9 / 47
7
しおりを挟む
10月が近付くとハロウィンの装飾が解禁になり売り場が一斉に黒とオレンジ色に染まる
毎年変わりないお馴染みのカボチャとコウモリのデザインに嫌気がさしてそのうち色味から変えてみたい野望が湧いてくる。
一昨日から珍しく三連休を取った清宮の不在に手持ちの仕事も終わってしまい何もする事がなくなってしまった。
以前仕事を回して貰った樋口からまた頼みたい事があると連絡を受けていたので仕方なく外出した
街もハロウィン一色、土曜日だからなのかまだ月末までは遠いのに変な仮装をした通行人も多い。
もう夜の風は秋色が濃く夏の服装では肌寒いくらいだが裸同然のコスプレに挑む気合と根性には脱帽する
待ち合わせのカフェは大通りに面した目立つ場所にあり、全面ガラス張りの店内に樋口を見つけギクリと足を止めた。
「あれは………」
思わず舌打ちしてしまった
樋口と同席しているのは電報堂の元同僚池上美絵………半年程付き合った……つまり元カノ
「樋口のおっさん………余計な事してくれる」
いかにもいっちょ噛みしてきそうで面倒くささに輪を掛けてる、このまま急用で行けないとキャンセルしてしまおうかと思ったがどうせ用があるなら二度手間になる
なんのつもりか知らないが別れを切り出してきたのは池上の方でこっちは振られた方なのだからシコリも未練もない。
「樋口さん、お待たせしてすいません」
なるべく余裕があるように席に着くと池上がニッコリ自信たっぷりな微笑みを送ってきた
「悪いね、忙しい時に時間作って貰って」
「大丈夫です、今丁度手が空いていましたから」
「あ、こちら電報堂の………」
「お久しぶり、神崎くん」
樋口の言葉に被せて割り込んだ池上は胸元が大きくV字に切れ込んだ薄いピンク色の7部丈セーターに短いタイトな濃いエンジのスカートを合わせ、歩けるのが不思議な10センチはあろうかというピンヒールのミュールという商談の打ち合わせには相応しくない服装だった。
「お久しぶりです」
「あれ?知り合いだった?何で言ってくれないの池上さん」
「色々あったんです、ね?神崎くん?」
やっぱり仕事の話だけじゃなさそうだ、樋口の前で意味有り気な目配せをこれみよがしにされても迷惑でしかない
「あれ?そうだったの?まずかった?」
「大丈夫です、話って何ですか?」
「うん、これなんだけどね、電報堂で受ける事が出来ないんだよね、代わりにやってもらえないかな?」
「電報堂がNGってどういう事なんですか?」
渡された企画書は分厚い紙に出力され企画書事態にデザイナーの手が入ったしっかりしたものだった、下請けに出すにはもう具体的に動き出している
「それは私が説明するわ」
「この企画書は電報堂で作ってますよね」
「ええ、クライアントはそこに書いてある通り大手飲料メーカーなんだけどね……」
池上の説明ではトラブルではないが要は飲料メーカーの担当者と電報堂の担当者の折り合いが悪く、やり辛いが双方そんな事で仕事の担当を外れたくない………
つまり嫌いな奴と仕事をやりたくないなんて子供っぽい諍いだが樋口に回ってくる仕事の大半はこんなつまらない理由が多い、使われる予算が膨大で多岐に渡るため意味不明の領収書が混ざっても問題にならないらしい。
「企画書は立派だけど中身ゼロじゃないですか、新製品のこれはお酒ですか?商品パッケージはもう出来てる」
「広告イメージをやって欲しいのよ、まだ全て白紙だから好きにしていいわ」
「好きにしてってどうせ自由じゃないんでしょう?コンセプトすら出てない」
「神崎くんが決めて、ターゲットは二十歳から三十くらいまでの若者、縛りはそれだけよ、「今度会うときに」商品の現物持ってくるからアイディアだけ練っといてね」
「池上さんが担当なんですか?」
「あ、現物預かるのは俺、池上さんは橋渡しかな?いい仕事じゃない、金額大きいわよ」
「はあ……」
迂回の数が多い、今の説明では池上が噛んでくる必要はない
「仕事の規模が大き過ぎてあまり時間を取られるようでしたらこっちの仕事もあるのでお引き受け出来ないかもしれません、また詳細が決まったら連絡ください、樋口さん」
「樋口」を強調して暗に関わってくるなと池上に伝えたがニッコリスルーして手を振った
「神崎くん今お前関係ないだろって顔したわね、残念ね、私も別件で頼みたい事があるのよ」
池上から渡された「別件」は電報堂に勤めている時に手掛けた簡単なイラスト入りのパンフレットだった
同じデザイナーにとのクライアントからの要望なので自宅でデザインしてデータを送れば個人的に支払うと言われたが勿論そんな気はない、清宮に話を通し会社で処理するつもりだった。
樋口と池上に飲みに誘われたが実家に顔を出すと休んでいた清宮がもうマンションに帰ってきているかもしれない
3日も顔を見なかったのは一緒に働くようになって初めてで顔を見にマンションによる方が優先事項だった。
「用は………ある、突然行っても変じゃないよな」
不思議なもので欲しいものが金で買えなければ金銭欲はなくなってしまう、ほんの30分時間を割けば10万やると言われても顔を見に行く言い訳に使う方が有意義
ビールとツマミと、もしかしたらまた何も食べていないかもしれないのでお弁当を買い込んで清宮のマンションを見上げると………寝ているかまだ帰っていないのか部屋の窓は真っ暗だった。
「帰って……ないか……」
清宮の実家は電車で30分、普通なら通える距離なのだから朝直接来てもおかしくない
自分のマンションに帰って買った弁当とビールを消費するしかなかった。
次の日の朝、大量の手作り弁当…というかお重を持って清宮は出社した
「恥ずかしいからいらないって何度も言ったのに朝起きたら出来てて………重かった、俺一人で食べる量じゃないだろう」
「確かに多いですね、重い……お母さん優しいんですね」
美咲がお重を包んだ風呂敷を持ち上げると結び目が目一杯伸びて三段分満杯に中身が詰まっていることが分かる
「持って行かないとデザートを追加して職場に押しかけるって脅されたんだ」
「変な脅しですね、俺なら嬉しいですけどね」
「職場に来られても?美咲は平気なのか?」
「はい、山内は?お母さんがここに来たら恥ずかしい?」
「絶対に嫌………絶対ない…ねえ清宮さん、それが普通ですよね」
「うちは家族が目茶苦茶構ってくるんだよ、いつまで経っても家族の中でも一番下で子供のまんま……うるさくて………」
清宮の母親の気持ちが少し解る、清宮は放っておくと飲食が雑になるし体力的な無茶もする
「家族と仲が良いんですね」
「仲がいいと言うか過干渉なんだよ…いい年して恥ずかしい、神崎の親は?お前も実家が近いのに一人暮らししてるなんてやっぱり親がうるさいからじゃないの?」
