上 下
57 / 77

ぷっ

しおりを挟む
人が何故セックスを追い求めるのか……時にはお金を払い、時には罪を犯してまで性に拘るのかわからなかった。

多少の快感があるのは認めるが、総じて不気味で、不衛生で、欲望丸出しでみっともない。
ギラギラと猛り、息を荒げる程興奮する姿には知性の欠片も無いのだ。そしてそんな行為に反応してしまう自分自身も浅ましく思えて惨めな気持ちしか残らない。

女を連れ込む父も、男と逃げたらしい見知らぬ母もセックスに溺れる大人の1人だ。

それは健二だって同じ……だとは思う。

健二の事が好きかと聞かれたら好きとしか答えられないが好きの種類を聞かれても困るのだ。

好きには大中小とかあるのか?
あるなら定義を教えて欲しい、そしたら答える。

好きは好きだ。
それ以上も無ければそれ以下も無い。
H.M.Kの事務所で暮らすのは楽しいから好き。
椎名も銀二も、ついでに桃地も何を考えてるかわからないけど好きは好き。
ガメラは好きも嫌いもない。
そして楓ちゃんはどちらかに分ければ……実は好きじゃない。

セックスは気持ち悪いから嫌い。

こうなるってわかってて健二を陥れたのはわざとだ。何と言っても健二は単純で馬鹿だからね。

1人だけ汚泥の中にいるのはつらいのだ。
だから同じ場所まで落ちて来て欲しかった。

健二がいれば発光するが如く清々しい馬鹿さで暗く薄汚い汚泥の中を明るく照らしてくれる。
どこにも出口は無いのに掘り起こしてでも、壁を破壊してでも見つけてくれる。

少し見上げる背中はムカつくけど安心する。
ヒラヒラしているシャツの裾を離したく無い。

狡いと言いたければ言え。

嫌いでも何でも嬲《なぶ》れるのは慣れてんだよ。

セックスなんて行為自体は何でもないけど……暫く我慢すればいいだけなのだが、ほぼ肉の無い筋と「筋肉」をそんな風に舐めて旨いのか聞きたい……

乳首を舐められるのはモゾ痒くて腹の底にモヤモヤが溜まるからやめて欲しい。
散々舐めた後、直接的に下に向かうかと思った唇がヌリヌリヌラヌラ這い上がって来て、耳を包まれると変な声が出た。

「ひぇぇ……」

「気持ちいい?」

だから!
どいつもこいつも何故それを聞く。
良いわけない!
髪を掴み、頭を枕に押し付けられ、窒息する心配をしながら突っ込まれて「気持ちいいか?」。
組体操の手足車かって体勢で腰と足を持ち上げられ中途半端にしか付けない腕だけで体重を支える。その上で手加減無く腰を打ち付けて「気持ちいいか?」

馬鹿じゃないの?


「あ……噛むなよ」

耳朶に歯が立ってピリっと頭に響く刺激。
「痛くないって言っただろ?」って……
言ったけど、痛くないけどモヤモヤが溜まって腹の底が怠い。
耳の中に入ってる舌がグチュグチュと音を立てて脳味噌を舐めてんのか?って聞きたいけど口がきけない。

もう早く終わらせて欲しいのに目瞼に、頬に、唇に泣きたくなるような優しいキスが落ちてくる。

そして嫌な事を言う。

「葵……勃ってる…」

カァーッと頭に血が昇る。
知らぬ間にエレクトするのは浅ましさを暴露するようで恥ずかしいのだ。
健二の手が細いパンツのボタンをプツンと弾くと押し込められていたそれが図々しくも前に飛び出す。
健二はちょっと笑ってから体を起こして服を脱いだ。
見られたく無い。
健二が見下ろしている俺はどれほど醜悪な姿をしているのだろうと思うと堪らない。

「葵…そんな顔をしなくていい、恥ずかしい事じゃないんだよ?」

「お………俺だって男だから…」

「………気持ちいいからだろ?」
「だからそれを……」

聞くな。
そして質問しといて口を塞ぐな。

熱くて、肉厚で、見た目からは想像も出来ないくらい繊細に動く健二の舌で口の中が満杯になる。
どこまで入って来る気なのか喉をコソコソ擦られて唸り声が出る。
苦しいけど、深いキスは嫌いだけど……ツルリと出て行ってしまうと物寂しくて窒息寸前の魚みたいにパクパク空気を食んでしまう。

