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11.ともだち
しおりを挟む——ピンポーン。
土曜日の午前9時過ぎ、我が家のインターフォンが鳴る。訪れたのは隣人の東雲さん。
昨日の夕飯時に、予定があるかと聞かれ、何をしようか悩んでいたので特にないと告げると、ウチに来たいと言い出したのだ。やはり危機感に欠けてるなぁと思いつつ理由を聞くと、前に来た時にやったゲームをまた一緒にやりたいと言う。
正直意外だった。先日の果恋の1件があって、やっぱり東雲さんとは関わらないほうがいいと悩んでいたところだったからだ。
あのあと土下座する勢いで謝罪した。東雲さんは「西成さんのせいじゃないから気にしないでください」と言っていたがそういうわけにもいかない。俺が中途半端にして逃げていたせいでああなったんだから。
まあ関係を断つにしろ、話はしなければならない。と思って部屋に迎え入れる。しかし東雲さんはテレビが見える位置に陣取って早くもやる気満々だ。そういえば前回はスマシスしかやらなかったしな。本当にゲームが好きなんだなぁ。
飲み物を用意して、早速何をやるか相談ーーというかまあその選択は東雲さんに任せる。俺はいつでも出来るわけだしな。並べたソフトを前に少し悩んだ東雲さんが選んだのは、落ちもの系のパズルゲーム。
正直これ割と苦手なんだよな。最初のうちはいいのだが、だんだんと落ちてくるスピードが上がっていくと脳内の処理が追い付かずにテンパって変な所に落ちてしまい、どんどんと積み上がって気づいたらゲームオーバーになっているのだ。だがしかしこれはチャンスでもある。これを選んだということは東雲さんは得意なのだろう。ならばじっくりそのプレイを見せてもらって技術を盗んでやるぜ!——そう思っていた時期が私にもありました。
いやこんなん真似出来ねえわ!え、凸って回転させるとその隙間にねじ込めるの?うわ、コンボえぐい。
俺はなるべく隙間を作らないように積んでけど、それよりもコンボ優先した方がいいのか。勉強にはなるが、実際にその技術を真似出来るかというのは別の話である。まずは焦って変なところに置かないようにするところから始めなければ。
その後もテニスやゴルフをやったがやはり東雲さんは上手かった。なんというか勘がいいんだよな。ピンポイントにいい場所に球を運んで優位に立つ。俺にはとても真似できない芸当だ。
そろそろお腹すいてきたな......と思っていると東雲さんが口を開いた。
「あ、もうこんな時間なんですね。あの、少しキッチンを借りてもいいですか?」
「あ、はい。もちろん構いませんけど」
まさかお昼作ってくれるの!?午前中から来ると言っていたから期待していなかったと言えば嘘になるが、お昼から東雲さんのご飯が食べられると思うとテンションが上がってしまう。
さすがに自分の家だし手伝おうかと思ったが、準備はしてあるから大丈夫だと断られてしまった。東雲さんはキッチンで何かした後、持参してきた鞄からお弁当箱を取り出した。
——ん?お弁当箱......お弁当!?ビックリした。そして再びキッチンへ行き、お椀を持って戻ってきた。テーブルに置かれたお椀を見ると、中身は味噌汁だった。なるほど、これを温めるのにキッチンを使ったのか。
それにしても家にいながら手作りのお弁当を食べれるとは思わなかった。おうちピクニックってところか。
気になるお弁当の中身は、から揚げに卵焼き、煮物におひたし。最高かよ。味噌汁も安定の美味しさ。東雲さんの味噌汁は本当に安心するなぁ。お弁当のほうも、めちゃくちゃ美味しかった。上手い人の料理って冷めてもこんなに美味しいんだなぁと感心してしまったほどだ。
午後のゲームに選ばれたのはゴリオパーティだった。赤い帽子をかぶったゴリラのゴリオ。その仲間やライバルたちがスゴロクをするとみせかけてサイコロを投げつけ合うドッカンバトルだ。
「東雲さんどのゲームやってもめちゃくちゃうまいですね」
「......私、小さいころすごく人見知りで引っ込み思案で、友達もほとんどいなかったんです。だからおうちでずっとハチハチばっかりやってたんです」
たしかに東雲さんはおとなしそうなイメージはあるけれど、実際に接してみるとそんな感じはしない。
「今でも学校の人達はあまり話題にもついていけないし、遊べるようなお友達もそんなにいないんです。......だから、こうして一緒にゲーム出来てとても楽しいです」
東雲さんはそう言って微笑んだ。そういうことか。だからこんなに上手いし、今日も誘ってくれたんだ。
今どきのゲームと違ってオンライン機能なんてものは無いし、そもそもハチハチを持っている人すら同年代にはいないだろう。
「まあ、俺も似たようなものですね。大学の時もたまに飲み会に誘われたりはしましたけど、遊ぶような友達っていうのはなかなか......。俺自身、テレビもあまり見ないし流行にも疎くて。だから東雲さんと出会えて本当に良かったって思います」
東雲さんが自分のことを話してくれたおかげで、俺も素直な気持ちが口から出た。なかなかいない、同じ趣味を持つ人に出会えたんだ。この縁をなくすのは惜しいと俺も思う。
「ふふ、これからもお邪魔してもいいですか?」
「もちろん。ゲームでもなんでも誘ってください」
そんなに固く構えずに、もう少し気軽に接してもいいのかもしれない。
もうただの隣人ではなく、俺たちは友達なのだから——。
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