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お疲れ様
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「椎名さんかっこいい」
ずっと黙って聞いていた葵が、驚いた様子もなくとても穏やかに、優しい声で言った。
椎名の言いたい事は分かるけど、納得出来ないでいると、椎名が「よく頑張った」と葵の頭に手を置いた。
するとちょっと泣きそうにも見える格別の笑顔を葵から引き出したのだ。
これで良かったのか?
葵は大変な目に合ったと思う。
大丈夫と、何でもないを繰り返りかえし、大粒の涙を溢す事でしか本心を言えなくらい追い詰められたのに……それでもそんな顔で笑うのか?
「俺……1000万……稼いだ?」
「ああ、ボーナスの代わりにご褒美をあげるから何がいいか考えておきなさい」
「何でも?」
「ああ、何でもいいぞ」
旅行はどうだい?
バリでケチャを観てホテルで悠々自適もいいな。
ゴッドファーザー聖地巡りにシチリア島散策とか……地中海と海鮮。
ああ、生しらす丼は食べに行こうね。
……何でもいいと言った割に全部自分込み。
現金を寄越せって言ってやれって思う。
旅行だ何だと椎名ははしゃいでいるが全てが解決した訳じゃないない。
暫くは警察と暴力団に怯えて暮らさなければならないし、「ちょー嫌な奴」の勢力が弱体化するかはこれからなのだ。
しかし、ずっとあやふやだった「法律では裁けない問題を解決します」の存在意義がわかったような気はした。
何だか煙に巻かれたような気もするけど、ずっと笑っていても張り詰めていた葵の体からは、のし掛かる憑き物が落ちたように柔らかくなっている。
顛末を話し終えた後はひたすら黙っている銀二には既に全体像が見えているのだと思う。
「かっこいいけど……」
何なのだろう、この敗北感。
実は血を分けた兄弟なのだと言われても今更としか思えないし、正直一抹の感慨もないし、競ってないし、フィールド自体が違うのだけれど、何も知らないで椎名の手の中で無邪気にコロコロと転がっていただけなんて妙に悔しい。
しかし、何も考えず、「椎名が好きでやってるんだからまあいいか」って甘えて来たのは事実だ。文句を言える筋合いなんて一欠片も無いのに、ついふて腐った口調になった。
「つまり……異父弟が頼りない甲斐性無しだから拾って面倒を見るついでに誰にでも出来る仕事をお情けでやらせてるって事だろ」
「それは違う」と椎名、銀二、何故か葵まで声を揃えた。
「何が違うんだよ、何も出来てないのは事実だろ」
「いいの、いいの」「のんびりでいい」「そのままでいい」……
そう言う椎名の大らかで、しかし断固とした(?)のんびりペースに飲み込まれていたのは事実だが、例えば何者にでも変身できる銀二にでも「法律では裁けない~」を率いて貰えばこんなにも大廻りしなくても椎名の目的はもうとっくに始動していた筈だ。
「俺じゃ無くてもいい、俺は駒でよかっただろ」
「違う、違うよ健二さん。それは違う。健二さんにしか出来ないから健二さんなんだよ」
「ね?椎名さん」と同意を求めた葵に、椎名は、いつもの作り込んだような笑みとは違う、本当に優しい顔で頷き、微笑んだ。
「何がどう違う」
「健二さんはね、眩しいんですよ」
「何それ?どうせまた馬鹿って言いたいんだろ、まあ馬鹿だけどな、今は否定できない」
「健二さんは馬鹿だけど周りを引き摺る馬鹿で、意味も無く信頼できる馬鹿で、人の真ん中で光ってる馬鹿なんです」
「馬鹿……多いな、それは貶してるのか?褒めてるのか?」
「だって馬鹿だもん、目を逸らそうと思っても気が付いたら見ちゃってる……そんな馬鹿なんです」
うんうんって深く頷く椎名と銀二、「わかるでしょ?」って説明を終えようとする葵。
何が言いたいのか、この先何をしろって言われてるのかさっぱりだ。
銀二に抱かれたままのガメラまで無機質な目に光を灯し、諭しているように見える。
「さっぱりわからん」
「健二は分からなくてもいい、ただな、この先の話になるけど、例えばまだ若くてやり直しが利く奴をH.M.Kに回したとしてもだな、元々グレてたり薄暗い事情を背負ってる場合が多いだろ?そこに「こんな問題を解決してくれ」って依頼を出すと、一足飛びにヤクザの秘儀を使おうとするに決まってる」
「早くていいんじゃないの?」
「楽しくなくちゃ、な?葵くん?」
「はい、全部が合法じゃ無いけど、困っても、馬鹿らしくても、殺されそうになっても俺は楽しかったですよ」
そこで「見ます?」って葵が出して来たのは、白いウィッグを被って乳首の透けたビスチェ、ガーターベルトにレースの柄ストッキングを履いてピースする写真だ。
葵の手元を覗いた椎名は嘲笑とも感嘆とも付かない壊れた悲鳴をあげて、脅しのネタにするから写真を寄越せと、エアドロップを試みている。
「葵てめえ」
そう来るならセーラー服を着た葵も出す。
段ボール箱やオフィス家具で出来た壁に囲まれたシングルベッドの上に男4人プラス、噛みつかれたら肉だけじゃなく骨ごと持っていく亀1匹。
暴れる事は叶わなかったが、キャビネットのガラスを割る程度の小競り合いをして酷く長く感じた1日が終わった。
ずっと黙って聞いていた葵が、驚いた様子もなくとても穏やかに、優しい声で言った。
椎名の言いたい事は分かるけど、納得出来ないでいると、椎名が「よく頑張った」と葵の頭に手を置いた。
するとちょっと泣きそうにも見える格別の笑顔を葵から引き出したのだ。
これで良かったのか?