「いや……うちは……」
学校を卒業すると、子育て終了と宣言されて連絡さえ来ない自分の親が頭に浮かんだ、今は弟の独立をひた待ちしている。
「いいなー……それ……電話を無視してたらいつ何時何回行ってもマンションにいないって爆発されたんだよ」
「それで実家に?」
「……うん……」
「いいお母さんじゃないですか俺は母親がいないんで羨ましいです……デザート持ってきて欲しいです」
「え?そうなの?」
母親がウザいと文句を垂れていた山内がしまったと申し訳そうな顔をした。
「継母ならいるんすけどね」
「継母?」
何となく前時代的なワードに一同首をひねった
「親父が再婚したんです、中学生の時に…」
「それって父親の前では良い母親を演じ二人になると虐待してくる感じ?」
「何だよそれ!どこの童話?」
中山の変な妄想に笑いが起こった
「いや、そんなドラマティックじゃない、普通…」
「なんだ、つまんない」
「ないでしょう、そんな設定」
盛り上がっている横で清宮が話には加わらず溜め息をついている事が気になった
「そんなに困らなくてもお弁当は食べてあげますよ」
「うん…弁当はいいんだけど……」
「どうしたんですか?」
心配事があるなら言って欲しいが……清宮は普段からあまり自分の事を話さない
カーテンもブラインドもない剥き出しのガラス窓はとっぷり濃い奥行きのある黒で覆われていた、遠くでチカチカ光る飛行機の灯りが点滅しながら暗い夜空を横切っていった
デザインチーム…いつもきっちり6時に帰る山田以外は清宮の出社で急に動き出した仕事に追われまだ帰れないでいた。
「堀川部長はもう帰ったよな」
山内が心配そうにデザイン部の入り口をチラチラ確かめながら独り言のように呟いた
清宮が禁止された例のベランダにフラリと出ていってしまい風に当たってぼうっと黄昏れていた。
首や袖が締まるのが嫌だとシャツのボタンも相変わらず外してしまっている
休みの間に溜まった制作物の修正に数時間かかり殆ど仕事が進んでいなかった
外部のクライアントから送られてきた修正は伝える気が無いのか乱雑過ぎる癖字とFAXで送りつけられたせいで表記が荒れて読めた物ではなく解読するには推理力が必要なくらいだった。
「先入観なく見てくれ、いいか?」
みんなで目隠しをして一斉に修正原稿を見たが字ではなく落書きの様……
「い…ら……は……ここは漢字かな……」
「ここも1か7かも分かりませんね」
「そんな物は分からなければ電話して聞けばいいでしょう」
俺なら読めないって返しますよと山田は冷めた口調で言うがそう簡単な話じゃ無い
社内の原稿だけを担当していたらそれで良いだろうが外部の場合読めません、やり直して下さいとは簡単に言えない。
「そうだな……ごめんみんな自分の仕事に戻ってくれこのままじゃ非効率だ」
清宮は一人で象形文字と格闘して、判別出来なかった校正は夕方5時ギリギリに電話をして聞いたがクライアントの担当者は荒く読めない文字そのものの人物だった。
まるで電話をスピーカーにしているのかと思うほど大声で話し皆に丸聞こえ……
「送って頂いた修正原稿ですがFAXの滲みで一部見にくくなってしまい確認させて頂きたいのですが…」
上手く言ったと思うが相手の答えは一言だった
「書いてあるだろう」
読めないから聞いてるんだよ!!
言ってしまいたいがそうもいかない、早く切り上げたいたとイライラしているのを隠そうともしないクライアントの担当者に我慢強く読めないポイントを潰していった
早く済ませたいならさっさと答えればいいものを一々文句を挟まれ中々進めない、資料を出して確めるのを渋っているのが目に見えるようだった
結局電話は30分もかかり珍しくブツブツ愚痴を口にしていた清宮はふらっと立ちあがり禁止されたベランダに出ていってしまった
「春人さんを連れ戻した方がいいじゃないか?」
「そうなんですけど」
山内が窓際にあるコピーからプリントアウトを取りながら身じろぎした、こういう時の清宮は声をかけにくい、表情が無く何を考えているかわからない
「危ないから禁止なんだろう」
変な遠慮をする気はない、ベランダへの扉に手を掛け清宮を呼んだ
「春人さん」
呼んでもきつい風に声が流され届かない
「ハル!!」
もう一度呼んで腕を掴むと振り返った清宮は呼ばれた相手が誰なのか判別が付いてないような魂の抜けた顔をして首を傾けた。
「中に入ってください」
「うん……」
腕を引っ張ると素直についてきた
部屋に入ると明かりに眩しそうに目を細めたが思い出したようにパソコンに座った。
暫くすると宮川が帰社してきて部屋が急に騒がしくなった、ハキハキしていると言うか声がデカイのだ
「清宮、今日は悪かったな、あそこの担当者いつもあんなでめちゃくちゃ嫌そうに仕事をする人なんだよ」
「こちらもすいません、急いでいたので宮川さんを通さず電話してしまいました」
「いいよ、それくらい」
宮川はグシャリと清宮の髪の毛を掻き回しパンパンの鞄をドサッと机に投げ出した
なんでこの人はいちいち清宮に触るんだ……
「宮川さん今日大丈夫ですか?」
「おう!任しとけ」
美咲と山内は宮川が帰ってくるのを待ち構えていた
飲みに行く約束をしていたらしい
「今日飲みに行くのか?」
「はい、明日休み取ってるんで」
「俺も行く」
「え?春人さん飲みにいくんですか?」
清宮が半分義務のような飲み会以外に行きたがるのは珍しかった、普段は大概誤魔化して帰ってしまう
「たまにはいいだろ」
「じゃあ俺も行きます」
「お前は無理だろ?」
慌ててパソコンの電源を落とそうとしたがまだ保存できてない、イメージの入った紙面は重くて保存中のゲージが動かない、確かに…今仕事を終えるのはキツイ
しかし宮川と美咲(山内もいるが……)と飲みに行くなんて放っておくのは嫌だった
「俺も後から追いつくから先に行っててもらえますか?」
「じゃあ連絡するよ」
「清宮、来るのはいいけど今日はカラオケだぞ?」
「え?カラオケなの?」
清宮がカラオケを苦手にしていることはデザイン部全員が知っていた
「清宮さんが来てくれるならカラオケはやめます」
誰の意見も聞かず美咲がうれしそうに近所のよく行く居酒屋に決めて早く早くと3人を先導して出て行ってしまった
ますます放っておけない、今日は終電に乗れるか?と思っていた仕事を30分程度で終わらせた
やればできるんじゃないかと言われそうだが後は校正で直せばいいとかなり端折っただけだ
つまり後回しにしたのだ
山内からラインで乾杯の写真が送られてきた、満開の笑顔で写ってる清宮を見ると足が急いてつい店まで走ってしまった
