭を仰け反らせ清宮の手がシーツを掴みズルズル上に上がり止めようとする様に清宮の手が重なった

「………ぅ……ぁ……ハァ……」


快感を含んだ蜜が溢れる鈴口に親指を押し込むとクチュっと湿った音がした


「あ……」
ここは誰でも弱い、前触れを塗りつけるように揺らすと声が上がって腰が浮いた

「ハァ…」

なんて色っぽいのだろう、しなやかな体を斜めに捩り必死で堪えている、芯を捉えた手を早めるとシーツを掴む手に力が入りクシャッと集めるように皺になった

「う………あ……ああ……」

人の手でイカされるのは本当に苦痛なのだろう、怯えるようにギュッと目を閉じてビクンと身体を震わせ小さな呻き声と共に手の中に白濁した粘液が溢れ出した

「……う…………」

反って浮いていた背中をドサッと落とした身体を弛緩させ、目を開けようとはしなかった



「春人さん………服、脱がせてもいいですか?」



「…………まだ?…」

「これからでしょう………」

「う………ん………?」

投げ出した足からズボンを引き抜き肩に片足を持ち上げると………見える………全部見える

コクンと空気を飲み込んだがそれさえ喉につっかえた

恐る恐る深い谷間の奥に指を当ててみると清宮は項垂れていた頭を上げてギョッと目を見開いた

「神………何?!……」

指を当てて先をプツンと沈めてみる

「あ!!」

清宮の精が腹から下腹、太ももを伝って濡らしていた
指一本なら意外に簡単に進める

「あ…あ……何す……んだよ…やめ」

「痛く…ないですか?…」

「気色悪い!……抜けよ!」

「あんまりにも辛かったら言ってくださいね」

「聞けって!あっ!」

ヌクヌクと中を探りながら出ていけと拒否するように締めてくる肉壁を這い登り、中を探ってみるが何が何だかまるでわからない

中は狭い……ここに入って行けるとはとても思えない


「狭い…な……」

「だから…抜けって…」

「ちょっとだけ我慢してください」

清宮は体が柔らかい、肩に足を乗せたまま体を被せ動けない様に肩を固定して強引ににキスをした


晋二の教えその2
人によるがいいポイントが指の届く位の場所にある

ただし神経がむき出しになっている様な場所なので開発されていないと辛いだけ…要は女と同じだと……

中は体温が直に感じられ熱い、湿った内壁は指を追い出そうとぎゅっと締まり自由には動かせない
中を探れと言われても簡単じゃない

あんまり時間をかけると清宮が辛い思いをする


「何してんだよ………うぅ……気色悪い……」

「気持ちいい所がある筈なんです」

「うぅ……そんな所気持ちいいわけな……あ…クソ…」

指はもう根本まで入っている、指の腹がクネっと擦った場所で清宮の肩が小さくピクリと動き………

「……!……あっ!!………」

文字通り清宮の体が跳ね上がった

「え?え?………ここ?」

クニクニ指を揺らすと擦る度にビクビク体が反応する

「ぁ…ああ…やめ…」

「気持ち……いい?……」

「違……あっ!」

肩に担いでいた足の重量がフッと消え耳の横でブンっと風邪を切る音が聞こえた

「え?……あっ!!わっっ!!」


どれだけ体が柔らかいんだ、肩の上を見上げると縦方向に180度開脚した足がドシンっと思いっきり勢いをつけて落ちてきた

じっとしない足は第二撃を繰り出そうとまた振り上がってる

「ハル!痛いって!!嫌ならやめるから!」

「嫌じゃない!やりたきゃやれよ!」

「どっち?!」

「体が勝手に………あっ…」


清宮もビックリだろうがこっちだって何をやっているのか分かってない、指の腹を揺らす場所は何かを刺激している事だけは間違いない

「………くっ…あ…ああ!」

指の圧をくっと増すと体が震え反り返っていく

ズル………ズルと体が逃げて這い上がり清宮の頭がベッドからはみ出した

「春人さん……逃げないで………」

「逃げて……ない………あ………ああ……」

何故か清宮とこういう事をするとバタバタしてまるで強姦している様な気分になる

合意はある…………と思う
って言うか思いっきり誘ったじゃないか!

清宮が嫌がる事は出来ないが本気で抵抗してくるといくらなんでも抑えきれないだろう、怪我させてもいいと言う前提で抑えなければ……

同意しているものの本能で抗っているのか……本当に嫌なのか

わからない…このまま進んでいいのか



神崎の指が腹の中で動く…………

体内に別の何かが侵入し好き勝手に動いている

気持ち悪いどころじゃなかった

執拗に責められるそこを押されると微かな尿意に似た感覚と背中に電気が走り勝手に体がビクつく

長い指は意外に硬い、体の中のそんな所に細やかな神経があるとは思ってもみなかった、狭い場所を押し広げようしている様にぐいぐい弄られ触感とは違う何かが腹の底から湧いて来てじわじわ広がった

