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モモッチ講座

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椎名が出て行った途端に部屋の隅に立っていた桃地がふぃ~っと長い深呼吸をした。

「いたの?」って聞きたくなるくらい存在感が無かった。

「モモッチは椎名さんが怖いんですか?」

葵が「モモッチ」に小さく突っ込んだが、桃地は気にしたりはしなかった。
それよりも「椎名さんにタメ口のお前が怖い」と拳のヨシヨシかグリグリかわからないものが頭に落ちた。

「そんな気を張らなくてもあいつは基本ふざけてるだけでしょう?あいつはタメ口なんか気にして無いと思いますよ」
「何を言ってるんですか、椎名さんはシビアですよ、俺がまだ部屋住みの頃からもう既に結構な上納金を納めてましたからね」

「部屋住み?部屋住みって何ですか?」
「まあ、簡単に言えば食えない下っ端組員の雑居房です。そこから歳を食ってるし見た目がこんなな箸にも棒にもならない私を拾い上げて、自分の経営する店とか会社に正社員として構成員を雇い入れてくれたんです、勿論給料とか社会保険もあるけど、その代わりに厳しいですよ」

「厳しい……かな…」

椎名に拾われたのは俺も葵も同じなのなのだが寧ろゆるゆるだと思う。

「健二さん達は特別なんですよ、なんせこっちは元々真面目に働く事が出来ない奴の集まりなんです、ある程度は厳しくしないと崩壊するでしょう」


桃地の話す指定暴力団と言われる組織は不思議な世界だった。

組員には給料など無い。
それぞれが個人商店を営んでいるような物で、それぞれのシノギで収入を得てその一部を上納する。上納金が多い程地位は高くなるって究極の能力主義と資本主義がヤクザの組織を支えている。

稼ぐ構成員を多く抱えれば上納金が増えて、上に行けば行く程何もしなくてもお金が入る仕組みなのだが、下の者は食べる事もままならない。
特に世間の締め付けが激しい近年は昔ながらの集金方法ではやっていけないのだ。

暴力団に属していると「構成員」だと申告しなければ賃貸の契約も出来ない。口座の開設も出来ない。椎名の事業だって一部はオーナーの地位を信頼出来る一般人に委託しているらしい。

前に葵も同じ事を言ってたけど……
それなら何故暴力団に組みする必要があるのか。椎名に限らず全員、桃地だって見た目は怖いけど中身は普通のおっさんだ。

どうして組員になどなったかを桃地に聞いてみると、答えは「気が付いたらどこにも居場所が無かった」だった。
銀二と同じ、葵と同じ、そしてそれは自分自身にも当てはまる。

100才ぐらいに感じるのは置いといて椎名はまだ28才なのだ。それなのに随分と羽振りが良さそうと言うか、組員を自在に使い回して偉そうと言うか、組の中で幅をきかせているんだなって、何となくだけど思っていた。

「椎名さん……頑張ってるんですね」

葵がしみじみと感心したように頷くと「まだ若いのに」と桃地もしみじみと頷いた。

因みにだが今は味噌汁を飲んでいる。
銀二がそっと持たせてくれたのだ。
しかし「味噌汁が飲みたい」と言ったのでは無い。
飲み屋の熟女(50くらい?)が「流行り」のプロポーズだと教えてくれたのだ。
銀二はちょっと変わってるから知らないのだと思う。美味しいです、と目で感謝を伝えると物凄く珍しい本物の笑顔が返ってきた。

「今時はもう既にセクハラですよ」

「は?…何が?」

「いえいえ」って何何。

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