「うわ……凄……」
店に着くといつの間にか中山も交じりまだ一時間も経っていないのに全員もうかなり酔ってテーブルは目茶苦茶になっていた
「あ!神崎さんだ!」
「お疲れ様!早かったな」
べろべろに酔った宮川に飲め飲めと何のグラスかわからないコップに焼酎をドボンドボン注がれたが半分はテーブルにこぼれていった
「春人さん…それストレートじゃないですか?」
清宮も調子よく飲んでいるが手にしている湯呑は氷さえ入っていない焼酎に見える、ビールを2缶も飲めば目が落ちてくるくせにぬるい焼酎なんて危なすぎる
「何だよ来るなりお前は清宮、清宮って、出来てるって言いふらすぞ!」
「ダメです、俺と出来てるって言いふらします」
美咲が手を挙げると私も参加します、と中山が同調した
中山と美咲が清宮にくっついてお前は離れろとむしろ二人でいちゃいちゃじゃれ合い、山内は気分が悪そうにぐったりともう沈んでいる
酔っ払いだ、ムキにならずに放っておくのが一番だ、大人気なく参戦しても話が通じるとは思えない
テーブルから決壊してしまいそうな溢れた焼酎にお手拭きで堤防を作り隙を見て清宮のコップに水を足した。
「じゃあコップは?」
「入れるから女」
「エロ宮川」
清宮はびっくりするほどハイだった、最近は大人しいと言うより黙って悪さをする知能の高い子供のような印象に変わってしまっていたが、普段は皆が騒いでいる横でただ笑っていることが多い
「パソコンは男です」
「パソコンは女だよ、何考えてるかわからんだろが」
「特にMacは機嫌悪くなるタイミングがわからん、女だ」
「男って決まってるんです」
話題は物の性別になっていたが大学でフランス語を専攻していた為に譲れなくなり馬鹿みたいに参戦してしていた
「神崎!固定概念を捨てろデザイナーのくせに頭固いんだよ」
「宮川さんはふにゃふにゃ過ぎるんです、パソコンは男なんです!」
「男に向かってふにゃふにゃって言うな泣くぞ!」
「男にも色々あるんです、女だって固い人と柔らかい人がいるでしょう」
「セクハラ!!」
中山が突っ込んできたが顔は笑っていた
「中山は可愛いけどどっちかというと男だな」
「それを言うと美咲はどっちかというと女よね……ちょっと!誰かの携帯ブーブー言ってない?」
「あっっ!!あっ!あっ!俺だ!ちょっと待って!!」
いい時間に盛り上がった店内はうるさすぎて着信音は全く聞こえず地味に明かりを灯していた携帯に清宮が体ごとダイブして飛び付いた
「何だよオーバーだな、切れてもすぐにかけ直せばいいだろ」
「うるさいな宮川さん!!ちょっとみんな話を止めないで騒いでて!」
「え?どっち?うるさいんですよね?騒がしくて電話の音聞こえないんじゃないですか?」
「いいから!騒いでて!」
ガツンっと縁に頭を打ち付けてテーブルの下にガタガタと潜り込んだ清宮にとうとう溢れた焼酎が決壊してツーッとシャツの背中に落ちて丸く濡らしてしまった
「そんな所に潜るくらいなら隅に避けて電話に出ればいいのに……」
「騒げってどういう事?」
「どういう事なんでしょうかね……清宮さんは普段から謎だからいいんですけどね」
それには同感だが仕事以外でそんなに必死になって電話に出るなんて今まで一度も見た事がない、特に夜九時を越えると目の前で音を立てても無視している
テーブルの下から聞こえるボソボソと短い会話の内容は言いつけを守った美咲と中山の甲高い声で全く何を言ってるのか分からなかった
盗み聞きじゃないが……自然と聞こえてしまう事に期待して
「何だよ彼女からか?隠し妻とか……まさかセフレ?」
宮川の言葉にウグっと息が詰まった。
「違いますよ、なんで女限定なんですか、宮川さんじゃあるまいし」
「清宮ってなんで誰とも付き合わないの?お前男だよな?」
「俺は男ですよ」
「そんなチ◯コの話じゃ無くてな」
「じゃ何なんだよ、男以外ないだろ」
中山、宮川、美咲で顔を見合わせうーんと唸った
「少なくとも女じゃないけど、男も微妙」
宮川の意見には賛成だ、みんなの言いたい事は一致していた
「だから男だって」
「清宮は黙ってろ」
「清宮さんチューしましょう」
美咲がどさくさに紛れて口を突き出しすと、むーっと唇を尖らせ何の躊躇もなく馬鹿みたいにチューに応えようとする清宮のシャツを掴んで引き離した。
「こんな……感じだったんだ……」
何が?とケラケラ笑ってるキス魔の顛末は結構これからも簡単に発生しそうな所にプカプカ浮いていた。
結局焼酎のボトルが二本空いた所で閉店だからと店を追い出された
テーブルは荒れに荒れ、中々帰ろうとしない行儀の悪い客だったが、近所の商業施設には膨大な顧客が詰まってる、申し訳ないが閉店ですと態度だけは遠慮がちだった
「電車はギリギリあるな…走れるか?」
ずっとトイレに籠もっていた山内と唯一の女子中山を先にタクシーで帰して宮川が携帯を見ながら駅の方を指さした、さっきまでベロンベロンに見えたが店を出るといつもの顔に戻っていた
「無理です……と言うか嫌です」
「俺も…タクシーで帰ります…」
走れるかどうかより走りたくない
「そうか?俺は間に合いそうだから電車で帰るよ、清宮は?大丈夫か?」
「俺は……大丈夫です」
いつもビールをちょっと飲んだだけでプツンと電源を落としたように眠ってしまうくせに騒いでいたせいか清宮はヘラヘラ笑っているがしっかり立っていた
「じゃあ俺はギリギリだから行くぞ?」
「行ってらっしゃーい」
ブンブン振り回した手の反動で美咲がふらついたついでに清宮に抱きついた
「宮川さん……タフだな、走ってるよ…」
「俺だってタフですよ、立ってるもん」
「美咲!先にタクシーに乗れ!」
ヘラヘラと笑い合う酔っ払い二人のする事……別にいいけどやっぱりよくない、タクシーを捕まえて先に美咲を押し込んだ
「俺は最後でいいですよ、神崎さんったらまた清宮さんと二人っきりになろうとして!」
「いいから行けよ、俺はお前程酔ってない」
「神崎さんズルい……」
美咲に見透かされ何か言い返される前にタクシーのドアを叩き締めた
出来れば……出来ればだが清宮をマンションまでに送って……あわよくば転がり込んでしまいたい
「神崎!こっち!」
「あれ?春人さん?………何してるんですか?」
美咲の乗ったタクシーの後ろで清宮がタクシーを止めてなぜか乗り込んでいた。
「俺は神崎ん家で寝る」
「へ?いや……いいですけど……」
それなら清宮のマンションに行った方が早くて近い……歩いて五分、タクシー代もかからない
「早く乗れよ」
「はあ……」
発車して進んでいく前のタクシーのから振り返って何か叫んでる美咲が見えた
「どうしたんですか?」
「いいだろ、別に……」
