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オスカーの危機

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執事長からの密書を読んだハリソンは、椅子に身を沈めて目を瞑った。



伯爵家に来た新しい庭師の親方のアンドレが、“辺境伯の子供たち”の要であるオーガストだと?

オーガストはかつての同級生ではあるが、地味な男だったという覚えしかなかった。
今でも思い出すと胸が潰れそうになるほど愛しくも憎らしいサティと共に私を、私たちを陥れた男。
“辺境伯の子供たち”を追う中で何度もその名を耳にした。
その名前を表面に押し出して隠れ蓑にして、違う名前で動くのがやつのやり方だ。

……なぜ執事長は“アンドレ”がオーガストだと気付けた?
こんなに早く。

その情報をのか?

一度執事長本人と合う必要があるな。
彼が取り込まれている可能性がある以上、私が伯爵家に行くのはマズいだろう。
しかし…そうさせるための罠か?
何が起こっている?

“オーガストがドルトレッド伯爵家に居る”ということは、伯爵は“辺境伯の子供たち”にくみしているということか。
伯爵がノーマンの終わってしまっていた葬儀に駆け付けたのも、まだ成人していない三男だけを引き取ったのも、旧友だったからだと聞いていたが、組織的な繋がりがあったのか?
人事課に掛け合って伯爵家の使用人をさらってみるか。

ノーマンには催眠術も自白剤も効かなかった。


オスカーを使うか。
あれなら私の手の内にある。
オスカーが消えたらギルバードが動くか?

オーガストが私のことを疑っているとしても、私に落ち度は無い。
私の名で為されたことは何も無いからな。
私は学んだ。
組織の作り方を。
身の隠し方を。
“辺境伯の子供たち”から。


~~~~~~~~

オスカーと執事長の姿が消えたのは同時だった。
それを受けて動き出したセドリックには“裏”が付いていた。
セドリックを追った“裏”は、森の中の別荘を突き止めた。

その別荘の持ち主もまた、過去の粛清で降爵されてしまった元伯爵だった。

そういう履歴を持ち、“辺境伯の子供たち”に敵意を持つ者、その者たちからノーマンのように冤罪を仕掛けられている者のリストを調べ上げていたオーガストは、“辺境伯の子供たち”の“表”の要として、ハリソンに面会を申し込んだ。


~~~~~~~~

宰相の執務室に呼ばれたオスカーは“裏”に連絡をして、マイクの片耳を付けてもらった。
マイクの片耳は、マイクが土地勘を持っている所にしか飛ばせなかったが、協力者との連携で遠隔操作が出来るようになっていた。

「オスカーです。失礼します」

「まあ掛けたまえ。君の働きぶりは聞いているよ。そんなに緊張しないで茶でも飲みなさい」

「は、はい。いただきます」

なんでもない話をのらりくらりとしている内に、オスカーの意識は途絶えていった。

「眠ったか。上司の茶を飲まない訳にはいかないからな。飲んでくれて良かった。手荒なことをすると証拠が残る」

そのままスッポリとマントで覆われたオスカーは何処かへ運ばれていった。
マイクの耳には馬車の走る緩やかな音だけが聞こえていた。

オスカーが眠らされたまま馬車の御者に抱えられて連れて行かれた先には、執事長がいた。

私用で出掛けていた時に、突然セドリックに物陰に引き込まれて連れ回された後、目隠しをされて見知らぬ建物に連れてこられた執事長は戸惑っていた。


「セドリック様!何故、わ、私を…!それに、この包まれている男は誰ですか?」

「詮索するな。もう少ししたらボスが神官を連れてくる。それまで待て。御者はそいつをその辺に下ろしたら、馬車を裏に隠してまたここに戻ってこい」

「分かりました」

御者はオスカーをラグの上にそっと下ろすと、部屋を出て行った。
落ち着かない執事長は、質問を続けた。

「セドリック様…神官とは?」

「さあな。…ボスだ。馬で来たのか」

御者が建物に戻った直後に横をすり抜けたハリソンは神官を下ろして馬を裏に繋ぐと、隠されている馬車を見遣って、軽く頷いた。

フードで顔を隠したハリソンと神官が部屋に入ると、セドリックと執事長は顔を上げた。
ハリソンは挨拶も抜きで、神官を促した。

「神官、あの小柄な方の男だ。どうだ?」

神官は執事長に近付いて、その瞳を覗き込んだ。

「…この人は魅了されていますね。解きますか?」

「解くとバレるか?」

「目を合わせなければ大丈夫ですが、出掛けて戻った後はチェックされるでしょうね」

「ならばこのままだな。質問には答えられるだろう?執事長」

「は、はい」

「庭師の親方の正体はどうやって知った?」

「はい…え…と、あの、あれ?…分かりません…」

「ふむ。人事課の書類によると、フレッドと同時期に入った使用人が多数いたはずだが、その報告が無かったのは何故だ?」

「フレッドと同時期に入ったのはマイクという庭師見習いだけですが?」

「ん?よく思い出せ。男と女たちだ。メイドが…どうした?執事長。顔色が悪いぞ」

「あ…あ…いえ、なんでもありません。はい、メイドはたくさんいます。いますが…いないのです」

「何を言っている?正気か?神官、どういうことだ?」

ハリソンは執事長から離れて、神官と声を秘めて話し合った。

「メイドに関することに暗示を掛けられていますね」

「ふうむ。ということはか。マイラーの屋敷の火事は目眩ましで、使える者を伯爵家に集めたか。これまでの執事長の報告は虚実混合だと思った方が良いな。怪しまれる前に執事長は返そう。ここでの記憶は消せるか?」

「やってみますが、向こうの実力次第では解かれます。その場合、こちらの関与が知られてしまいますが?」

「…関与したことを悟らせるのはマズいな。執事長が魅了されていることに気付いていないと思わせている方が得策だ。執事長はこのまま帰すか。どうせもう疑われている。こっちには人質もいるし、一気にカタを付けよう」

執事長の方に向き直ったハリソンはセドリックに指示して、来た時と同じように執事長を戻した。

「おい、この男を2階の奥の部屋に入れておけ。御者は見張りとして残れ。従者もだ」

「「分かりました」」

ハリソンと神官が去った後で従者は、御者にぼやいた。

「あ~あ、まだこの森の中で見張りか。お前は上の担当な。食糧はパントリーにあるのを適当に食べて、人質にもやってくれ。ずっと椅子で寝ていたからベッドで寝たいんだ。交代で寝よう。オレが先でいいか?」

「いいですよ。ゆっくり寝てください」











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