「もっと?……」
「散々です」

苦しいから嫌だけど、健二がやりたいならやればいい。パクッと口を開けるとグウッと体重が掛かってきた。
健二の体温が肌を通して伝わってくる。
密着した腕から、胸から、腹から、口から、熱を生む鼓動が伝わってくる、熱を分けてくる。

前々から思ってたけど健二は普通の人より体温が高いと思う。平熱42度、血の量1.5倍、手足を切り取っても2週間で生えてくる。

絶対。

健二が作る不滅の熱が欲しい。
多分俺の平熱は18度くらいなのだと思う。
血が凍っているように冷たいからいつも寒いような気がするのだ。
手と足を巻き付けるのは寒いからだ。

口が暖かい、体が暖かい、このまま眠れたら幸せなのに、チュッと舌を引かれて逃げていく質量がやっぱり寂しい。
お腹が空いてるんだなぁ…なんて思う。

「暑い?…」
「ううん…寒いから……」

「何?」

「……何でもない」

寒いはいいけど、思わず離すなって言いそうになって慌てて口を閉じた。
健二には何をしてもいいけど何を言ってもいいって訳じゃない、曲解されてまた変な事を言い出すに決まってる。

ほら、今だって絶対何か都合のいい勘違いをしてる。フッと嬉しそうに笑って鼻と鼻を合わせて額を拭う。

え?ペシャって……汗なんかかいてないよ?
寒いから抱きついてるだけだからね。

うん、でも頬は熱い。
それは腹の底のモヤモヤが肥大しているせいだと思う。ピッタリと密着した下腹でお互いがコリコリとせめぎ合って息が詰まるのだ。


健二は逸《はや》ってない。

知っている金持ち共は自分の下半身にしか興味が無かったのだ。
それなのに勃ってないと文句を言う、無理矢理勃たせて無理矢理吐精される恥辱は忘れる事が出来ない。

ホカホカと生暖かい今がずっと続けばいいなんて願ってしまう前に早く終わって欲しい。

さっさと突っ込んで、腰振って、一人で終わればいいのに、その方が楽なのに、優しく包まれて熱が溜まって溢れそうだ。

寝かし付ける気なのかって柔らかさで脇腹を這う手。少しずつ下がって行くのはいいけどもどかしくて体が揺れる。変な声が出そうになって唇を噛む。すると「もっと声を出していいから」って……

うっかりすると健二に全部持っていかれる。
ずっと閉じていたい腐りかけの蓋をこじ開けて来るのだ。

じゃあ馬鹿って言ってもいいかな?

本当は……
本当はもうmen'sアナハイムには行きたくないって言ってもいい?

言わないけどね。

ごちゃごちゃと文句を考えているとズボンが脱がされて行く。

「ボウボウ」だったのにすっかりツルツルに毛を剃られてしまった足は物が触れた時の感触が変なのだ。何せ「ボウボウ」だったからね。

片手の親指がクリクリと胸を捏ねる。
ツーッと胸をひっかく爪が腹の窪みを通り下着からはみ出したそれに触れる。


何だか息苦しいのは呼吸が浅く早いからだ。
クネクネと動く健二の手に嬲られてもう我慢出来ないのに、鼻先にある健二に顔を見られてる。

「健二さん……見ないで」
「俺も同じだから、勃つのも、イクのも、気持ちいいのも同じだからもっと委ねて、大丈夫だから……ほら、いつもみたいに悪態つけよ」

「悪態なんて……ついた事ない」

道具扱いの方が楽なのに、仕事だって言われた方が整理が付くのに、馬鹿な事ばっかりしたり言ったり椎名にバレたりしたからどう受け取っていいか分からなくなってる。

「大丈夫」って何が?
言っても伝わらないしもう間に合わないから抱きついて、引き寄せてチューをすると、健二の手に翻弄されていたそこが弾けてビクビクと体が震えた。

「ふが……あ………あ…ぅ」

「………葵………どうせならもっと色っぽい声を出せよ」

「ふが!」

殺意が湧く。
抱き付いたせいで健二の耳元で声が出たのだ。
恥ずかしくて、健二を亡き者にしたくて踵を振り上げるとハシッとつかまれて、顔の横まで片足が持ち上がった。

「ちょっ…ちょっと、健二さん…この……格好やだ」

「やだってもやだ、葵の顔が見たいから今日は前からする」
「顔は関係ないだろ、勝手にやりたい事をすりゃいい」
「勝手に……はない、葵が少しでも嫌な顔をすればやめる」