「いいんですけど……」
おそらくマンションまでは15分か20分、飲んだ量から見ても熟睡してしまう
殆どシラフだった前とは違い、担いで運ぶなんて出来そうもない
タクシーが滑り出すとあっという間に清宮の瞼が重くなってきた
「春人さん!寝ないで!もうちょっとだけ我慢してください……あ……春人さん!」
「起きてる……寝てない……起き……」
「春人さん!」
眠った客を運ぶ手伝いをやらされては堪らないとコーナーで体が振れるほどスピードを出したタクシーは10分もかからずマンションに着けてくれた
清宮程ではではないか泥酔しているのは全く同じ、二人で支え合って部屋になだれ込み、そのまま記憶がなくなった。
………携帯の目覚ましが頭の中でキンキン高い音をたてて跳ね回った
「頭……割れる……」
この世で一番聞きたくない不快なアラームにスマホを壁に投げつけたくなったが米粒程の理性がなんとか機能してくれた、唸り声を上げながらいつもならスヌースするがそのまま停止にスライドした。
「そう言えば………」
清宮もその辺に転がっている筈だ
ベッドどころかソファにすら辿り着けずリビングに入った所で一緒に倒れ込んでそのまま記憶がない
「春人さん?」
重い頭を決死で持ち上げて部屋を見回すと部屋の奥で壁に張り付くように体を丸めた清宮が眠っていた。
ソファとテーブルをどうやって避けたのか器用に転がり静かに寝息を立てていた。
息も体も部屋もアルコール臭い、ここまで痛飲する飲み会は学生の時以来だった
ボトルごとテーブルに居座っていた焼酎は二本空いていた、最初は水を足していたが途中から氷も入れず飲み散らかしていたような気がする。
「頭……痛え……」
ずっと遠くで見ているだけのほぼ偶像だった清宮は知れば知るほど存在が大きくなってきている……近くに行ける、話が出来る、手を伸ばせば届く…………ひとつ叶うと新しい欲が生まれまた次が欲しくなる
近づき過ぎた事は間違いだったかもしれない………そう思った事もあったが、勢いのまま転職してきた新しい職場で得た仲間は、お互いの牽制が激しかった電報堂の上っ面を取り繕う付き合いとは違い反目もあるがそれを隠すこともなく自由に言い合えて楽しかった。
「春人さんがいてこそ……だけどな……」
来てよかった……
吐き気を我慢しながら清宮を起こさないようにそっとバスルームに入りシャワーでアルコールと二日酔いの不快を洗い流そうとしたが、どちらも頑固でしっかり体に留まって出ていかない
もう二度と酒を飲み過ごさない……
人生で数度目の決心をした。
液体の胃薬が一本だけストックしてある
「半分に分けても効くかな………」
消費期限を確かめながらバスルームを出ると清宮が壁に凭れて足を投げ出していた。
眉間の皺と腫れた目のせいで人相が変わっている
「起きたんですか……シャワー浴びますか?パンツ……ありますよ」
「………無理……」
「会社休みますか?俺が予定引き受けますよ」
「………無理……」
「え?無理ってどっちですか……春人さん?」
ズルリ…ズルリとバスルームの前まで這って来て……立つのが嫌なのだろう、ドアの前で険しい顔を上げた
「開けろって言いたいんですね、春人さん胃薬飲んで下さい、ちょっとはマシになるかもしれません」
仕事を休むなんて選択肢はないらしい清宮に、薬を譲ってバスルームに押し込んだはいいが、あまりに長いので溺れてるんじゃないかと心配になって覗きに行ってしまった。
その一日は苦行のようで返事はすべて呻き声、ペットボトルが数本空になって転がっていた
無視されがちだが一応終業時間は6時までだ
「今日はさっさと帰りましょう……効率が悪い」
「そうします……」
山内がしゃがれた声で同意した
離れた机から中山も賛成と手を挙げ南が馬鹿じゃないのと笑っていた
ほぼ突っ伏して仕事をしていた清宮は小さく「お疲れ…」と言って席を立とうとしない
「まだ帰れないんですか?」
清宮のパソコンを覗き込むと随分進んでいる、ゼロベースだった原稿が埋まっている
「先に帰れよ、俺はキリのいいところまでやるから」
「もう今日はいいんじゃないですか?予定より進んでいるように見えますけど」
「うん……」
返事をするのも億劫そうにベタッと机に頬を乗せて先に帰れと手を振った
「春人さん、もう終わりますよね待ってましょうか?」
「なんで待つんだよ、いいから帰れ」
「はあ……そうですけど」
最近はいつも一緒に退社していたので先に帰れと言われるとなんとなく寂しい
どうせ会社を出た所で別れるのだからどっちでもいいけど……
「じゃあすいませんがお先に失礼します」
もう返事をしない清宮を置いて治まらない頭痛を家に持って帰ることにした。
朝出社して唖然とした
デザイン部の細長い部屋の奥には資料棚に隠れて見えにくいが売り場落ちした古くボロい革張りソファがある
勿論客用ではなく普段は荷物が置かれたりサボる時に使われたりしていたが、白く剥げた革の上に清宮が転がっていた。
「何やってるんですか?!昨日帰ってないんですか?今日は休みのはずですよね?」
「うん……休み……」
清宮はモソモソと古いブラケットを手繰り寄せうるさそうに眉を寄せ起き上がろうとはしなかった
「それならちゃんと部屋に帰って休んで下さい、ここにいたらどうせ清宮、清宮って電話がかかってきますよ」
「帰るのが面倒だったんだよ…」
「春人さんのマンションまで面倒って程の距離じゃないでしょう」
「俺はいないからな……」
「いないって……電話はそれでいいですけど」
入り口からは見えないが部屋に入って来たら見えてしまう、売り場の担当者が遠慮なんかしてくれるわけ無い
「神崎さん、私達がちゃんとブロックしますから」
「はあ…でも…」
「大丈夫ですよ」
南と中山は慣れているのか対応を任せておけと背中を押された。
「どんだけ会社が好きなんでしょうね」
出社して来た美咲達も笑って放置……
清宮はみんなが仕事に入っても帰ろうとはせずにソファに寝転びずっと本を読んでいた
清宮の中の扉の開き加減…とでも言おうか、仕事用の社会に適応した対応と引きこもりの割り合いは時々入れ替わり例え仕事中でも時々ひょっこり顔を出す
引きこもりの清宮は飲食をあまりしない
食事をしている気配が無いのでチキンのロールサンドを買って来るとチビチビとつまんでいた
普段の頑張りを皆知っているので清宮が勝手な事をしても基本何も言わない
課長すら黙認していた
「あれ?清宮さんは?」
「さっき帰りましたよ」
山田だけ気付いていたらしい
夕食の事も気になった一緒に行きたいと言い張る美咲と一緒に清宮のマンションに寄ったが
電気もついておらず人の気配はなかった
