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一世一代の〜

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「どうした……これ」

ローテーブルのガラスの天板が割れていた。
「どうした」と聞いたのは勿論椎名だ。


「ガメラが暴れました」
「小さいおじさんの仕業だと思います」

葵との答えがズレた。

まあ、どんな言い訳を並べようとも通用しないのは仕方がないと思う。昨夜椎名が事務所を出たのは1時を過ぎていた、つまりその後は事務所の中には二人しかいないのだ。

甘い甘い蜜の夜が明けて朝になると葵はいつもの葵に戻っていた。男らしくありたいあまり突飛な行動に出る葵だ。
イチャイチャしたいのに応じてくれない。
でも抑えれないから追い回して付け回して抱き付いて……その果てにつきとばされた。

テーブルの上に背中から落ちたらガラスの天板が割れたのだ。

しかし割れたと言っても幸いな事にヒビが入っただけで使用不可とまでは行ってない。
新聞とかタオルとかメモとかを散らかして隠していたのだが、整理整頓が大好きな椎名にはあっという間に見つかった。

「使えるからいいだろ」
「いいけど」
「いいんだ……」

いいならいいけど座れと言われて、ソファに座ったら「床だ」って言われた。勿論葵もだ。

葵が泣いた夜から椎名は叱る時は二人共平等に叱るようにしているらしい。
そのおまけと言うのだろうか、椎名は葵に甘いから殴られる事は無くなった。

「俺は使える使えないの話はしてない、何をしたって聞いてる」

「ちょっと暴れただけだ」
「暴れてもいいけど加減をしろ」

「はい」

「二人共大人だろ」

「はい」

「ここは客も来る事務所だ、真面目にやれ」

「はい」

「それから葵くんの首に付いてるキスマークは何だ、昨日は無かったぞ」

「はい……えっっ?!」

ユラ~ッと立ち上がった椎名の顔はまるで能面のようで笑っているのか怒っているのかわからない。しかし危険水域である事は間違いない。
椎名は全ての経緯を知ってるし、昨夜がどんな1日だったかも知っているのだ。
葵は瞬時に首を押さえて丸まってる。
殴られる覚悟をして目を閉じると、ギューッと頬が伸びた。

勿論だけど可愛くじゃない、千切れるくらい抓られてる。殴らないのは葵も同罪だからだと思う。

「葵くんは隔離する、勿論いいよな?」

「ひゃい…れも…」
「でももストも座り込みも無い、お前に状況が読めないなら仕方がないだろ」

確かに……葵が帰って来たその日なんて節操の無い只のがっつきに見えるかもしれないが、昨日の夜は体の問題より心の問題の方が大きかった。

硬かった呪いの一部が氷解したような気がするのだ。

椎名が怒っているのは半分は葵を想っての事だと思うけど、半分は仲間外れにされた嫉妬なのだと思う。

しかし変な突っ込みとか下手の言い訳をすれば椎名が物凄く意地悪な捻くれ者になる可能性もある。では何と伝えればいいか。

葵が誘ったからなんて言い訳は出来ないし、したく無い。
お互いを求める心が満ちて溢れて絡み合い自然と手が伸びてその末に愛を愛が愛でって……

長い長い。

迷ってる間にも豪華なマンションがどうとか一階はお洒落なカフェとケーキ屋だとか微妙な餌を混ぜて具体的な地名も出して葵を攻めてる。
椎名は結構本気だ。

そもそも言い訳って思う所が変なのだが、何故と聞かれれば「今だと思った」とか「触ったら溶けたから」とかあやふやな感覚論しか出てこない。
好きって気持ちの話じゃ無いことはわかってる。

この際だから、取り敢えずこの場は葵を連れて逃げてやろうかなって思っていると「待って」と暴走する椎名を葵が止めた。

「椎名さん……俺はここがいいです」

「葵………」

もう抱き付きたい。
もう好き。

「健二に脅されてるの?」
「………暖かいから……ここがいい……です」

こら葵。
脅されてないってまず否定しろ。
それに、人に突っ込みを入れる時には必要以上にハキハキする癖に、自分の気持ちを聞くと叱られる事に怯えるように弱々しくなるのは何でだ。

ここにいたいって言ってくれのは嬉しいけど、椎名の顔が益々深刻になってる。

まんま……葵の顔が脅されてる人に見えたのはここにいる全員だと思う。

椎名がいるせいでやけに大人しいけど、桃地と銀二もいるのだ。このままではスケベ根性丸出しで弱みに付け込む非道な悪役になってしまう。

「ごごごご合意です。証明します。本気です」

思わず敬語。

椎名が何か言う前に立って走って奥の部屋に飛び込んだ。
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