「ハッ…………あ…っ!!!……」

腹の内側………タイミングを推し量ったようにくっと指が持ち上がると足の先まで痺れる様な快感が背中を駆け上がった

なんだかわからない……今まで感じたことがない感覚だった、神崎の指に合わせて波のように押したり引いたりする

「ハァ…ハァハァ…………あ……ああ」

周りの空気を吸い尽くして酸素が足りない…………

出したくないのに声が抑えられない


途中から明らかに清宮の感じが変わった

さっきまで未知の部分を探られ萎えていた体の中心が今は破裂しそうなくらい持ち上がっている、待てないとばかりに先をっぽから雫が漏れ出し内腿に流れ出していた

「………あ………いい……もう………」

「ここが……いいんですか?……」

「あっ!………あっあっ…違うって……」

グイと指の腹を押し付け揺らすと柔らかい背中がググぐと反って持ち上がった

「あ…も…ぅ……いい……から……一回やめ…」

「……………これからですってば……」

自分の中心はもはや破裂しそうだった

指を納めると清宮はハタリと力を抜いてベッドの端から頭を落したまま放心した体を投げ出している、上がった顎は汗に濡れてテラっと光っていた

ちゃんと快感を得てくれている、肌と肌を合わせるとこんなにも温かい、上がりっぱなしの心拍数が胸を打って苦しいくらいだ

「春人さん………入れますよ…」

「へ?………あ………」

手で自分を誘導して清宮の菊の門に先を当てると、先から漏れた雫がクチュリといやらしい音を立てた


「おい?!む……あ…………無理無理!」

グリっと上向きの圧がかかる感触に何をしようとしているか気付き足がバタバタ蹴ってくる

「ちょっと!ちょっ!ハルこら!」

ただでも難易度が高い、ここで清宮に暴れられたらむしろ清宮に怪我をさせてしまうかもしれない

腰を持ち上げてうつ伏せにひっくり返そうとするがクニャリと曲がる清宮の体が抵抗して中々出来ない

「~~~~っ…春人さん…!」

レスレングをしているみたいだ

晋二と話すうちに色々妄想してしてしまっていた、脳内劇場の中では快感に身を悶え色っぽい嬌声を上げよがる清宮……

…………完全に女人化していた

仕方がない……経験にある人生のボキャブラリーはそれだけだったのだから、清宮相手に虚しい妄想だった

ようやく背中に回って抑え込んだ

「春人さん…大人しくして下さい…」

「……ん……あ……お前……卑怯だぞ」

またジタバタする腰を持ち上げてはちきれそうに立ち上がった清宮の中心に手をやるとピタリと止まりゆっくり頭が沈んでいった


「…んぅ……ちくしょう……」

「戦いじゃないんですから…」

体は清宮の足を割っている

ぐっと押し込んでみるとヌルりと先が飲み込まれた

「…あ…あ…………無理だって………無…理…」

「力…抜けませんか……?…」

まだ先っちょが少し入っただけだ
汗がどっと湧き出て背中を伝うのがわかる

「力…抜けって……どうやって…?」

「こっちに集中して……」

「…ふ……あっ…」

前に回した手を動かすとズルリと少し進んだ、そこはドクドクと波打ち心臓が二つあるようだった
慎重に揺らして奥に押し込んだ

キツイ……痛いほどだ

「ハァ…春人さん…大丈夫ですか……」

「くっ……………………」


…………悠長に感想を語ってる場合じゃない

神崎のそれは指なんかとは比べものにならない位の圧迫感で押し入ってくる、色んな感覚が全部麻痺して痛いも気持ち悪いもわからない

「…う… ハァ…」

シーツにしがみついても支えてくれない、掴めないマットレスを引っ掻き回した


ズプリ………と一番太い亀頭がようやく通った、揺らすと進める、一旦萎えていた清宮の中心がまた芯を持ち出した

感じていると……少しは気持ちよくなってると思ってもいいのだろうか?



キツく締まる口に強い刺激が脳天を貫いて快感か悪寒かわからない鳥肌が立つ、今までの経験はまったく役に立たなかった

未知のそこは熱く狭い、女相手だってどう気持ちいいのか分からないのに、男がこんな事をされて気持ちいいわけない……

苦痛を与えているだけのような気がして背徳感に身が縮む

「う………くっ………」

「わっ………」

カクンと清宮の体を支えていた肘が折れた

そろそろと進んでいた狭洞の奥にグリっと先っぽが突き立ち、清宮の背中がビクンと跳ね上がった、ぎゅうっと中が狭くなって締め付けられる

「あっ!………あっ……あ………あ……ぁ」

「春人さん?……」

「う………ん…あ……」

え?

え?

気持ちいいの?

くそ………分からない

「動いて………いいですか?」

「ん………ハァ……動くって?………」

ゆっくり動くと抱えた腰がそこを触るなとビクン、ビクンと腹筋が震えて手に伝わってくる

ここ?もしかしてさっきの場所?