毎年変わりないお馴染みのカボチャとコウモリのデザインに嫌気がさしてそのうち色味から変えてみたい野望が湧いてくる。
一昨日から珍しく三連休を取った清宮の不在に手持ちの仕事も終わってしまい何もする事がなくなってしまった。
以前仕事を回して貰った樋口からまた頼みたい事があると連絡を受けていたので仕方なく外出した
街もハロウィン一色、土曜日だからなのかまだ月末までは遠いのに変な仮装をした通行人も多い。
もう夜の風は秋色が濃く夏の服装では肌寒いくらいだが裸同然のコスプレに挑む気合と根性には脱帽する
待ち合わせのカフェは大通りに面した目立つ場所にあり、全面ガラス張りの店内に樋口を見つけギクリと足を止めた。
「あれは………」
思わず舌打ちしてしまった
樋口と同席しているのは電報堂の元同僚池上美絵………半年程付き合った……つまり元カノ
「樋口のおっさん………余計な事してくれる」
いかにもいっちょ噛みしてきそうで面倒くささに輪を掛けてる、このまま急用で行けないとキャンセルしてしまおうかと思ったがどうせ用があるなら二度手間になる
なんのつもりか知らないが別れを切り出してきたのは池上の方でこっちは振られた方なのだからシコリも未練もない。
「樋口さん、お待たせしてすいません」
なるべく余裕があるように席に着くと池上がニッコリ自信たっぷりな微笑みを送ってきた
「悪いね、忙しい時に時間作って貰って」
「大丈夫です、今丁度手が空いていましたから」
「あ、こちら電報堂の………」
「お久しぶり、神崎くん」
樋口の言葉に被せて割り込んだ池上は胸元が大きくV字に切れ込んだ薄いピンク色の7部丈セーターに短いタイトな濃いエンジのスカートを合わせ、歩けるのが不思議な10センチはあろうかというピンヒールのミュールという商談の打ち合わせには相応しくない服装だった。
「お久しぶりです」
「あれ?知り合いだった?何で言ってくれないの池上さん」
「色々あったんです、ね?神崎くん?」
やっぱり仕事の話だけじゃなさそうだ、樋口の前で意味有り気な目配せをこれみよがしにされても迷惑でしかない
「あれ?そうだったの?まずかった?」
「大丈夫です、話って何ですか?」
「うん、これなんだけどね、電報堂で受ける事が出来ないんだよね、代わりにやってもらえないかな?」
「電報堂がNGってどういう事なんですか?」
渡された企画書は分厚い紙に出力され企画書事態にデザイナーの手が入ったしっかりしたものだった、下請けに出すにはもう具体的に動き出している
「それは私が説明するわ」
「この企画書は電報堂で作ってますよね」
「ええ、クライアントはそこに書いてある通り大手飲料メーカーなんだけどね……」
池上の説明ではトラブルではないが要は飲料メーカーの担当者と電報堂の担当者の折り合いが悪く、やり辛いが双方そんな事で仕事の担当を外れたくない………
つまり嫌いな奴と仕事をやりたくないなんて子供っぽい諍いだが樋口に回ってくる仕事の大半はこんなつまらない理由が多い、使われる予算が膨大で多岐に渡るため意味不明の領収書が混ざっても問題にならないらしい。
「企画書は立派だけど中身ゼロじゃないですか、新製品のこれはお酒ですか?商品パッケージはもう出来てる」
「広告イメージをやって欲しいのよ、まだ全て白紙だから好きにしていいわ」
「好きにしてってどうせ自由じゃないんでしょう?コンセプトすら出てない」
「神崎くんが決めて、ターゲットは二十歳から三十くらいまでの若者、縛りはそれだけよ、「今度会うときに」商品の現物持ってくるからアイディアだけ練っといてね」
「池上さんが担当なんですか?」
「あ、現物預かるのは俺、池上さんは橋渡しかな?いい仕事じゃない、金額大きいわよ」
「はあ……」
迂回の数が多い、今の説明では池上が噛んでくる必要はない
「仕事の規模が大き過ぎてあまり時間を取られるようでしたらこっちの仕事もあるのでお引き受け出来ないかもしれません、また詳細が決まったら連絡ください、樋口さん」
「樋口」を強調して暗に関わってくるなと池上に伝えたがニッコリスルーして手を振った
「神崎くん今お前関係ないだろって顔したわね、残念ね、私も別件で頼みたい事があるのよ」
池上から渡された「別件」は電報堂に勤めている時に手掛けた簡単なイラスト入りのパンフレットだった
同じデザイナーにとのクライアントからの要望なので自宅でデザインしてデータを送れば個人的に支払うと言われたが勿論そんな気はない、清宮に話を通し会社で処理するつもりだった。
樋口と池上に飲みに誘われたが実家に顔を出すと休んでいた清宮がもうマンションに帰ってきているかもしれない
3日も顔を見なかったのは一緒に働くようになって初めてで顔を見にマンションによる方が優先事項だった。
「用は………ある、突然行っても変じゃないよな」
不思議なもので欲しいものが金で買えなければ金銭欲はなくなってしまう、ほんの30分時間を割けば10万やると言われても顔を見に行く言い訳に使う方が有意義
ビールとツマミと、もしかしたらまた何も食べていないかもしれないのでお弁当を買い込んで清宮のマンションを見上げると………寝ているかまだ帰っていないのか部屋の窓は真っ暗だった。
「帰って……ないか……」
清宮の実家は電車で30分、普通なら通える距離なのだから朝直接来てもおかしくない
自分のマンションに帰って買った弁当とビールを消費するしかなかった。
次の日の朝、大量の手作り弁当…というかお重を持って清宮は出社した
「恥ずかしいからいらないって何度も言ったのに朝起きたら出来てて………重かった、俺一人で食べる量じゃないだろう」
「確かに多いですね、重い……お母さん優しいんですね」
美咲がお重を包んだ風呂敷を持ち上げると結び目が目一杯伸びて三段分満杯に中身が詰まっていることが分かる
「持って行かないとデザートを追加して職場に押しかけるって脅されたんだ」
「変な脅しですね、俺なら嬉しいですけどね」
「職場に来られても?美咲は平気なのか?」
「はい、山内は?お母さんがここに来たら恥ずかしい?」
「絶対に嫌………絶対ない…ねえ清宮さん、それが普通ですよね」
「うちは家族が目茶苦茶構ってくるんだよ、いつまで経っても家族の中でも一番下で子供のまんま……うるさくて………」
清宮の母親の気持ちが少し解る、清宮は放っておくと飲食が雑になるし体力的な無茶もする
「家族と仲が良いんですね」
「仲がいいと言うか過干渉なんだよ…いい年して恥ずかしい、神崎の親は?お前も実家が近いのに一人暮らししてるなんてやっぱり親がうるさいからじゃないの?」
「いや……うちは……」
