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お嬢様、行方不明が多過ぎです!~ひとりごと3つ~

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従弟いとこである伯爵の娘の悪評を耳にした公爵夫人は、目頭を揉みながら思いを巡らせていました。


いったい伯爵は何をしていたのかしら。奥方が行方不明になってから男手だけで娘を育ててきたにしても、酷過ぎるわ。
伯爵の妹を頼るのは無理だし、ちゃんとした家庭教師を世話するって言っても聞かずにいるからこんなことになるのよ。
令嬢としてあるまじき行為の数々だけじゃなくて、よくよく聞けば今まですべて揉み消してこられたけれど窃盗癖まであるだなんて。

このまま悪評が続けば婚約破棄されてしまうだろうし、その前にいっそ修道院に入れる方があの娘の為じゃないかしら。そうよ。揉み消すから止められないんだわ。
わたくしが大騒ぎして、表沙汰にしてしまえばいいのよ。伯爵家で何かの集まりでも開いてもらえばいいわね。その場で、こんな手癖の悪い娘は修道院に入れますって言えば、破棄されるまでもなく婚約は流れるだろうし、そうなればあの娘の悪癖も治るかもしれないわ。



と……思って、若い娘が好きそうな指輪を持って、馬車が脱輪したことにして伯爵家に乗り込んでみたけれど…。



まさかあんなことになるなんて…!



~~~~~~~~



脱輪してしまった馬車が直るまでの間、伯爵家のお屋敷で休まれていた公爵夫人が『指輪が無い』と騒ぎ出した時、メイドのフレイラはまたか、とため息をつきました。

またいつものようにそれ相応のものを渡して揉み消すのか、公爵夫人は旦那様の従姉だから内密にするよう頼み込むのか、そんなところだろうと思っていたフレイラは、どんどん大きくなっていく騒ぎに驚いていました。


いつもならばお嬢様のせいにして内々に事を収めるはずの旦那様が、知り合いばかりとはいえ身内以外の方がいらっしゃるような場で率先して騒ぎたてているのもおかしいし、騒ぎ始めの公爵夫人が狼狽え出したのも妙だわ。
本当のところ、窃盗癖があるのはお嬢様じゃなくて旦那様の妹だということはこのお屋敷で働く者たちの間では暗黙の了解になっている。
旦那様は妹のことを『姫』と呼んで溺愛しているし、私たちにも『姫様』呼びを命じている。
幼い頃に罹った流行り病での高熱で脳に損傷を負った姫様は…多分その頃のまま知能の成長を止めてしまったのだろう。
だから…姫様を責めることは誰にも出来なかった。

お嬢様がそのことを知っていて旦那様の都合のいい駒になっているのか、知らずに自分の無実を信じてもらうことを諦めているのかは、分からない。
いずれにせよメイドごときが口を出せる事ではないと見て見ぬふりをしてきた。
お嬢様もその状況を受け入れていたし、問題になることもなかったから。

でも…勘当だなんて!
どうして?旦那様だってお嬢様がやってないことはご存知のはずなのに!
お嬢様もお嬢様だわ…どうして落ち着いていられるの?
公爵夫人の方が、
「そんなことまでしないで!修道院で反省させればよろしいじゃないの!」
って言って取り乱しているわ。
え?お嬢様?
「勘当されたことを婚約者である公子様に報告してまいります」
って…何が起きているの?

ためらいもせずに立ち去るお嬢様に、私は声を掛けることすら出来なかった。

「勘当されたことを言う前に婚約破棄された、ってお父様に伝えておいて。このトランク1つあればいいから、もう行くわね」

伯爵家に戻ってきてからそう言ったお嬢様は、今までに見たことがない笑顔を浮かべていて
…それだけが救いだったけれど。

その後お嬢様は、待ち構えていた馬車に乗せられて行ってしまった。

そして時が経ち、急に王宮からの使いが来てしばらくしてから、私もお嬢様を乗せていったのと同じ馬車に乗せられていた。

「あの指輪事件の真犯人はフレイラだ!」

と、責め立てられていることも、私は知らなかった。




~~~~~~~~




姫はもう寝たのか…あどけない顔をして。

お前から未来を奪い、両親を奪ったあの流行り病をこの家に持ち込んだのは私だ。
誓ってわざとではない。
だが…事実だ。

流行り病が蔓延しているのを知っていたのに遊びに行って最初に罹患した私はほとんど症状が出ないほど軽かったために気付かず、両親と妹に罹患させてしまったのだ。

いや…気付かなかったことにした。
言えなかった。
街に遊びに行ったとは。
少し熱っぽいと。
お腹が気持ち悪いと…。

言っていれば、言って隔離されていれば移さなかったかもしれないのに。
…責められることが怖かった。

一生、何とか生き延びてくれた妹を守ると決めた。
だが、伯爵家の跡取りとして妻を娶らない訳にはいかなかった。
妹に理解力が無いことに感謝する羽目になるとは思わなかったが、妹は見事なほど妻にも子らにも興味を示さなかった。