少しだけ腰を引いてグイっとそこを押し付けると清宮の中心がビンと張った、耐えられず漏れ出した粘度のある液体が手の中を伝って広がり動きに合わせてヌチャ……ヌチャと混ぜ返す音が大きくなっていった

「あ…………ああ………ハァ…ハァ」

「辛く……ない?」

「分………かんない……う……んぁ…」

成り行きだったが角度がいい、ゆっくり揺らす道に必ず身体が跳ねる場所がある、背中から胸に回した手で身体を引き寄せ上に上に揺すった

ヌメっと下半身を咥え込んだ肉壁はかなり緩んでズブズブ出入りする醜悪な肉の棒を飲み込んでいる、いつの間にか一番奥を刳り太ももが突き出された腰に当たるまで攻め込んでいた




「ハァ…ハァ…あっ…ああ…………」

「ハル………あ……ああ………」

信じられないくらい気持ちいい、ギュウッと絞められ揺らすごとに高い声が上がり出し入れするとグチュ、クチュと淫靡な音が部屋に響いた

「あっ………あっ…………駄目………ああ………」

腕の中で揺れる清宮の綺麗な背中が反って波打ち盛り上がった肩甲骨が彫刻のように綺麗だ、清宮の髪が揺れて踊り回り汗が光っている

高まりは頂点だった

「ハッ……ああっ…神崎………も…う………」

「ハル………イクから…」

「ハっ!あっ!………あああ!」

グイッと腰を引き寄せ数度大きく突き上げて引き抜いた

「ああ!!………う……」

「う!…あ……ハァ」

震える程の快感が背中を走り清宮の背中に密着した下腹から生温い粘液が流れ落ちていった

清宮の背中に覆い被さったまま信じられない数分間に目眩がして動けなかった

清宮も肩で息をして臥せったまま動かない


「……春人さん?」

心配になって肩をそっと引いて様子を伺うと清宮の内股からツルゥと愛液が漏れ出てきた
顔や首に玉の汗が流れ半分開いている赤い唇は荒い呼吸に揺れ肩が上下していた

瞳は閉じたまま硬く眉を寄せ苦しそうに喘いでいる


………………無茶をさせた

髪が張り付いた額の汗をそっと拭うと伏せられていた瞳が虚ろに半目が開いて弛緩した体を投げ出したままダルそうに視線だけを動かした


「……………ろ……う」

いつもより真っ赤に見える濡れた唇が何か言ったが口の中で籠っていて聞こえなかった

「え?」

「風呂……入ろう…ベタベタで気色悪い…」

「へ?あ…ああ、お湯入れますか?」

「……シャワーでいい」

……全く………

どうしてこんなに色気が無いのか……
黙ってさえいればフェロモンが溢れ出しているのに……もうちょっと…余韻に浸ってキスとかしたい

好きなのだと、成り行きでもただの性欲でもないのだと確認もしたい……ムード作って………だって清宮の事だ

また明るく惚けられたら今度こそ凹んで起きられなくなる

当の清宮は筋トレでも終えたようにふうっと息を吐き出し体を持ち上げたと思ったら……

ゴロンとベッドから転がり落ちた

「春人さん!?」

「く…そ…」

慌てて助け起こすと自分でもビックリして見開いた目をぷるぷる震える足からベッドを往復させてキッと睨みつけてきた

「大丈夫ですか?」

「立…てないじゃないか…」

「ええ?!」

足がガクガク震えている……思わず笑いそうになると見るなと首を引き寄せられ…………


唇が重なった


抱いてシャワールームまで運ぶと言ったが頑として手を借りてくれない、這うように移動してシャワーの口を開けた、二人とも首や背中内腿まで精液でカピカピになっていた

「気色悪い…」

清宮はシャワーヘッドを持ってボウっとしながら宛もなくお湯を撒き散らしていた

「春人さんの方がベタベタです」

清宮の頭にシャンプーを落として擦してもじっとされるがままになっている

本当に構われ慣れている

清宮の後ろの門は、まだ誰にも触れられていなかった……と……思う

ほこっと顔が緩んだ

シャカシャカ柔らかい髪を泡立ててつむじを見下ろすと嬉しくて愛おしくて胸が一杯だ

必要以上に丁寧にシャンプーしていると気が付けば清宮が睨んでいた

「何笑ってるんだよ」

「そりゃ………嬉しいに決まってるじゃないですか」

「何が?」

「春人さんを抱ける日が来るとは思ってませんでしたから」

「だ!…抱くとか言うなよ」

「じゃセッ…」

いつもの如く言い終わる前に足が飛んできた

ベッドは汗と精液に濡れて使えない
リビングのソファーの下に二人寄り添い、清宮は何も言わず肩口に顔を押付けて隣で眠った

体のあちこちが痛い、シングルベッドは男二人には狭すぎて青あざがあちこちに出来ていた

清宮の部屋にあるくらいの大きなベッドに買い換えたい……


なるべく早く……

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