学校を卒業すると、子育て終了と宣言されて連絡さえ来ない自分の親が頭に浮かんだ、今は弟の独立をひた待ちしている。
「いいなー……それ……電話を無視してたらいつ何時何回行ってもマンションにいないって爆発されたんだよ」
「それで実家に?」
「……うん……」
「いいお母さんじゃないですか俺は母親がいないんで羨ましいです……デザート持ってきて欲しいです」
「え?そうなの?」
母親がウザいと文句を垂れていた山内がしまったと申し訳そうな顔をした。
「継母ならいるんすけどね」
「継母?」
何となく前時代的なワードに一同首をひねった
「親父が再婚したんです、中学生の時に…」
「それって父親の前では良い母親を演じ二人になると虐待してくる感じ?」
「何だよそれ!どこの童話?」
中山の変な妄想に笑いが起こった
「いや、そんなドラマティックじゃない、普通…」
「なんだ、つまんない」
「ないでしょう、そんな設定」
盛り上がっている横で清宮が話には加わらず溜め息をついている事が気になった
「そんなに困らなくてもお弁当は食べてあげますよ」
「うん…弁当はいいんだけど……」
「どうしたんですか?」
心配事があるなら言って欲しいが……清宮は普段からあまり自分の事を話さない
カーテンもブラインドもない剥き出しのガラス窓はとっぷり濃い奥行きのある黒で覆われていた、遠くでチカチカ光る飛行機の灯りが点滅しながら暗い夜空を横切っていった
デザインチーム…いつもきっちり6時に帰る山田以外は清宮の出社で急に動き出した仕事に追われまだ帰れないでいた。
「堀川部長はもう帰ったよな」
山内が心配そうにデザイン部の入り口をチラチラ確かめながら独り言のように呟いた
清宮が禁止された例のベランダにフラリと出ていってしまい風に当たってぼうっと黄昏れていた。
首や袖が締まるのが嫌だとシャツのボタンも相変わらず外してしまっている
休みの間に溜まった制作物の修正に数時間かかり殆ど仕事が進んでいなかった
外部のクライアントから送られてきた修正は伝える気が無いのか乱雑過ぎる癖字とFAXで送りつけられたせいで表記が荒れて読めた物ではなく解読するには推理力が必要なくらいだった。
「先入観なく見てくれ、いいか?」
みんなで目隠しをして一斉に修正原稿を見たが字ではなく落書きの様……
「い…ら……は……ここは漢字かな……」
「ここも1か7かも分かりませんね」
「そんな物は分からなければ電話して聞けばいいでしょう」
俺なら読めないって返しますよと山田は冷めた口調で言うがそう簡単な話じゃ無い
社内の原稿だけを担当していたらそれで良いだろうが外部の場合読めません、やり直して下さいとは簡単に言えない。
「そうだな……ごめんみんな自分の仕事に戻ってくれこのままじゃ非効率だ」
清宮は一人で象形文字と格闘して、判別出来なかった校正は夕方5時ギリギリに電話をして聞いたがクライアントの担当者は荒く読めない文字そのものの人物だった。
まるで電話をスピーカーにしているのかと思うほど大声で話し皆に丸聞こえ……
「送って頂いた修正原稿ですがFAXの滲みで一部見にくくなってしまい確認させて頂きたいのですが…」
上手く言ったと思うが相手の答えは一言だった
「書いてあるだろう」
読めないから聞いてるんだよ!!
言ってしまいたいがそうもいかない、早く切り上げたいたとイライラしているのを隠そうともしないクライアントの担当者に我慢強く読めないポイントを潰していった
早く済ませたいならさっさと答えればいいものを一々文句を挟まれ中々進めない、資料を出して確めるのを渋っているのが目に見えるようだった
結局電話は30分もかかり珍しくブツブツ愚痴を口にしていた清宮はふらっと立ちあがり禁止されたベランダに出ていってしまった
「春人さんを連れ戻した方がいいじゃないか?」
「そうなんですけど」
山内が窓際にあるコピーからプリントアウトを取りながら身じろぎした、こういう時の清宮は声をかけにくい、表情が無く何を考えているかわからない
「危ないから禁止なんだろう」
変な遠慮をする気はない、ベランダへの扉に手を掛け清宮を呼んだ
「春人さん」
呼んでもきつい風に声が流され届かない
「ハル!!」
もう一度呼んで腕を掴むと振り返った清宮は呼ばれた相手が誰なのか判別が付いてないような魂の抜けた顔をして首を傾けた。
「中に入ってください」
「うん……」
腕を引っ張ると素直についてきた
部屋に入ると明かりに眩しそうに目を細めたが思い出したようにパソコンに座った。
暫くすると宮川が帰社してきて部屋が急に騒がしくなった、ハキハキしていると言うか声がデカイのだ
「清宮、今日は悪かったな、あそこの担当者いつもあんなでめちゃくちゃ嫌そうに仕事をする人なんだよ」
「こちらもすいません、急いでいたので宮川さんを通さず電話してしまいました」
「いいよ、それくらい」
宮川はグシャリと清宮の髪の毛を掻き回しパンパンの鞄をドサッと机に投げ出した
なんでこの人はいちいち清宮に触るんだ……
「宮川さん今日大丈夫ですか?」
「おう!任しとけ」
美咲と山内は宮川が帰ってくるのを待ち構えていた
飲みに行く約束をしていたらしい
「今日飲みに行くのか?」
「はい、明日休み取ってるんで」
「俺も行く」
「え?春人さん飲みにいくんですか?」
清宮が半分義務のような飲み会以外に行きたがるのは珍しかった、普段は大概誤魔化して帰ってしまう
「たまにはいいだろ」
「じゃあ俺も行きます」
「お前は無理だろ?」
慌ててパソコンの電源を落とそうとしたがまだ保存できてない、イメージの入った紙面は重くて保存中のゲージが動かない、確かに…今仕事を終えるのはキツイ
しかし宮川と美咲(山内もいるが……)と飲みに行くなんて放っておくのは嫌だった
「俺も後から追いつくから先に行っててもらえますか?」
「じゃあ連絡するよ」
「清宮、来るのはいいけど今日はカラオケだぞ?」
「え?カラオケなの?」
清宮がカラオケを苦手にしていることはデザイン部全員が知っていた
「清宮さんが来てくれるならカラオケはやめます」
誰の意見も聞かず美咲がうれしそうに近所のよく行く居酒屋に決めて早く早くと3人を先導して出て行ってしまった
ますます放っておけない、今日は終電に乗れるか?と思っていた仕事を30分程度で終わらせた
やればできるんじゃないかと言われそうだが後は校正で直せばいいとかなり端折っただけだ
つまり後回しにしたのだ
山内からラインで乾杯の写真が送られてきた、満開の笑顔で写ってる清宮を見ると足が急いてつい店まで走ってしまった
「うわ……凄……」
店に着くといつの間にか中山も交じりまだ一時間も経っていないのに全員もうかなり酔ってテーブルは目茶苦茶になっていた
