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第九章
211.ハンバーガーは涙の味
しおりを挟む「へぇ。あいつ、なかなかやるじゃん!」
「うん……。こんなに想ってくれる人は木村くんが初めて。目を見てたら、この人だったら幸せにしてくれるんだろうな~って。だから、過去の恋から早く卒業しないとね」
「大丈夫。木村なら咲を任せられるし、きっと幸せになれるよ」
「うん、ありがと」
幸せを掴み取ろうとしている咲と、新しい恋にエールを送った私は、涙で潤んだ目で微笑み合った。
前々から木村と上手くいく事を願ってたから、涙目のままハンバーガーを口にしたら不思議とハンバーガーからは涙の味がした。
「んっ……、美味しい。咲も冷めないうちに食べなよ」
「うん……。いただきまーす」
トレーの上からハンバーガーを掴み取った咲の瞳からも涙が零れ落ちそうになっていた。
咲はこの短い間に想像以上の逞しさと成長を見せてくれた。
もしかしたら強がってる部分があるかもしれないけど、辛い過去を乗り越えようと努力している。
うじうじ悩んで何もしない私とは対照的だ。
でも、『心の底から愛せる人と一緒になりたい』という咲の願いは、後ろ向きな心を大きく揺さぶった。
私は壊れる事を恐れて幸せな未来を思い描く事が出来なくなっていた。
そうなってしまった最大の原因は、別れというトラウマ。
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でも、いま咲の心境と同時に見えてきたものもあった。
それは、つい先日足を運んだ神社のおじいさんの言葉。
『人生に難は付き物。いい事も悪い事も常に抱き合わせなんじゃよ。今のままで愛里紗ちゃんは幸せかい? 未来に目を逸らし続けても幸せは一人でやって来ない』
『愛里紗ちゃんにとって、いま一番何を優先すべきかをじっくり考えてみなさい。そうすれば自然と答えが導き出されてくるはずじゃ』
あの時、おじいさんは弱気な背中を押してくれた。
私は本当に今のままでいいのだろうか。
咲は過去の気持ちを捨てて生まれ変わろうとしているのに、私は未来に目を背けている。
翔くんと関係に終止符を打ったけど、恋心を引きずったまま幸せを掴み取る事が出来るのだろうか。
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