嫌とか嫌じゃないとか何も無いけど嫌な顔ってどんな顔だ。
こんな顔でいいのか?

眉を寄せて頬を膨らませてみる。
すると健二の指に頬を突かれて「ぷっ」と恥ずかしい音が出た。

「っっ!!……健二さんの……馬鹿っ!!」

破裂したように笑い出した健二に、思いっきり足を振り下ろしてやったがあっさり避けられてまだ笑ってる。

男二人、二人とも素っ裸で何をやってるのかと思うけど、続きは無かった。

「嫌」とは言ってないのに、いいのに、健二はあっさりと途中でやめたのだ。

どうしても、これから先も、相手が誰でも「隠」なイメージが付き纏うセックスは健二とやると何故こうもあっけらかんと明るくなるのか不思議で不思議で………お腹が空いた。

もう深夜だったけど服を着て、コートを着てマフラーでグルグル巻きになって外に出た。

「焼き芋屋……いないかな」
「ああ、いたら3キロ先でも走って買って来てやるけどな、いないみたいだな」
「3キロ先にならいるかもしれませんよ」
「取り敢えずはラーメンにしないか?」

「餃子付き」

「よっしゃ」って笑う健二はmen'sアナハイムの「葵」じゃ無くてもこうして笑ってくれる。

コートは新しく買った物じゃ無くて健二のお古を選んで着て来た。

だって外は寒いし大きい方が暖かいからね。































しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

キミを救いたかっただけなのに

眠りん
BL
 二年前にイジメが原因で彼女が自殺をしてから、生きる希望をなくしていた朝宮つばさは、大学生になってから二年先輩の有村和泉と出会う。  和泉は同居している従兄からイジメを受けており、彼からの命令で、つばさにピアスがついている乳首を見せてきたのだ。  今は明るいが、いずれ死んだ彼女のように暗くなり、自殺を考えてしまうかもしれないと思ったつばさは、次こそは和泉を守ろうと決心した。  だが、和泉はイジメから逃れようとは思っていないようで──? ※十話程度の短編です 表紙:右京梓様

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

鳴かない杜鵑-ホトトギス-(鳴かない杜鵑 episode1)

五嶋樒榴
BL
※こちらは全てフィクションです。実際の事件、人物や団体等を特定してはおりません。犯罪を助長するものでもありません。事実に反する記述もありますが、創作上の演出とご理解ください。 性的表現は思わせぶりには伏せていますが、かなり過激に書いています。暴力的な場面も多々あるので、そう言ったものが苦手な方は読まないでください。 主人公、御笠グループCEOの御笠泉水、36歳。 美しい容姿に、財力も地位も名誉も全て兼ね備えていているが、ただ一つ手に入らないのは愛する美しい男、咲花流星だけ。 そんな泉水の前に現れたのは、モデルの美青年、ワタル。 ワタルに魅了されながらも流星への思いを胸に秘める。 そしてもう1人の主人公、六代目政龍組傘下誠竜会若頭飯塚真幸、37歳。 艶のある魅力的な美貌を持つが、その美しい容姿の奥底には、静かなる凶暴性を秘めている。 立場的に結ばれないと諦めながらも1人の男を一途に想い続ける。 泉水と真幸。決して相見えぬ光と影のふたり。 しかしある事件をきっかけに、様々な男達の関係はさらに複雑になっていく。 運命の相手を求めながらも、いつか壊れてしまうかもしれないと思うジレンマ。 そんな危うい恋の駆け引きは終わらない。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

とろけてなくなる

瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。 連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。 雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。  無骨なヤクザ×ドライな少年。  歳の差。

処理中です...