「あ!神崎さんだ!」
「お疲れ様!早かったな」
べろべろに酔った宮川に飲め飲めと何のグラスかわからないコップに焼酎をドボンドボン注がれたが半分はテーブルにこぼれていった
「春人さん…それストレートじゃないですか?」
清宮も調子よく飲んでいるが手にしている湯呑は氷さえ入っていない焼酎に見える、ビールを2缶も飲めば目が落ちてくるくせにぬるい焼酎なんて危なすぎる
「何だよ来るなりお前は清宮、清宮って、出来てるって言いふらすぞ!」
「ダメです、俺と出来てるって言いふらします」
美咲が手を挙げると私も参加します、と中山が同調した
中山と美咲が清宮にくっついてお前は離れろとむしろ二人でいちゃいちゃじゃれ合い、山内は気分が悪そうにぐったりともう沈んでいる
酔っ払いだ、ムキにならずに放っておくのが一番だ、大人気なく参戦しても話が通じるとは思えない
テーブルから決壊してしまいそうな溢れた焼酎にお手拭きで堤防を作り隙を見て清宮のコップに水を足した。
「じゃあコップは?」
「入れるから女」
「エロ宮川」
清宮はびっくりするほどハイだった、最近は大人しいと言うより黙って悪さをする知能の高い子供のような印象に変わってしまっていたが、普段は皆が騒いでいる横でただ笑っていることが多い
「パソコンは男です」
「パソコンは女だよ、何考えてるかわからんだろが」
「特にMacは機嫌悪くなるタイミングがわからん、女だ」
「男って決まってるんです」
話題は物の性別になっていたが大学でフランス語を専攻していた為に譲れなくなり馬鹿みたいに参戦してしていた
「神崎!固定概念を捨てろデザイナーのくせに頭固いんだよ」
「宮川さんはふにゃふにゃ過ぎるんです、パソコンは男なんです!」
「男に向かってふにゃふにゃって言うな泣くぞ!」
「男にも色々あるんです、女だって固い人と柔らかい人がいるでしょう」
「セクハラ!!」
中山が突っ込んできたが顔は笑っていた
「中山は可愛いけどどっちかというと男だな」
「それを言うと美咲はどっちかというと女よね……ちょっと!誰かの携帯ブーブー言ってない?」
「あっっ!!あっ!あっ!俺だ!ちょっと待って!!」
いい時間に盛り上がった店内はうるさすぎて着信音は全く聞こえず地味に明かりを灯していた携帯に清宮が体ごとダイブして飛び付いた
「何だよオーバーだな、切れてもすぐにかけ直せばいいだろ」
「うるさいな宮川さん!!ちょっとみんな話を止めないで騒いでて!」
「え?どっち?うるさいんですよね?騒がしくて電話の音聞こえないんじゃないですか?」
「いいから!騒いでて!」
ガツンっと縁に頭を打ち付けてテーブルの下にガタガタと潜り込んだ清宮にとうとう溢れた焼酎が決壊してツーッとシャツの背中に落ちて丸く濡らしてしまった
「そんな所に潜るくらいなら隅に避けて電話に出ればいいのに……」
「騒げってどういう事?」
「どういう事なんでしょうかね……清宮さんは普段から謎だからいいんですけどね」
それには同感だが仕事以外でそんなに必死になって電話に出るなんて今まで一度も見た事がない、特に夜九時を越えると目の前で音を立てても無視している
テーブルの下から聞こえるボソボソと短い会話の内容は言いつけを守った美咲と中山の甲高い声で全く何を言ってるのか分からなかった
盗み聞きじゃないが……自然と聞こえてしまう事に期待して
「何だよ彼女からか?隠し妻とか……まさかセフレ?」
宮川の言葉にウグっと息が詰まった。
「違いますよ、なんで女限定なんですか、宮川さんじゃあるまいし」
「清宮ってなんで誰とも付き合わないの?お前男だよな?」
「俺は男ですよ」
「そんなチ◯コの話じゃ無くてな」
「じゃ何なんだよ、男以外ないだろ」
中山、宮川、美咲で顔を見合わせうーんと唸った
「少なくとも女じゃないけど、男も微妙」
宮川の意見には賛成だ、みんなの言いたい事は一致していた
「だから男だって」
「清宮は黙ってろ」
「清宮さんチューしましょう」
美咲がどさくさに紛れて口を突き出しすと、むーっと唇を尖らせ何の躊躇もなく馬鹿みたいにチューに応えようとする清宮のシャツを掴んで引き離した。
「こんな……感じだったんだ……」
何が?とケラケラ笑ってるキス魔の顛末は結構これからも簡単に発生しそうな所にプカプカ浮いていた。
結局焼酎のボトルが二本空いた所で閉店だからと店を追い出された
テーブルは荒れに荒れ、中々帰ろうとしない行儀の悪い客だったが、近所の商業施設には膨大な顧客が詰まってる、申し訳ないが閉店ですと態度だけは遠慮がちだった
「電車はギリギリあるな…走れるか?」
ずっとトイレに籠もっていた山内と唯一の女子中山を先にタクシーで帰して宮川が携帯を見ながら駅の方を指さした、さっきまでベロンベロンに見えたが店を出るといつもの顔に戻っていた
「無理です……と言うか嫌です」
「俺も…タクシーで帰ります…」
走れるかどうかより走りたくない
「そうか?俺は間に合いそうだから電車で帰るよ、清宮は?大丈夫か?」
「俺は……大丈夫です」
いつもビールをちょっと飲んだだけでプツンと電源を落としたように眠ってしまうくせに騒いでいたせいか清宮はヘラヘラ笑っているがしっかり立っていた
「じゃあ俺はギリギリだから行くぞ?」
「行ってらっしゃーい」
ブンブン振り回した手の反動で美咲がふらついたついでに清宮に抱きついた
「宮川さん……タフだな、走ってるよ…」
「俺だってタフですよ、立ってるもん」
「美咲!先にタクシーに乗れ!」
ヘラヘラと笑い合う酔っ払い二人のする事……別にいいけどやっぱりよくない、タクシーを捕まえて先に美咲を押し込んだ
「俺は最後でいいですよ、神崎さんったらまた清宮さんと二人っきりになろうとして!」
「いいから行けよ、俺はお前程酔ってない」
「神崎さんズルい……」
美咲に見透かされ何か言い返される前にタクシーのドアを叩き締めた
出来れば……出来ればだが清宮をマンションまでに送って……あわよくば転がり込んでしまいたい
「神崎!こっち!」
「あれ?春人さん?………何してるんですか?」
美咲の乗ったタクシーの後ろで清宮がタクシーを止めてなぜか乗り込んでいた。
「俺は神崎ん家で寝る」
「へ?いや……いいですけど……」
それなら清宮のマンションに行った方が早くて近い……歩いて五分、タクシー代もかからない
「早く乗れよ」
「はあ……」
発車して進んでいく前のタクシーのから振り返って何か叫んでる美咲が見えた
「どうしたんですか?」
「いいだろ、別に……」
「いいんですけど……」
おそらくマンションまでは15分か20分、飲んだ量から見ても熟睡してしまう
