大人の自分と

薄野藍

文字の大きさ
上 下
1 / 1

不運

しおりを挟む
 俺は、何をしたいのだろうか?
 勤めている会社を後にして、駅に向かいながら考える。

 幼い頃、無邪気に「立派な大人になりたい」と考えていた時を思い出す。

 あの時は何も知らなかった、大人になる事がどういう事なのか、働く両親を見てお金を自由に使えて、好きな物を買う事ができるのが大人だと思っていたのだ。

 なんと愚かだっただろうか、電車の窓で今の自分を見て思う

(なんてヒドイ顔だ)
 ストレスからか顔はやつれていき、睡眠不足の為に目の下には隈が浮かぶ、これがかつて自分がなりたいと思った「立派な大人」なのだろうか、時間は既に0時を回った。

(家まであと少しだ)
 家に着き、睡眠を取れば、また地獄の一日が始まる。

 そう思っていた。

(なんだあれは・・・?)
 帰り道の途中、公園のベンチに座ったり、立ったり忙しなく動き回る人影がある。

(声、掛けた方がいいだろうか)
 俺は、まだ困っている人を放置する程腐った人間ではない、よく見れば女性の様だし尚更だ。

「すいません、何かお困りですか?」
 俺は勇気を出し声を掛けた。女性はビクッとしたと思ったら、そのまま逃げるように走って行こうとした。

「待って!」
 俺は何も考えず女性の手を掴んでしまった。その瞬間、最近のニュースを思い出した。

(これじゃ俺は不審者そのものじゃないか!)
 直ぐに手を離そうとしたが、もう遅かった。

「キャー!」
 女性が大声を挙げたのだ、俺は自分の未来を憂う間もなく、近所の住人に囲まれ気がつくと警察に引き渡されたのだった。


その後は警察に連れて行かれ事情を説明している内に意識を失った。

次に目が覚めたのは病院のベッドの上だった。

「ここは?病院?」

「そうだ!時間!」
直ぐに時計を確認すると、朝の10時だった。

「まずい!」
俺は急いで会社に連絡をした。

「申し訳御座いません!今すぐ出社致します!」
だが、電話口からは信じられない言葉が放たれた。

「もう出社していただかなくて結構です」

「え、」

「ですから、貴方はクビになりましたので、出社していただかなくて大丈夫です」
俺は呆然としてしまった。

「り、理由は?」

「は?貴方の行動は把握しております。まさか我が社に不審者がいたとは」
そこからの話は覚えていない、俺はたった一夜で職を失ったショックで病院のベッドの上で様々な思いが湧き上がり静かに涙を流した。

「なんで俺が・・・」
俺は悪い事をしただろうか?
人助けをしようとしただけだったはずなのに、

(あぁ、人生が憎い)
俺は看護師の人が見回りに来るまで泣き続けていた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...