そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

文字の大きさ
上 下
34 / 52

34.主人公

しおりを挟む


「——久しぶりだな、剛田」
「あん?テメェ......兵動ひょうどう!」
「覚えていてくれて嬉しいぜ。まだそんなことやってるとはな」
「うるせえ!ついでにテメェもぶっ潰しやる」
「なんの冗談だ?忘れたなら思い出させてやるよ。——お前が1度も勝てなかった相手だってことをなぁ!」

 開始のゴングが鳴ってしまった。誰だよ、勝手に鳴らしてんの。状況がコロコロ変わりすぎて頭が付いていかない。

「神谷ぁ。お前は俺がぶっつぶしやっからよぉ。覚悟しろや!」

 釜田......こいつのせいで俺は......。またこいつに壊されるのか......。頭では考えられても体が動かなければどうしようもない。

「——それは無理だな」

 さらに現れたのはチャラ男——兵動といつも一緒にいる眼鏡。お前ら順番に出てこないと気が済まないの?なんでタイミング見計らって出てくるんだよ。

「誰だ!テメェは!」
「そっちで剛田とやり合っている兵動の親友にして、相棒さ」
「そうか、テメェが静浦しずうらか。まさか静動コンビがこんなとこにいるとはな......。だがいくらお前でもこの人数を相手出来るのか?」
「んー、やってみなきゃ分からないかなぁ」
「強気じゃねぇか。お前ら!やっちまえ!」

 何、静動コンビって。そんな有名人なの?
 いつの間にかバイクを降りていた集団が群がってくる。普通に怖い。逃げようにも両脇と背後を固められているので動けない。
 しかし目を瞑りたくなるような光景は起こらず、眼鏡ーー静浦は冷静に攻撃を避けて1人1人投げ飛ばしていく。なんだあいつ。ただのガリ勉じゃなかったのか。しかも必要最低限の力だけ使って手加減までしている。
 逆に兵動は情熱的に動き回っている。なのに1発も食らっている様子は無い。本当に何者なんだこいつら。
 なんて油断して観察していると、俺の前に再び釜田が立ち塞がる。まずいな。殴られるのも嫌だけど、凶器を隠し持っていたら大変なことになる。逃げようにもこの状況だし、ほか2人はともかくあかりは逃げきれないだろう。


「ーー私の大事な生徒に......なにしてやがんだゴルァァァァァアアア」

 覚悟を決めるべきかと思っているところに突然何かが飛んできて釜田が吹っ飛んでいった。......え?
 釜田がいた場所に代わりに立っていたのは、我がクラスの担任教師。見間違いでなければ、飛び蹴りかましてたよね?吹っ飛ぶとかどんだけ助走つけて来たの?

「ってぇ......。いきなりなにすんだこのババァ!」

 ーープツン。
 あ、あいつ終わったな。ご愁傷さま。
 釜田が目の前から消えたのと、状況が変わりすぎて混乱していた頭が1周して少し冷静になった気がする。ついさっきまで震えていたのが嘘みたいだ。
 ......っていうか今までまじまじと見たこと無かったけど、尻もちをついている釜田をあらためて見ると......口先ばかりでなんか弱そうに見える。帰宅部次期主将と噂の俺より貧弱そうなんだが?俺、あんなのにビビってたのかよ。

「......竹田、如月。あいつらの写真撮っといてくれるか?もし逃げても特定出来るように」
「はーい!」
「うん、分かった」

 こいつらならスマホの扱いなどお手の物だろう。俺はゆっくり歩いて釜田に近づいていく。先生はそんな俺を見て、静浦のほうへと向かっていった。いや、なんかめちゃくちゃいい笑顔していらっしゃるんですが?こわっ。