殆どシラフだった前とは違い、担いで運ぶなんて出来そうもない
タクシーが滑り出すとあっという間に清宮の瞼が重くなってきた
「春人さん!寝ないで!もうちょっとだけ我慢してください……あ……春人さん!」
「起きてる……寝てない……起き……」
「春人さん!」
眠った客を運ぶ手伝いをやらされては堪らないとコーナーで体が振れるほどスピードを出したタクシーは10分もかからずマンションに着けてくれた
清宮程ではではないか泥酔しているのは全く同じ、二人で支え合って部屋になだれ込み、そのまま記憶がなくなった。
………携帯の目覚ましが頭の中でキンキン高い音をたてて跳ね回った
「頭……割れる……」
この世で一番聞きたくない不快なアラームにスマホを壁に投げつけたくなったが米粒程の理性がなんとか機能してくれた、唸り声を上げながらいつもならスヌースするがそのまま停止にスライドした。
「そう言えば………」
清宮もその辺に転がっている筈だ
ベッドどころかソファにすら辿り着けずリビングに入った所で一緒に倒れ込んでそのまま記憶がない
「春人さん?」
重い頭を決死で持ち上げて部屋を見回すと部屋の奥で壁に張り付くように体を丸めた清宮が眠っていた。
ソファとテーブルをどうやって避けたのか器用に転がり静かに寝息を立てていた。
息も体も部屋もアルコール臭い、ここまで痛飲する飲み会は学生の時以来だった
ボトルごとテーブルに居座っていた焼酎は二本空いていた、最初は水を足していたが途中から氷も入れず飲み散らかしていたような気がする。
「頭……痛え……」
ずっと遠くで見ているだけのほぼ偶像だった清宮は知れば知るほど存在が大きくなってきている……近くに行ける、話が出来る、手を伸ばせば届く…………ひとつ叶うと新しい欲が生まれまた次が欲しくなる
近づき過ぎた事は間違いだったかもしれない………そう思った事もあったが、勢いのまま転職してきた新しい職場で得た仲間は、お互いの牽制が激しかった電報堂の上っ面を取り繕う付き合いとは違い反目もあるがそれを隠すこともなく自由に言い合えて楽しかった。
「春人さんがいてこそ……だけどな……」
来てよかった……
吐き気を我慢しながら清宮を起こさないようにそっとバスルームに入りシャワーでアルコールと二日酔いの不快を洗い流そうとしたが、どちらも頑固でしっかり体に留まって出ていかない
もう二度と酒を飲み過ごさない……
人生で数度目の決心をした。
液体の胃薬が一本だけストックしてある
「半分に分けても効くかな………」
消費期限を確かめながらバスルームを出ると清宮が壁に凭れて足を投げ出していた。
眉間の皺と腫れた目のせいで人相が変わっている
「起きたんですか……シャワー浴びますか?パンツ……ありますよ」
「………無理……」
「会社休みますか?俺が予定引き受けますよ」
「………無理……」
「え?無理ってどっちですか……春人さん?」
ズルリ…ズルリとバスルームの前まで這って来て……立つのが嫌なのだろう、ドアの前で険しい顔を上げた
「開けろって言いたいんですね、春人さん胃薬飲んで下さい、ちょっとはマシになるかもしれません」
仕事を休むなんて選択肢はないらしい清宮に、薬を譲ってバスルームに押し込んだはいいが、あまりに長いので溺れてるんじゃないかと心配になって覗きに行ってしまった。
その一日は苦行のようで返事はすべて呻き声、ペットボトルが数本空になって転がっていた
無視されがちだが一応終業時間は6時までだ
「今日はさっさと帰りましょう……効率が悪い」
「そうします……」
山内がしゃがれた声で同意した
離れた机から中山も賛成と手を挙げ南が馬鹿じゃないのと笑っていた
ほぼ突っ伏して仕事をしていた清宮は小さく「お疲れ…」と言って席を立とうとしない
「まだ帰れないんですか?」
清宮のパソコンを覗き込むと随分進んでいる、ゼロベースだった原稿が埋まっている
「先に帰れよ、俺はキリのいいところまでやるから」
「もう今日はいいんじゃないですか?予定より進んでいるように見えますけど」
「うん……」
返事をするのも億劫そうにベタッと机に頬を乗せて先に帰れと手を振った
「春人さん、もう終わりますよね待ってましょうか?」
「なんで待つんだよ、いいから帰れ」
「はあ……そうですけど」
最近はいつも一緒に退社していたので先に帰れと言われるとなんとなく寂しい
どうせ会社を出た所で別れるのだからどっちでもいいけど……
「じゃあすいませんがお先に失礼します」
もう返事をしない清宮を置いて治まらない頭痛を家に持って帰ることにした。
朝出社して唖然とした
デザイン部の細長い部屋の奥には資料棚に隠れて見えにくいが売り場落ちした古くボロい革張りソファがある
勿論客用ではなく普段は荷物が置かれたりサボる時に使われたりしていたが、白く剥げた革の上に清宮が転がっていた。
「何やってるんですか?!昨日帰ってないんですか?今日は休みのはずですよね?」
「うん……休み……」
清宮はモソモソと古いブラケットを手繰り寄せうるさそうに眉を寄せ起き上がろうとはしなかった
「それならちゃんと部屋に帰って休んで下さい、ここにいたらどうせ清宮、清宮って電話がかかってきますよ」
「帰るのが面倒だったんだよ…」
「春人さんのマンションまで面倒って程の距離じゃないでしょう」
「俺はいないからな……」
「いないって……電話はそれでいいですけど」
入り口からは見えないが部屋に入って来たら見えてしまう、売り場の担当者が遠慮なんかしてくれるわけ無い
「神崎さん、私達がちゃんとブロックしますから」
「はあ…でも…」
「大丈夫ですよ」
南と中山は慣れているのか対応を任せておけと背中を押された。
「どんだけ会社が好きなんでしょうね」
出社して来た美咲達も笑って放置……
清宮はみんなが仕事に入っても帰ろうとはせずにソファに寝転びずっと本を読んでいた
清宮の中の扉の開き加減…とでも言おうか、仕事用の社会に適応した対応と引きこもりの割り合いは時々入れ替わり例え仕事中でも時々ひょっこり顔を出す
引きこもりの清宮は飲食をあまりしない
食事をしている気配が無いのでチキンのロールサンドを買って来るとチビチビとつまんでいた
普段の頑張りを皆知っているので清宮が勝手な事をしても基本何も言わない
課長すら黙認していた
「あれ?清宮さんは?」
「さっき帰りましたよ」
山田だけ気付いていたらしい
夕食の事も気になった一緒に行きたいと言い張る美咲と一緒に清宮のマンションに寄ったが
電気もついておらず人の気配はなかった
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる