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端末

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葵の本性は都会の片隅に巣食う野良猫と同じなのだ。どこまでも逞しくてタフでいざとなれば凶暴、なのに繊細で警戒心が強い。

散々暴れた後トイレに篭城した葵を誘い出すのは大変だった。
2時間くらいは問いかけても無言。
腹が減っただろうと差し入れを説得したら10センチくらいだけドアが開いた。

でも喜ぶだろうと思って差し入れたプリンは不味かった。一回閉まったドアがまた開いて投げ返されてしまったのだ。

事務所の片付けも出来ないままネゴシエイトをする事数時間。困り果てた末、椎名の提言でウォッカを混ぜたジュースでカタをつけた。

寝ている葵を連れ帰ったのは勿論2人で住むつもりの部屋だ。椎名に有無は言わせない。

余った部屋は、もし新入社員が入って来たらそこに住まわせればいいって事になった。

 
その後どうなったかって、暫くの間は思い悩んでムッツリしていた葵だったが、拗ねている暇は無くなった。拡散したSNSのおかげで新たな依頼が舞い込んで来たのだ。

隣の店から聞こえる騒音がうるさいけど、警察に相談しても規定のデシベルを越えてないから無理だって言われた。だから何とかしてくれって話だ。

つくづく「音」って難しい物だなって思う。
色も形も無いから身体的被害は外見から見えないし、一瞬で霧散するから証拠も残らない。
法に縛られる警察には出来る事が何も無いのだ。

しかし調査してみると、確かに我慢の限度は越えていると思った。

依頼者宅の立地は住宅街の外れにあり、隣の家は普通の民家だったのに、何の告知もなく突然飲み屋が開店したと言う。

ずっと煩いなら慣れもするがドアの開け閉めだけでも音量は変わり、音楽や酔った笑い声は高低差が激しい。
何よりも音は物理的な力もある。
大音量の音は振動を生み、酔った客が店の前で大声を出す。
もう既定のデシベルを測って違反かどうかを調べる事自体的外れなんだと思う。

その依頼を真っ当する為に毎日深夜に徘徊する事になった。

また変な依頼を受けてって椎名は渋い顔をしたけど、さすがにそれ以上は口出しして来なかった。
部屋を分けろとも言わない。
一緒に風呂に入ってベッドに倒れ込む日が続くうちに前の事務所と同じリズムが戻ってきた。

それからこれは結果報告だ。

ボヤ騒ぎになったホストクラブは結局従業員の過失で事は済んだ。
そして、その事件を機に、狙い通り「男性専用のホストクラブ」は口さがない報道バラエティ番組の注目を浴びた。マイノリティに寛容なこの時代でも、結局は保守的な社会に押され客足が遠のいていると言う。

ホストクラブが資金源の大半を占めていたらしい「ちょー嫌な奴」は椎名の店に嫌がらせをする暇など無くなったのだろう、その後は順調らしい。

そして、最後に付け足すと。

アドバイスのつもりで送った楓ちゃんのアカンウトからは出禁を食らい、「最低な奴が最低な書き込みをしてくる、迷惑~~」

…ってお言葉を貰った。
しかもアイコンは髪の色が変わっただけで、相変わらずの本人写真のままだ。

就職先の仕事場では上手くやれよ…って心からのエールを送るしか出来ないよな。

携帯を消してニンマリしていると眠い目を擦りながら葵が起きて来た。時計を見ると10時過ぎだ。椎名がいい焼肉屋を見つけたからお昼に食べに行こうと誘われていた。

「おはよう、葵、焼肉食えるか?
「食えるけど…今日の曲は?決まりました?」
「ああ、ボーンインザUSAとワニマかな」
「2曲も流す暇があるかな?」

「同時に流すけど?」

「強烈ですね」って笑う葵は元気だ。


法律では裁けない問題を解決します、の稚作は相変わらずで「うるさい」には「うるさい返し」だ。
音楽がうるさい飲み屋の2階に店主の住居があった為に、寝静まった頃を見計らってバイクに積んだスピーカーで爆音を立てて逃げる。

店の閉店は客が居なくなるまでってアバウトな為、毎日の待ち時間がまちまちなのが難である。

「早くしろよ、昼には椎名さんが来るぞ」
「うん、用意する、健二さんは?朝に何か食べた?」
「俺も起きたとこ、隣の部屋に行ってガメラにご飯を食べさせたらシャワー浴びよ?」

「じゃあ先に入ってる」

「シャンプー切れそうだから持ってきてね」って手を振る葵に手を振った。









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