妹が興味を持ったものは、キラキラしたものや、可愛いものだった。
盗る気など無いのだ。
妹には人のものも自分のものも分からない。
ただ可愛い、ただ欲しい。
純粋にただそれだけなのだ。

私は大人の女性である妻がうとましかった。
それよりも…日々成長していく娘の姿が腹立たしかった。
妹の精神は成長を止めているのに、一歩引いたような、こちらをむしろ気遣うような、幼いくせに変に老成したところがある娘を、私は忌み嫌っていた。

「実の娘なのに可愛くないのですか?」

妻は私を責めた。
娘を可愛いと思えないのは悪いことなのか?
肌が粟立つような嫌悪感を覚えてしまうような私は父親失格なのか?

「妹さんのことも、きちんとお医者様に診ていただいた方が良いと思いますわ」

妹は医者が嫌いで、白衣を見ただけで泣き叫んだ。
薬が苦かったのか、注射が痛かったのか、何を思いだしてかは分からないが、恐怖に打ち震える妹の姿は見るに堪えなかった。

「奥様の言う通りでございます、旦那様」

父が特別に気に入っていた執事は妻に味方した。
分かっている。
だが分かっていても、正しいことだとしても、そうするぐらいなら死を選ばざるを得ないほど受け入れられなかったら…どうすればいい?

まだ幼いが息子がいるし、いっそ妹を道連れにして…そこまで思い詰めていたある日、妻と執事は領地に視察に出たまま行方不明になった。

私を追い詰めていた2人がいなくなった伯爵家に残されたのは、私と私の可愛い妹と、おとなしくて逆らわない息子と、もう既に視界に入れることも無くなっていた娘だった。

ふと、魔が差したのはいつだったか。

妹の物盗りがあるため、言いくるめられるような格下の者しか家には招待せずにいたのだが、ある時示談に応じない者がいて逆に脅されそうになった私は…。

「お恥ずかしい話なのですが…実は盗ったのはまだ幼い娘なのです。あれも母親が行方知れずになってから寂しかったのでしょう。これこれの品物をご用意致しましたので、ここだけの話にしていただけないでしょうか?」

そう言われて、ゴリ押ししてくる者はいなかった。
用意した品物が高価だったのもあっただろうが、私は妹を守るために金を使い、娘を利用した。

娘に婚約の話が来た時も、厄介払いが出来るとしか思わなかった。
娘が嫁に行く頃には成長した息子が伯爵家を継いでいるだろうから、妹と共にどこかの田舎に引っ込んで世間と交流を断てば、欲しくなるような物を目にすることが無くなれば、妹の悪癖も露見しないはずだ。
定期的にキラキラとした可愛い物を補充していれば、妹も楽しいだろう。

そう思っていたのに、ある時から急に娘の悪評が流れ出した。
婚約者の公爵家の令息とも上手くいっていないようだし、このままでは婚約を破棄されてしまうかもしれない。
いなくなると思っていた娘が家に残るかもしれないと考えた時、私はどうしても耐えられなかった。

そんな時に、とあるサロンで従姉に会った。

「ねえ、あなた、娘のことどうするおつもりなの?すごく評判が悪いようだけど…婚約破棄なんてされたら傷物になるわよ。そうなる前にどうにかしてあげないと」

従姉は私の娘を心配してくれていたのだろうが、私はその気持ちにつけ込んで計画を立てた。

窃盗癖があり、人としても破綻した行動を繰り返していると噂になっている娘は勘当して、私はその親としての責任を取るという形で隠居してしまえばいい。
予定より少し早いが、息子はとりあえず成人しているから通らない話ではないだろう。

と思っていたら、娘は婚約破棄された上に国外追放まで言い渡された。
国外でどうやって生きていくのかと思わないでもなかったが、全く動じない様子を見ていたらどうでもよくなった。
少しは狼狽えたりすればまだ可愛げがあるのに…。

国外追放されてからどうしているのか分からない娘のことを頭の中から押しやって、隠居する準備を進めていた私に、王宮からの使いが来た。
勘当した娘を探し出して処分を取り消し、諸々準備して隣国の宰相の息子のところへ嫁に出せ、という国王陛下直々のお達しに私が逆らえるはずもなかった。
処分を取り消すには、下手に表沙汰にしてしまった従姉の指輪事件をどうにかせねばならず、メイドを真犯人に仕立て上げようとした矢先に……

そのメイドは行方不明になった。

だが私は逃げ出したことを証拠にしてメイドに罪を被せて、娘を探すための手配をした。
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