上 下
8 / 25

お嬢様、行方不明が多過ぎです!~お嬢様が指名手配?~

しおりを挟む
せいちゃんは、れいちゃんが魔法で神殿との間でやり取り出来るように設置してくれた転送郵便ボックスから1通の手紙を取り出して読み、クスクスと笑いました。
その手紙は神殿のラウラからのものでした。

「どうしたの?せいちゃん。手紙に何か面白いことでも書いてあったの?」
「あ、れいちゃん。ふふ、見る?ダニエルがね、何度森へ行っても道に迷ってここにたどり着けないって嘆いてるんですって」
「そもそもここまで来ていないもの。幻覚で架空の家を見せただけだから、結界で隠されているこの家まで来られる訳が無いわ」
「で、今度ラウラが来る時に護衛で付いていきたいって言ってるらしいんだけど…どうしようか?」
「ダメよ、絶対!ここはわたくしたちの聖域でしょう?悠々自適生活を脅かすならラウラも拒否よ!ラウラが1人では抜け出せないのなら、わたくしたちが神殿に遊びに行けばいいでしょう?!」

そこへ、れいちゃんがいた□□国へと出掛けていたゆうちゃんが帰ってきました。

「何騒いでるの?何かあった?」
「ラウラから手紙が来て、森の中のこの家に遊びに行きたいんだけど、ダニエルが護衛で付いていくって言っていて、どうしようか?っていう話。れいちゃんは断固拒否だけどゆうちゃんは?ダニエルとは面識があるんでしょ?」
「ふうん、ダニエルねぇ…まあね。それもそれだけど、れいちゃんちょっとヤバいかも」
「え…何?わたくしがいた国に出掛けていたんだったわよね…何かあったの?」
「これ見て」

ゆうちゃんが差し出した1枚の紙は、れいちゃんの肖像画が描かれた、報奨金付きの尋ね人の張り紙でした。

「は?え、何これ…見付けた方は伯爵家まで、って…まさか、お父様がわたくしを探しているの?!…あの元婚約者はわたくしをせいちゃんの国で見たことを何も言わないでいてくれてるのね…」
「実家に戻る気は無いとか、今の暮らしが気に入っているって言ったことの意味を考えてくれたのかもね。その情報が無いとしたら、普通のご令嬢の能力で考えたら地理的にれいちゃんが入れる国はせいちゃんの国になるだろうからね。せいちゃんの国との国境付近とかギルドに張られていたよ」

海の中に存在するこの小大陸は3つの国に分かれていて、それぞれの王家によって治められています。

れいちゃんがいた国とせいちゃんがいた国は陸続きで隣り合っていますが、ゆうちゃんがいた国とれいちゃんがいた国とは大河で完全に分断されています。
3つの国の真ん中にある森は大きく、せいちゃんがいた国とゆうちゃんがいた国との間には大本山があり、ものすごく遠回りをしないとゆうちゃんがいた国へは行けないのです。

実際は、ゆうちゃんが越えてきた抜け道もあるし、元いた国では秘密にしていたけれどれいちゃんは魔法が使えるからどこにでも行けたのですが、その前にゆうちゃんとせいちゃんに出会ってしまったから森の中で暮らしているのでした。

伯爵家としては森の真ん中に放逐したれいちゃんが、森には木の実や果物があるから何とかそれで生き延びているか、運良くせいちゃんがいた△△国までたどり着いているかと見越しての張り紙だと思われますが、冒険者が集まるギルドにまで張られているのはかなりまずい事態です。
れいちゃんの姿は市場や神殿などで既に目撃されているし、少し調べられれば森の中に家があることも突き止められてしまうでしょう。
冒険者なら、森の中なんて何の躊躇もせずに入ってくるでしょうし、そんなやからにウロチョロされるのは非常に迷惑です。

