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最終章
220.再会
しおりを挟むカバンからシャボン玉セットを取り出して、恋日記を一旦カバン上に置いた後、キャップに注いだシャボン液をストローに浸して咥えると、フーッと息を吐いてシャボン玉に新しい命を吹き込んだ。
優しく息を吹き込めば大きなシャボン玉。
少し勢いよく息を吹き込めば、小さく連なったシャボン玉がたくさん出来る。
宙を舞うシャボン玉は太陽の光を燦々と浴びて反射させながら輝きを放ち、たまにぶつかり合うように連なって空を泳いで幻想的だ。
私は昔から大きなシャボン玉の方が好きだった。
ふわふわしてたり、ゆらゆらと揺らいだり。
でも、大きなシャボン玉は一つだけじゃ可哀想だから、次々と命を吹き込んで仲間をたくさん作った。
近くに仲間がたくさんいる事を知ったら、心強く感じて少しでも長く宙を舞えると思ったから。
翔くんが引っ越した翌日から、こうやってシャボン玉を吹いて寂しさを紛らわせていた。
ゆっくり眺めていたら、空に揺らぐシャボン玉がまるで私の人生を物語ってるような気がして、シャボン玉同士がぶつからないように行方を見守って時を過ごした。
でも、当時と一つ違うのは、3年経った今でも彼の香りはしっかり覚えてる。
気持ちが繋がったあの瞬間から、忘れようとしても忘れられないくらい鮮明に……。
ザッザッ……
夢中でシャボン玉を作りながら過去を思い描いてると、砂利を踏みしめる足音が徐々に近付いてきた。
人の気配を感じたと同時にシャボン玉を吹く手を止める。
この場所は参拝客は進入禁止区域。
本殿の裏側に侵入した事と、シャボン玉を吹いている事がバレて注意されるのかと思って覚悟を決めた。
「勝手に入ってしまって、すみません」
侵入した事を先に謝ろうと思って振り向きざまに口を開いたが、太陽の眩い光が視界を塞ぐ。
だが、目を向けた瞬間、フワッと懐かしい香りが漂った。
「まさかと思ったけど……。本当にいた」
「えっ……」
聞き覚えのある声と懐かしい香りに心がくすぐられた瞬間、鼓動が時の扉のノックを始めた。
この胸の高鳴りに記憶がある。
記憶に間違いがなければ……。
額に手をかざして日差しを遮ると、逆光で真っ暗だった人影は目が慣れてきたと同時に姿形がはっきり見えるくらい鮮明に。
軒下に座る私と、左斜め後ろに立つ彼。
お互いの目と目が合った瞬間、私は数年ぶりに恋の音が胸の中で奏で始めた。
「翔くん……」
驚くあまりひとこと漏れた。
感動的な再会にカーッと胸が熱くなっていく。
太陽の光によって眩んでいる目よりも、身体が先に恋の反応していた通り、すぐそこに立っているのは紛れもなく翔くん。
嬉しさと懐かしさと恋しさのあまりに涙を潤ませていると、彼は目尻を下げてニコッと微笑んだ。
「今日神社に来たら、愛里紗に会えるような気がして」
「そうだったんだ。私は今朝8年前の夢を見て、気付いたら足が勝手に出向いていたの」
翔くんはいつも突然現れるから心に準備をさせてくれない。
でも、嬉しさが勝って思わず感無量に。
夢じゃ、ないよね……。
本当に翔くんだよね。
もしこれが夢だったら、一生覚めない夢であって欲しい。
関係が途絶えていた3年間に彼はまた一段と大人びていた。
でも、太陽の日差しと共に向けられていたのは、3年前に恋する目を向けた時と変わらない笑顔。
喜びが沸々と湧いてくる感情もあの頃と同じ。
彼の姿が3年ぶりに目に映ると、胸の鼓動が駆け足気味に。
ーーこれが、本物の恋。
何年経っても迷いがないから確信している。
「迎えに来たよ。遅くなってゴメン」
「えっ……」
愛里紗は、予想外な言葉とこの世に二つと存在しない砕けた笑顔を見るなりキョトンとしていると、翔は隣に来て腰を下ろした。
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