葵は大変な目に合ったと思う。
大丈夫と、何でもないを繰り返りかえし、大粒の涙を溢す事でしか本心を言えなくらい追い詰められたのに……それでもそんな顔で笑うのか?
「俺……1000万……稼いだ?」
「ああ、ボーナスの代わりにご褒美をあげるから何がいいか考えておきなさい」
「何でも?」
「ああ、何でもいいぞ」
旅行はどうだい?
バリでケチャを観てホテルで悠々自適もいいな。
ゴッドファーザー聖地巡りにシチリア島散策とか……地中海と海鮮。
ああ、生しらす丼は食べに行こうね。
……何でもいいと言った割に全部自分込み。
現金を寄越せって言ってやれって思う。
旅行だ何だと椎名ははしゃいでいるが全てが解決した訳じゃないない。
暫くは警察と暴力団に怯えて暮らさなければならないし、「ちょー嫌な奴」の勢力が弱体化するかはこれからなのだ。
しかし、ずっとあやふやだった「法律では裁けない問題を解決します」の存在意義がわかったような気はした。
何だか煙に巻かれたような気もするけど、ずっと笑っていても張り詰めていた葵の体からは、のし掛かる憑き物が落ちたように柔らかくなっている。
顛末を話し終えた後はひたすら黙っている銀二には既に全体像が見えているのだと思う。
「かっこいいけど……」
何なのだろう、この敗北感。
実は血を分けた兄弟なのだと言われても今更としか思えないし、正直一抹の感慨もないし、競ってないし、フィールド自体が違うのだけれど、何も知らないで椎名の手の中で無邪気にコロコロと転がっていただけなんて妙に悔しい。
しかし、何も考えず、「椎名が好きでやってるんだからまあいいか」って甘えて来たのは事実だ。文句を言える筋合いなんて一欠片も無いのに、ついふて腐った口調になった。
「つまり……異父弟が頼りない甲斐性無しだから拾って面倒を見るついでに誰にでも出来る仕事をお情けでやらせてるって事だろ」
「それは違う」と椎名、銀二、何故か葵まで声を揃えた。
「何が違うんだよ、何も出来てないのは事実だろ」
「いいの、いいの」「のんびりでいい」「そのままでいい」……
そう言う椎名の大らかで、しかし断固とした(?)のんびりペースに飲み込まれていたのは事実だが、例えば何者にでも変身できる銀二にでも「法律では裁けない~」を率いて貰えばこんなにも大廻りしなくても椎名の目的はもうとっくに始動していた筈だ。
「俺じゃ無くてもいい、俺は駒でよかっただろ」
「違う、違うよ健二さん。それは違う。健二さんにしか出来ないから健二さんなんだよ」
「ね?椎名さん」と同意を求めた葵に、椎名は、いつもの作り込んだような笑みとは違う、本当に優しい顔で頷き、微笑んだ。
「何がどう違う」
「健二さんはね、眩しいんですよ」
「何それ?どうせまた馬鹿って言いたいんだろ、まあ馬鹿だけどな、今は否定できない」
「健二さんは馬鹿だけど周りを引き摺る馬鹿で、意味も無く信頼できる馬鹿で、人の真ん中で光ってる馬鹿なんです」
「馬鹿……多いな、それは貶してるのか?褒めてるのか?」
「だって馬鹿だもん、目を逸らそうと思っても気が付いたら見ちゃってる……そんな馬鹿なんです」
うんうんって深く頷く椎名と銀二、「わかるでしょ?」って説明を終えようとする葵。
何が言いたいのか、この先何をしろって言われてるのかさっぱりだ。
銀二に抱かれたままのガメラまで無機質な目に光を灯し、諭しているように見える。
「さっぱりわからん」
「健二は分からなくてもいい、ただな、この先の話になるけど、例えばまだ若くてやり直しが利く奴をH.M.Kに回したとしてもだな、元々グレてたり薄暗い事情を背負ってる場合が多いだろ?そこに「こんな問題を解決してくれ」って依頼を出すと、一足飛びにヤクザの秘儀を使おうとするに決まってる」
「早くていいんじゃないの?」
「楽しくなくちゃ、な?葵くん?」
「はい、全部が合法じゃ無いけど、困っても、馬鹿らしくても、殺されそうになっても俺は楽しかったですよ」
そこで「見ます?」って葵が出して来たのは、白いウィッグを被って乳首の透けたビスチェ、ガーターベルトにレースの柄ストッキングを履いてピースする写真だ。
葵の手元を覗いた椎名は嘲笑とも感嘆とも付かない壊れた悲鳴をあげて、脅しのネタにするから写真を寄越せと、エアドロップを試みている。
「葵てめえ」
そう来るならセーラー服を着た葵も出す。
段ボール箱やオフィス家具で出来た壁に囲まれたシングルベッドの上に男4人プラス、噛みつかれたら肉だけじゃなく骨ごと持っていく亀1匹。
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