「で?俺をどうするって?」

 恐怖はもう無い。代わりにあるのは怒り。小さく灯った怒りの火が恐怖を侵食して大きくなっていく。俺だけじゃなくて関係ないあいつらまで巻き込みやがって。
 釜田は無表情で近づく俺を見て、周りを見るが誰も助けに来ないと分かると後ずさりした。襲撃した側が一方的に蹂躙されているしこいつのことなんか気にかけている余裕はないだろう。震える釜田の胸倉をつかんで、ポケットから取り出した鋭利な物を喉元に突き付ける。

「......過去にもう興味はねえ。だけど、これ以上俺の周りをウロチョロするようなら容赦しねえぞ」

 さらに喉に食い込ませると、釜田の震えが大きくなった。ってうわ......こいつ漏らしやがった。汚ねえな。靴が汚れないようにサッと離れる。
 なるほど。ハッタリでも案外効くもんだな。俺が持っていたのはプラスチックの破片。授業中に下敷きで自分を扇いでいたら、持っている部分がたまたまパキッと割れてしまったのだ。中学の時から使っているから壊れるのは仕方ないが捨てないでおいて良かった。これをナイフか何かと勘違いでもしたのかな。学校にそんなもの持ってくるわけないだろうに。

 やがて事態が収まると教師がゾロゾロと出てきた。今更かよ。各教室の窓や玄関には生徒たちが張り付いて見てるし。

「センパイ、カッコよかったです~!」
「動画もちゃんと撮っておいたわよ」

 あ、写真じゃなくて動画撮ったの?まぁ1人1人写真撮るの面倒臭いしな。釜田ドンマイ。さ、これで一件落着だしさっさと帰るかー!

 と思ったけど、当然許されるはずもなく全員職員室の応接スペースに放り込まれた。

「あー、みんなありがとう。おかげで助かった」

 全員に対して頭を下げる。こいつらがいなかったら、俺は怯えたままでどうなっていたか分からない。
 あの頃、俯くのをやめて周りの人間関係は見えるようになっても、個人の顔をまじまじと見ることはなかった。だから動物園の帰りも今日も釜田や元同級生がいるという事実だけで恐怖が芽生えてしまったのだろう。

「おう、神谷から礼を言われる日が来るとはな!ま、気にすんな。友達ダチを助けるのに理由なんざいらねえよ」
「そういうことだ。まぁ俺たちにも因縁のある相手だったしな」

 静動コンビが口々に答える。友達か。ずっと1人だった俺をそう呼んでくれるのは少しくすぐったかった。
 まさか俺の予想をいい方向に裏切ってくれるとは思わなかったけど。ただの良い奴っていうか、もはや主人公だろ。

「にしてもお前ら何もんだ?あの人数相手にまともに喰らわず、かつ手加減して制するなんておかしくね?」
「ああ、俺たち中学の頃はちょっとヤンチャしててな。あの剛田たちにしょっちゅう絡まれては返り討ちにしてたんだ」
「そうそう。こいつ正義感はあるんだけどつい手が出ちゃうからな。だから力任せ以外の方法でトラブルを解決した神谷に惚れ込んじまったのよ」
「バッ、それ言うなよ!」

 ヤンチャって言葉で済むようなレベルじゃない気がするけど。

「まぁみんな無事で良かった。あっちは色々と問題になるだろうけど、私たちはあくまで正当防衛だし事情を聞かれるだけで済むだろ」

 いや、涼しい顔で言ってるけど、1番暴れてたの先生だからな?おそらく最初の釜田へのドロップキックが1番威力あったんじゃないかと思う。まぁこれだけの乱闘で血が1滴も流れていないのはさすがと言わざるを得ない。どんだけ技量差あんだよ。



「つーかあれが尾名中の釜田か。そうと知ってりゃ玉くらい蹴り潰してやったのに」


 先生怖いっす。余計な事言わなくて命拾いしたな、釜田。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

放課後はネットで待ち合わせ

星名柚花
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】 高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。 何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。 翌日、萌はルビーと出会う。 女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。 彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。 初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...