「どうしましょう…わたくしがこのままここにいたら2人に迷惑が…」
「「れいちゃん、それは無し!」」
「あ…ごめんなさい…でも…」
「でもじゃないわ。パワハラ親父だって言ってたわよね?なんで今更娘を探してるのかを調べるのが先よ」
「そう思って調べてきたよ。これでも元勇者だからね。情報屋にツテもあるし。この前さ、れいちゃん、王子を改心させたでしょ。あれから王子と婚約者の公爵令嬢がすんごいラブラブになっちゃったんだって。それで国王がお礼したいからって宰相に調べるように命じて、命じられた宰相も、あの王子をそれなりにマトモにしてくれたお嬢さんなら是非息子の嫁に、ってなってあらゆる機関を使って真剣に調べたら、あら大変、隣の国の元伯爵令嬢で、家を勘当されてる上に公爵家から国外追放命令まで出されてるっていうじゃあないか。なんとか身分を戻してこっちの国の宰相の息子の嫁に出来ないかと打診してみたところ、れいちゃんの元婚約者だった公爵家の方はこの前のこともあって追放取り消しOKだったんだけど、そうはいかないのがれいちゃんだ。どうしたってもう揉み消せない窃盗事件の犯人としての勘当だったからね。でもでもここで新たな真犯人発見のウルトラCを出してきて、あれは冤罪だった!隣の国から破格の縁談が来たぞ!れいちゃんを探して連れ戻せ!ってなったみたいだよ」
「な、なるほど…なんとなく分かったわ。あらゆる機関ってなんなのかしら…ま、それは置いといて、れいちゃん、揉み消せない窃盗って何だったの?」
「家の近所で馬車が脱輪して壊れる事故があって、乗っていた某公爵家の奥様が、馬車が直るまでしばらく伯爵家で休まれていたのよ。その公爵家は歴史が古くて発言力もあって一目置かれている厄介なところなんだけど、化粧室に入っている間に外していた指輪が無いって言い出したの。家宝クラスのとんでもない指輪じゃなかったけど、大切にしていたとかで大騒ぎになったの。それを盗ったのをわたくしのせいにされたのよ。もちろん、そんなことしていないし、指輪だってどこからも見付からなかったのに。それにしても、新たな真犯人って誰なのかしら」
「メイドだって聞いたけど、糾弾されそうになってから行方不明なんだって。フレイラって名前だったかな」
「フレイラですって?!彼女がそんなことするはずがないわ!それだって絶対冤罪だわ!そもそも公爵夫人ともあろう方があんな若向きの可愛い指輪をしているなんておかしかったのよ!あの公爵夫人とわたくしの父である伯爵がでっち上げていたんだわ!」
「どういうことなの?れいちゃん。私とゆうちゃんが聞いても大丈夫な話だったら聞かせて」
「ええ…今言った公爵夫人は父の従姉いとこなのよ。きっと馬車の脱輪だって嘘よ。わたくしを追い出すタイミングを狙っていたのは気付いていたから、それは別にいいの。勘当されたことを話に行った公爵家で、そのことを話すより先に元婚約者から婚約破棄されたのも、まあいいのよ。そのための準備もしていたから。でもね、そんなの初めから準備していたんじゃないわ。もしも愛されていたならそんなこと考えなかったわ。わたくしはね、父から娘だと思われたことも愛されたことも無かったの。早くに両親を流行りやまいで亡くした父は、同じ病気で高熱を出したけど何とか生き延びた妹を溺愛していたの。裕福だけど平民だった商家から嫁いできてないがしろにされていた母は兄とわたくしを産むまでは我慢していたけれど、娘すらかえりみようとしない父にキレて、父の妹である叔母のことを悪く言ったことで夫婦関係が破綻したの。父は母の味方をする執事のことも嫌っていて家の中は冷戦状態で、母とそっくりなわたくしは父から無視されていたのよ。兄は父の言いなりだったし跡継ぎだから父との交流は多少あったけど。
そしてわたくしが8歳の時に、母と執事は領地の視察に出掛けたまま行方不明になったの…。
次は目障りにされていたわたくしの番かもしれないと思ったけれど、そのタイミングで婚約の話が来たのよ。あの元婚もとこんの母親のことだから、うるさい相手方の母親がいない薄らぼんやりの娘なら扱いやすいと思って選んだんだろうけど、例の横取り女がわたくしの評判を落としまくってくれたから嫁に出せなくなりそうだと踏んで、父は放っておいても居なくなると思っていたわたくしを追い出しにかかったんだわ。森の真ん中まで馬車で連れて行って放り出したのは兄だったけどね」
「…行方不明が多過ぎるよね?」
「本当に行方不明なのかしら…」
「分からないけど…生きているって信じたいわ」
「そうだね。とりあえず目下の問題はれいちゃんがどうしたいかだよ。れいちゃんとしては、宰相の息子と結婚も、ダニエルと結婚も無しなんだよね?」
「そうよ、ゆうちゃん」
「でもさ、それって難しいよね。れいちゃんは前世の記憶があって『もう結婚はしたくない!』ってなってるんだけど、実際問題今のれいちゃんは若くて綺麗なお嬢様だ。私は見た目が男みたいだし勇者だったし、せいちゃんは聖女だからまだ逃げようがあるけど、この世界の常識で考えるとれいちゃんが逃げ切るのは至難の業じゃないかな」
「確かにね。絶対にどっちかを選べって言われたら、むしろダニエルじゃない?面倒じゃなさそうなのは」
「ええ~…魔法で老婆になろうかしら。で、『しょんな人は知りましぇんよ』とか言ってやり過ごすの」
「「れいちゃん、現実逃避しないで」」



コンコン。


「「「え?何?風の音?」」」


コンコンコン!


「「「ええっ!なんで?!」」」
「私の結界はやぶられてないわ!」
「誰?どうしよう、ゆうちゃん」
「れいちゃん、落ち着いて。見えないところに隠れて。…出るよ?いいね?」


ゆうちゃんは静かに玄関まで行き、用心して鎖は外さずに少しだけドアを開けました。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。

光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。 ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…! 8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。 同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。 実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。 恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。 自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。

赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿
ファンタジー
神が人々の救済の為に創られた武器、オリハルコン。 それは世界の危機、種族の危機の度に天より人々の元へと遣わされた。 神の武器は持つ者によりあらゆる武器へと姿を変えた。 持つ者は神の力の一端を貸し与えられた。 そして持つ者の不幸を視続けてきた。 ある夜、神の武器は地へと放たれる。 そして赤子に触れて形を成した。 武器ではなくヒトの姿に。 「・・・そうか、汝が・・・求めたのだな?・・・母を」 そうしてヒトとなった神の武器と赤子の旅が始まった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 9/25 サブタイトルを付けました。 10/16 最近これはダークファンタジーに分類されるような気がしています。 コミカル風な。 10/19 内容紹介を変更しました。 7/12 サブタイトルを外しました 長々と文章を綴るのは初めてで、読みにくい点多々あると思います。 長期連載漫画のように、初期の下手な絵から上手な絵になれたら嬉しいですね。 分類するのであれば多分ほのぼの、ではありますが、走っている子供がコケて膝小僧を擦りむいて指を差しながら「みて!コケた!痛い!血でた!ハハハ」みたいなほのぼのだと思います。 ・・・違うかもしれません。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...